Dec. 4 〜 Dec. 10




” Champgne & Marketing ”



今週のアメリカで、ファッションに関する2大ニュースとなっていたのが、 まず、遂にブリットニー・スピアーズが下着を着け始めたという報道と、ファースト・レディ、ローラ・ブッシュ夫人が ホワイト・ハウスのクリスマス・パーティーで着用したドレスが、その場に居た3人のゲストによって着用されていたというニュース。
前者は 先々週、ブリットニーが下着を着用せずにミニ・スカートで車から降りる姿が、3回もスナップされ、 タブロイド誌はそれぞれに写真の処理をしながら掲載したものの、ブリットニーは「ブラジリアン・ワックスをしている」など、 アメリカ中の物議を醸したことを受けて、今週は彼女がついに下着を着けたことが 自らのウェブサイトでも語られ、 彼女自身のバースデー・パーティーのスナップでもそれが立証されていたりする。
一方のローラ夫人のドレスは、オスカー・デ・ラ・レンタがデザインする真っ赤な2ピース・ガウンであったけれど、 ローラ夫人を含め、パーティーの列席者の4人が全く同じものを着用していたという 夫人にとっての大失策。 オスカー・デ・ラ・レンタ側は、この件についてはノー・コメントを貫いているというけれど、夫人は写真撮影の後、 ブラックのドレスに着替えたことが伝えられています。

さて、ホワイト・ハウスに限らず、年末といえばパーティー・シーズン。
そしてパーティーに欠かせないものと言えば、ワインとシャンパンである。 この季節はニーズが多いだけにワインとシャンパンの値段がアップするように思う人も少なくないけれど、 在庫を抱えて年を越したくないワイン・ショップが多いせいか、意外にお買い得価格でワインやシャンパンが買えるシーズンであるのが 実際のところ。
加えて この季節になると登場するのが シャンパンのスペシャル・パッケージで、 これはボトルの中身こそは同じであっても、異なるパッケージやボトル・デザインを用いて リミテッド・エディションで登場するものである。 今年の目玉としては、エミリオ・プッチがデザインするヴーヴ・クリコ(写真右)や、シャネルのカール・ラガーフェルドがデザインする 1998年もののドン・ぺリニヨン(写真左) などが ファッション誌にも掲載される話題となっている。
ヴーヴ・クリコに関してはエミリオ・プッチとチーム・アップでパッケージ・デザインをするのはこれが2度目。このリミテッド・エディションには、 プッチ・プリントの布袋に加えて、”カプリース”と呼ばれる、ボトルを2時間クールに保つウェット・スーツのような ボトル・ジャケットがついて来るけれど、こちらもファスナーを下ろすと、内側はプッチ・プリント。 更にボトル本体にもプッチ・プリントがあしらわれたスペシャル・デザインになっていて、お値段は200ドル程度。
ドン・ぺリニヨンの方は 1998年のヴィンテージにちなんで、1998本のみ生産されたリミテッド・エディション、 シャンパンのバブル(泡)をイメージしたゴールドのドットが付いたボトルであるけれど、お値段はなんと2500ドル(約29万円)。

この他、パイパー・エイドシックのシャンパンに ジャン・ポール・ゴルティエがデザインするコルセット・スタイルのボトル・ジャケットをつけた、 ”パイパー・エイドシック・ゴルティエ・コルセット・ボトル” などは、3年ほど前からスタートし、今も続いている企画であるけれど、 こうしたファッション・デザイナーとシャンパン・メーカーのコラボレーションがターゲットとするのは、 日頃からシャンパンを愛飲する人々ではなく、ファッション性のある変わったギフト、話題性のあるギフトを探している人々、 コレクティブル・アイテムとして購入する人々、シャンパンに対する知識は無いけれどファッションについては詳しい人々など・・・。 すなわち特定の好みのシャンペンを持たない人々であり、話題性や目新しさなどを理由にシャンパンを選ぶ客層である。
逆に日頃からワインやシャンパンを買い付けている人々というのは、ファッション・デザイナーがボトルを手掛けたことで シャンパンの値段が跳ね上がることは好まない傾向にあり、事実、プッチのスペシャル・エディションと全く同じ ヴーヴ・クリコのラ・グランダム 1996年ものは、 通常のボトルであれば 約半額の100〜110ドルで購入できるものなのである。

私自身、今年はいろいろなワイン・テイスティングに出掛けたけれど、そこで出会った”ワイン好き”、”ワイン・コレクター”という人々は、 トレンドはもちろんのこと、ファッション、音楽、映画といったポップ・カルチャーには疎い人々が多く、 私個人の印象としては、彼らが得意とする分野と言えば、ワイン以外だと 圧倒的に”旅行” と ”グルメ” なのである。
でも、ワインやシャンパンのメーカー側にしてみれば、こうした限られたワイン通だけを客層にしていても、なかなか売り上げが伸びない訳で、 一般の雑誌、ファッション誌からもパブリシティが得られるような企画を試みたり、イベントやパーティーのスポンサーになって ワインやシャンパンを無料提供したり、また映画やTVのシーンに商品を登場させる「プロダクト・プレースメント」など、 様々な手法を用いて、ポップ・カルチャーの一部としてのイメージ、アップデイトされたイメージを打ち出して、新しい客層、 ことに若くて 裕福な客層を獲得しようとする訳である。

「ワイン&エンターテイメント」については、近々更新予定の「ワイン・ソフィスティケーション」のコーナーで、改めて ”ハリウッド映画に登場したワイン” などをご紹介することになっているけれど、 映画以外に頻繁にワインやシャンパンが登場し、売り上げに影響を与える カルチャー&エンターテイメントと言えるのは、 意外にもラップ・ミュージックである。
「ラップ・ミュージックがワインやシャンパンのブームに影響を与えるなんて・・・」と思う人も居るかもしれないけれど、 90年代以降、ワイン業界で最大のブレイクを見せたルイ・ロデレール 「クリスタル」は、 そのブームがラップ・ミュージックによってクリエイトされたものと言っても過言ではないのである。

そもそも90年代後半から シャンペンのクリスタルの知名度が一気に広まったのは、P.ディディやJay-Z といったラッパー達が、 そのリリック(歌詞)に 頻繁にクリスタルを登場させたため。
ことにJay−Zは、96年のヒット曲、 "Can't Knock the Hustle / キャント・ノック・ザ・ハッスル"の中で、 "My motto, stack rocks like Colorado/Auto off the champagne, Cristal's by the bottle." と謡っているけれど、 これは要約すれば ”自分のモットーは、ダイヤモンドをコロラド(のロッキー山脈)のように積みあげて、クリスタルのシャンペン・ボトルを ジャンジャン開けること” という意味合い。 これに始まってJay−Zは何曲もの彼のヒット曲にクリスタルを登場させて、その彼のご執心ぶりはニューヨーク・タイムズが記事にして 取上げたほどだった。
この他、先述のP.ディディ、カ二エ・ウエスト、フィフティ・センツ、トリナ等、多くのラッパー達が クリスタルを リリックで取上げてきたけれど、こうしたポップ・カルチャーの一部となることによって、クリスタルというシャンペンが猛然と知名度を上げて、 セレブリティやリッチ・ピープル御用達のシャンペンとなり、「インスタイル」誌、「ピープル」誌などの 芸能&ライフスタイル誌に取上げられるようになったのは周知の通り。
以来、グレイ・グース・ウォッカと共に、ホットなクラブのVIPラウンジで欠かせない存在となったのがクリスタルで、 同じ高級シャンパンでもドン・ペリニヨンのように一般的でなく、クリュッグより派手で華やかなイメージ、しかもセレブリティが飲んでいるという 格好のマーケティング・ポジショニングから、600〜800ドルという高価格にも関わらず クラブ・ゴーワーが夜遊びのステイタスとして オーダーしたがるのがクリスタルだったのである。

でも、それが様変わりしそうな出来事が起こったのが2006年6月のこと。 この月に発売された「エコノミスト」誌の特別号、”インテリジェント・ライフ” マガジンに クリスタルの製造元であるルイ・ロデレールの、マネージング・ディレクター、フレデリック・ルゾー氏のインタビューが掲載され、 そこで彼が、ラッパーやそのファン達がクリスタルを熱愛することは、「Unwanted Attention (有り難くない関心が注がれている)」とし、 「だからといっても我々には人々がクリスタルを買うのを止めさせる事は出来ない。ドン・ぺリニヨンやクリュッグだったら、 彼ら(ラッパー達)からの売り上げを好むだろうけれど・・・」とコメントしたのである。
この記事を読んで当然のことながら気分を損ねたJay−Zは、ルゾー氏のコメントを「人種差別によるもの」とし、 クリスタルのボイコットを呼び掛けると同時に、彼の経営するスポーツ・バー、40/40(フォーティー・フォーティー)で、 クリスタルの取り扱いを止めてしまい、私生活でもクリスタルを決して飲まないと宣言。 それだけなく、彼の過去の楽曲の中から”クリスタル” というという言葉を除くプロジェクトまで進めているという。

では、クリスタルを飲まなくなったJay-Zが以後何を飲んでいたかと言えば、暫くはドン・ぺリニヨンのロゼやクリュッグだったそうだけれど、 その後Jay-Zが真剣に入れ込んだのが Armand de Brignac / アルマン・ド・ブリニャック。(写真右) いかにもラッパー好みのゴールド・ボトルにスペードのエースのマークをフィーチャーしたシャンペンは、 黄色いセロファンに包まれた透明ボトルのクリスタルも影が薄くなるほどのゴージャスさ。 2006年12月からアメリカでの流通がスタートする予定のアルマン・ド・ブリニャックは、 生産数が限られているシャンペンだけに、小売価格はクリスタルとほぼ同じ約300ドルであるものの、 高級クラブやラウンジで取り扱われた場合、軽く1000ドルを超える価格がつけられることが見込まれている。
シャンパンのスター・メーカーであるJay-Zは、早速アルマン・ド・ブリニャックを彼の最新アルバム「キングダム・カム」からのヒット曲、 「Show Me What You Got 」のリリックに取り入れていて、曲の後半で "Gold bottles of that Ace of Spades" (ゴールド・ボトルズ・オブ・ザット・エース・オブ・スペーズ)というフレーズが登場。 また同曲のミュージック・ビデオでは、テーブルで美女とゲームに興じているJay-Zが、 サーバントが持ってきたクリスタルをリジェクト(拒否)して、アタッシュ・ケースの中から、 アルマン・ド・ブリニャックのゴールド・ボトルを取り出すというシーンも演じられている。

アルマン・ド・ブリニャックについて、少し説明を加えておくと、これをプロデュースしているのは、 1763年から フランスのシャンパーニュ地方の中心地、ランス(Reims)でシャンペンをクリエイトしてきた AJC シャンパーニュ (Alexandre Jean Cattier Champagne /アレクサンドル・ジャン・キャティア・シャンパーニュ)。 この老舗ビジネスを運営する キャティア・ファミリーは、かつてコンコルド機の中で出されていたシャンパン、 クロ・ド・ムーラン のプロデューサーとしても知られる存在である。
キャティア家がアルマン・ド・ブリニャックというネーミングをクリエイトしたのは1950年代で、 このネーミングを高級シャンパンの ブランド・ハンティングをしていた 企業にオファーしたことから 産声を上げたのがアルマン・ド・ブリニャックである。
通常、シャンペンに使われるブドウの種類といえば、 ピノ・ノアール、シャルドネ、ピノ・ムニエであるけれど、 アルマン・ド・ブリニャックには これら3種類 全てのブドウが3分の1ずつアサンブラージュされており、 キャティア家の他のシャンパンには用いられていない アルマン・ド・ブリニャック特有のブレンドがなされているとのこと。
ゴールドのボトルは、キャティア家がデザイナーのアンドレ・クレージュのために考案したもので、 エリザベス女王の戴冠50周年記念の際にも特別にリピートされたもの。
ラベルはピューター(しろめ: スズを主成分とする合金)で、人の手によって磨かれ、ボトルに装着されたもの。 このボトルを刺繍入りのブラック・ヴェルヴェットの袋に入れるという念入りなプレゼンテーションが そのこだわりと高級感を盛り上げているのがアルマン・ド・ブリニャックである。 シャンパン自体は、フラワー、シトラス、ドライフルーツにブリオッシュのアロマが香るものとのこと。

ルイ・ロデレールのルゾー氏の失言によるクリスタル・ボイコットは、ラッパー達の間に確実に浸透していると同時に、 彼らと交友が深いスポーツ・セレブリティの間にも広がっているとのことで、 既にクラブの一部は、その影響を考慮してクリスタルの仕入れを減らす傾向にあるとも言われている。
ルゾー氏は、後に「クリスタルは、様々なカルチャーの1部として受け入れられてきたシャンペンである」と ダメージ・コントロール的な発言をしているけれど、散々クリスタルをひいきにしてきて、結果的に裏切られた形となった ラッパー達の怒りはこの程度のことでは収まらないのは当然のこと。 またこの発言は、見方を変えれば、ルイ・ロデレール側が アメリカでクリスタルの売り上げが急激に伸びた要因を 全く理解していなかったということにもなる訳で、こうしたフランスの古いビジネスには「マーケティング」という コンセプトはなかなか根付かないようである。

ところでJay-Zは、「Show Me What You Got 」の中でもう 1つワインの名前をリリックに登場させているけれど、 それは、ムートン・ロスチャイルド(ロートシルト)とロバート・モンダヴィのジョイント・プロデュースで生まれた カリフォルニア・ワイン、 オーパス・ワン。 リリックでは " I'm just getting better with time. I'm like Opus One. "と謳われていていて、 これは 「自分は時間(=年月)と共に(味わいが)向上する、オーパス・ワンみたいなもの」という意味。
私はラッパーの中ではJay−Zはかなり好きな方で、そのビジネス手腕も凄いと思っているけれど、 クリスタル、オーパスという2つから判断したところ、彼のワインの味覚も信頼できると思っていたりする。 加えて、私は大のシャンパン好きということもあり、早速購入の申し込みをしてしまったのがアルマン・ド・ブリニャックである。
希望者が殺到しているそうなので、未だ手に入るかどうかは分からないけれど、 アルマン・ド・ブリニャックを飲んでみたくてたまらない 私が確実に言えるのは、 「ルイ・ロデレールは Jay−Zのマーケティング・パワーを過小評価すべきではない!」という事である。



Catch of the Week No.1 Dec. : 12月 第1週


Catch of the Week No.4 Nov. : 11月 第4週


Catch of the Week No.3 Nov. : 11月 第3週


Catch of the Week No.2 Nov. : 11月 第2週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。