Dec. 3 〜 Dec. 9, 2012

” It's a Compliment! ”

今週のニューヨークで、まず週明けに大きな物議を醸したのが、写真上左の事件。
これは、地下鉄のホームで韓国人男性と黒人男性が言い合いになり、黒人男性が相手をホームに突き落とした結果、 韓国人男性が地下鉄に轢かれて死亡したという事件。黒人男性は、何事も無かったかのようにその場を立ち去ったものの、 監視カメラに収められた映像(写真上右)から身元が判明して逮捕されたのだった。
ニューヨークの地下鉄では、ホームに落としたものを拾おうとして地下鉄に轢かれた例は何件かあるものの、 誰かに突き落とされたという事件は極めて稀であるため、ニューヨーカーにショックを与えていたけれど、 その翌日のニューヨーク・ポスト紙を飾ったのが写真上、左側の写真。 これは、たまたま その場に居合わせた、ニューヨーク・ポスト紙のフォトグラファーが撮影したもので、 韓国人男性が轢かれる直前の瞬間を捉えたもの。
このショッキングなイメージを表紙に掲載したニューヨーク・ポスト紙には、ツイッターやウェブ上で「新聞を売るためには、 被害者家族の気持も省みない、冷血&無神経ぶり」が 大きな非難を浴びていたけれど、 同時に非難されていたのが、 これを撮影したフォトグラファー。というのも、韓国人男性は突き落とされてから 轢かれるまで、1分以上線路の上に居たことが セキュリティ・カメラの映像から明らかになっていることから、フォトグラファーが被害者を助ける時間が十分にあったと思われるため。
フォトグラファー本人は、「カメラのフラッシュを焚いて、地下鉄の運転手に警告しようとした」、「自分以外にも ホームには沢山人が居た」と弁明したけれど、写真には人の姿が写っていないこともあって、多くのニューヨーカーのリアクションは、 「そんな言い訳は信じない」というもの。 さらに彼がこの写真のライセンスを売ろうと動いていた事も、人々の心象を悪くしていたのだった。
この韓国人男性を轢き殺してしまった地下鉄運転手は、ショックのために 病院に運び込まれたけれど、その一方で、突き落とした側の黒人男性は、 最初に乱暴な態度をとったのは韓国人男性だと主張し、自分が被害者だという姿勢を見せているのだった。

ところで、このニューヨーク・ポスト紙のフォトグラファーがその場に居合わせたのは、先週のこのコラムでふれた NYPDの警官に ブーツとソックスをプレゼントされたホームレス男性のその後の写真を撮るため。
それというのも、このホームレス男性は かなりの食わせ者で、彼は実はホームレスではなく NY市がホームレス用に提供している住宅に2年前から住んでおり、フードスタンプ(政府が低所得者に支給する、 食糧を購入する目的だけに使用できる金券)も支給されていて、要するに税金で食と住が賄われている人物。 彼が裸足で物乞いをしていた理由については、 その方が 同情され易い分、実入りが良いためだと説明されているのだった。
この事実が判明したのは、ホームレス男性の家族がメディアに名乗り出たことから、彼の名前が判明し、その名前を覚えていた市のホームレス対策のスタッフが ファイルを調べたため。通常こうした美談に傷がつくのは、親切をする側がパブリシティ狙いの”やらせ善意”を見せるケースが多いけれど、 このケースでは、警官デプリノのピュアな親切心が利用された形で、どちらにしても後味が悪いのは事実。
当初このエピソードは、「日頃は見過ごされてしまう一個人の小さな善意が、旅行者が撮影した1枚の写真がきっかけで、 大きなセンセーションになった」と報じられていたけれど、結局のところ 「街で裸足で物乞いをしているからといって、 食べ物にさえ困る ホームレスとは限らない」という皮肉な結末をもたらしているのだった。



さて今週末に大きなニュースになっていたのが、ご懐妊発表後に 入院したキャスリン・ミドルトンの病院に、 オーストラリアのラジオ・ホストが、悪戯電話を掛け、ナースからプリンセスの容態を聞き出してラジオで放送したという事件の2日後、 プリンセス専属のナースに電話を繋いでしまったナースが自殺を図ったという報道。
この悪戯電話を掛けたのは、マイケル・クリスチャン(写真右上、左側)と、メル・グレイグ(写真右上、右側)の2人で、 マイケル・クリスチャンがチャールズ皇太子、メル・グレイグがエリザベス女王を偽って、白々しいブリティッシュ・アクセントで 掛けたのがこの電話。 当人達が、「直ぐに電話を切られて当然」と予想していたにも関わらず、あっさりケイト・ミドルトンの専属ナースに電話が繋がっただけでなく、 電話の相手を女王陛下と信じたナースが、ケイトの容態を説明してしまった様子は、ラジオ番組のオンエアだけでなく、世界中のメディアで報じられたのだった。
ラジオ・ホストの2人は、いとも簡単な この悪戯電話の大成功にすっかり気をよくして、ツイッターのアカウントで、 「今までのキャリアで最も簡単で、最高の手柄」などと、自らを讃えており、批判の指摘に対しても 「ユーモアのセンスは無いのか!」と、笑い飛ばしていたのだった。
その一方で 電話を繋いだナース、容態を説明したナースの2人は、罪悪感とショックで、その直後からメディカル・トリートメントを受けていた事が報じられていたけれど、そのうちの電話を繋いでしまったナース、ジャシンサ・サルダナが、金曜に自宅で自殺を遂げたことで、 オーストラリア国内はもちろん、イギリス、及び世界中からラジオ・ホスト2人に対する非難が殺到。 ホスト2人のツイッター・アカウントはクローズされ、ラジオ局は2人にメディアでコメントすることを禁じていることが伝えられているのだった。
そのラジオ局側は、2人を自主的な謹慎処分にしているけれど、世界中から殺到する非難に対しては、「ラジオ番組がこうした悪戯のトリックをするのは、 ラジオ業界で過去50年に渡って行なわれきたこと。今回の事件だけが、非難されるのはフェアとは言えない」と 自己弁護の姿勢を見せているのだった。(その後、12月10日月曜にラジオ局は、2人がホストしていた番組のキャンセルを決定、発表しています。)
ところで、ナースであった ジョシンダ が 何故電話に出たかといえば、これが掛ってきたのは早朝5時半で、受付スタッフがオフの時間。 しかも、その番号は電話帳にリストされているような、普通に誰もが掛けられる番号ではなく、 ラジオ局が特別に入手した電話番号とのことで、そこに直接掛ってくる電話が 入院患者の家族や近しい間柄からのものと判断するのは、 決して不用意、もしくは不適切という訳ではないのだった。

一般の人々のリアクションは、「2人のラジオ・ホストを解雇するべき」という声が圧倒的であるけれど、 メディア関係者の中には、「ここまでの事態に発展すると思ってやった悪戯ではないはず」と彼らを擁護する声も聞かれているのだった。
メディアの一部がラジオ・ホスト及び、ラジオ局を擁護するのは、「明日は我が身」という気持があるからと思われるけれど、 私個人の考えでは、今回の状況は明らかにユーモアで許されるべき 一線を越えていると思うのだった。
メディアでは、キャサリン・ミドルトンが妊娠を明らかにする前から、彼女が腹部に触れるジェスチャーをする度に、 その写真を掲載して、妊娠報道をする状況が過去数ヶ月続いていたけれど、 そうした勝手な憶測だけで、いかにも信憑性があるようなニュースとして 報道するのは、ゴシップ・メディアが お咎め無しで行なっている行為。
でも今回のような、身内を偽って、病院からプリンセスの容態を聞き出して、それをラジオで放送するのは、明らかにプライバシーの侵害で、 これはプリンセスでなかったとしても、軽犯罪にあたる行為なのだった。

またこの悪戯電話で、「それに対応したナースが自殺するかもしれない」とまで 考えが及ばないのは仕方なくても、 状況によっては、ロイヤル・ファミリーが絡むだけに 「電話を対応したナースが解雇されるかも知れない」ということは 誰にでも想像がつくこと。 ラジオ局のようなメディアが行なう悪戯行為というのは、誰にも迷惑をかけず、笑い飛ばせる範囲で行なわれるべきで 明らかに今回の事件は、行き過ぎ以外の何物でも無いという印象なのだった。

自殺したナースの家族はオーストラリアのラジオ局を相手取って、訴訟を起すことは出来るけれど、 この場合、本人が 「ラジオの悪戯を苦にして自殺した」という遺書を残していない限りは、自殺原因の立証が憶測の域を出ないという点で、 非常に難しい裁判。 逆に、もう1人のナースが訴えた場合、本人がその精神的苦痛を証言できるのに加えて、確証は無くても同じ立場の同僚が自殺を図っているだけに、 賠償金を受取るには 十分な勝算が見込まれるのだった。



話は全く変わって、キャリア・ソーシャル・ネットワークで知られる ”LINKEDIN / リンクトイン” では、 世界中のユーザーが 同社に登録している 1億8,700万のキャリア・プロフィールを分析して、 「Overused Buzz Words / オーバーユーズド・バズ・ワーズ」を発表しているのだった。 バズ・ワードとは、「謳い文句」というような解釈で、キャリア・プロフィール(履歴書)で、使われ過ぎの謳い文句という意味。
オーバーユーズド・バズ・ワードをプロフィールに用いると、 あまりに一般的に使われている言葉なだけに、ヘッドハンターがそれを信用しなかったり、無個性と判断して、逆効果に繋がるケースが多いという。
以下が アメリカにおける、オーバーユーズド・バズ・ワードのトップ5。

1. Creative / クリエイティブ (創造的)
2. Organizational / オーガ二ゼーショナル (企業活動に適した)
3. Effective / エフェクティブ (効果的、効率的)
4. Motivated / モチヴェーテッド (やる気がある)
5. Extensively Esperienced / エクステンシブリー・エクスペーリエンスト (極めて経験豊富)

リンクトインのようなサイトにアクセスする人々は、同サイトに登録されているメンバーの プロフィールを 何百とチェックしているケースが多いので、既に見飽きている ごくごく ありきたりの表現が、 プロフィールに使われていた場合、その人物への興味が失せてしまうのは当然のこと。 特に「クリエイティブ」は、アメリカだけでなく、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、シンガポール、オランダ、スウェーデンでも 最も嫌われる表現になっているのだった。

キャリア・プロフィールにおいては、自分を売り込むために、自分を良く見せる表現で、自分を説明しなければならないけれど、 自分を上手く売り込める人というのは、他人に対しても褒め上手である場合が多いもの。
では、何をもって「褒め上手」とするかというのは、人によって意見が分かれるところであるけれど、 私の意見では、褒め上手 と言える人の定義は以下のようなもの。



褒めるという行為は、ポジティブなエネルギーを人に与えることが出来るのは言うまでもないこと。 よほどひねくれた人間で無い限りは、「人に褒められて、気分が悪い」という人は まず居ないけれど、 誰のことでも、同じように褒めて、常にお世辞ばかり言っている人というのは、 周囲がそれに慣れてしまうと、何を言っても「あの人は誰でも(何でも)褒めるから・・・」と、 褒め言葉のパワーが失われるだけでなく、評価基準さえも信頼してもらえなくなるもの。
逆に日頃無口な人物が、作品やパフォーマンスについて適格な褒め言葉を語った場合、 それが手放しの称賛でなかったとしても、「無口な人が自分の作品について、心を開いて語ってくれる」ということ自体が、 それを受取る側に 普通の褒め言葉以上の意味合いをもたらす場合が非常に多いのだった。

誰にでも簡単に言える ”適当なお世辞”というのは、線香花火のようにあっという間に消えて、言われた側でさえ忘れてしまうことが多いけれど、 本人の過去との比較や、他との比較など、分析や観察が加わった褒め言葉、 詳細に着眼した褒め言葉というのは、言われた本人にとって、情報性が高いだけあって 記憶に留めてもらえる可能性が高くなるもの。
でも最高の褒め上手と言えるのは、褒められた側に「そうやって見てくれる人がいるのか!」と気付かせたり、 本人が考えてもいなかった内なる一面に目覚める機会を与えられる人。 パフォーマンスや作品、人柄、様々な行為の内側に眠っている別の可能性や才能、新しい要素やアイデアを、 褒め言葉と共に 引き出せる人だと私は考えるのだった。
これは、称賛というポジティブなパワーと共にインスピレーションを、褒める対象に与えることであり、この2つは 人間が目標を持って生きて行く上で、最も必要なもの。これを与えられた側が、その言葉を頭の中で何度も何度も リプレイしながら、 人生を切り開いていくことは少なくないのだった。

「”褒める=称賛” という行為が、感謝の気持に基づくことを理解している 」という点については、 表面的なお世辞で無い限り、人を褒める時には、誰もが楽しさ、感動、美しさ、知的な刺激、面白さ等、様々なポジティブな要素を抱いているはず。 したがって褒め言葉は、称賛や評価だけでなく、そんなポジティブな要素や感情を貰った 感謝の気持を示すべきもの。
良く観察していると、表面的なお世辞ばかりをペラペラ言う人は 情に薄かったり、人に対する感謝の気持が希薄な場合が多いのだった。

基本的に褒め上手というのは、人をよく見ている人、人の行動や言葉に関心を払っている人であるけれど、 世の中には、人を逐一チェックしている人というのは沢山居るもの。
そんな大多数の人々が、褒め上手になるか、ならないかの違いは、ポジティブに着眼して、それを言葉で的確に表現するか、しないかの問題。 もちろん世の中には、ネガティブに着眼して、それで言葉で表現する人も少なくないけれど、 どちらが本人の人生を豊かして、周囲を幸せにするかといえば、それは100%前者の方なのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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