Nov. 21 〜 Nov. 27 2011

” Thanksgiving Pain ”

今週のアメリカは木曜がサンクスギヴィング・デイであったので、水曜の午後から国中が殆ど機能してない状態。 それほどまでにアメリカでビッグなホリデイと言えるのがサンクスギヴィングなのだった。
アメリカではニューイヤーは単なる節目としての意味しかなく、またクリスマスにしても アメリカ人の半分以上はクリスチャンであるけれど、 残りの人々にとっては 「他宗教のイベント」という意味しか持たないもの。でもサンクスギヴィングは宗教に関係なく、 家族が集まって食事をするホリデイで、その前日の水曜は日本で言う帰省ラッシュ。空港が最も混み合うと同時に、 需要を受けて航空チケットの価格が格段にアップするのがこの水曜。
そしてこの日には、サンクスギヴィング・ディナーをホストする家庭で、早々とクッキングがスタートしているケースが殆どで、 ターキーのロースト、クランベリー・ソース、マッシュド・ポテト、野菜のキャセロール、スタッフィングと呼ばれるサイド・ディッシュ(写真下右側)など、 毎年お決まりのメニューがテーブルに並ぶのは日本のおせち料理と同様の光景。
今年のサンクスギヴィングには、アメリカ全土で 4600万匹のターキーが消費されており、この数を思えば、 アメリカ中の至るところでターキー・ディナーが行なわれていたことが窺い知れるのだった。

サンクスギヴィング・デイのディナーで アメリカ人が摂取するカロリーの平均は、なんと3000カロリー。 この高カロリーの原因になっているのは、脂肪分の多いソーセージや炭水化物たっぷりのコーン・ブレッドなどで作ったスタッフィングで、 1サーヴィング当たり 500カロリー。スタッフィングはサンクスギヴィングで最も人気の高いサイド・ディッシュなので、 これを2〜3サーヴィング食べる男性は珍しくないのだった。
さらにデザートの定番の1つ、ピーカン・パイも 言ってみれば砂糖の塊。 1切れが600〜800カロリーというメガ・カロリーで、これに生クリームやアイスクリームをトッピングして、更に200〜300カロリーを プラスして 食べる人々も多いのだった。



こうした高カロリー、高脂肪、塩分&糖分をたっぷり含んだ食事を、家族で楽しむのがサンクスギヴィングの醍醐味であるけれど、 家族が集まれば 必ずしも楽しい団欒になるとは限らないのは万国共通のこと。
なので、この時期が近づいていくると、ニューヨーク・タイムズのソーシャル Q&Aセクションやインターネット上に、サンクスギヴィングの悩みや問題の相談が必ず掲載されているのだった。
リーマン・ショックの直後に迎えた2008年のサンクスギヴィングの際には、「レイオフされたことをサンクスギヴィングで家族に話すべきか?」、 「レイオフされた家族や親類に サンクスギヴィングでどう接するべきか?」といった相談が多かったけれど、 昨今増えているのは、複雑になりつつある家族関係についての質問。 例えば、別れた夫婦が子供とサンクスギヴィングを過ごすために、それぞれの新しい伴侶やパートナーを伴って 一緒にディナーをする際のご法度の話題やエチケット、敬虔なクリスチャンの家族が集まるディナーに パートナーを連れて行くのを躊躇しているゲイ男性の悩みなどが、頻繁に相談されているのだった。
他にも、単に食が細くて痩せているだけなのに、肥満傾向の家族達から拒食症扱いされるのを 嫌がる女性、撮影した写真を毎年のように親族がフェイスブックにアップするのを嫌がるティーンエイジャー、 料理が下手なホストを侮辱することなく、自分の料理を持ち込みたいという料理自慢の人など、 サンクスギヴィングに際して抱える悩みや問題は人によって本当に様々なのだった。

そんな中、毎年のように こうしたセクションに掲載されるのが、 苦労をしてサンクスギヴィング・ディナーをクックした努力が報われないホスト達からの相談。
長時間を費やしてディナーを準備したにも関わらず、やってきた家族や親類は 忙しく立ち働く ホストを無視して 好き勝手に食事をし、ホストがやっとテーブルについた時には、食事が終わっているだけでなく、 「TVが観たい」等といってテーブルを離れたり、「早く帰りたいので、デザートを出して欲しい」などと言う始末。 なので、そんなホスト達から「どうしたら家族や親類が自分の食事が終わるまで待ってくれるか?」という相談が寄せられていたかと思えば、 「ディナーをあっという間に食べて、感謝もせずに帰っていく親族のために 長時間を掛けて食事の準備をするのには嫌気が差したので、 どうしたらサンクスギヴィング・ディナーを持ち寄りのシステムに切り替えられるか?」というような質問も寄せられているのだった。

とは言っても ディナーに招かれる側とて、気軽ではいられないケースがあるようで、 「ホストが ワインを開ける度に、 それを誰が持ってきたかをテーブル中に告げるため、”自分が持ってきたワインが不味かったら どうしよう” と緊張して ディナーが楽しめない」とか、 「ディナーの片付けを手伝おうとしたら、”ディッシュ・ウォッシャーに入れる順番にお皿を下げるように”とホストに口うるさく命令されて、 喧嘩になってしまったことがあるので、今年はどうしたらそれが防げるか?」など、 ゲストが訴える相談も少なくないのだった。




さて、そんなサンクスギヴィングの翌日、金曜日に控えているのが、「ブラック・フライデー」。
ブラック・フライデーはホリデイ商戦の初日であると同時に、 小売店のセールスが1年で最も高いといわれる日。
例年、ブラック・フライデーは早朝、午前5時、6時にストアがオープンしてきたけれど、 今年に関してはウォルマートを始めとする多くのストアがサンクスギヴィング・デイの夜や、ブラック・フライデーの午前零時から オープンしており、アメリカ最大のショッピング・モールであるミネアポリスのモール・オブ・アメリカでは、 真夜中のオープニングに1万5000人が行列。マンハッタンのミッドタウンのメーシーズでも、やはり午前零時のオープン時に 1万人の行列が出来ていたことが伝えられているのだった。
早くから目玉のディスカウント商品をゲットするためにウォルマートやショッピング・モールの前でテントまで持ち込んで 行列していた人々のことは、「オキュパイ・ウォルマート」、「オキュパイ・モール・ストリート」などと報じられていたけれど、 そこまでする目玉商品がいかなるものかといえば、42インチのビッグ・スクリーンTVが199ドル(約1万5,454円)、 ラップトップ・コンピューターが299ドル(約2万3,220円)といったもの。
でも、こうした目玉商品はアトラクション効果のために用意されたもので、 小売店側が期待するのは それらを目当てにやってきた買い物客が、他の値引率の低い商品も購入していってくれること。 実際、過去のセール価格のデータによれば、ブラック・フライデーの目玉になっているような家電製品の価格が最も下がるのは 12月上旬。それ以外の商品も、ブラック・フライデーに先走って買うことが必ずしもベスト・プライスではないことが明らかになっているのだった。



今年のブラック・フライデーには1億5200万人のショッパーが全米のストアに押しかけ、昨年の同日よりも6.6%アップの114億ドル(約8,853億円)を 消費したことが伝えられるけれど、オープニングを早朝から夜中に変えたことで、増えたと言われるのは若い層のショッパー。
したがって、今年初めてブラック・フライデーのショッピングに訪れた買い物客も多かったけれど、 ブラック・フライデーといえば、開店時に買い物客が 我先にと売り場に殺到し、2年前にはウォルマートのセキュリティが その買い物客に押し倒されて死亡したというアクシデントが起こっているほか、毎年のようにセール品を奪い合って 買い物客が口論から暴力沙汰までを繰り広げることで知られる日。
なので今週のメディアの中には、エジプトのカイロでの紛争の様子、オキュパイ・ウォールストリートのデモの様子、ブラック・フライデーの買い物客の様子を ビデオで比較し、その中でブラック・フライデーの買い物客が最も暴力的で、相手かまわず掴みかかったり、殴ったり、タックルをする映像を 紹介するところもあったけれど、そんな今年のブラック・フライデーは例年以上のヴァイオレンスに発展してしまったのだった。

カリフォルニアのウォルマートでは、女性が Xボックス360を買うために、周囲に居た買い物客に対してペッパー・スプレーを吹き掛け、 約30人の怪我人を出している他、サウス・キャロライナのウォルマートでは30ドルの携帯電話をめぐって2人の女性が争って逮捕され、 アラバマでは、暴力的なショッパーに対して警察がスタンガンを使用。フェニックスのショッピング・センターでは、警官に押し倒された買い物客が 出血し、意識が無くなった様子が報じられるあり様。
また、ウォルマートの駐車場では、ショッピングを済ませて戻ってきた買い物客に銃を突きつけて、その商品を奪い取るという犯罪が 複数起こっており、カリフォルニアのウォルマートではそれが発砲事件に発展。 バーゲン・ハンティングのために善悪の見境がつかなくなっているショッパーと、買い物客を 凶悪犯罪者並みに 扱う警察の様子が次々と報じられ、アメリカ中を呆れさせていたのだった。

でも夜中から行列をして、大混雑の中で買い物をする人々が居る反面、増えているのが 自宅のコンピューターやスマートフォンでクリスマスのショッピングを済ませる人々。 事実、今年のブラック・フライデーのオンラインのセールスは昨年より10%のアップを見せているのだった。
通常、オンライン・ショッピングのセールスが一年で最も多いのはサンクスギヴィングの週末が明けた月曜。この日は 「サイバー・マンデー」と呼ばれているけれど、今年のサイバー・マンデーには昨年を17%上回るセールスが見込まれているのだった。
アメリカで こんなにショッピングが大ニュースになるのを不思議に思う人も居るかもしれないけれど、 この国では 年間の小売店の売り上げの19.3%が集中するのが、サンクスギヴィングから年末までの約5週間のホリデイ・シーズン。 今年のホリデイ商戦全体の売り上げは、昨年より 2.8%という若干のアップが見込まれているのだった。

その一方で、起こりつつあるのはエスカレートする ブラック・フライデー商戦に歯止めを掛けようという動き。 この運動を起こしているのは、小売店やショッピング・モールで働く人々で、 彼らにとっては、ストアがサンクスギヴィングの夜からオープンするということは、年に一度のホリデイに家族と過ごす時間を削って、 働きに出なければならないということ。
買い物客の側にしても、ブラック・フライデーのバーゲン品を目当てにショッピング・モールで行列するために、 サンクスギヴィングのディナーを早く切り上げている訳で、 「この状況が益々エスカレートすることは、サンクスギヴィング・デイというホリデイの本質を損ねる結果になりかねない」 というのがその言い分。
でも長く続いたリセッションから立ち直っていないアメリカでは、少しでも利益を上げたい小売店側と、少しでも物を安く買いたい ショッパーがブラック・フライデー商戦に拍車を掛けており、それに止める手立てなど無いように見受けられるのだった。

サンクスギヴィングというと、家族がご馳走を囲んで 楽しく団欒をするという昔ながらのイメージが強いけれど、 実際のところは、家族のゴタゴタに悩まされたり、長時間のクッキングやバーゲン・ハンティングでクタクタになっている アメリカ人は少なくないもの。
ホリデイ・シーズンにアメリカ人の体重が増えるのは、 「高カロリーのご馳走を食べる機会が多いため」と思われがちであるけれど、ダイエットの専門家からは ホリデイ・シーズンの忙しいスケジュールや混雑、 家族とのやり取りのストレスを 食べ物で紛らせていることも原因だと指摘されているのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


PAGE TOP