Dec. 10 〜 Dec. 16 2007




”クリスマス・ギフト考 ”



今週のアメリカで最も大きく報じられていたのは、元上院議員、 ジョージ・ミッチェル氏が纏めた メジャー・リーグ・ベースボールでの ステロイド、HGH(ヒューマン・グロース・ホルモン)といったいわゆるパフォーマンス・エンハンシング(パフォーマンス向上)・ドラッグを 使用していたプレーヤーに関する報告書のニュースで、これはアメリカでは”ミッチェル・レポート” と呼ばれているもの。
ミッチェル・レポートは 21ヶ月という時間と $20ミリオン(約22億円)もの資金を投じて、メジャー・リーグから依頼を受けた ミッチェル氏が纏め上げたものであったけれど、 そこには元ヤンキーズのピッチャーで、殿堂入りが確実なロジャー・クレメンズや同じくヤンキーズの投手、アンディ・ぺティット 等を含む80人以上のプレーヤーの名前が挙げられており、 バリー・ボンズどころか、リーグ全体中にパフォーマンス・エンハンシング・ドラッグが 蔓延していることが裏付けられていたのだった。
しかもドラッグ使用が指摘された選手のうち 現役、もしくは元ヤンキーズのプレーヤーが22人、 メッツにしても現役とかつてのプレーヤーで合計17人の名前が挙がっている という事実も ニューヨークの野球ファンやメディアにとってはショッキングな事実として受け取られていたのだった。

さて、言うまでも無く 世の中は現在クリスマス・シーズンであるけれど、この時期アメリカ人の友人に訊かれる 質問といえば 「もうクリスマス・ショッピングは済ませた?」というもの。
この「クリスマス・ショッピング」とはギフト・ショッピングを指す言葉であるけれど、クリスマスに家族&親類で集まるケースが多い アメリカでは、親類の1人1人にプレゼントを 用意しなければならず、 クリスマスに会えないファミリーには、ギフトを送付するのが常識的な行為。 私が習っているフランス語のクラスメイトなどは、離れて暮らしている兄弟、従兄弟や姪、甥のために40個以上の プレゼントを送ったと話していたけれど、全てインターネット上で済ませたという。 今では多くのショッピング・サイトがホリデイ・シーズンには無料でギフト・ラッピングを行ってくれるし、 メッセージ・カードも添えてくれるところが多いので、 何人分もの送付先をタイプする面倒さえクリアすれば、あとは送付までしっかり行ってもらえるもの。
でもインターネットが普及する前は、買って来たものを 時に自分でギフト・ラッピングをして、それをさらに送付用の箱に入れて、 郵便局に大行列して 送付していた訳である。 なのでかつては、特にクリスマスのセレブレーションがビッグな地方都市の家庭では、 7月頃からオーナメントの準備を含めた クリスマスの準備に取り掛かるケースも少なくなかったのである。

アメリカでは、家族のメンバーのためには クリスマス・プレゼントとして 大きなギフトと小さな・ギフトを用意するもので、 小さなギフトは俗にストッキング・スタッファーと呼ばれるもの。このストッキングとは、 主に暖炉の前などに吊るしておく 家族の名前を書いた靴下のことで、ストッキング・スタッファーとなるギフトは、 CDやキーホールダー、ジュエリーなどで、サイズもバジェットも小さめのものである。
そういった小さめのギフトを靴下の中に入れて、 大きめのプレゼントをツリーの下に置いて 毎日のように眺めて、 クリスマスの朝になったら 家族揃ってプレゼントを 開けるのが昔ながらの習慣となっているもの。
もちろん車やビッグ・スクリーンTVのようにツリーの下には置けないような 大きなギフトもある訳だけれど、サンクス・ギヴィングの際に私がお邪魔した友人宅でも、 ご主人が奥様にプレゼントする車を 既に 納屋の中でシートを掛けて隠してあって、 クリスマスの朝に 大きなリボンをつけてプレゼントすることをこっそり教えてくれたのだった。

そのアメリカでは、4年連続でギフト・アイテムのNo.1になっているのが48インチを超えるラージ・スクリーンTV。 年々価格が下がってきているのに加えて、新作映画がDVDで売り出されるまでの期間がどんどん短くなってきているので、 わざわざ映画館に足を運ぶより 自宅でDVDムービー鑑賞をした方がリラックス出来る上に安上がり! と考える人々は多いという。加えてビデオ・ゲームの高画質傾向もラージ・スクリーンTVの売り上げを煽っているとのこと。
そのアメリカで昨今、増えに増えているのがギフト・カード(商品券)を贈る傾向であるけれど、 ローテク時代のギフト・カードは、買い物額がギフト・カードの額面に満たない場合に 現金でおつりを出していたため、 たとえ100ドルのギフト・カードが売れても、それを使う人が85ドルしか買い物をしなかった場合、店側は15ドルの 売り上げを失うことになっていたのだった。 でも数年前から、未使用金額の情報がギフト・カードにインプット出来るようになってからは、100ドルのギフト・カードを受け取った人が 全額を使い切るために 120ドルの買い物をするなど 額面以上を購入する、もしくは70ドルのものを購入して 残りを使い忘れている、あるいはギフトカードを紛失するなどして、贈り主が支払った金額を使い切らない状況になっているという。
したがって、小売店側にとっては ギフト・カード(商品券)を利用してもらうことは、受取人がギフトカードの額面以上の買い物をしてくれる、 もしくは額面以下の買い物をして その残金が店側の丸取りになってしまうことを意味するもの。 しかもラッピング費用や送料も安価というメリットもあって、とても有り難いギフトなのである。 なので多くのデパートや小売チェーンがギフト・カードを大々的にプロモートするのは非常に納得出来ることなのである。
ちなみに昨年1年だけで、アメリカ人が使い損ねた、もしくは使い忘れたギフト・カードの総額は 何と80億ドル。(8900億円) たった1年間にこれだけの金額を使い損ねてたり、忘れたりするのは、 やはりギフトというものが 人からタダで貰ったもので、使い損ねても 自分は損をしていないという意識が あるようで、貰ったギフト・カードを失くしても、通常人々は血眼になって探したりもしないようであるし、 使い損ねても 「悔しい」 という思いも抱かないようである。

ギフト・カードは、アメリカ人が貰ったギフトを取替えに行く傾向があまりに強いために、「それなら本人が最初から自分で欲しいものを 選んで買ってもらった方が 贈る側も楽!」 ということで、90年代の後半からどんどん 売り上げを伸ばしてきたもの。 2003年くらいまでは、クリスマス明けの最初の週末は、 人々がもらったギフトを交換に来るために混み合うと言われていたけれど、 今ではクリスマス明けの週末は、もらったギフト・カードでショッピングに来るために混み合うといわれるようになったのだから、 ギフト・カードがクリスマス消費に与える影響はかなり大きいと言えるもの。
そのギフト・カードは通常はストアが発行するもので、そのストアでしか商品が購入できないものだけれど、 昨年あたりからはアメリカン・エクスプレスの発行で、 アメックス取扱店ならば何処でも使えるというものも出てきていたりする。
そんなことならば、「何処でも買い物が出来るキャッシュを渡すべきなのでは?」とも思えてしまうけれど、 キャッシュは使い始めれば知らない間に無くなってしまうもの。 受け取る人が何かを購入して ギフトが物で残ることが大切のようなのである。

でも逆にギフトが物として残らない関係の方が良いケースもあって、その典型がドアマンなど 個人的には親しくない間柄の人々。
以前もこのコラムに書いたことがあるけれど、アメリカでは自分が住んでいるビルのドアマン、日頃ヘア・カットをしてもらっっている ヘア・スタイリストから始まって、フェイシャリスト、マッサージ・セラピスト等、 新聞配達人、郵便配達人など、定期的に何らかのサービスをしてくれている人に対してクリスマス・ギフトを贈る、もしくはチップを 支払うのが定例化した社会。 家族や親類にギフトを買う以外に、こんな人たちにもギフトやチップを用意しなければならないので、クリスマス・シーズンは 本当にお金が掛かるのである。
私は入り口に居るだけで、時々しか挨拶をしないようなドアマンにはチップはあげない主義で、 その代わり何かが壊れたり、問題が起こった時に頼りになるハンディマンにチップをはずむことにしているけれど、 「セックス・アンド・ザ・シティ 」の台詞にもあったように、「ハンディマンさえいたら 夫なんて必要ない」というほどに、 彼らは有り難い存在なのである。 天井の電気が切れれば取替えに来てくれるし、トイレの水が漏れたり、フロアのウッドタイルがはがれて来た時などに、 電話1本でやってきて 全て無料で直してくれるのが彼ら。 なので、クリスマス・チップくらい支払わないと申し訳ないというのが私の考えである。
中にはドアマンやハンディマンに自家製のクッキーやフルーツ・ケーキをプレゼントしたり、 ギフト・カードをチップ替わりに持ってくる住人も居るというけれど、 彼らにしてみればどんなに小額でもキャッシュの方が嬉しいというのが本音だそうである。
仕事柄、 私が多めのチップを支払っているのは、バーグドルフ・グッドマンやデザイナー・ブティックで私の担当になって 商品の手配をしてくれるセ ールス・パーソン達で、”入手不可能” を ”可能”にしてくれるのがこういった人たち。 彼らには 毎年この時期に チップとして100ドルを支払うけれど、CUBEのビジネスはその金額をはるかに上回る恩恵を受けているし、 そんな心遣いをとっても喜んでくれるので、これは毎年 必要 と思って支払っているもの。 でも会社の経費で落とせるのは、1人当たり20ドルまでなので 会社のためとは言え、これは自腹の出費になってしまうのである。

平均的なニューヨーカーはギフトに800ドルを費やすと言われているけれど、 これはあくまで平均であって、収入に比例して 上は果てしない金額になるようである。
先日友人と話していた際に、「生涯忘れられないギフト」が話題になったけれど、 彼女の友人が クリスマス前にバースデーも控えている ご主人にプレゼントしたというのが、先週月曜にロンドンで行われた レッド・ツェッペリンのたった1回限りの再結成コンサートのチケット。 このチケットはわずか数分で完売してしまったために、その友人はチケット手配の専門家を雇って入手させたそうで、 手数料を含めて彼女が支払ったのは、チケット2枚で2万ドル近くとのこと。 本当はサプライズ・プレゼントにしたかったそうだけれど、ロンドンまで飛ばなければならないために、チケットが取れた時点で ご主人に話したという。
もちろん チケットに幾ら支払ったかは内緒にしていたらしいけれど、 このコンサートのチケットがインターネット上で1万ドル以上で取引されていることが大きく報じられていたので、 ご主人も薄々値段には気付いていたのでは?というのがその友人の憶測。
そして コンサートが終わった後、「こんな素晴らしいプレゼントは初めてだ!」とご主人が興奮して 涙ぐんでいたので、 彼女も もらい泣きしてしまった という美談で締めくくられていたけれど、 もちろんこれはとってもお金持ちのカップルの話。
私だったら、「クレジット・カードの請求書が来たときに涙ぐむだろうなぁ・・・」と思って 話を聞いていたのだった。 でも、人を喜ばせるためにお金を使えるということは、美しいことであり、幸せなこと。
そもそも、ギフトというものは贈る側が贈られる側をどう思っているかを如実に表すものであるから、 手を抜いたギフトや、明らかにケチったプレゼントを受け取ったら、それが相手が自分に抱いている気持ちと思って 間違いは無いのである。





Catch of the Week No. 2 Dec. : 12 月 第 2 週


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Catch of the Week No. 4 Nov. : 11 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Nov. : 11 月 第 3 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。