Dec. 11 〜 Dec. 17
” コンフリクト・フリー・ダイヤモンド ”
今週木曜に行われたクリスマス・パーティーに、当社のCubicle Julesのテニス・ネックレスをして出掛けたところ、
巨大なパールのネックレスをした女性が寄って来て 尋ねたのが、 「素敵なネックレスね。でもそれ、コンフリクト・フリーなの?」
という質問。
”コンフリクト・フリー・ダイヤモンド” とは、アフリカの紛争地域以外から採掘されたダイヤモンドのこと。
逆に「コンフリクト・ダイヤモンド」と言えば、別名「ブラッド・ダイヤモンド」、「ダーティー・ダイヤモンド」と呼ばれるもので、
日本では”紛争ダイヤ” とも表現されるもの。
コンフリクト・ダイヤモンドは、その売却で得られた利益が、アフリカの反政府勢力による内戦の武器調達資金となるため、
紛争を長期化させる要因とされており、その結果、リベリア、アンゴラ、コンゴ等のアフリカ諸国で、数百万人という多数の人命が
失われて来た訳である。
この日のパーティーで 突然 このような質問をされても決して不思議では無かったのは、先週末 アメリカで
このコンフリクト・ダイヤモンドを描いた レオナルド・ディカプリオ主演の映画、「ブラッド・ダイヤモンド」が公開され、
それに合わせて様々なメディアがコンフリクト・ダイヤモンドについて報じていたこと、
加えてこの日の朝のニューヨーク・タイムズ紙のスタイル・セクションにも「Diamonds Are For Never?」 というタイトルで、
コンフリクト・ダイヤモンドに関する記事が大々的に掲載されていたため。(写真右)
私は質問には 「もちろん コンフリクト・フリーです」と答えたけれど、その女性は更に突っ込んで
「どうしてそんなにはっきり言い切れるの?」と訊いてきたので、
「Because it's man-made (人工石だからです)」と答えると、女性は私のネックレスをまじまじと眺めてから「Smart Girl ! (賢い娘ね!)」
とお褒めの言葉をくれたのだった。
彼女は、昨今のメディアの報道を見て、今年のクリスマス・シーズンはダイヤのネックレスをつけないようにしようと決めたのだそうで、
パールやエメラルドのネックレスをつけてパーティーに出掛けていると話していたけれど、
この「ブラッド・ダイヤモンド」の映画やその関連報道は これからエンゲージメント・リング(婚約指輪)を買おうとするカップルや、
クリスマス・シーズンにジュエリーを夫に買って貰おうとしている妻達に少なからず影響を与えているようで、
一部のメディアは、コンフリクト・フリーのダイヤモンドのバイイング・ガイドまで掲載している有様だった。
ここで日本では2007年に公開予定の映画「ブラッド・ダイヤモンド」について説明しておくと、
舞台は1990年代後半、アフリカのシエラ・レオーネ (Sierra Leone)。
この国で起こったのが 残酷かつ非人道的な紛争で、映画の中で描かれているのは コンフリクト・ダイヤモンド=ブラッド・ダイヤモンドの存在が世界中に知れ渡るきっかけとなった この悪名高き紛争と それを利用して膨大な利益を追求するダイヤモンド・ビジネスの姿。
同紛争では、反政府勢力が市民を拉致してダイヤの採掘をさせ、その売り上げを 軍資金にする一方で、
子供達をゲリラ兵士に育成し、彼らに罪のない人々の腕を切り落とさせるといった残虐な行為が行われていたことは、
世界中に衝撃を与えることになった事実である。
映画の中では、拉致されてダイヤモンドの採掘を強いられていたソロモン(Djimon Hounsou / ジャイモン・フンスー)が、
高価なピンク・ダイヤモンドを見つけ、その莫大な価値を理解するソロモンは それを売って家族と
国外に逃れようと、命がけでそのピンク・ダイヤを隠すことになる。
その一方で、密輸の罪で投獄されている間にそのピンク・ダイヤの存在を知り、それを手に入れようとするのが、
ロンドンのダイヤモンド企業に雇われるサウス・アフリカ人のダニー・アーチャー(レオナルド・ディカプリオ)。
そして、「ブラッド・ダイヤモンド」 の背景を暴くために ダニーに接近するのが、
アメリカ人ジャーナリストのマディー(ジェニファー・コネリー)。
互いに求めるものが異なる3人の運命が絡み合う、実話に基づいたサスペンスがこの映画で、
レオナルド・ディカプリオは、この演技でゴールデン・グローブ賞の主演男優のノミネーションを獲得している。
さて 当然のことながら この映画や その関連報道を歓迎しないのが、これまで世界中のダイヤモンドの流通を
ほぼ独占してきたデビアス社。 実際、ダイヤモンドがいくら市場に出回っても決して値崩れを起こさなかったのは、
デビアス社が市場を完璧にコントロールしてきたからであることは公然の事実と言われるもの。
アメリカでは給料の2か月分、日本では3ヶ月分と言われるエンゲージメント・リング(婚約指輪)予算のスタンダードも、
デビアスのコマーシャルから生まれているし、そもそも1950年末から日本市場で始まった「ダイヤモンドを婚約指輪に!」
というキャンペーンもデビアス社が新たな市場開拓のために行ったものである。
デビアス社のエグゼクティブは、映画「ブラッド・ダイヤモンド」について、「ダイヤモンド業界にとって長期的な脅威となる」と
コメントしているけれど、ニューヨーク・タイムズ紙によれば、アメリカではエンゲージメント・リングを買うカップルが、コンフリクト・フリーを選びたがるトレンドが既に始まっていると指摘されている。
というのも、エンゲージメント・リングはカップルにとって愛情や幸福の象徴であるべきもの。
それだけに、人の命が失われたり、罪もない市民の腕が切り落とされる要因を作ったダイヤモンドが、
自分達のエンゲージメント・リングに輝いていることは、消費と購買に正義感を持ち込むアメリカ人にとっては
受け入れがたい事実なのである。
ニューヨーク・タイムズの記事では、「これからはカットやカラーのような鑑定書より、どの国で採掘されたかの証明書にこだわって
ダイヤを選ぶ」と語る女性のコメントが掲載されていたけれど、
ダイヤモンド業界が最も危惧する事は、彼らにとって最大の市場であるアメリカでのダイヤモンドに対するイメージにキズがつくこと。
ダイヤモンドは年間$60ビリオン(約7兆円)市場と言われるけれど、その半分以上である$33.7ビリオン(約3.94兆円)が
アメリカにおける売り上げなのである。
でもダイヤモンド業界では、既に2003年に こうしたコンフリクト・ダイヤモンドの取引を阻止するための策を講じており、
それがキンバリープロセスと呼ばれるもの。これはダイヤモンド原石の国際認証制度のことで、
今では日本を始めとする世界69カ国でダイヤの輸出入にキンバリープロセス証明書が必要になっているという。
「キンバリー・プロセスによって、現在では世界に流通する99%のダイヤモンドがコンフリクト・フリーである」というのが、
ダイヤモンド業界の言い分であるけれど、
今でも密輸されたブラッド・ダイヤモンドが コンフリクト・フリーダイヤに混ざってキンバリープロセス証明書が
発行されているというのが、アムネスティ等を始めとする人権擁護団体からの指摘で、
「キンバリー・プロセスはブラッド・ダイヤモンドの阻止に役立っているけれど、まだ完璧とは言えない」という声が聞かれるのは事実である。
さて昨今では、レッド・カーペットを歩くセレブリティもスタイリストにコンフリクト・フリーのダイヤモンド・ジュエリーを
リクエストするご時世になっているけれど、
コンフリクト・フリーを武器に今後大きく売り上げを伸ばしてくることが見込まれているのがカナダ産ダイヤモンド。
私は知人がカナディアン・ダイヤモンドの普及に携わっていたので、カナダ産のダイヤについては比較的以前から
知っていたけれど、既にティファニーもカナダのダイヤモンド採掘会社、Aber Diamond / エイバー・ダイヤモンド社に
投資をしていることが伝えられている。
ちなみに このエイバーは、2006年9月に高級宝飾店ハリー・ウィンストンをウィンストン・ファミリーから買収したばかり。
でも現時点で カナダ産ダイヤのリーディング・ブランドとなっているのは Canadia Diamond / カナディア・ダイヤモンドで、
同社は写真左のようにダイヤの石本体にレーザーでブランド証明と製造番号を刻み込むという IDシステムを確立。
コンフリクト・フリーである証明と共に、ブランド性、及びブランドに対する信頼を高める努力を行ってきているのである。
この他に、現在ダイヤモンドはロシア、オーストラリア、アメリカ国内ではアーカンサスからも採掘されているけれど、
ダイヤモンドの歴史を遡れば、アフリカで最初のダイヤモンドが見つかったのは1871年と言われており、
エラスマス・ジェイコブスという農民の息子が輝く大きな石を見つけて、宝物にしていたとのこと。
それを隣人がトレーダーに渡し、トレーダーが鑑定家に見せたところ ダイヤモンドであることが確認されたそうで、
その原石は後に「The Eureka / ザ・ユーリカ」と呼ばれる 21.25カラット の巨大ダイヤに生まれ変わったという。
そしてその後、47.69カラットの「Star Of South Africa / スター・オブ・サウス・アフリカ」 が採掘されたことで、
アフリカが それまでのダイヤの主要採掘国、インド、ブラジルより大きな石が取れる地であることが
世界に知れ渡り、採掘のゴールド・ラシュならぬダイヤモンド・ラッシュが始まったのだという。
でも世界の60%を超えるダイヤを採掘しながらも、アフリカがOPEC加盟国が石油を武器にするようには
振舞えないのは、アフリカがダイヤを原石で輸出しており、そのカットやポリッシュがイスラエル、ベルギー、インド等で行われ、
この段階に入ってからでないとダイヤの価値が猛然とアップしてこないため。
これを受けて、ヒップ・ホップ・ビジネスで一財を築き、自らもジュエリー・ビジネスを経営するラッセル・シモンズは、
アフリカでダイヤモンド・エンパワメント・ファンドなるものをスタートし、アフリカでカットやポリッシュを行い、
輸出価値を高める指導を行っていくことにしているという。
ところで、パーティーで胸を張ってテニス・ネックレスがコンフリクト・フリーだと言い切った私であるけれど、
ふと気が付くと ネックレスのゴールド部分については、コンフリクト・フリーかどうかは分からなかったりする。
というのも、ゴールドもダイヤモンド同様、Dirty Gold / ダーティー・ゴールドなるものが存在しており、
コンゴの反政府ゲリラがゴールドの採掘をコントロールし、資金源としていることが報じられているのである。
2006年4月にはニューヨーク・タイムズ紙が「No Dirty Gold / ノー・ダーティー・ゴールド」キャンペーンの広告を掲載し、
ティファニー、ピアジェ、ヴァン・クリフ&アペル、カルティエなどの一流宝飾店がこれに同調することを表明。
ダイヤモンド同様に、コンフリクト・フリーが盛り上がりを見せようとしているのである。
なので、ゴールドまで掘り下げられると 返事に困ってしまうけれど、
今年のホリデイ・シーズンは シミュレーテッド・ダイヤモンドのジュエリーを、
コンフリクト・フリー、ギルト・フリー(罪悪感なし)で、人に見せびらかせる事が出来そうな気配である。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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