Dec. 10 〜 Dec. 16, 2012

” Mission Impossible ”

今週、アメリカで最大の報道となったと同時に、アメリカ史上最悪の惨事の1つとなったのが、12月14日、金曜午前に起こったコネチカット州の サンディ・フック・エレメンタリー・スクールでの銃乱射事件。
20人の6〜7歳の子供と、6人の学校関係者、及び容疑者の母親、計27人が犠牲になったこの事件は、 アメリカ国内はもちろん、世界中に大ショックを与えていたけれど、容疑者のアダム・ランザは20歳(写真上右)。
離婚した母親、ナンシー・ランザと一緒に暮らしていた彼は、母親が合法的に入手していた銃で、まず彼女を殺害してから、 サンディ・フック小学校での殺戮を 繰り広げており、通報を受けた警官が到着したのを察知して、 自ら自殺を図っているのだった。

このように犯人が逃走、脱出計画など無しに犯行に及び、最後に自殺を遂げるのが銃乱射事件のパターン。犯人に前科が無いのも 銃乱射事件の特徴で、アダム・ランザも その例外ではないのだった。
FBIのプロファイラーが、連続殺人犯については、その犯行パターンや性格、特徴を細かに把握しているのに対して、 銃乱射事件の犯人については 情報分析が遅れているのは、乱射事件の犯人のほぼ全員が初犯で、事件の最後に自殺することから、 犯行に連続性が無いためと言われており、本人が何らかの 遺書や声明文を残さない限り、動機さえも不明なケースが多いことが指摘されているのだった。

今回のアダム・ランザのケースもまさにその1つで、当初、彼の母親がサンディ・フック小学校の教師であると報じられていたものの、それは誤報で、 警察の調べでは、 アダム・ランザ本人が かつて通っていたのがこの小学校。
アダム・ランザは 軽度の自閉症で、対人コミュニケーションにおいて、特異性が認められるアスパージャー(アスペルガー)症候群と 診断されており、幼い頃は水を恐れ、ハイスクール時代は、廊下の壁に身体を摺り寄せるように 人を避けて歩いていたという。 物静かで、「誰も彼の本当の性格を知らなかった」 というのが当時のクラスメートの証言。
また殺害された母親の友人によれば、アダム・ランザは普通に人とコミュニケートするのが極めて苦手で、人と目を合わせることすらも出来ない状態であったという。

その母親、ナンシー・ランザは銃と射撃を趣味にしていたそうで、2009年に離婚をして、コネチカットで暮らすようになってから、 護身用に銃を買ったというのが、彼女の姉のコメント。 でも、彼女の銃への思い入れは、護身用以上のものがあったようで、ナンシー・ランザの飲み友達であった男性は、 彼女が 古いライフルのコレクションを得意気に彼に見せた際のエピソードを語りながら、彼女が息子に銃の趣味を受け継いで欲しがっていたとも語っていたのだった。
ナンシー・ランザは、頻繁にアダムを連れて、シューティング・レンジに出かけており、 地元の銃愛好家コミュニティに属していたこと、そして 銃、射撃への情熱が、コミュニケーションに問題がある 息子との絆になっていたことも窺わせているのだった。



犯行に使われた武器は、遠距離からでも標的を正確にパワフルに撃ち抜くことから、銃愛好家の間で最も人気が高い ”ブッシュマスター.233”と呼ばれる半自動小銃(写真上)で、 小売価格 800〜1200ドル(約6万6400円〜9万9600円)で販売されているもの。
これ以外にも、ライフルと9mmのピストルが事件現場から押収されているけれど、それだけパワフルな武器を 使っているにも関わらず、射殺は 俗にエクスキューション(処刑)・スタイルと呼ばれる、ごく至近距離からの発砲で、 全ての犠牲者が2発以上の銃弾を浴びているとのこと。 そのうち7人の犠牲者を担当した検死官によれば、 その全員が3発以上、最高で11発を打たれて死亡。母親のナンシー・ランザも頭部を数回打たれて死亡しているのだった。

FBIの事件プロファイラーは、通常、被害者に必要以上の銃弾を浴びせているケースでは、その動機が「怨恨」であると 判断する場合が殆ど。でも これが大量殺人の場合は、確実に殺害することを目的とした発砲と判断すべきのようで、 ハンティングのように逃げ惑う標的をある程度の距離から狙うのではなく、至近距離から撃っていたことも、確実な殺意を裏付けているのだった。
でもその殺意の動機は、本人が死亡してしまった今では、この先、どんな事実が明らかになっても推測の域を出ないもの。 アダム・ランザが母親と暮らしていた家からは、破壊されたコンピューターが押収されており、警察はそのコンピューターのデータから 何らかの動機の手がかりが見つかることに 期待を寄せているのだった。



今回の事件を受けて、アメリカでは 再び銃規制を求める世論が高まっており、週末にはソーシャル・メディア上で、銃規制を求めるキャンペーンが かなり大きなムーブメントになっていたのだった。
それもそのはずで、今週のアメリカでは 火曜日にも、オレゴン州のショッピング・モールで 銃の乱射事件が起こっており、犠牲者2人を殺害して、犯人が自殺しているのだった。
それとは別に、週明けにはニューヨークのマンハッタン、ミッドタウンの学校から僅か1ブロックのエリアで、白昼に男性が射殺される事件(写真上左)が発生。 この事件については、男性がドラッグ絡みの前科など、一癖ある経歴の持ち主であったことから、無差別の殺人ではなく、 「暗殺」という見方が濃厚なのだった。
それ以外にも 2週間前には、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)のカンサスシティ・チーフの プレーヤー、ジョヴァン・ベルチャー(25歳、写真上右)が、彼の子供の母親である ガールフレンドを射殺した後、自ら銃で自殺した事件が ショッキングに報道されたばかり。
加えて、先週にはオクラホマ州の高校生(18歳)が銃乱射事件を計画していることが発覚して逮捕されており、今週末には カリフォルニア州ニューポートビーチのショッピング・モールのパーキングで、被害者は出なかったものの、男性が銃で50発を発砲して逮捕されているのだった。

銃による大量無差別殺人で、今年記憶に新しいものと言えば、コロラド州オーロラの映画館で起こった事件。 これが2012年7月20日のことであったけれど、8月5日には、ウィスコンシンのシーク・テンプルで6人が射殺され、犯人が自殺。 翌月9月27日には、ウィスコンシン州の工場で、解雇の腹いせに男性が発砲し、職場の5人が殺害され、数人が怪我をする事件が起こっているのだった。

データによれば、アメリカ国内で1982年以降に起こった大量殺人事件は、少なくとも62件。 そのうちの半分が学校もしくは、職場におけるもので、残りの半分はショッピング・モール、地方政府のオフィス、レストランなど。
大量殺人犯は1人の女性を除いて、全員が白人男性で、平均年齢は35歳、最年少は何と11歳。 殆どが、半自動小銃やミリタリー(軍)用の銃を合法的に入手して、犯行に及んでいるのだった。

アメリカでは通常、こうした銃による大量殺人が行なわれた翌日から 大きく伸びるのが銃の売り上げ。 これは銃規制を恐れて、愛好家が銃を買い占めるためであるけれど、実際にはアメリカ国内での銃規制を求める世論は、 こうした事件が増えるにつれて、減りつつあるのが実情なのだった。
世界中に衝撃を与えたコロンバイン高校における銃乱射事件の直後である1999年には 銃規制を求める国民が67%であったのに対して、2001年にはそれが54%となり、2011年には51%と、僅かに過半数という程度にまで減少。
今回のような大量殺人が起こって、一時的に銃規制を求める声が高まることはあっても、それが政府を動かす世論になることは、 殆ど見込めないのが実情なのだった。



アメリカで銃規制が進まない最大の要因になっているのが、NRA(ナショナル・ライフル・アソシエーション/全米ライフル協会)の存在。 NRAは共和党の支持母体でもあり、過去に銃規制を打ち出す民主党の政治家を、 その資金力でことごとく潰してきただけでなく、 民主党の政治家にも献金とロビー活動を行なうことによって、度々議案として浮上する銃規制を、国民が知らず知らずのうちに消去することに成功しているのだった。
さらにNRAは、毎回こうした大量殺人が起こるたびに、スケプゴートを見つけることにも長けており、 通常、こうした事件が起こるたびに犠牲になるのが、ヴァイオレントな映画、ラップ・ミュージック、ビデオ・ゲームといったエンターテイメント。
人を殺害するのが銃で、音楽がゲームでは 人は殺害できないにも関わらず、こうしたヴァイオレントなカルチャーが 「大量殺人の動機を煽っている」、「暴力や殺人に対する感覚を鈍化させている」として、 直接的な原因=銃より、間接的な原因に関心を向けさせるのもNRAの手法なのだった。

また、銃の愛好家であるナンシー・ランザが、護身用と称して、それに必要以上の銃を購入することからも分かる通り、 銃という武器が持つパワーに魅力を感じて、カルト的にガン・カルチャーを擁護する人々が、アメリカ国内に 非常に多いのも、また事実。
それと同時にアメリカにおけるライフル業界は、多数の労働者を雇用し、多大な利益を生み出す一大産業。 NRAが膨大な資金に支えられた、強大なパワーを持つ団体であるのは、その業界の大きさを象徴しているのだった。

その一方で、インターネット上で週末に話題になったのが、精神を病んだ息子を持つ母親、ライザ・ロングが書いた 「I am Adam Lanza's Mother/私はアダム・ランザの母親です」というショッキングなタイトルのブログ。
この母親の13歳になる息子、マイケル(仮名)は、頭脳明晰で、 IQも極めて高く、日頃は普通に振舞っているものの、 一度腹を立てると、恐ろしいほどに凶暴になるとのことで、 「いつか息子がアダム・ランザと同じことをするのでは?」という、母親の不安な気持を綴ったのがこのエッセーなのだった。
それによれば、数週間前に母親が 「返却期限が切れた図書館の本を返すように」 とマイケルに注意したところ、 彼は 腹を立てて、母親の首にナイフを突きつけて、彼女を殺して、自分も自殺すると脅したとのこと。
同様の行動は頻繁に起こっており、警察が介入したケースもあったようだけれど、 精神治療をしようにも、原因が分からず、現在アメリカで最新の精神治療を 大金を投じずに受けられるのは 刑務所だけ。でも息子を刑務所には行かせたくないとして、この母親は 「銃規制もさることながら、精神病について論議すべき時」として、精神病患者を持つファミリーが 助けを必要としていることを訴えているのだった。

このエッセーは、「The Anarchist Soccer Mom/ジ・アナーキスト・サッカー・マム」という、 サッカーをする子供の母親のためのブログに掲載されたものが、一躍 大きなセンセーションになったものだけれど、 20人もの幼い子供達が犠牲になった今回の事件が、精神病の人々の問題に摩り替えらてしまうことがあるとしたら、 それは、またしてもNRAの筋書き通りの 銃規制回避に繋がってしまうように思えるのだった。

イギリスでは、16人の小学生が犠牲になった大量殺人がきっかけで厳しい銃規正法が成立したというけれど、 アメリカのガン・カルチャーはそれよりも根深く、大金が絡むビジネス。 それだけに、この事件がきっかけで銃規制が出来るとすれば、ミリタリー・スタイルの銃の購入を難しくする、もしくは販売を禁じるのがせいぜい。
そもそも現行法では、警察でさえ使用が許されない武器を、一般人が合法的に入手できるのがアメリカの実情。 したがって、今回のような事件の通報を受けて 駆けつける警官は、犯人が自分達より性能が良い武器を所持していることを想定する必要があるのだった。

タイトルに書いたように、それほどまでにアメリカにおける完全な銃規制は”ミッション・インポッシブル”と言えるもの。 事実、今回の事件がきっかけで、銃を取り締まるどころか、逆に浮上しているのは、武装した警官を全ての学校に配備する計画。
アメリカではガン・バイオレンスが起これば 起こるほど、銃の規制が難しくなるという パラドックスが 構造的に成り立っているのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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