Dec. 8 〜 Dec.14  2014

” Truth Behind… ”
今週明らかになった体裁と裏事情


今週の週明けは、3日間の予定でNYに滞在した英国王室、ウィリアム王子とキャサリン妃のニュースが そこそこ大きく報じられていたニューヨーク。 「そこそこ」と表現したのは、もしこれがウィリアム王子夫妻の訪日であれば、日本のメディアは連日トップで2人の動向を逐一伝えたと思うけれど、 ニューヨークではTVのニュース番組で夫妻のニュースが一度もトップで伝えられなかっただけでなく、30分のニュース番組の15分が経過した時点で、 芸能ニュースのような形で報じられるケースが殆ど。 新聞にしても ニューヨーク・ポスト紙はロイヤル・カップルを表紙にフィーチャーしたけれど、ニューヨーク・タイムズ紙では夫妻の写真、およびニュースが 一度も第一面飾ることは無かったのだった。

その代わりにアメリカ全土、世界各国で大きな報道となっただけでなく、アメリカ国内ではTVの臨時ニュースでも報じられたのが、 上院情報特別委員会が公表した CIAによるテロリストに対する拷問の実態レポート。 このレポートは 2001年の9・11テロ以降、テロの容疑者に対して行われた拷問が、CIAがかつて議会や国民に公表したよりも 遥かに悪質、かつ非人道的で、しかもそれが効果をあげていなかった調査結果を明らかにしたもの。
今週メディアに公開されたのは、 膨大な量のレポートの抜粋で、抜粋とは言え525ページに及ぶもの。 同レポートの公開は、オバマ大統領も支持し、世界各地の米国大使館を含む政府機関が、 その反発によるテロ攻撃を受ける可能性を見込んで、警備を強化してから行われたもの。
政府がこれに踏み切ったのは、自国が犯した過去の過ちを公表し、2度と同じ間違いが起こらないようにする目的に加えて、 アメリカの情報公開制度の公正さを世界に示す目的があったと言われるけれど、その内容は ウォーターボーディングや睡眠剥奪、暴力等、著しい人権侵害行為が横行していたことを、具体例を挙げて記載したもの。
更に CIAでは、アルカイダやアラブのカルチャーや言語、テロについての 知識が全く無い心理学者に拷問プログラムの開発を依頼。彼らに対して8000万ドル、現時点の為替換算で100億円以上を 国民の税金から支払っていたことも同レポートで明らかになっているのだった。

このため、今週はCIAの長官が釈明の記者会見を行っていたけれど、 スパイ組織の長官がプレスを集めて事態の釈明をするというのは、メディアも「前代未聞」と報じる極めて異例なイベント。 これを受けて、メディアの多くが投げかけていたのは 「アメリカのテロ対策も、 テロリストのモラルと大差が無いのでは?」という疑問なのだった。




ところでウィリアム王子に話を戻せば、王子は月曜にオバマ大統領との会談他のスケジュールをこなすために 民間機でワシントンへ出向いたことが報じられていたけれど、このプリンスの庶民的ジェスチャーの演出で大迷惑を被ったのが 私を始め、この日の午後にプリンスが飛び立ったラガーディア空港に到着する飛行機を利用していた人々。
私はこの時、マイアミから戻ろうとしていたけれど、ニューヨークの天気を調べると 僅かに雨が降っている程度。 にも関わらず、ラガーディア・エリアの天候不順を理由に 全米各地からラガーディアに向けて飛行予定だった全ての便が ウィリアム王子のセキュリティのために大幅に遅れて、 私の場合、空港のラウンジで1時間、機内で1時間の計2時間を無駄にすることになってしまったのだった。
このせいで、特に被害を受けたのは乗り継ぎ便を利用する人々。私が利用したスピリッツ・エアラインの機内では、 搭乗客が「スピリッツ・エアラインは、アメリカの航空史上最悪のエアラインだ!」などと、かなり辛らつな批判でフライトアテンダントを やり込めていたのだった。

私は、そのスピリッツ・エアラインという航空会社について 何の予備知識も無く、今回初めて利用したけれど、どうやらかなり悪名高いエアラインのようで、 手荷物を1つを持ち込むだけで 50ドルがチャージされ、機内のドリンクやフード、水に至るまで全てが有料。 もちろんピローもブランケットも無し。しかも、もし搭乗口で機内手荷物のサイズが規定より大きいことが判明した場合、50ドルだった持ち込み料金が 90ドルになるという悪質ぶり。
もちろんウィリアム王子のセキュリティによる遅れは、スピリッツのせいではないので、これについては後になって 責められないと判明したけれど、 それよりも驚いたのが、いざラガーディアから離陸OKの連絡が来た時に、離陸アナウンスの替わりに機長がアナウンスしたのが、 「この飛行機は離陸には重たすぎるので、一部の乗客に降りて頂きます」という考えられない通達。 程なく10人程度の搭乗客が呼び出されて、飛行機から降ろされていたけれど、恐らくこれらはチェックインした荷物が多くて、しかもそれが重たかった人々。 でもその乗客の荷物の取り出しに 更に30分以上が掛かったので、飛行機の離陸は更に遅れることになったのだった。
いずれにしても私にとって、これが最初で最期のスピリッツ・エアラインの利用になると思うけれど、 予約時に「安い!」と思った航空運賃は、往復の手荷物チャージで 100ドル増し。 なのでまず心に誓ったのが、今後 聞きなれないエアラインを利用する際は、レビューを読んでからにしようということ。
それと同時に、ロイヤル・ファミリーは ビリオネアなのだから、庶民ぶって民間機で飛んで、 庶民に迷惑をかけるよりも、国民の税金を使わず、自腹でプライベートで飛ぶべきだとも思ったのだった。




でもCIAの拷問レポートよりも、ロイヤル・カップルのNY訪問よりも、今週遥かに報道時間が割かれていたのが、 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントをターゲットとした大規模なハッキングによって流出した社内情報や Eメールについてのニュース。
同事件は、まずソニー・ピクチャーズのコンピューターから 俳優を含むハリウッド関係者のソーシャル・セキュリティ・ナンバーを含む個人情報が流出。 次いで未公開映画や、DVD発売を控えた映画がインターネット上でダウンロード可能となり、同社のホリデイ映画の興行売上げ、および DVDの売上げに打撃を与えたことが指摘されていたのが先週末のこと。
それで終わるかと思いきや、今週には同社のエグゼクティブ、エイミー・パスカルと 映画プロデューサー、スコット・ルーディンとの間で取り交わされたEメールの内容が流出。

その内容として まず公開されたのが、ソニー・ピクチャーズが今後手がける映画、「クレオパトラ」の監督を 勤めたがるアンジェリーナ・ジョリーのことを、同作品をデヴィッド・フィンチャー監督に任せたがっていたスコット・ルーディンが 「最小限の才能しかない、甘やかされたガキ」と ののしったEメール。
その後も、エイミー・パスカルとスコット・ルーディンが オバマ大統領の好みの映画が 「ジャンゴ・アンチェーンド」、「12イヤーズ・ア・スレーブ」といった黒人がメインキャラクターの映画だと 人種差別的なジョークを飛ばしたり、ソニーが手がける映画「スティーブ・ジョブス」の主演を断ったレオナルド・ディカプリオのことを、 「Dispicable/卑劣」と批判したり、日を追うごとにダメージが拡大していったのが、がエイミー・パスカルとスコット・ルーディンの 外部には決して知られたくないメールのやり取り。
それ以外に これまでに明らかになってきた内容としては、昨年ソニーから公開された映画「アメリカン・ハッスル」の出演ギャラが クリスチャン・ベール、ブラッドリー・クーパーといった男性俳優に比べて、ジェニファー・ローレンス、エイミー・アダムスといった女性キャストは 遥かに安かったこと。 ソニーが今後手がけようとしている「ゴースト・バスターズ」にライアン・ゴスリングが興味を示していて、それにジェニファー・ローレンスか エマ・ワトソンをキャストしようとしていること。 加えて ジョージ・クルーニーが自らの監督作品、「モニュメント・マン」の公開を控えて、批評家から映画を叩かれるのを恐れて 不眠状態になり、エイミー・パスカルに対して「映画を批評家の悪評からプロテクトするように」と依頼したEメールなども 公開されているのだった。
それだけでなく週末には、これから公開される「007」の脚本もネット上に流出。 この状況を受けてソニー・ピクチャーズは、全ての映画の製作を現在ストップしており、 ハリウッドでは多くの関係者がハッキングを恐れるあまりEメールでのやり取りを停止。 昔ながらの電話によるコミュニケーションに切り替わっていることが指摘されているのだった。



この状況を受けて、エイミー・パスカル、及びスコット・ルーディンはそれぞれ謝罪をしているけれど、 彼らとてハッキングの被害者。しかもハリウッドのエグゼクティブやプロデューサーが 残酷なまでの毒舌で、表と裏で言うことが異なる2枚舌ぶりは今に始まったことではないもの。 このため、ハッキングされたプライベートなEメールが原因で そのコミュニケーション内容を責められるべきか?、エグゼクティブが辞任に追い込まれるべきか?が 今週のアメリカでちょっとした論議を呼んでいたのだった。

というのも、たまたまこのハッキング・スキャンダルで悪口を言われているのが、誰もが知る映画俳優であるため これが大きな報道になるけれど、職場仲間や取引相手の悪口を会社のEメールで言い合う程度のことは、 世間一般に行われていること。 このため「どんな職種にも、本音と建て前は付き物」とエイミー・パスカルとスコット・ルーディンを擁護するコメントが聞かれた一方で、 彼ら自身も 頻繁にハリウッドで陰口の対象になっていることが報じられていたのだった。

このように 今週は天候を理由にしていた飛行機の遅れが、実はウィリアム王子のセキュリティのためであったり、 テロを防ぐ手段として、合法的に行われていたはずの拷問が、効果を上げていないだけでなく、 人の道を外れた行為であったり、表向きの説明と その実情の違いを 感じることが多かったけれど、私の意見ではこの中で 最も人に迷惑が掛かっていないのは、ソニーのエグゼクティブとプロデューサーの2枚舌。
陰口を言われたアンジェリーナ・ジョリーやレオナルド・ディカプリオらは気分を害しているかもしれないけれど、 突如ハリウッドが電話のコミュニケーションに切り替わったのは、同様のメールのやり取りを誰もがしているからとも言えるもの。 しかもEメールに書かれていたのは ただの人の悪口で、エグゼクティブとプロデューサーが 何らかの犯罪に関わっていたことが立証された訳ではないのだった。 さらに言えば、ハッキングは違法行為であって、違法行為によって採取された証拠は アメリカの司法システムでは 法的効力はナシ。
したがってハッキングされたEメールが理由で、ハッカーではなく、メールの送り主の責任を問うのは本末転倒と言える行為。
そもそも誰もが一般に公開されて 全く差し支えないEメールだけを送って生きていたならば、 もっとずっとマシな世の中になっているはずなのだった。


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。




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