Dec. 8 〜 Dec. 15 2003




アグリーの魅力


ファッション・トレンドというものは、大きく分けて2通りのタイプがあると言える。
1つは、トム・フォードやミューシャ・プラダ等のデザイナーが、シーズンごとにクリエイトするトレンド。 もう1つは、もっと自然発生的に生まれてくるトレンドで、 ファッション・ショーのランウェイに登場したり、スーパーモデルがヴォーグ誌の中で 身につけることも無くして、一般大衆に広まる人気アイテムである。 前者は、デザイナーがクリエイトしたオリジナルを、セレブリティが レッド・カーペットの上で着用し、アパレル・メーカーが 安価なコピー・バージョンを製作することによって、 一般的にトレンドとして広まるもので、上から下に流れていくトレンドとして認識されているもの。
これに対して後者は、一般大衆の中から生まれるトレンドで、 これをセレブリティやソーシャリート達が私生活の中で身に付けているところをスナップされて、 人気が広範囲に広まる場合が多く、時にデザイナーが後からその高額バージョンを 製作する場合もあるけれど、こちらは下から上に流れていくトレンドと 説明されているものである。
近年で後者のトレンドの代表的存在としては1999年のパシュミーナ、 昨年のジューシー・クチュールのスウェット・スーツなどが挙げられるけれど、 下から上に流れるトレンドは、通常「アグリーなものがファッショナブルに見えてきた時に生まれる」と相場が決まっていたりもする。
パシュミーナに関しては、「アグリー」という言葉は適切ではないけれど、 デザイナーがクリエイトするトレンドアイテムに比べれば、極めてプレーンで、 素材や発色が良い以外は 特筆すべき特徴が無いものであったりする。 ジューシーのスウェット・スーツにしても、ベロア素材やテリー(パイル)素材の スウェットというのは、アメリカでは自分に構わない、体型が崩れた人の定番ファッションとして定着していたもの。 これをジューシー・クチュールがウエストを絞り込み、ローライズで製作したのが ウケた訳で、トレンドがスタートした当初は、「あのジェニファー・ロペスがベロアのスウェットを着てブランチに出かけるなんて…」と、 アグリーがファッショナブルに見えるまでに多少の時間が掛かったメディアも少なくなかった。
でも1度トレンドとして認識されてしまうと、ファスナーについている「J」の文字にこだわるがために、 安いコピー・バージョンには目もくれず、オリジナルを上下200ドル出して購入する女性達は多かった。
こうした「アグリー」なトレンドアイテムは、 当然のことながら、初めて見た時は「何処が良いのか分からない」ものだったり、 「別にどうって事のないもの」だったり、「どうしてこれにそんな値段を出すのか理解出来ない」 ものだったりする。
でも何となく脳裏にちらついているうちに、コーディネートを思いついて欲しくなったり、 人が持っているのを見ているうちに良く思えてきたりするもので、 その「何処が良いのか分からない」という気持ちが覆されると、 「何としてでも手に入れなければ気が済まない」、「複数買い揃えたい」という気持ちに させられるものでもある。
こうしたアグリー・トレンドアイテムは、時間が経ってみると、第一印象の判断力が戻ってきて、 「どうしてあの時、あんなものを好んで身につけていたんだろう?」と思えてしまう場合も 少なくないけれど、デザイナーがクリエイトしたファッション・トレンドよりも 広く、そして時期的にも長く一般の人々の間に広まるので、 その時代や社会風潮を象徴するようなファッションとなるのは事実である。

自分自身のことを考えて見ても、CUBE New Yorkがパシュミーナを取り扱うことにしたのは、 最初は特に欲しいとは思わなかったパシュミーナが突然、どうしようも無く欲しくなって、 それも2色や3色では足りそうになかったので、「CUBE New Yorkのお客様の分も仕入れれば 卸売りの値段で買える」と思って業者に交渉したのがきっかけだった。
またジューシーのスウェットにしても、最初は「他のブランドよりスタイルが良く見えるスウェット」程度に思っていたけれど、 気がつくと、クローゼットの中にはジューシーのスウェット・スーツが素材違い、色違いで 5着も入っている程、お気に入りになっていた。

今年に入ってからブレイクしたアグリー・トレンドアイテムと言えたのは、 メンズの世界では トラッカー・キャップ(ニュースボーイ・キャップ)で、これを最も頻繁に被ってスナップされた セレブリティと言えるのはアシュトン・クッチャー(写真左)である。
彼以外にもハリウッド・セレブリティやスタジオ関係者等が、これまでベースボール・キャップを 被っていたオケージョンで、ことごとくトラッカー・キャップを被っていたけれど、 デザイン的にもアグリーなだけでなく、ベースボール・キャップに比べて 遥かに低所得ブルー・カラーに見えるのがこのキャップであった。 でもアグリー・トレンドの特徴通り、このキャップを愛用した人は、 大体3〜4個はこのキャップを購入していたと言われ、アシュトン・クッチャーについては 数十ものキャップを所有しているとも言われており、 「アグリーにはまってしまうと1つじゃ収まらない」はメンズの世界でも同様のようである。
ウーマンズ・ファッションにおいて、アグリー・トレンドと言えたのは、 目下CUBE New Yorkで取り扱っているジェリー・ケリーであるけれど、 これも私にとっても 街中で頻繁に見かけるようになってから「なるほど…」と見直したアイテムである。 最初は正直なところ「安っぽいのに高い!」と思ったし、私の友人も「オモチャ・バーキン」などとバカにしていたけれど、 「エルメスの訴訟のせいでもう手に入らない」と言われた頃から欲しくなった人は多かったようである。 また、これに拍車をかけるがごとく、 9月に行われたニューヨーク・コレクションに来ていたソーシャリートや、 ファッション・エディター達が 本物のバーキンを持っているにも関わらず、 シャレでジェリー・ケリーを持っていた様子がスナップされたのも、購買欲をあおるきっかけとなったようだった。
私は、個人的にはバーキン・スタイルはアグリーという第一印象を持ったけれど、 この秋に入って、ケリー・スタイルを見た時は、目が慣れていたこともあってか、 直ぐに「欲しい!」と思ってしまい、業者に取り扱いを交渉することになってしまった。 いざ取り扱いを始めてみると、日本語が読めないアメリカ人からも、頻繁にEメールで問合せが 寄せられるのがこのジェリー・ケリーで、これは極めて異例なことであったりもする。

でもこの冬、アメリカで最もホットなアグリー・アイテムとなっているのは、 何と言ってもアグ・ブーツ/UGG Bootsである。
UGGとはそもそも「アグリー」の略で、オーストラリアのサーファーのために、 冬に履く、暖かくて心地良いブーツをと開発されたアグリーなブーツがこのアグ・ブーツだった。 アメリカでは、西海岸に最初にアグ・ブーツが上陸したのは70年代のことで、 その後 小さなブームはあったと言われるけれど、 アグ・ブーツが突如アメリカでブレイクしたのは昨年のこと。
キャメロン・ディアス、ケイト・ハドソンといったセレブリティがこのブーツを履いて スナップされたのがきっかけで、昨年の秋冬の時点でバナナ・リパブリックを始めとする 数ブランドがアグ・ブーツを若干スタイリッシュにしてコピーをしていたが、 コピー品は昨年末の時点でセールになっており、オリジナル以外は人気は今1つだった。

今年の秋冬に入ると、オリジナルの人気は昨年を遥かに上回るもので、 コピーも昨年よりも多く出回っている他、 コーチやグッチといったブランドからもアグを彷彿させるブーツが登場しており、 アグに限らず、アグ・スタイルのブーツがこの秋冬シーズンのトレンドと認識される状況となっている。
でもその中でオリジナルの人気は群を抜くもので、9月以降2000足以上を売り切ったストアの話や、 アグのウェブサイトでは、今オーダーすると商品を入手できるのは来年4月以降であること、 またストアで最後に残った1足のアグ・ブーツを巡って4人の女性が泣いたり、わめいたりしながら 争った話など、昨今では日を追うごとにアグ・マニアのアグ・フィーバーぶりが様々なメディアで 取り上げられる状態である。
その一方で、マノーロ・マニアとして知られるサラー・ジェシカ・パーカーでさえも アグを履いているところをスナップされるなど、アグを愛用するセレブリティは益々増えているけれど、 このアグ・ブーツというものは商標に偽り無く、本当にアグリーなブーツであると言わなければならない。
でも買う側も「アグリー」を承知で買っている訳であるから、別にそれを履いてアグリーに見えたところで、 大勢に影響は無いのだろうとは思うけれど、 ニューヨークの街中でジーンズをアグ・ブーツに入れて歩いている女性を見ると、 よほどスタイルの良いブロンドでもない限り、「ミネソタとかモンタナから来たおのぼりさん」にしか見えないのが実際のところである。
子供の頃に履いていた、オーバーサイズの長靴のようなシェイプはセクシーさのかけらも無いので、 男性からはすこぶる評判が悪く、 「こんなブーツを履いている女性には声は掛けない」とか、「ガールフレンドが買おうとしたら止める」と いう声は多かったりする。
アグ・ブーツは足のサイズの割にふくらはぎが太い人には特に不向きなブーツで、 こうした女性がふくらはぎの太さに合わせて、足本来のサイズより大きめのブーツを選ぶと、 身体に対して巨大なブーツを履く事になるので、その上に背が低かったりすると、 「服に着られている」ならぬ「ブーツに履かれている」という状態になってしまう。
普通、ショッピングをする際にそんなブーツを履いて鏡の前に立てば、 「私には似合わない」と諦めるのがまともな思考回路であるけれど、 それが鈍ったり、もしくはアグリーと知りつつも、「なかなか手に入らないものが買える!」という喜びから 購入に至らせてしまうのが、アグリー・トレンドアイテムのマジック・パワーである。

私の友人に言わせれば、人々がこうしたアグリーなものにあえて惹かれるのは、 「顔がムチャッとつぶれた犬を可愛いと思うのと一緒」だそうだけれど、 確かにペットにしても、人間にしても、上手く崩れたアグリーさというのは 正統派の美しさより 人気があったり、重宝がられたりするものである。 すなわち好感の持てるアグリーは、美を上回る魅力を発揮するという訳であるけれど、 人間や動物など命のあるものを語る場合、このことは「ルックスが魅力の全てではない」と説明されるのだと思う。
しかしながら、トレンド・アイテムのような物について、人々がアグリーに価値観を見出すのは、 時代の空気、もしくは目に見えない何かがそうさせていると説明した方が適切で、 それを正確に感じ取って商品に反映させるのが、デザイナーやクリエーターの力量であり、 それを仕入れるのがバイヤーの仕事である。
「どんなにお金の掛かった大々的なマーケティングを行ったところで、 人々のムードや時代の価値観を変えることは出来ない」というのはF.I.T.でも教えていることであるけれど、 時代のツボを押さえた商品というのは、見た目や値段や、作りにかかわらず、 ある日突然、大ヒット商品になってしまうものなのである。

さて、アグ・ブーツに話を戻すと、アグリー・アイテムは「数を揃えたくなる魅力がある」と先に述べたのは アグにも言えることで、既に最も一般的なタンのブーツを 持っている女性達が、今、血眼で捜しているのがピンク、もしくはブルーの色違いである。 オークション・サイト、Eベイでは現在ピンクの値段が最も高くなっており、小売価格の3倍近くまで その価格が跳ね上がっていることも伝えられている。
でもピンクだろうが、ブルーだろうが、アグリーなものはアグリーな訳で、 これを履けばスタイルが悪く見えるのは必至であるけれど、 1度 はまってしまうと、ブームが続く限り、誰が何と言おうと手に入れなければ 気が済まなくなってしまうのが、アグリーの魅力であり、魔力である。




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