Dec. 3 〜 Dec. 9 2007
” ディール・ブレーカー ”
今週のアメリカで最も大きく報じられていたニュースは、12月5日にネブラスカ州オマハのショッピング・モールで起こった銃乱射事件。
クリスマスの買い物客で賑わうヴォン・モール・デパートメントで AK47を乱射し、9人を殺害し 5人を負傷させた犯人、
ロバート・ホーキンズ(19歳)は、警察が現場に到着する前に自殺しているけれど、
そうかと思えば今日12月9日、日曜にはコロラド州の教会で2件の銃撃事件が起こっており、銃社会アメリカの怖さを
実感させられるばかりである。
とは言っても 以前もこのコラムに書いた通り、アメリカの地方都市では 「銃から身を守るのも銃」という考えが根強く、
ホリデイ・シーズンにこんな惨劇が起こっても銃規制にはなかなか動かないのもまた悲しい実情なのである。
それに比べればニューヨークは、ホリデイで旅行者が多いことや テロの警戒もあるので、街角に警官の姿を
多数見かけるけれど、地方都市よりも遥かに安全を感じて生きていられる環境である。
ニューヨークを訪れた事が無い人に限って、ニューヨークを未だに危険な街だと思い込んで 「夜タクシーに乗ったら、
そのまま何処かに連れて行かれてお金を取られそう・・・」などと 70年代のニューヨークにタイム・トリップしたのでは?
というような事を言っていたりするもの。 でも つい最近のニュース番組の特集で見た1977年のニューヨークは、
実際に無法地帯のような光景が広がっており、私が知るニューヨークとは 似て非なる街であったのも事実である。
この年にはニューヨークで 大停電が起こっているけれど、停電になった途端に、ハーレムやブロンクスでは
人々がストアに押し入り、盗みを働いただけでなく火を放って 大興奮している映像が残っており、当時多数の逮捕者が出たことが
報じられているけれど、これは私が体験した2003年の大停電とは全く異なる状況である。
そんな街全体がコントロールを失っていたと言われるニューヨークで、失業やドラッグなどの山積する問題にタフで超現実的な手腕を発揮したのが、
今もニューヨーカーの間では人気が高い エド・コッチ元市長。(ちなみにコッチ元市長は 「セックス・アンド・ザ・シティ 」のシーズンNo.4、
エピソード50 でサラー・ジェシカ・パーカー扮するキャリーが、ファッション・ショーのランウェイで転倒するシーンの直前にグッチのタキシードを着て、
ランウェイに登場しています )。
そして同市長時代にスタートしたのが、今ではニューヨークのスローガンになっている 「アイ・ラブ・ニューヨーク」 というキャンペーン。
ラブの代わりにハートをフィーチャーしたロゴが生まれたのも このキャンペーンに際してのこと。
「アイ・ラブ・ニューヨーク」 キャンペーンは、治安が良くなったニューヨークをアピールして 街のイメージアップを図り、旅行者を増やして
多額の観光収入を得る目的で行われたものだったけれど、
今では 都市のアイデンティティ を アピールした 歴史上最もサクセスフルなキャンペーンとして 世界中で認識されるものである。
そのニューヨークも安全になり過ぎてしまったのか、今週水曜に報道されて物議をかもしていたのが
NYPD(ニューヨーク市警察)が行っている「Operation Lucky Bag / オペレーション・ラッキー・バッグ」という、言わば おとり捜査。
これは私服警察官が、わざと地下鉄駅で財布や携帯電話、もしくはアイ・ポッドを落とし それを誰かが拾って着服しようという行為を見せたら逮捕するというもの。
すなわち誰かが財布を拾い、善意で財布の中に落とし主のIDが入っていないかをチェックしている最中に電車が来てそれに乗ってしまえば、
逮捕されてしまうというのがこのオペレーションである。
NYPDによれば、「警官は拾い主が お金を財布から取り出して自分のポケットなどに入れるなど、明らかな着服行為をしない限りは 逮捕はしていない」と
コメントしているけれど、同オペレーションで逮捕されたのは既に300人。そのうち今年に入ってからの逮捕者は100人とレポートされている。
その今年の逮捕者のうちの58人には前科があったそうで、NYPDでは このオペレーションをスタートしてから
地下鉄内でのグランド・ラーセニー(被害額が1000ドルを超える盗み)が半分に激減したことをアピールしていたのだった。
でも、「犯罪を誘発させるような おとり捜査は法律違反だ」という指摘も同時に聞かれており、
私自身、かなり以前に財布を落とした際、見ず知らずの人が財布を家に持ち帰って 中に入っていた
フェイシャリストの名刺から私を探し出して、無事に財布を届けてくれたという経験を持つだけに、
こうしたおとり捜査は ニューヨーカーの善意を踏みにじる危険性があるので 大反対であったりする。
ニューヨークでは年々犯罪が激減しているだけあって、こんなオペレーションに警官の時間を割けるほど
安全であるのは好ましい限りであるけれど、ニューヨークの高い市税がこういった使い方をされているのは、
タックス・ペイヤーとしては「有り難くない」の一言である。
さて、昨日土曜日に 私が友人とブランチをしていた際に話題になったのが、マノーロ・ブラーニックが新しく手がけたメンズ・シューズ(写真左)である。
私もその日のニューヨーク・ポスト紙の記事でマノーロのメンズラインの写真を見ていたけれど、
最初はメンズだと気付かなくて、「マノーロにしてはセクシーさのかけらも無いなぁ・・・」と思っていたところ、
記事を読んでいくうちに それが「セクシーさのかけらもない女性もののシューズ」ではなく、「男性ものの女々しいシューズ」
であることに気付いたのだった。
私の友人は、「ブラインド・デートに男性がこんなシューズで登場したら、それだけで ”ディール・ブレーカー”よ!」と言っていたけれど、
このディール・ブレーカーという言葉は、直訳すれば ”契約をこわしてしまうもの” 。
でも実際には契約よりも むしろデート相手に愛想を尽かす要因、それも決定打となるような欠点や嫌な経験という意味で多く用いられるものである。
ちなみに、この日にブランチをしていた女友達は、秋口にボーイフレンドと別れたばかりで、ホリデイ・シーズンを乗り切るための
エスコート役を紹介されて、つい最近ブラインド・デートをしたばかり。
彼女曰く、日ごろならばボーイフレンドが居ない時はゲイの男友達を連れてパーティーに行くけれど、
ホリデイ・シーズンはゲイ男性の方も自分のカップル行事で忙しいから 誘っても来られない場合が多いという。
結局、私の友達のブラインド・デートは全くのハズレに終わったとのことだったけれど、
彼女にとってのディール・ブレーカーが何だったかと言えば、男性が喋り過ぎること。
相手は金融関係の仕事をしている男性だったとのことで、「サブプライム・ローンなんて最初から破綻するための仕組みだった」という話から、
この夏に彼より先に結婚した弟の話まで、「何かの薬物でハイになっているのでは?」 と勘ぐりたくなるくらいベラベラ喋り続けていて、
彼女は相槌をうちながら、どうやってデザートをスキップして帰ろうか?と頭の中で考え続けていたという。
ブラインド・デートの場合、男性にとっても、女性にとっても 相手が喋り過ぎることがディール・ブレーカーになる例は非常に多く、
さらに男女共に会話の中で非常に嫌うのがネーム・ドロッピング。すなわち自分を良く見せるために「有名人と知り合いだ」とか、
「友達がXXXXのクラブを経営している」などと、他人の名前やステイタスを会話に頻繁に登場させること。
また会話の内容も 仕事の話ばかりしているのは好まれないものだし、1つの話題を熱っぽく語り過ぎるのも警戒される要因。
相槌を打つにしても、「That's Cool!」とか「That's Great!」などと、同じようなシンプルなリアクションばかりを返すと、
話をちゃんと聞いていないか、脳の構造が単純だと判断されるもの。
相手がハッピーな体験談を話している時に 「自分の人生もそんなに簡単だったら苦労は無いんだけれどね・・・」とか、
「でもそれは君が自分のことをラッキーだと思っているだけであって・・・」などと、皮肉めいたリアクション、ネガティブなリアクションを
するのも心象を損ねるのは当然のこと。
さらに会話の中で競争心をむき出しにしてくることもディール・ブレーカーになるけれど、
その一方で、一緒に出掛けたレストランでオーダーする物やその食べ方もディール・ブレーカーになり得るもの。
私の友人はステーキを食べる際に、肉を全て一口大にカットしてから フォークだけでステーキを食べだした男性が
どうしても許せなくて、翌日掛かってきた電話を無視したと言うし、
日本人の友達は、アメリカ人男性と2度目のデートで日本食店に行き、天ぷらをオーダーした際に、
男性がマヨネーズをもらって そこに醤油を混ぜて、それにディップして
天ぷらを食べていたのが気持ち悪くて、それ以降 会うのを止めてしまったという。
さらに私も個人的に経験があるけれど、「Let Me Order For You」 などと言って、初対面とか 初めて食事をするような間柄で
女性側の食の好みを知らないにも関わらず、男性が女性の分の料理もオーダーするのは、
インディペンデントな女性が多いニューヨークではディール・ブレーカー。
私がニューヨークに来た直後にプッタネスカを初めて食べることになったのはこのためで、以来私はプッタネスカには拒絶反応を
示して、決してオーダーしないメニューになってしまっているのである。
もちろん服装やルックスもディール・ブレーカーの大きな要素で、昨今のニューヨークではあまり見かけないけれど ウェスト・ポーチを
している男性は 大バツ印であったし、今でもデートにバックパック、もしくはコンピューター・バッグの斜め掛けは奨励されないもの。
加えて、通称 ”マンダル” と呼ばれるバーケンストックを含む男性のサンダル履きも嫌われるものだし、 初対面の男性が 膝丈のショーツで
現れるのも 女性にとってはディール・ブレーカー。
男性側にとってブラインド・デートでのディールブレーカーになる女性のアウトフィットというのは、まず肌を露出し過ぎた服、
ドレス(ワンピース)にレギンスやジーンズを合わせるファッション、
黒ずくめの服装、フリルのついたドレス、服装はまともなのに足元が 夏ならフリップ・フロップ(ビーチ・サンダル)、冬ならUGGブーツを履いている・・・、
Etc.
またルックスにおいて 男女共通でアメリカ人が嫌うのは歯並びが悪いこと と八重歯。
スマイルを重んじるのはアメリカのカルチャーでもあるけれど、
経済状態に関わらずアメリカの子供が歯を矯正していることを考えれば理解できる通り、
アメリカは歯に対して非常にコンシャスなカルチャーなのである。
確かに私もアメリカに来てから、歯並びが悪い人や 歯の色がくすんでいる人などが凄く気になるようになってしまったけれど、
アメリカ人にとっては歯並びが悪いというのは、あまり親に手を掛けられずに育ったような印象まで与えるようである。
さらに宗教やカルチャーの違い、言語がディールブレーカーになるケースが生じるのは人種の坩堝であるニューヨークならではのこと。
私にとって忘れられないのは、アメリカ人男性が話してくれた 初めて日本人女性とブラインド・デートをした時のディール・ブレーカー。
その日本人女性はニューヨークに来て既に5年経っていたにも関わらず、あまり英語が上手くなかったそうで、アメリカ人の友達もあまり居ないと
語っていたというけれど、礼儀正しくて 優しそうで、可愛いタイプの女性だったという。
なので 第一印象は悪くなかったそうだけれど、食事の最中に会話がストップした際、いきなり彼女が 「What is your hobby?」と真顔で訊いてきたので、
男性が「この会話力のレベルでは付き合って行けない」と判断して、さっさと食事を切り上げて帰ってしまったというのがそのストーリー。
ちなみに、少なくともアメリカでは通常の会話では「What is your hobby?」という質問はしないもの。
「What do you do in your spare time / 時間が空いた時は何をしているの? 」 というのが一般的な質問。
私自身、もしアメリカ人が「What's your hobby?」と訊いて来たら、日本通のアメリカ人がからかって質問していると判断して、
それなりのユーモアを返すことになると思うけれど、
それくらい、アメリカ社会では聞かれない質問が「What's your hobby?」なのである。
なので、アメリカ人男性にとって その一言がディール・ブレーカーになってしまったのは 何となく理解出来るもので、
確かにアメリカに5年も暮らしていて 「What is your hobby?」はないかもしれない!というのは私も同感なのである。
私がこれまで聞いてきた中には、そんな小さな事がディール・ブレーカーになるなんて・・・という話もあるけれど、
誰もが指摘するのは「一事が万事」ということ。 些細な事だから・・・と ディール・ブレーカーに目を瞑って付き合ったところで、
ろくなことは無い、結局は別れることになる、というのが人々の言い分なのである。
かく言う私も、この「一事が万事」というのには全く同感で、昨年秋に 男性と出掛ける以前にディール・ブレーカーとなる
テキスト・メッセージを受け取って、食事をキャンセルしてしまったことがある。
この男性には たった1度、ワイン・オークションで会っただけで、魔が差して携帯の番号を教えてしまったところ、
まず届いたのが「Nice Dress!」というメッセージ。
そして、食事の日時を決める段階のメッセージで 「Wear That Dress (私がオークションの時に来ていたドレスを着て来いということ)」と
1度しか会っていないにもかかわらず 人が着るものまで指示してきた上に、「他にもっとベターなドレスがあるなら 話は別だけれど・・・」
などと付け加えて、私のクローゼットを侮辱しているとも取れるコメントをしてきたので、
私はすっかり気分が悪くなって、食事をキャンセルし、以来ずっと相手の電話もメッセージも無視し続けていたけれど、
その数はストーカーまがいのもの。
そして、最後には「君が自分にコンタクトしたくないなら構わないけれど・・・」と前置きして「I still love that dress! (それでも僕はあのドレスが好きだ)」と
書いてきたので、ゾッとしてしまったのだった。
シュー・フェティッシュな男性は珍しくないけれど、ドレス・フェティッシュな男性というのは私にとっては初めてのケース。
ちなみにそのドレスは、私のクローゼットの中ではそれほど価値があるとは見なされないだけに、
勿体つけずに しょっちゅう着用していたダイアン・フォン・ファーステンバーグのラップドレスだった。
当初は本当に気持ちが悪くて、そのドレスを破いて捨ててしまおうか?とも思ったけれど、頭を冷やしてみれば
そのドレスは 大して好きではないものの 非常に便利な1着。
しかも 気持ち悪い ドレス・フェチのメッセージのせいで、何も私が自分で働いたお金で買ったドレスを1着犠牲にする必要は無い
と考えを改めたのだった。
そこでドレスには ”お清めの塩” を撒いて 嫌な思いを払拭して、 その後も愛用を続けているけれど、
世の中にはおかしな人間が沢山居るだけに、何か変だとか 嫌だと 思ったら、その本能に従う方が
危険な人間に関わらないで済むのは 紛れも無い事実なのである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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