Dec. 12 〜 Dec. 18 2011

” Discount Coupon = Unnecessary Spending? ”


今週末の最大のニュースと言えたのは、遂に12月17日をもって、アメリカ兵全員がイラクから引き上げ、正式にイラク戦争が終結したということ。
4500人のアメリカ兵の命が失われ、8000億ドルもの戦費が投じられたイラク戦争であったけれど、オバマ大統領にしてみれば、 これによって選挙公約の1つであったイラク戦争終結を達成したことになるのだった。
その結果、益々厳しくなることが見込まれるのが失業者の職探し。 既に帰還兵たちが、なかなか就職できない状況が指摘される中、ホワイトハウスの見積もりでは向こう5年間に 100万人もの帰還兵がジョブ・マーケット(就職戦線)に加わるとのこと。
政府は帰還兵を積極的に雇い入れる企業には、税金の一部免除などのベネフィットを与えているけれど、 それでも帰還兵の失業率は一般の人々を上回るもので、特に苦戦を強いられているのが、社会経験が無いまま 兵役についた20〜24歳の若い層。この世代の帰還兵の失業率は何と30%となっており、 ニューヨーク・タイムズ紙には、兵役中に2500ドルの月給が支払われていた帰還兵が、 今は両親の家に暮らし、仕事が無いまま、毎週自分の 血漿(けっしょう:血液に55%含まれる成分)を売って、 80ドルの収入を得ている様子が紹介されていたのだった。

失業率がアップするということは、どの国でも治安が悪くなることを意味するけれど、 ニューヨークで今年に入ってから増えているのが、違法に流通している銃による発砲&射殺事件。 発砲事件が起こるのはもっぱらブルックリンとブロンクスで、今週もブルックリンで強盗事件の通報で 現場に駆けつけたNYPD(ニューヨーク市警察)の警官が射殺されているのだった。
この警官は4人の娘を持つシングル・ファーザー(写真右)であったことから、同情した市民から 娘達の大学の学費のための寄付が 寄せられているけれど、ブロンクス、ブルックリンで発砲事件が多いのはこれらのエリアに、若い年齢層のギャング団がいくつも 存在しているため。 それと同時に、銃の違法販売、不法所持が増えていることは ブルームバーグNY市長が 頭を悩ませている問題なのだった。

ところで、2011年に非常に多かった犯罪といえば、アイフォンの盗難、引ったくり事件。
そもそもアイフォンは、中味がどの程度入っているか分からない財布を盗むよりも確実にお金になるのに加えて、 盗まれる側は携帯メッセージを打っている最中など、極めて無防備な状態。 なので、アイフォンの盗難が激増していたのが今年で、これを受けてNYPDでは 地下鉄の駅や車両内におとり捜査員を送り込んで、 わざと盗まれやすいようにアイフォンを使うなどして、取締りの強化を始めたばかり。
それと同時に、今週、NYPDが行なったのが、盗品のアイフォンを再販目的で買い取るビジネスの摘発。 12月16日、金曜の発表によれば、アイフォンを売りに来たのがNYPDの捜査官と知らず、 それを盗品と知りながら 買い取ろうとして逮捕されたのは1週間で141人。 どういったビジネスが盗品のアイフォンを買い取っていたかといえば、 ニュース・スタンド、ピザ店、コンビニエンス・ストア、そしてバーバー(床屋)など、ありとあらゆるビジネス。
ちなみに、バーバーというのは 客の会話から犯罪捜査の手がかりが拾えるスポットとして 長きにわたって警察がマークしてきたビジネスで、 一時、NYPDでは捜査官をヘアスタイリストとしてバーバーに送り込むプロジェクトを行なっていたほど。 しかしながら、捜査官のヘアカットがあまりに下手で、直ぐにクビにされてしまうことから プロジェクトは成果をあげる前に打ち切りになったという 冗談のようなエピソードもあるのだった。


さて、今週土曜日は ホリデイ商戦でスーパー・サタデーと呼ばれる日。 ブラック・フライデー、サイバー・マンデー、グリーン・マンデーなど、昨今はホリデイ・シーズンのショッピングのピーク日に、 様々なネーミングがされているけれど、スーパー・サタデーは クリスマス前の最後の土曜日のことで、 この日は、小売店がクリスマス前の更なるディスカウントをすることから、売り上げが非常に高くなるといわれる日。
今年はクリスマス・イヴが来週の土曜日なので、今週の土曜日がそのスーパー・サタデーであったけれど、 昨今、人々の消費動向に大きな影響を与えているといわれるのがディスカウント・クーポン。 クーポンは、昔ながらの新聞広告から切り出すものから始まって、グルーポン、リヴィング・ソーシャルに代表される インターネット上でオファーされるグループ・ディスカウント・ディールまで 様々。 アメリカではクーポンを使って、月々2000ドル(約15万5550円)以上の節約をする家庭などもあり、 クーポンによってディスカウントを得ることをライフワークにしている人々をフィーチャーした リアリティTVさえ存在しているのだった。
小売のアナリストの分析によれば、グルーポン、リヴィング・ソーシャルなどのネット上のディスカウント・クーポンは、 それを利用する、しないは別として、毎日のように様々なディスカウントがEメールで送付されてくることから、 消費者の意識の中に、「ディスカウントがなければ物を買わない」という概念を植えつけているとのことなのだった。



そのネット上のグループ・ディスカウント・クーポンの草分け的存在であるグルーポンは、2009年6月30日の時点で、15万2203人だった 登録者数が今では1億4290万に達していることが伝えられているけれど、 そのうちの2,950万人は、実際には一度もクーポンを購入したことが無いという。 また、グルーポンを2回以上利用したリピーターは そのうちの1,600万人とのことで、アクティブな利用者と言えるのは 11%程度。大多数は1回のみの利用者であることが明らかになっているのだった。
かく言う私も、グルーポンを利用したのは僅か1回であるけれど、頻繁にこうしたクーポンを利用している人々は、 レストランの食事から、週末のアクティビティ、バケーション、スパ・トリートメントなど、様々な分野で クーポンを利用しているもの。しかしながら メディアの分析によれば、クーポンによって こうした人々の出費が減っているかといえば、 そうではないようで、期限内にクーポンを使うために、外食の回数が増えたり、日頃は行かないスパで トリートメントを受けたり、直ぐに必要でないものを購入するなどして、実際には逆に出費が増えているケースが多いと指摘されているのだった。

更に、購入したクーポンを使うために、予定を立てなければならないので、 その数が増えてくると、生活がクーポンに支配されるように感じるケースもあるようだけれど、 クーポンの利用者同様、ディスカウントをオファーするビジネス側も、1回しかグルーポンやリヴィング・ソーシャルなどの サービスを利用しないというケースは多いと言われるのだった。
というのは、レストランにしてもスパやヘア・サロンにしても、クーポンをオファーするのは、店の存在をアピールし、 クーポンを購入した人々にリピーターになってもらうことを目的にしているため。 ところがクーポンの利用者は、実際にはリピーターになることは無く、同業者から別のディスカウント・クーポンがオファーされれば、 それを購入するだけ。 なのでクーポンをオファーしても、それが売り上げアップや来店客の増加に繋がらなかったビジネスは、それ以降 クーポンのオファーを止めてしまうとのことなのだった。

さらに、アメリカではレストランやサロンの支払いには チップが付き物であるけれど、クーポンの利用者は 往々にして ディスカウント後の価格に対してチップを支払うので、働く人間にとっては同じサービスをして、チップが減らされるということ。 そもそも、クーポンを使おうという来店客は チップをはずまない ”チープ・チッパー”が多いという 偏見をもたれがちなことも手伝って、NYポスト紙は レストランのウェイト・スタッフがクーポンを持参する来店客を冷遇しがちであることを指摘していたのだった。



確かにクーポンを使っている人は、お金が余っているとは考え難いもの。 でも、歴史的なリセッションを経験したアメリカでは、「人からどう見られようと、レジで時間が掛ったとしても、 クーポンを使う」という人は多いのだった。
それでも「クーポンの使用を控えるように」とアドバイスされるのが、知り合って間もない女性とのデートで クーポンを使うこと。 かつては、ファースト・デートでドギーバッグ(残った食べ物の持ち帰り)を頼むことがディール・ブレーカー、 すなわち、相手に嫌われるポイントとされていたけれど、 今やそれと同様に、デートの際に避けるべきと言われているのがクーポンの使用。
女性は、自分が同じようにクーポンで節約をしていたとしても、男性がマメにクーポンを購入して、 それをプリントアウトして持参する様子には、全くセックス・アピールを感じないのだそうで、 ケチなイメージや女々しい印象を与えるとのことが指摘されているのだった。

その一方で、難しいのが友達と一緒にディナーに出かけて、クーポンを使おうというケース。
今日、12月18日付けのニューヨーク・タイムズ紙のスタイル・セクションのソーシャルQ&Aコーナーには、 「友人とディナーに出掛けて、ディスカウント・クーポンを支払いに使って良いものか?」という質問が寄せられていたけれど、 実は数ヶ月前に、私の友人がレストラン・クーポンの支払いについて文句を言っていたことがあったのだった。
私の友人は、彼女の職場仲間がアレンジした4〜5人程度のディナーに出かけたというけれど、 その場に居たのは全員女性で、料理をシェアした上に、お酒を飲まない人が混じっていたこともあって、 1人当たりのディナーの支払いは46ドルであったという。 そこに登場したのが、食事をアレンジした職場仲間が持ち込んだクーポン。
そのクーポンの価格は25ドルで、レストランで50ドルのディスカウントが得られるというもの。 ディスカウントを有効にするためには、100ドル以上をオーダーしなければならないのだった。
友人の職場仲間は、クーポンを使いたくて そのレストランでのディナーをアレンジした訳だけれど、 支払いの段になって 彼女はクーポンを出してきて、「私の支払いはこれで50ドルだから、4ドルのおつり」といって、クーポンと1人当たりの支払い額の差額である 4ドルを しっかりお財布の中にしまったという。
この様子は私の友人を含む その場に居た女性達に 「クーポンの使用のために利用された」という印象を与えてしまい、 そのレストランが大して美味しい訳でもなかったことも手伝って、 後に友人達はこぞって その職場仲間の悪口を言うことになったのだった。

友人の言い分は、クーポンが使いたいなら 一緒に出かけた人とも、そのディスカウントをシェアするべきというもの。 「100歩譲って、クーポンで支払うのは仕方が無いとしても、おつりとして4ドルを着服するのは ケチにもほどがある」と言っていたけれど、 私もクーポンの差額をおつりとして着服するのは、行き過ぎだと思うのだった。
加えて、ディスカウントをシェアするべきという言い分にも一理あると思うのは、そのディナーの1人分の支払いが46ドルであったということ。 すなわち彼女1人分のオーダーでは、クーポンを有効にすることが出来ない訳で、彼女がディスカウントを得られたのは 一緒に食事する友人達が居てくれたからのことなのだった。
ちなみにNYタイムズ紙のQ&Aの回答は、クーポンを支払いにあてるのは 間違いではないけれど、「自分だけディスカウントを得るのは あまり良いイメージを与えない」として、食事をする相手の分もクーポンを購入することを勧めていたのだった。

友人の職場仲間のケースはクーポンでお金を節約することばかり考えて、交友関係にダメージをもたらしている例と言えるけれど、 見方を変えれば、その職場仲間は人間的に身勝手なところを クーポンをきっかけに露呈しただけとも言えるもの。
たかだかクーポンとはいえ、その利用法には 人間性や損得勘定の的確さが現れると言えるのだった。
例えば、私の別の友達はよく、彼女の母親がクーポンを使おうとするあまり、余計な出費ばかりしている とこぼしているけれど、 その典型例がガソリンのディスカウント・クーポンを使うために、遠くのスタンドまでドライブして給油をしているというもの。 これは走行距離を考慮すると、殆ど節約になっていないとのことなのだった。

なので、私の友達は母親のような クーポンのヘビー・ユーザーは短絡的な人間が多いと考えているけれど、 クーポンというのは、言ってみれば消費者にお金を使わせるための”イルージョン/幻覚”を与えるもの。 なので、楽観的で騙されやすい人ほど クーポンにはまり易いのは事実だと思うのだった。
私の考えでは クーポンというのは本当に必要なもの、本当に欲しいもの以外には、どんなにオファーが魅力的でも 使わないのが一番賢明。
クーポンのディスカウントで25ドルを節約したとしても、そのディスカウントを得るために使った26ドル以上が 不必要な出費であった場合、結局はそのクーポンでお金を失うことになるのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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