Nov. 28 〜 Dec. 4 2005




Paris and New York



先週の全く眠れなかったパリ旅行から戻った私は、2日連続の10時間睡眠で、やっと眠りをキャッチアップすることになったけれど、 私の周囲は、前回のこのコラム「Sleepless In Paris」を読んで、私が今度こそはパリが大嫌いになったに違いないという 印象を持った人が多かったようだった。
実際のところ、今回の旅行で「私はパリには絶対に住めない」ことは実感したものの、訪ねる街としてはやはりパリは好きだし、これからも エール・フランス以外の航空会社を使って、仕事を兼ねて、パリには何度も出掛けることになるだろう というのが私の正直な気持ちだったのである。

では、何故私が 「パリには住めない」と思ったかと言えば、まず 日常生活の様々なことに ニューヨークの2倍の時間が掛かるためで、 合理的、実用的、効率的、機能的という言葉とは、あまりに無縁な人々を見ていると、「ペースが合わないなぁ」とつくづく感じてしまうからである。
ニューヨークに住んでいると、時々 他の街から来た人が「ニューヨークのスピードについていけない」ともらしているのを 耳にするけれど、 逆に私はパリで、「ここまでスピードを落としていられない」と苛立ったり、呆れてしまうことがあまりに多かったのである。
しかも、ショッピングをする際の 店員の対応などは、ひたすらスローであるから間違えが無いかと思えば、頼んだものが入ってない、 シューズを買えば 右と左でサイズが違うなど、身体の動きだけでなく、頭の回転までスローなのかもしれないと疑いたくなるようなケースもあり、 この街に住むには寛容で、おっとりした人間でなければならないこと、そして私自身があまりにそれからかけ離れた人間であることを自覚した旅だったのである。

でも私が「パリには住めない」と思う最大の理由は、それよりも、何よりも道の悪さとシューズ事情である。
パリはご承知の通り、石畳のデコボコの道が多い上に、小砂利も多く、 今回、私は一番履き易い マノーロ・ブラーニックの 3.5インチ・ヒール(8.75cm) で歩き回っていたけれど、 たった2日ほどで、レザー・ソールに小砂利が沢山食い込んでしまい、かなりシューズが傷んでしまった。 こんなに短時間に靴が傷んだのは初めてのことで、タクシーばかり乗っていた前回の旅行の際には気が付かなかったけれど、 気をつけて足元を見てみると、パリでは確かに洒落たシューズを履いている人というのを殆ど見かけないのである。
これはボン・マルシェやコレットといった、ファッショナブルなショッピング・スポットや一流デザイナーのブティック、 高級ホテルのレストランでも然りで、うならせてくれるようなシューズを履いている女性に巡り会わないというのは、私にとって非常に寂しいことだった。 実際のところ、買ったばかりのロジャー・ヴィヴィエルの11cmヒールのサンダルをパリジェンヌの友人に見せたところ、 「これはパリでは履けないわね」と言われてしまったし、このファッションの都であるはずのパリで 何処のショップに出掛けても マノーロを見かけないというのにも かなりショックを受けてしまったのだった。
でも今回、私は パリ在住の日本人、アメリカ人、フランス人女性とお会いして、お話する機会が持てたけれど、 一度話がシューズのことに及ぶと、必ずと言って良いほど 「パリでは見つからないんですけど、マノーロ・ブラーニックって、ヒールが高くても履き易いんでしょう?」とか、 「マノーロって、アメリカではセールで値引きされることがあるんですか?」といったマノーロ質疑が始まってしまうことになり、 マノーロを履かない、探せない街にもマノーロ・フィーバーが存在していたことは、嬉しいサプライズと言えるものだった。 なので、シューズ・フリークの私としては、マノーロもワインと同じで当たり年とハズレ年があること、 当たり年のマノーロを履いてバーグドルフ・グッドマンのシューズ・セクションに行くと、必ず褒めてくれるマノーロ・マニアが居ることなどを ここぞとばかりに話していたけれど、パリでマノーロのハイヒールを履こうとすれば、「危ない」、「傷む」、そして何より「探せない」訳で、 この事を考えるにつけ、私はパリとはつくづく縁がないことを実感してしまうのである。

では、どうしてマノーロが売っていないパリに住む女性がマノーロ・ブラーニックについて それだけ興味と購買意欲を持っているかといえば、 その要因となっているのは「セックス・アンド・ザ・シティ」のようで、 番組内で、サラー・ジェシカ・パーカー扮するキャリーが言った 「これはシューズじゃないわよ、マノーロよ」という、マノーロを他の靴とは別格に扱う台詞まで覚えている女性まで居たけれど、 同時に私がパリで出会った人々が描く ニューヨーク・ウーマンのイメージというものも、 多かれ少なかれ、「セックス・アンド・ザ・シティ」からアイデアを得ている部分が多いようだった。
だからニューヨークのシングル事情については、私が語るまでもなく ご存知の場合が多かったけれど、 逆に説明されたのがパリのシングル事情で、パリはカップル単位で行動するのが当たり前の社会であり、英語で言う「シングル・シングル」、すなわち「結婚していないし、特定のボーイフレンドも居ない」 というステイタスで生活するには非常にタフな街であるということだった。 ボーイフレンドが居ないということを理由に、上司に「私生活が無い」とジャッジされた女性の話などを聞いていると、アメリカ社会のスタンダードでは 「セクハラまがいのコメント」とも取れてしまうけれど、こうしたシングル事情に限らず、時間に対する感覚やそのライフスタイル感も、 パリとニューヨークが本当に違うことは、今回現地に暮らす方達と実際にお話する機会を持って、改めて深く実感するものだった。
パリのカフェではデミタス・カップのコーヒー1杯で5時間ねばる人も珍しくないというけれど、ニューヨークのスターバックスだったら、 その7倍はあるグランデ・サイズのカフェ・ラテをオーダーして、5分もしないうちにカップを持って店から出て行く人が殆どである。 スターバックスで1時間以上ねばっている人というのは大抵コンピューターを持ち込んで居座る学生やビジネスマンと相場が決まっている訳で、 コーヒーを飲みながら、本や新聞を読んでいる人、友人とお喋りをしている人でも30分も居座ればかなり長居をしていると見なされるものである。
またフランスでは週35時間労働、5週間のバケーションが法律で定められているとのことで、これはニューヨークに限らず、アメリカの労働者だったら 誰もが羨むような条件であるけれど、それだけに私生活と仕事をキッチリ分けて、仕事以外の自分の時間を楽しむライフスタイルとなっており、 これは、「先ずは仕事をこなして、残った時間で遊ぶ」というニューヨークの「ワーク・ハード、プレイ・ハード」型のライフスタイルとは 完全に一線を画すものである。
だからパリのカフェでゆったり過ごす時間、テーブルの間隔が広く開いたレストラン等は、それがパリであるからこそラグジュアリアスであるけれど、 ニューヨークで同じことをすれば時間の無駄、スペースの無駄と見なされて、逆にニューヨークでは忙しさが美徳とされ、テーブルがひしめき合うほど 混みあったダイニング・ルームのレストランがエキサイティングと見なされることになるのである。

これだけ違う2つの街であるから、パリとニューヨークのどちらがベターというような比較をするのは無意味であると思うけれど、 パリ在住の日本人女性と話していて見出した共通点としては、移民ほど街に固執するということ。 ニューヨークでは、アメリカ人ほど街に執着がなく、ニューヨークという街は一生のうち、一時的に暮らす場所としか思っておらず、 いずれは生まれ故郷や、静かな郊外で暮らそうと考えており、これはパリにおけるフランス人も全く同様であるという。
でもその移民の受け入れについて面白いと思ったのは、フランスでは、フランス人の仕事が有能な移民に奪われないよう、 あえて優秀な移民の誘致は積極的に行わないのだそうで、これは優秀な移民を国力にしてのし上がって来たアメリカとは全く異なる姿勢である。
だからいろいろな意味で、パリでは社会制度に裏付けられた安定、平穏、ゆとりというものを感じたし、それは サバイバル・ゲーム的なライフスタイルになるニューヨーカーから見れば羨ましくなる部分もあったのは事実である。 でも逆に上昇志向は感じられない社会で、「人より働いて、人よりリッチになろう」というより「人より働いたら、人より長く休みを取ろう」というのが その労働姿勢という感じだった。

いずれにしても、全く異なる外国のカルチャーやライフスタイルというのは、自分の中が飽和状態になっている時のカンフル剤になったりするもので、 そのカルチャーやライフスタイルが結果的に好きでも 嫌いでも、異なる価値観や社会に触れて自分に刺激を与えるということは、 私は特に女性にとってはとても大切なことだと思っている。 でも旅行者として街の名所を何箇所訪ねたところで、その街の本質には近付けない訳で、 最も大切なことは人と触れ合うことだと思うし、そのためにはやはり「語学を磨いてから旅行をするべき」 というのが私の考えである。



Catch of the Week No.3 Nov. : 11月 第4週


Catch of the Week No.3 Nov. : 11月 第3週


Catch of the Week No.2 Nov. : 11月 第2週


Catch of the Week No.1 Nov. : 11月 第1週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。