Nov. 20 〜 Dec. 6 2015

”Not All That Charitable ”
マーク・ザッカーバーグの巨額の寄付が美談ではないと言われる理由


今週のアメリカで最大の報道になっていたのが、12月2日、水曜にカリフォルニアのサン・ベルダルディーノで起こった 銃による大量殺人事件のニュース。
14人の犠牲者を出したこの事件は、サン・ベルダルディーノ郡政府の 公衆衛生局のホリデイ・パーティーで起こった惨事で、実行犯はミリタリー・スタイルで武装したカップル。 夫のサイエド・ファーロックは衛生局の職員でアメリカ人、28歳。妻のタシュフィーン・マリック(29歳)は、パキスタン生まれで、 アラブ語を話し、一時サウジアラビアに滞在したこともあり、アメリカにやってきたのは、2014年7月。 フィアンセ・ヴィザで入国しているのだった。
当初は、カップルとISISなどのテロリスト・グループとの関連が掴めなかったため、職場での怨恨が原因の銃乱射事件と 見られていたのが同事件。しかしながら、後に妻のマリックがラディカライズされたイスラム教徒で、ISISの信奉者であることが フェイスブックの書き込みで明らかになり、その後 捜索された彼らの自宅が 爆弾製造現場になっていたことから、同事件が正式にテロ事件と見なされたのは翌日のことなのだった。

その後の捜査によれば、妻のマリックはISISなどのテロ集団に属していた訳ではなく、 自主的にラディカライズされて、アメリカを攻撃するために夫のファーロックと結婚し、 彼を洗脳。しかしながら日頃の彼女は 大人しく、殆ど外に出ることはなく、 近隣の人々には常に笑顔で接していただけでなく、そのバック・グラウンドには ラディカルな思想や、テロ組織との関連は全く見られなかったという。
このため、当初彼女の家族や知人は、「小柄なタシュフィーンに、あんな大きな銃が扱えるはずはない」と、 犯行を否定していたというけれど、現場の目撃者証言によれば、 14人殺害の惨劇で、まず最初に引き金を引いたのがタシュフィーン・マリックであったとのこと。

ISISは週末になって、2人の実行犯を讃える声明を発表した一方で、 私がこのコラムを書いている11月6日、日曜日午後8時からは、オバマ大統領が臨時生放送の スピーチを行い、イスラム教の人々と 今回の実行犯、およびISISは無関係であることを強調しながら、 テロの要注意人物が 銃を購入できないようにするためのバックグラウンド・チェックの必要性、 テロリストが簡単にアメリカに入国できる ヴィザ無し渡航プログラム、及びKヴィザ(フィアンセ・ヴィザ)の 見直しを下院に働きかける意向を明らかにしていたのだった。




さて、今週は週末になってキム・カダーシアン&カニエ・ウエスト夫妻の間に第二子の男の子誕生のニュースが報じられていたけれど、 それよりも大きく報じられたのが フェイスブックのCEO、マーク・ザッカーバーグと夫人であるプリシラ・チャンの間に 女児、マックスが誕生したニュース。
そしてそれと同時に大きく報じられたのが、ザッカーバーグ夫妻がそのフェイスブックの持ち株の99%、時価にして450億ドル(5兆4000億円)を 子供が生きていく未来の世界を改善するためのチャリティに寄付するというニュース。 フェイスブックの株式は、2015年に入ってから37%上昇しており、それを受けてマーク・ザッカーバーグの資産も120億ドル(1兆4400億円) 増えていただけに、金額がここまで大きくなっているけれど、 これによってプリシラ・チャン&マーク・ザッカーバーグは、ビル&メリンダ・ゲイツの413億ドルを抜いて アメリカ史上最高額の チャリティ・ドナーになったと報じられたのが この発表の翌日、12月2日のこと。
そのマーク・ザッカーバーグは、子供の出産後に 2ヶ月の産休を取ることを発表したばかりで、 フェイスブック自体も 性別を問わず 最高4ヶ月までの産休を社員に認める方針を明らかにしたことから、 一時大きくアップしたのがマーク・ザッカーバーグの株。

ところが、それとほぼ時を同じくして メディアやソーシャル・メディア上で始まったのが、彼とプリシラのチャリティが 実際に報じられているほど チャリタブルなものではないという指摘。
それには、いくつかのシナリオが見られたけれど、まず誰もが指摘したのが チャリティに寄付をするということは、それによって税金を逃れられるというアメリカの税制システム。 このため、アメリカではどんなセレブリティでも税金対策のためにチャリティ・オーガニゼーションを持っているけれど、 チャリティが何故税金対策に便利かと言うと、まず自分で自分のチャリティに寄付をすれば その金額が免税になる一方で、 寄付金を旅行代やビジネス・エクスペンスとして使うことが出来るという利点がまず1つ。
さらに自分の伴侶や、家族をチャリティのエグゼクティブやスタッフにして高額の給与を支払うのも よく見られるパターンで、 U2のボーノが運営するチャリティ団体は、 集めた寄付金の80%以上がエグゼクティブの給与と、そのファーストクラスのフライト&5スター・ホテルの 旅行代に使われていたことが 数年前にメディアで批判されたほど。 同様の指摘は、レディ・ガガやマドンナのチャリティに対しても聞かれたことがあるけれど、 チャリティを私利私欲や税金対策のために使うのは、 セレブリティなら誰もが行っていることなので、マーク・ザッカーバーグだけが責められる必要は無いこと。
しかしながら、マーク・ザッカーバーグ自身は このチャリティが税金対策である という指摘を真っ向から否定しており、 夫人と彼が 一般の人々同様に税金を支払っていることを強調しているのだった。




それよりも 経済や政治の専門家が この多額のチャリティに疑いの目を向けていた理由は、その運営のために彼と夫人がクリエイトした ”チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ”が正式なチャリティにあたる ノンプロフィット・オーガニゼーション、 すなわちアメリカで503(c)(3)とカテゴライズされる団体ではなく、 LLC(リミテッド・ライアビリティ・カンパニー)として設立されたこと。
例えばビル&メリンダ・ゲイツ・ファンデーションは 過去15年間に前述の413億ドルを様々なチャリティ基金に寄付してきているけれど 同団体は ノンプロフィット・オーガニゼーションとして設立されているので、 そのお金の動きや、どの団体に幾ら寄付をしたかが非常にクリアになっている しっかりとしたチャリティ。

しかし、チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブが設立したLLCは、夫妻が毎年10億ドルずつを 同団体に寄付していくことを明らかにしているけれど、その使い道については一切報告の必要がなく、 何に幾らを支払おうと 経営側の自由であるという点で、果たして本当にチャリティにお金が使われているかは 経営側でなければ分からないという不透明な団体。
これについては、フェイスブック側は、チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブがLLCという団体で フレキシビリティを持つことによって、 「チャリティ活動だけでなく、世の中にポジティブなインパクトを与える様々なポリシーを支援することが出来ること」、 さらに「プライベート・インベストメントを行い、その利益を更なる活動のために投資することが出来る」として、LLCの利点を強調しているのだった。






しかしながら、既に政治の世界に深く関わり始めているチャン&ザッカーバーグ夫妻なだけに、2人がサポートしていると言われる キーストーン・パイプラインの建設や、移民法改正案に 彼らの団体からの多額の支援金が動くことを指摘する声が聞かれる一方で、 フェイスブックのビジネスに有利な政策や法案のロビー活動にも 同団体からの資金が使われる懸念を表明する声が非常に多いのも事実。
それというのも、マーク・ザッカーバーグ、及びフェイスブックは、開発途上国にインターネットを無料で普及させる ”Internet.org / インターネット・ドット・オーグ”というチャリティの中心的存在であるけれど、 今年春にはインドのIT専門家が インターネット・ドット・オーグがフェイスブックのアプリを優遇するあまり、 地元のインドで開発されたアプリが不利な状況を強いられていることを抗議したことが伝えられているのだった。

もちろんチャン&ザッカーバーグ夫妻が LLCを設立したことをサポートする人々も居て、それというのも 今回の寄付以前からチャリティに熱心であった マーク・ザッカーバーグは 既に10億ドル(約1200億円)を様々な団体に寄付しているけれど、彼がそのうちの1億ドルを寄付したのが、 ニューヨークのお隣、ニュージャージー州ニューアークのスクール・システム。 ところがその120億円もの寄付金がどうなったかと言えば、殆どが 高額コンサルタントへの支払いに消えてしまい、 実際の学校システムの改善は全く手付かず。リッチなコンサルタントを更に豊かにしただけに終わってしまったことから、 彼と夫人がチャン・ザッカーバーグ・イニシアティブを設立したのは この苦い経験を生かして ”自分の寄付金の使い道を自分でコントロールするため” と見る声も多いのだった。

果たしてチャン・ザッカーバーグ・イニシアティブが どんな意図で設立されたのかは 今後の活動で 明らかになると思われるけれど、これだけの大金で 世の中を良くしたいと思っても、 チャリティを通じると、90ドルの必要グッズが 何故か900ドルという高額価格で購入されて、あっという間にバジェットが無くなってしまうというのが ありがちなシナリオ。
チャリティというものは、恵まれない人々や被災した人々の救済のためではなく、運営する人々を豊かにするための活動と言った方が相応しいケースは山ほどあるのだった。

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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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