Dec. 1 〜 Dec.6  2014

” Booming in Miami ”
アート・バゼル・マイアミで見た貧富のメガ格差


今週のアメリカ、特にニューヨークで大きな物議を醸していたのが、今年7月にスタッテン・アイランドで起こった ”エリック・ガーナー事件” にかかわった警官が不起訴処分になったニュース。
この事件は、ストリートでタバコの違法販売をしていたエリック・ガーナーが、逮捕を拒んだために4人の警察に取り押えられた際、 そのうちの1人の警官がチョーク・ホールド(首を絞めて、容疑者を押さえつけること)を行って、 彼を死亡させたという事件。

先週にはミズーリ州ファーガソンで、武器を所持していない18歳の黒人青年、マイケル・ブラウンを射殺した警官が 不起訴処分になったことを受けて、地元ファーガソン、及び全米で抗議活動が起こっていたのは先週のこのコーナーでも書いた通り。 でも同事件とエリック・ガーナー事件の大きな違いは、エリック・ガーナーが警官に首を押さえつけられて、 「息が出来ない」と11回も訴え続けた様子を含む事件の一部始終が、目撃者の携帯ビデオによって捉えられていたこと。
したがって目撃者の証言が食い違って、警官が不起訴処分となったマイケル・ブラウンの事件よりも、 ずっと警官の非が明らかであったのに加えて、チョーク・ホールドは1970年代からNYPDでは禁止されていた逮捕の手段。 しかも司法解剖でも、チョーク・ホールドがエリック・ガーナーの死因であることが認められていたため、 警官が殺人罪に問われることも見込まれていたのが同事件。
しかしながら、それがマイケル・ブラウンの事件に続いて またしても不起訴処分になったことで、NY市民の怒りを買い、 市内では判決直後から大々的な抗議活動が各地で展開されていたのだった。

その抗議活動は、今週水曜日に行われたロックフェラー・センターのクリスマス・ツリーの点灯式でも計画されていたというけれど、 これは事前に阻止されて、点灯式は例年通り無事に終了。でも、抗議デモはブルックリン・ブリッジを塞ぐなど、 市内で交通の大渋滞をもたらしたのに加えて、グランド・セントラル駅では、抗議者が床や道に寝転がって、 座り込みならぬ、”寝込み” が行われ、逮捕者がどんどん増たことが伝えられていたのだった。


ところで今週のこのコラムの更新が1日遅れたのは、実は私がマイアミに旅行中であったためであるけれど、そのマイアミでも行われていたのが、 先週のマイケル・ブラウン不起訴処分に対する大々的な抗議デモ。 それが主要な幹線道路を塞いだために、マイアミでも私の滞在中に何度か大渋滞が巻き起こっていたのだった。

私がマイアミを訪れたのは、アメリカで最大規模のアートフェア、アート・バゼル・マイアミ・ビーチ、及び それと時を同じくして開催されるアート・マイアミ、デザイン・マイアミといったエキジビジョンのため。
バゼル・マイアミは2002年からスタートしたイベントで、毎年規模を拡大し、来場者を増やし続けているイベント。 この時期のマイアミは、コーポレート・スポンサーがセレブリティを招いて大規模なイベントやパーティーを行うのに加えて、 世界中のアート・コレクターや投資目的でアートを購入するリッチ・ピープルが大挙してマイアミ入りするため、2010年の時点で 同期間中にマイアミに離発着したプライベート・ジェットの数は、同年にマイアミで行われたスーパーボール開催時を上回ったほど。
この時期はマイアミのホテルの客室占有率も約91%にアップ。一流のホテルほどその占有率が高くなっているのだった。




そのホテルにとって アート・バゼルは年間で最高の稼ぎ時。セント・レジス・バル・ハーバーホテルでは 宿泊客を 様々なイベントに送り届けるため、アート・バゼル期間中に確保している高級リムジンの数は100台以上。 また一流ホテル、セタイ・マイアミでは、同じくバゼル開催中に、同ホテル内のレストランで 250ドルのホワイト・トリュフ・ピザが360ユニット 以上オーダーされるとのこと。
さらに期間中のマイアミで行われるイベントやディナーのために用意されるワインやシャンパンの量は何と15万ケース、すなわち180万本。 その中には なかなか手に入らないヴィンテージの高級ワインやシャンパンが多数含まれているのだった。

そのアート・バゼル・マイアミ・ビーチは、今年も267のギャラリーがブースを構えるという盛況ぶり。
VIPプレビューの段階で、レオナルド・ディカプリオ、P.ディディといったセレブ・バイヤーが、約1億円のアートを次々と購入するなど、 初日を迎える以前に、その売上の好調ぶりが伝えられていたのだった。
また今年、バゼル関連のイベントのためにマイアミ入りしたセレブリティはマイリー・サイラス、ファーレル・ウィリアムス、 キム・カダーシアン、ジェラール・バトラー、ケイト・ハドソン、 ロザリオ・ドーソン、キャロリーナ・クルコヴァ、ハイディ・クルム、ミランダ・カー等、 数えきれないけれどで、その数は年々うなぎ上り。それと同時にマイアミに邸宅を構えるセレブリティも多いので、 芸能メディアの取材合戦が盛んに行われていたのは言うまでもないこと。
でもその一方で、華やかに行われたパーティー会場に飾られていたアートがゲストによって一部破壊されてしまったり、 エキジビジョン会場からピカソのアートが盗まれるといった事件も起こっていたのが 今年のアート・バゼル・マイアミ・ビーチなのだった。





アート・バゼルと同様に私にとって興味があったのは、どんどんラグジュアリーな開発が進んでいくマイアミの現状。 聞けば、現在マイアミでは250以上の新しいビルディングが開発段階。 中でも話題を集めているのは、最低金額の物件が2億円以上のラグジュアリー・コンドミニアムの数々で、それらには着工前から買い手が付くような有り様。
でも、現在マイアミにどんどん移り住んでいるセレブリティやビリオネアたちは、コンドよりも水辺に面した邸宅を好んでいるようで、 そんなメガ・リッチが物件を購入しているのがプライベート・アイランド。 中でも最もエクスクルーシブで知られるのが、インディアン・クリーク・アイランド (写真上、上段左)。 ここには、ビヨンセ&ジェイZ、フリオ・イグレシアス、ビリオネア投資家のカール・アイカーン、モデルのアドリアナ・リマ、エル・マクファーソンなどが 邸宅を構え、地球上で最も財力と権力が密集していると言われる住宅街。アイランドの中央にはプライベート・ゴルフ・コースがあり、 もちろんアイランド全体は、プライベート・ポリスによってガードされているのだった。

でも、マイアミにおいては、プライベート・ポリスによってガードされているゲート・コミュニティ (住宅街に入るためにセキュリティ・ゲートを通過しなければならないコミュニティ)は決して少なくないのが実情。 こうしたコミュニティの高級物件は、表玄関が車寄せになっていて、庭にプールがあって、 庭に面した水辺には その家が所有するボートが停泊しているというのがお決まりのシナリオ。
そして家の中に入ると、壁という壁に アートが飾ってあって、ホールといういホールにスカルプチャーが置かれている状態。 なので、そんなリッチなマイアミアンにとってのアート・バゼルは、庶民がIKEAに家具を探しに行くようなもの。 事実、アート・バゼルの会場の作品には、「Sold」のサインが付いたものが数多く見られていたのだった。

では、こんな大邸宅に住んで、せっせとアートを買い漁っている人々が一体何をしているのかと言えば、 何も仕事をしていないというケースが殆ど。その多くは、サウス・アメリカやロシアの大富豪で、家族が銀行を所有していたり、 自国で独占状態のビジネスをする企業を経営しているなど、文字通り「遊んで暮らせる身分」。
したがって、マダム達はエクササイズ、ショッピング、ゴシップに明け暮れているけれど、子育てには熱心。 メイドが居るので家事は一切しなくて良い代わりに、そのメイドを教育して、自分が思う通りにベッドメークをさせたり、掃除をさせたりするのに、 非常に時間と労力を使うというのだった。 その子供達はと言えば、ティーンエイジャーになれば週末は毎週のようにパーティー。 一台目の車がマゼラッティだったりするので、物質金銭面では かなりスポイルされているけれど、私の意見ではビバリーヒルズのティーンエイジャーに比べたら、 遥かにまともで、マナーが良いと言えるのだった。
でも親の世代も、彼らの親にスポイルされていて、マイアミに住む私の親友のマダム仲間は、彼女の親から数億円のコンドをポンとプレゼントされたというけれど、 それが既に親から貰い受けた3軒目のコンドだというのだった。



いずれにしても 今年のマイアミのブーミングは、アメリカで一般的に言われる 「Rich Gets Richer」をまざまざと思い知らされるラグジュリーぶり。 こんなメガ・リッチを目の当たりにすると、「本当に資産9億円程度でアメリカのトップ1%などと胸を張れるのだろうか?」と思ってしまうけれど、 同じマイアミの街で渋滞の原因になった抗議デモを行っていた人々は、明らかに低所得者で、その人種は圧倒的に黒人層。

ニューヨークでもメガ・リッチは抗議デモには参加しないけれど、それでもデモに参加する人々の人種やソーシャル・ステータスにはもっとバラエティが見られるもの。 そのニューヨークもトップ20%のリッチ・ピープルが、ボトム20%の低所得者の40倍の収入を上げているほど 貧富の差が開いているけれど、ニューヨークではトップとボトムの間に 多くのレイヤーが存在しているのに対して、マイアミはトップの下はボトム という 印象を受けてしまったのだった。
私の考えでは、どんなに大金が流れ込もうと、セレブリティが移住しようと、ニューヨークの方がマイアミよりも街に勢いと活気があるのはその部分。 働かなくてもリッチな人々と、働いてもリッチになれない人々で溢れるマイアミよりも、働いてサクセスを収めようという上昇志向に溢れる人々が、アグレッシブに 生きているニューヨークの方がパワーとエネルギーがあるのは、当然と言えば当然のこと。

それでもマイアミのソサエティに属する友人を通じて、メガ・リッチなマイアミアン達と出会ってきたことは、 私にとって、ニューヨークにやってきた旅行者が自由の女神に出掛けるような観光体験。 自分の総資産と彼らの総資産を比較しない限りは、非常に楽しい経験なのだった。


Will New York 宿泊施設滞在



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。




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