Nov. 26 〜 Dec. 2, 2012

” Charity Or Business? ”


今週のアメリカで最大の報道になっていたのが、史上最高額である 5億5800万ドル(約470億円)の賞金がかかった パワーボールと呼ばれる宝くじのニュース。
アメリカの宝くじは、日本の宝くじとは全く異なるシステムで、宝くじを買う人が自分で番号を選び、当選者が出ない場合は賞金が繰り越しになるというもの。 9月以降 当選者が出ていなかったパワーボールは、史上初めて賞金金額が$ハーブ・ビリオンを超えて、 パワー・ボール・ナンバーを含む、6つの番号 全てを1人の当選者が当てた場合、一瞬にして 共和党大統領候補だったミット・ロムニーの個人資産を 超える金額を手にすることになっていたのだった。
リセッションに突入して以来、庶民にとっては「最後のアメリカン・ドリーム」とさえ言われている宝くじであるけれど、 これに夢を託したアメリカ人は非常に多く、人々が行列して宝くじを買う様子が見られたのが今週なのだった。

その結果、6つの番号 全てを当てた当選者はミズーリ州とアリゾナ州からそれぞれ1人ずつ出て、 ミズーリ州の当選者は既に今週中に名乗りを上げているのだった(写真上右)。
写真上 右の小切手では、2億9,375万ドルという賞金額になっているけれど、 当選したマーク&シンディ・ヒル夫妻は、賞金の1回払いを選んでいるので、そのディスカウントと、 税金が差し引かれるため、実際に受取るのは1億3,200万ドル(約106億円)。
アリゾナ州の当選者は、まだ名乗り出ては居ないけれど、アリゾナ州の法律では 当選者がそのアイデンティティを明かすことなく、賞金が受取れることになっているので、 おそらく ヒル夫妻のように記者会見を行なって賞金を受取ることは無いと思われるのだった。 (ミズーリ州では、当選者の喜びの様子が宝くじの売り上げに貢献するパブリシティになるとして、 当選者を公に発表することが、賞金受け取りの条件となっていて、これについては 州ごとに法律が異なります。)

でも、これだけの大金を一瞬に得るのがラッキーかといえば、決してそうとは限らなくて、 多くの宝くじの当選者は 5年以内に破産や離婚に追い込まれるケースが殆ど。
また、ヒル夫妻のように コミュニティの絆が固い小さな田舎町に暮らしている場合、 当選者は、家族や親類への援助やビジネスへの投資を迫られるだけでなく、 地元の教会や学校の建て直しや 町の行事のための寄付等を、 ことある毎に迫られ、それに応じなければ村八分扱いを強いられる場合も多いのが実情。 それを立証するかのように、当たりくじが販売されたストアでインタビューされた 地元住民の中には、「 We Won!」、すなわち「私たちが当選番号を当てた!」と 既にコミュニティの勝利として 捉える人さえいたほど。
したがって、既に成人した子供達に加えて、中国から養子縁組した6歳の娘を擁するヒル夫妻は、 今後、家族、親戚、コミュニティからの 「たかり」行為と戦い続けなければならないことが見込まれているのだった。

実際のところ、多くの宝くじ当選者は、そうした周囲からのプレッシャーによる投資や寄付でかなりの財産を失っており、 それに加えて、維持に大金が掛る家を、固定資産税も省みずに買ったり、建てたりして、 破産に追い込まれるというのが 最もありがちなシナリオ。
また自分に経済力が無いために、我慢して結婚生活を続けていた妻が、 離婚によって賞金の半分を得て、自由の道を選ぶケースも 非常に多いことがレポートされているのだった。



もう1つ、今週大きな報道になっていたのが、11月14日の夜に、NYPD(ニューヨーク市警察)の警官、ローレンス・デプリノ(写真上の警官、25歳)が、 裸足のホームレス男性を見つけ、彼のために自費でソックスとブーツを購入し、彼に履かせてあげていたという心温まるストーリー。
その様子を携帯電話のカメラで撮影していたのがアリゾナから来た旅行者、ジェニファー・フォスター。 彼女がその様子を撮影したのは、32年警官をしていた彼女の父親が、デプリノ同様、ホームレスに自費で食事を与えるなどの、 親切を行なっていたためで、ニューヨーク旅行から戻った彼女は、その状況を説明したEメールに写真を添えて、 市警察のウェブサイトに称賛メッセージとして送付したという。

これを見たNYPDの関係者が、この警官が誰であったかを割り出し、ジェニファーに NYPDのフェイスブックに写真とメールの内容をポストする許可を仰いできたそうで、ジェニファー本人はフェイスブッカーではなかったものの、 彼女のポストがNYPDのフェイスブック・ページにポストされたのが今週火曜日の夜。 そして水曜の夜までには、160万人がそのポストを閲覧し、27万5000人が「Like」のボタンをクリック、1万6000人がコメントを寄せるという 大センセーションになったのだった。
これを受けて、ニューヨーク・タイムズ紙がこのニュースを記事にしたのが翌日木曜のこと、ニューヨーク・ポストは1日遅れて金曜に、この様子とデプリノを 表紙にフィーチャーして、見開きの記事を掲載。 またNBCのモーニング・ショー 「トゥデイ」は、デプリノと写真を撮影したジェニファー・フォスターを一緒にゲストに招いて インタビューを行なっており、メディアの取材はデプリノの両親のところまで押しかけていることが伝えられているのだった。

フェイスブックに書き込まれたコメントの一部には、彼の行為をパブリシティ目的の「ヤラセ」と見る声もあるというけれど、 その殆どがデプリノを讃えるもので、デプリノ自身は「自分のしたことで、人々が人間の良心と親切心に再び目覚めた と言ってくれたのが一番嬉しい」とコメント。
彼は、ホームレス男性のために買ってあげたブーツのレシートを 「どんなに辛い時でも、もっと辛い人間が居る」と自分に戒めるために、 ずっと持ち歩いているとも語っているけれど、デプリノが自腹を切って ホームレス男性に 暖かく丈夫なブーツを購入しようとしているのに 共鳴したシューズ・ストア、スケッチャーズのマネージャー、ホゼ・カーノは自らの従業員ディスカウントを使って50%の割引をしたことも、美談の一部として 報じられているのだった。
このストーリーに触発されたニューヨーカーは多かったようで、週末には 多くのホームレスが 街行くニューヨーカーが 日頃以上に食べ物やお金を恵んでくれるようになったとコメントしているのだった。

今日、日曜になってからは、デプリノがブーツを買ってあげたホームレス男性の兄弟が、メディアに名乗り出て、 彼らが何時でも ホームレスになった弟を迎え入れて、助ける用意があることをコメントしているけれど、 このホームレス男性は、彼の兄弟2人が 大学教授などサクセスフルな仕事をしているのに対して、80年代から失業しており、アルコールにドップリ浸って、 トラブルが絶えなかったとのこと。 ここ数年、彼は兄弟に 年に1度電話を掛けてきて、自分が無事で、元気であることを伝えるだけの仲になっていたという。
でもニューヨーク・タイムズ紙のフォローアップ記事では、デプリノがブーツを買ってあげた1週間後の 11月21日に、「再び裸足でさまよっている彼の姿を見た」という旅行者やニューヨーカーが居ることや、 昨年の今頃、「彼にそっくりな男性に やはりシューズを購入してあげた」というブロードウェイ関係者のコメントも掲載されており、 このホームレス男性については、まだまだ謎の部分が多いのが実情。
ホームレスでドラッグやアルコール中毒である場合、金目のものを売ってドラッグやアルコールを購入するケースは少なくないだけに、 せっかくの美談が そんな形で 台無しにならないよう、望むばかりなのだった。
(12月3日に報じられたNYタイムズのフォローアップによれば、ホームレス男性は 再び裸足で歩いていることについて、 ”(デプリノが購入した)ブーツを安全な場所に隠したから” とタイムズの記者に説明したとのことです。)


さて、今週のパワーボールのチケットを買ったニューヨーカーの中には、「もし当たったら、ハリケーン・サンディの被災者のために 寄付をする」と語る人々が非常に多かったけれど、 前述のヒル夫妻が獲得した賞金以上の寄付を集めておきながら、引き続き 被災者への対応の悪さで非難を浴びているのがアメリカン・レッド・クロス(米国赤十字)。 メディアでは、写真上右のヘッドラインのように「恥を知れレッドクロス!」というような、厳しい批判が レッド・クロスに浴びせられて 久しい状況であるけれど、今週、ニューヨークの司法長官、エリック・シュナイダーマンが赤十字を含む75のNPOに対して送りつけたのが、 ハリケーン・サンディで集めた寄付金とその使い道に関するレポートの提出を求めるレター。
というのも、2週間前のFavoriteのセクションでも触れたように、米国赤十字が 上層部を1泊800ドルのホテルに滞在させて1400万円も使っていたという豪遊ぶりが レポートされていたりするだけに、 人々に寄付を呼びかけるためには、集めた寄付金の使い道をクリアにして、チャリティ団体の信頼性を証明することが最優先というのが 司法長官の考え。各チャリティ団体からのレポートは、ウェブサイトで公開され、それを見た市民が 寄付をする団体を 安心して選べるようにするのが この目的なのだった。

それとは別に、今日12月2日付けのニューヨーク・タイムズ紙では、チャリティと謳って、いかにビジネスが利益を上げているかの実態が 記事になっていたのだった。
その中で取り上げられたのが、オンライン・パーティー・プランニングの ”VenueBook / ヴェニュー・ブック”。 ここでは「同サイトを通じてプランされたパーティーのコミッションの15%を、被災者に食事を提供するチャリティに寄付する」 と謳っているそうであるけれど、記事のライターは そんなサイトを通じてパーティーを企画するより、 パーティーの席上で、参加者に1人5ドルの寄付を呼びかけて、お金を集めたほうが、ずっと確実にチャリティに寄付が出来ると指摘。
また12月12日にマディソン・スクエア・ガーデンで企画されているチャリティ・コンサートも、利益をロビンフッド・ファンデーションに寄付するとは 謳っているものの、”利益”というのは エクスペンスを引いて残ったお金のこと。 つまり、同コンサートを企画したマディソン・スクエア・ガーデンのオーナーは、同会場がニューヨーク・ニックスのゲームに使われていない日に 会場提供フィーを獲得できるだけでなく、参加ミュージシャンにしても ギャラや 移動費、ホテル代を受取るっている場合が少なくないのが実情。 またこうしたチャリティ・イベントは、ミュージシャンがギャラを受取らなかった場合でも、豪華なパーティーをして労をねぎらうのが常で、 主催者側がエンターテイメント界とのコネクション作りにチャリティを利用するのは、これまでにも決して珍しいことではないのだった。

同記事の中では、やはり”利益”の100%がハリケーン・サンディのチャリティに寄付されると謳った CFDA(アメリカ・ファッション評議会)主催の セール・イベントについても批判がされていて、それというのも買い物客にとっての50%オフは、デザイナーがストアに売る卸売値よりも高い値段。 したがって、こうしたチャリティ・イベントは、デザイナー側にとっては不良在庫を高額で処分できる格好の手段となっていると言えるのだった。
逆に、チャリティへの寄付をクリアにしている例として挙げられていたのは、ブルックリン発祥のチーズ・ケーキ・ショップ、”Junior / ジュニア”で、 チェーン展開されているジュニアのショップ、及び全米で販売されている同社のチーズケーキのうち、 この秋発売された パンプキン・チーズ・ケーキ、1つの売り上げに対して 5ドルを ブルックリン・コミュニティ・ファンデーションに寄付するというのがそのポリシー。 これによってジュニアは、既に同団体に150万ドル(約1億2000万円)を寄付しているのだった。



ハリケーン・サンディがらみだけでなく、様々なチャリティというのは消費者の購買意欲を誘う要因になる上に、 企業イメージをアップさせ、広告費を支払わずしてパブリシティを得ることが出来ることから、ビジネスに利用されるケースは多く、 一見美談と思われるビジネス・サクセス・ストーリーで、消費者が思い描く以上に、オーナーが大儲けをしている例は少なくないのだった。
例えば、アイウェアの ”Warby Parler / ワービー・パーカー”は、同社の眼鏡が1つ売れる度に、貧しい国で眼鏡を必要としている人々に1つ 眼鏡を寄付するというチャリティを打ち出し、パブリシティを獲得する一方で、ソーシャル・メディア上で人々から支持されて、大きく成長した企業。 同社では、デザインも社内で行い、中間マージンを省くために自社ウェブサイトからのみの販売を行なって価格を落としているのも 消費者には魅力になっているけれど、私の友人がその創設パートナーの1人と2年ほど前に数回デートをしたことがあって、 同社のパートナーが全員、あっという間に大金持ちになったと話していたのだった。
別にチャリティ・プログラムを持つ企業が、お金を儲けるべきではないとは考えないけれど、安い眼鏡は アメリカのドラッグ・ストアで定価10ドル程度で売られていることや、チャリティへの寄付は 税金免除の対象になることを考えれば、寄付をしても 同ビジネスでパートナーが大儲けできるのは当然のコンセプト。
なので、私の知り合いの中には、チャリティで儲けるビジネスを考えている人が何人か居て、 まだ注目されていないチャリティで、プロダクトに結び付けられるものをリサーチしていたりするのだった。 要するに助けなければいけない人が居るから助けるのではなく、助ける人を探してチャリティになるビジネスをでっち上げようというのが そのビジネス姿勢で、私はこれをかなり不純だと思うけれど、今時のアントレプレナーというのは そんなもののようなのだった。



今週は、 アメリカで2013年年明けに迎えようとしている ”フィスカル・クリフ”にも報道時間がかなり割かれていたけれど、 大金持ちに対する増税を打ち出しているオバマ大統領側と、 議会で過半数を獲得し、それに反対する共和党の折り合いがつかず、残された時間はあと1ヶ月足らず。
そうかと思えば、世界最大の小売店 ウォルマートは 1万人を超える従業員の健康保険を支払わない姿勢を見せるだけでなく、 国が提供し、税金でサポートされている低所得者用健康保険、”メディケイド” で従業員の医療費を賄わせようと、 ただでさえ低賃金の従業員の時間カットをして、メディケイドの対象になる収入にまで落とそうとしていることがメディアで批難され始めているのだった。
その一方で、先週 企業清算が決まった82年の歴史を持つアメリカ最大手のベーカリー・カンパニー、”ホステス”では、 その経営陣のマネージメント・ミスが倒産の一因になっていたにも関わらず、19人のエグゼクティブが約180万ドル(約1億4400万円)のボーナス を受取ることが発表され、仕事を失った同社の従業員にダブルでショックを与えていたのだった。

正義感のある友人の中には、ハリケーン・サンディのチャリティに、裕福でない人々ほど 出来る限りのことをして、 被災者の人々を助けようとしている様子と、現在の政治&ビジネスに見られる大金持ちの身勝手さを比べて、 「この国は、金持ちほど根性が腐っている」と腹を立てている人もいるけれど、 今週、そうばかりとも言えない美談を提供していたのがカンサス州の大金持ちの老人。
プライバシーを守りたいという本人の意思で、アイデンティティは公開されていないものの、 彼はハリケーンで被災したニュージャージーやスタッテン・アイランドを訪れて、100ドル札を自ら被災者に配っているのだった。 この老人は、10万ドル分の100ドル札を配る予定とのことで、 それを受取った被災者は、お金もさることながら、見ず知らずの老人から受ける暖かい好意に、 涙を流したり、写真上のように、彼と抱き合って感謝を示す様子が見られており、 被災した人々にとって、サンタクロースのような存在になっているのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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