Dec. 1 〜 Dec. 7 2008




” Bailout, not Bail Out ”


今週のアメリカでは、先ず週明け 月曜に オバマ次期大統領が 彼にとっての選挙戦のライバルであったヒラリー・クリントン上院議員を、 次期国務長官に起用することが正式に記者発表され、それが大きなニュースになっていたのだった。
記者会見の場では2人の言動やボディ・ランゲージにメディアの関心が集中していたけれど、 この席で オバマ氏は ヒラリー氏を「ヒラリー」と呼び、一方のヒラリー氏はオバマ氏を「オバマ次期大統領(プレジデント・エレクト・オバマ)」、 もしくは 「ミスター・オバマ」 と呼んで、そのパワー・ポジショニングを暗にほのめかしていたのは多くのメディア記者が指摘していたこと。 総じてこの人選は、アメリカにとってもオバマ次期政権にとってもプラスと見なされているもので、 実際 この記者会見では、ヒラリー・クリントン以外にも複数の閣僚ポストが正式任命されていたけれど、 ヒラリー氏の存在感やスピーチの上手さは明らかに群を抜くものとなっていたのだった。
ワシントンの 政治記者の間では 「クリントンの名前が政治の世界から消えることは無い」 と言われているそうだけれど、 そのクリントン上院議員を失うことになるニューヨーク州では、現在彼女に代わる上院議員の選考が行われている真っ最中。 こちらは選挙ではなく、パターソンNY州知事の任命によって決められることになっている。 その候補には、ヒラリー氏の夫、ビル・クリントン元大統領、そしてクリントン同様、アメリカの政治の世界から消え去ることが無い ケネディ家の一員で、ジョン・F・ケネディ元大統領とジャッキー夫人の間の長女、キャロライン・ケネディ(51歳)等 の名前が挙がっているのだった。

さて、同じく今週月曜、12月1日にはナショナル・ビューロー・オブ・エコノミック・リサーチによって アメリカが正式にリセッションに突入したことが発表されたけれど、 これは言ってみれば 家が半分焼け落ちるのを見せ付けられてから、「火事です」 と言われるようなタイミング。
今週末には11月の1ヶ月の間だけで、更に53万3000の職が失われ、これによってアメリカの失業率が6.7%に達したことが発表されたのだった。 ちなみに1ヶ月の失業者がこんな数字に達したのは 1974年以来のことで、この当時はリセッションの終わりかけだったことが 伝えられているけれど、今のアメリカは ”正式に” リセッションに突入したばかり。
また 9〜11月の3ヶ月間の失業者数は約120万に上っているとのことで、 このままだとアメリカは 90年代初頭のリセッション時同様、「ステイタス・シンボルはジョブ(仕事)」 という状況になってしまいそうな気配なのである。

リセッションが明けるまでは 3〜5年を要するという見方も少なく無い中、 水曜には ロックフェラー・センターのクリスマス・ツリーが点灯されて、いよいよニューヨークも ホリデイ・シーズン本番といったところ。
私も昨日、土曜日の夜、 雪が降る中を ツリーを見に出かけたけれど、今年のツリーも昨年に続いて 省エネ・バルブが用いられているせいで、そのイルミネーションはどことなく 温かみや華やかさに欠けるもの。 でも、ロックフェラーセンターの独特のセッティングの中で見る巨大なツリーは、やはり圧巻の迫力と存在感。 しかもその周囲は夜の10時を過ぎても 物凄い人出で、いろいろな国の言語が飛び交っていたのだった。

今週末になって、大きく報道されていたのは 1つがベイルアウト・マネーを求める自動車業界のビッグ3のニュース。 木曜にはビッグ3のCEOが 再び下院の聴聞会に姿を見せていたけれど、前回それぞれにプライベート・ジェットをチャーターして ワシントン入りし、大顰蹙を買った3人のCEOは 今回 それぞれにコマーシャル・フライトを使い、自社の車で往路の一部を移動したことを 強調していたのだった。
この席で、唯一きちんとしたビジネス・プランを提示したのは 3社の中で ベイルアウト無しでも 経営して行ける言われるフォードのみ。 それでも、下院は省エネ車の開発費用という名目をつけて、$25ビリオンのベイルアウト・マネーをビッグ3に対して支払う案を 来週にも可決する見込みとなっているそうで、またしても国民の税金が 散々好き勝手なビジネスを続けてきた大企業に対して 支払われてしまう気配なのである。

こうして ベイルアウト が乱発されるアメリカだけれど、そんな中で 救われることが無かったのが 13年前に妻と友人殺しの容疑で 無罪を勝ち取ったO.J.シンプソン。
昨年、ラスベガスのホテルで 自分のメモラビリア・プロダクトを取り戻そうとして、 誘拐、 監禁、強盗など12の罪で起訴されたシンプソンは、既に10月4日に全ての罪で有罪判決が下されていたけれど、 今週金曜にはその刑期が確定し、 それによれば最高で33年の禁固刑。保釈要求を申請できるのは受刑後9年が経過してからという厳しいもの。 刑期の言い渡し前に、涙ながらに謝罪したシンプソンであったけれど、それによって裁判官の気持ちが動くことは無かったようである。
興味深い点は、今回のO.J.シンプソンの判決が13年前の殺人事件とは無関係であるにも関わらず、 メディアや世論が 「シンプソンに対して遂に ”ジャスティス = 判決 = 天罰” が下った」 と捉える傾向が強いところ。
ミリオネアのエグゼクティブ達が国民の税金でベイルアウトされ、その税金を支払っている人々は仕事を失い、 将来を案じなければならない今のアメリカで、今回のシンプソン判決は久々に 正義というものが 存在していることを 人々に実感させる報道となっていたのだった。

ところでアメリカ人にとって2008年を象徴する言葉が 「ベイルアウト」 であるというけれど、今回のファイナンシャル・クライシスが 起こる以前に 英語で 「ベイルアウト」と言えば 「Bail Out」の2語で、これは保釈という意味。 英語で 「Bail (Someone) Out」 と言えば、罪を犯して逮捕された人を 保釈金を払って留置所から出してあげること。でも これによって無罪放免になる訳ではなく、 裁判までの期間を留置所で過ごさずに 済むだけの話である。
でも現在ファインスの世界で用いられているのは「Bailout / ベイルアウト」 という1語。 財務省は、この言葉の響きの悪さを嫌って 盛んに「レスキュー」、すなわち「救済」 という言葉に摩り替えようと試みてきたけれど、 メディアや世論が 「Bailout / ベイルアウト」 という言葉を用い続けたために、 大企業の経営救済のための資金投入という意味で  好ましくない響きと共に使われているのが 今年を象徴する「Bailout / ベイルアウト」 である。
私を含めて、アメリカでスモール・ビジネスを営む人々や、中小企業に勤める人々にとっては、 リスキーなビジネスをして 多額のボーナスを受け取って、 経営が危うくなれば国民の税金を投入してもらえる というのは あり得ないこと。 なのでベイルアウトされている大企業を腹立たしく思う反面、羨ましくも思ってしまうけれど、 ふと考えてみれば 私自身も 、規模は遥かに小さいものの 自分の両親にベイルアウトをしてもらった経験があったりするのである。
ニューヨークに来る前の私は、自分の当時の月給より高いスーツを平気で購入するようなお金遣いの荒さであったけれど、 私はそのクレジット・カードの支払いを 全て親に押し付けて ニューヨークに来てしまったのである。 しかも、ニューヨークに来てからも 家賃や語学学校&F.I.Tの学費など、 仕事をしていなかった最初の10か月分の生活費は全て親からの援助。仕事を始めてからも 時々 親からの仕送りが無いと生活していけない状態で、要するに全く経済的に自立していなかったのである。
なので、その当時の自分を振り返るとまるで ベイルアウト・マネーを受け取る度に、足りなくなったといって 財務省に泣きつく A.I.G.のようだと思えてしまうのだった。
日本に居た頃の私はお金について非常に楽観的で、どこかから助けの手が差し伸べられることを計算に入れながら、自分が稼ぐ以上の お金を使っていた訳であるけれど、ニューヨークに来てまず反省したのが、語学学校で出会った留学生が、国籍を問わず 自分で学費や生活費を貯めてやって来ている人、アルバイトをして家賃や生活費を稼いでいる人が殆どであったこと。 中には私のような親のスネカジリも何人か居たけれど、スネカジリ組は学校をしょっちゅう休む上に、 遊ぶことばかりに一生懸命で、自分でお金を貯めてやってきた学生と比べると、はるかに ”必死さ” が欠落していたのだった。
そうした2種類の留学生を目の当たりにしながら、学生という生産性ゼロの立場に戻った私は、 親から仕送りを貰わなければならない自分が 社会人として物凄く情けなくて、仕事がしたくてたまらなかったし、 焦りや自己嫌悪で 非常に落ち込むことも珍しくなくて、この時期がニューヨークでの最初の試練だったと記憶しているのだった。

この時に 「このまま 人のお金を当てにするような生活をしていたら地獄に落ちる!」 と真剣に考えた私は、 ニューヨーク生活で援助してもらったお金と大学の学費を親に全額返済しようと決心したのだった。 大学の学費を親に返すべきだと思ったのは、アメリカで暮らしているうちに、アメリカでは親が面倒を見てくれるのは高校までという人も多く、 そうした人が大学に行きたいと思ったら、奨学金や学費ローンを自分で返済しなければならないという実情を知ったため。
とは言っても、最初は まず仕送りをゼロにすることから始まって、徐々にお金を返し始めることになった訳だけれど、 返済してみて分かるのが 自分のお金遣いが如何に荒かったかということ。 私がラッキーだったのは、返済相手が親であって サラ金などでは無かったこと。そしてもっと早くに学ぶべきだったとは言え、 とりあえずは この時点のニューヨークの生活のお陰で、お金の使い方や経済的な自立を身に付けることが出来た点なのだった。

でも、自分のお金の扱いを100%信じていないのに加えて、自分の頭の中では足し算と引き算の収支決済しか出来ないことが 分かっているため、 私がスモール・ビジネスの経営者として決してしないと心に誓っているのが借金である。
以前は、「ビジネス・ローンを含む借金は一切しない主義」というと、特にアメリカ人には よってたかって「君の会社は決して大きくなれない」 と言われ続けてきたし、私の会社は商品と引き換えに直ぐに代金を支払っていて、他の会社のように 2〜3ヶ月分の代金を貯めてから支払うようなことも してこなかったので、これについても随分と とやかくアドバイスされたことがあったのだった。
でも、こんなファイナンシャル・クライシスに陥って、ありとあらゆるローンの貸し出しが滞っているのを見るにつけて、 ビジネス・ローンなんて組んでいなくて本当に良かったと思うし、今まで 商品を受け取る度に きちんと代金を支払い続けてきたお陰で、 こんなご時世になって デポジット(前金)を受け取らないと商品を作らない業者達が、 CUBE New York のためには今も電話一本、メール1通で 商品を作ってくれるのである。

こういう厳しい時代になってみると、つくづく感じるのはビジネスはお金や物の動きだけではなくて、人と人とのコミュニケーションが いかに大切であるかということ。
私は、自分の会社で扱う商品にネガティブ要素が含まれると、それを受け取ったお客さまの運が悪くなって、引いてはそれが自分の ビジネスに跳ね返ってくるという 考えを持っていて、商品にネガティブ要素を運んでくるような 自分の嫌いな人間とは 決してビジネスをしない主義なのは以前もこのコラムで書いた通りである。
自分が好きな人達とビジネスをしている分には、たとえ問題が起こった場合でも 気持ち良く解決して、 後に火種を残さないで済むし、こんな経済の状態でも冗談を言いながら楽しくビジネスが出来るのである。
そうした信頼できる人達と楽しみながらビジネスをすることは、仕事を生き甲斐とする私としてはとても大切なこと。 ビジネス・ローンなどを組んで、その返済に追われる 利益追求一辺倒のような経営は、 私には決して 出来ないのである。





Catch of the Week No. 5 Nov. : 11 月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 Nov. : 11 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Nov. : 11 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Nov. : 11 月 第 2 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。