Nov. 16 〜 Nov. 22 2015

”Are We All Islamophobia? ”
ナチス・ドイツと変わらない? ドナルド・トランプが打ち出すイスラモフォビア


今週のアメリカで、パリのテロ関連のニュースと同様に大きく 報じられたのが、俳優のチャーリー・シーンがHIVウィルスに感染していたことを 3大ネットワークの1つであるNBCの高視聴率モーニング・ショー、「トゥデイ」の生放送でのインタビューで明らかにしたというニュース。
チャーリー・シーンと言えば、かつては人気番組「トゥー・アンド・ハーフ・メン」で、1エピソード当たり 日本円にして2億4000万円のギャラを 受け取っていたTV界の最高給取り。 でもその私生活は、ドラッグとアルコールまみれで、娼婦を雇ってのパーティー三昧で知られた存在。
その彼は4年前に奇行を繰り返して、「トゥー・アンド・ハーフ・メン」のキャストから降板することになったけれど、 インタビューによれば、彼がHIVの感染を診断されたのもその頃のこと。
その診断を受けて、直ぐに治療に取り組んだ彼は、HIVには感染しているものの、エイズは発病しておらず、 感染後は 2人の例外を除いては、セックス・パートナーに自分がHIVに感染していることを明らかにした上で、 プロテクションを使った安全なセックスのみをしてきたとのこと。
しかしながら チャーリー・シーンは、HIV感染をネタに信頼していた人々に恐喝され、その口止め料として これまでに支払った金額は1000万ドル、日本円にして約12億円。 彼は2軒の豪邸を売りに出すほど 経済的に困窮していることを語っていたのだった。

ハリウッドでは、チャーリー・シーンがこのインタビューに応える数週間前から、 オスカー受賞女優や 人気TV女優を含む、 Aリスト女性セレブリティたちと 関係してきた男性セレブリティが、 HIVに感染しているという噂が流れ、 それが誰であるかの憶測を呼んでいたけれど、 チャーリー・シーンの名前が浮上してきたのは先週のこと。
これを今週、大スキャンダルとして報じる予定だったのが、ゴシップ・メディアのエスクワイア誌で、 インタビューは そのダメージ・コントロールとして彼が行ったといわれるもの。 その内容は ”犠牲者”としての彼にフォーカスが当てられていたけれど、 彼と関係した女性たちは、こぞってそれが真実と異なるとして、 彼を訴える姿勢を見せているのだった。




それ以外のメディア報道の殆どは、先週のパリのテロ関連のニュースに終始していたけれど、 今週に入ってからは、今回のパリの複数のテロのうち、最多の犠牲者を出したバタラのコンサート会場の様子が、 その場に居合わせた人々や、その時点でパフォーマンスを行っていたロックバンド(写真上左はテロ直前に撮影されたスナップ)のメンバーから語られる一方で、 スマートフォンで撮影された 数々のアマチュア・ビデオがメディアでも公開されて、徐々に現場の詳細が明らかになってきているのだった。

そんな中、今週テロの警戒が最も高まっていたのは、ISISがテロを予告をしたワシントンやパリ、ニューヨーク、アトランタではなく、 先週のテロの実行犯の1人、サラー・アブデスラムが事件後、車で国境を越えて入国したと言われるベルギーのブリュッセル。 ブリュッセルの郊外の街が、今年パリで起こった2回のテロの準備が行われたテロリストのアジトであるとして、 集中的な捜査の対象になっていたのが今週で、ブリュッセルでも映画観、劇場がクローズ。 ショッピング・モールやレストランは週末にも関わらず閑古鳥状態。 地下鉄の運行までストップし、現地のアメリカ領事館もベルギー政府の要請を受けて、 アメリカ人居住者に対して外出を控えるように呼びかけるほどで、 街中には武装した兵士の姿しか見られない 完全なロックダウン状態になっていたのだった。

ISISのニューヨークに対するテロのビデオ予告については、メディアが 「タイムズ・スクエアの古い映像をリサイクルしている」と指摘する一方で、 デブラジオ市長も 差し迫ったテロの脅威は察知されていないとプレス・カンファレンスで断言。
しかしながらパリで起こったような 銃によるテロは、 銃社会であるアメリカで 簡単に起こりうるため、 週末の日曜午前4時から ダウンタウンの地下鉄トンネルを使って行われたのが、 少人犯による銃乱射事件に対応するためのNYPD(ニューヨーク市警察)の実践演習。 近隣の住民がパニックにならないよう、メディアでは かなり大掛かりに同演習について報じていたけれど、 それでも住民の一部は、そのリアリティに驚き、脅えていたことが伝えられているのだった。




今週のアメリカ国内では、パリのテロの実行犯のうちの2人が シリアからの移民を装ってヨーロッパ入りしたという未確認情報を受けて、 各州の知事がシリアからの移民の受け入れを拒否する意向を示したのに加えて、下院も移民の受け入れを拒否する法案を可決。
しかしながらニュース・メディアによれば、アメリカでは9・11のテロ以降、受け入れている難民の数は合計78万5000人。 その中には、イラク、アフガニスタンからの、それぞれ10万人以上の難民も含まれているというけれど、そのうちテロ関連で逮捕、 もしくは国外追放されたのは 1%にも遥かに及ばない 僅か12人程度。 シリアからの難民にしても、国連から 受け入れをオファーされた2万3092人のうち、 ホームランド・セキュリティが審査面接の対象としたのは7014人。そのうち審査をクリアして、受け入れが決まったのは 僅かに2016人。 すなわち難民として アメリカに入国するには、10人に1人という狭き門をくぐり抜ける必要がある 最も困難な手段で、 テロリストがわざわざ好んで選ぶ手段とは考えられないだけに、 「難民受け入れがテロに繋がる訳ではない」という事実をアピールしていたのだった。
それよりもメディアや政治評論家が危険視しているのは、現在38カ国を対象に行われている”ビザ無しプログラム”。 この38カ国の中には、もちろんフランス、ベルギーといった 今回のパリのテロの実行犯達が パスポートを所有する国々が 含まれているのだった。

そんな中、現在アメリカ国内で高まっているのが 過剰なまでの”Islamophobia / イスラモフォビア”。
イスラモフォビアとは、ゲイを嫌ったり差別したりする ”ゲイフォビア”同様のイスラム教に対する敵対思想。 イスラモフォビアは決して新しい言葉ではなく、特にヨーロッパではかなり以前からに聞かれていた言葉。
アメリカでも約50%の国民が オバマ大統領のことをイスラム教徒だと信じている というアンケート調査結果があるけれど、 それを理由にオバマ氏に批判的なポジションを取る人々も、イスラモフォビアと見なされるのだった。

パリのテロ以来、アメリカで盛り上がりつつあるイスラモフォビアをプロモートしているのは、ドナルド・トランプ、ベン・カーソンを始めとする 共和党の大統領候補者たち。 彼らは選挙キャンペーンで演説する度に痛烈なイスラム教批判を繰り広げており、前述のシリアからの移民についても、 「キリスト教徒のみを受け入れるべき」という宗教差別発言を繰り広げる有り様。
特にドナルド・トランプについては、 今週の選挙キャンペーンのスピーチで、「イスラム教徒を全てデータベースに登録して、トラッキング・システムを作ってモニターし、特別のIDを持たせて、 一部のモスクを監視する」だけでなく、「ブッシュ政権下で行われていた拷問のテクニックも復活させる」と語り、 ナチス・ドイツ政権下でユダヤ人に対して行われたのと同等の差別を打ち出し、見識者を呆れさせていたのだった。
でも恐ろしいのは、現在トランプがキャンペーンを行っているアイオワ州では、そんな人種差別政策が 拍手喝采で支持されていることで、事実アイオワ州では33%の人々が 「イスラム教を違法とするべき」という、 合衆国憲法で保障された宗教の自由に反する意見を持っていることも伝えられているのだった。

そもそもドナルド・トランプは、今週 ”イスラム教徒のデータベース化”を打ち出して、多くの人々やメディアからバッシングを受けたことから、 その翌日には「データベース化のアイデアを持ち出してきたのは、自分ではなく、自分のコメントを曲解したメディアだ」とコメント。 しかし、この発言がきっかけで保守派や白人至上主義者が多い共和党支持者の間での支持率を大きく伸ばしたことから、 その後はデータベース化よりも更に酷い モニターやイスラム教を識別するための特別なIDという ナチス・レベルの差別主義を打ち出しているのだった。




ベン・カーソンやドナルド・トランプが 差別的な移民政策で国民の支持を得ようとする理由として 専門家が指摘するのが、 彼らには 外交や軍事経験がゼロで、唯一自らの経験の無さを補えるのが移民政策であるため。
そもそもドナルド・トランプはメキシコからの移民に対する 政策の強化を謳って、メキシコとの国境に壁を作り、 アメリカに1100万人存在する不法移民を全て追い出すという、非現実的なプランで共和党支持者にアピールしてきた存在。
そんな彼が パリのテロを受けて、それまでの メキシコ という移民政策のターゲットをイスラム教に摩り替えることによって、 少なくとも共和党支持者には大きくアピールしていたのが今週。

ドナルド・トランプは、以前から感情にまかせた過激な言動をツイッターで繰り広げることで知られえいたけれど、 これまでその主張がシリアスに捉えられることが無かったのは、ツイッターでメッセージを受け取っていたのは、ある程度 テック・サビーで、世の中で起こっていることを把握している人々。 しかしながら大統領候補になってからというもの、彼の主張が選挙キャンペーンや、メジャー・ネットワークのTV放映という形で 世の中に発信されるようになり、そうなると キリスト教を信じるあまりダーウィンの進化論を教科書から乗り除くようにと 運動を起こすような人々に、彼の極端な政策が アピールしてしまうというのが政治専門家の見解なのだった。

多くの政治評論家が、「今回のテロに対する大統領候補のリアクションは、次にアメリカで起こるかもしれない新たな9・11への対応を知る指針になる」と 語っているけれど、どんどん過激さを増して行く ドナルド・トランプを見て、リベラル派の中には「ヒットラーは、こうやって誕生したのかもしれない」と 見る人々さえいるのが現状。
過去にビル・クリントン元大統領が、「セキュリティに不安を抱く状況下では、国民は 往々にして 正当であるものの一見弱く見えるリーダーシップよりも、 誤ったポリシーでも強いリーダーシップを選ぶ(望む)傾向がある」と語ったそうであるけれど、 もし今の状態が来年の大統領選挙まで続いた場合、アメリカが恐ろしい選択をする可能性は決して否定できないのだった。

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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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