Dec. 15 〜 Dec. 21  2014

” Ugly is the New Sexy? ”
アグリー・イズ・ニュー・セクシー ?


今週のアメリカでは、キューバとの国交が正常化されるという政治的に大きな動きがあったものの、 最も報道時間が割かれていたのは やはりソニーに対するサイバー・アタックのニュース。
ハッカーが ソニー製作のキム・ジョン・ウン暗殺を描いたコメディ、「インタビュー」を上映した映画館に対して、 9・11のようなテロ行為の予告をしたことから、大手映画館チェーンがこぞって同作品の上映を拒否。 これを受けてソニーが映画の封切をキャンセルしたことが、大きな波紋を広げていたのだった。
同事件の捜査に当たっていたFBIは、ハッキング行為が北朝鮮から台湾を経由して行われた証拠を掴み、 北朝鮮がこの事件に関与していると断定。加えてソニー関係者、および国外からの ハッキングのアシストがあった可能性も示唆しているのだった。

映画封切を断念したソニーに対しては、ジョージ・クルーニーを含む 多くのセレブリティが 「国外の独裁者にアメリカ国民がどんな映画を観るべきかを コントロールされるのは馬鹿げている」として、ソニーを痛烈に批判。 オバマ大統領も テロに屈して封切をキャンセルしたソニーの姿勢を「間違い」と プレス・カンファレンスでコメントしていたのだった。
これに対してソニー側は、「上映を拒否したのは映画館側であって、映画館が上映しない限り ソニーは映画を封切ることはできない」とテロに屈した訳ではないことを強調。 今後、インターネットによるストリーミングなど、何らかの方法での映画公開を検討していることを 明らかにしているのだった。

一方、同事件に対して 全くリアクションを控えているのが他の映画スタジオ。 今週には ジョージ・クルーニーが 「インタビュー」封切のための協力を ハリウッドのパワー・ プレーヤー達に働きかけたものの、 その全員が彼の申し出を無視したとのこと。 唯一、ソニーにサポートをオファーしたのは共和党で、 もし映画を公開した場合は 支持者にチケットを買うように働きかけると同社に通達しているのだった。

当然のことながら、北朝鮮政府は事件への関与を否定。アメリカとの共同捜査を 申し出て、それにアメリカが応じない場合の報復を匂わせる通達をしているけれど、 オバマ大統領は北朝鮮政府が これまで様々な問題の責任を否定してきたとして、 それには取り合わない姿勢。 その代わりにアメリカが捜査協力を仰いだのは中国で、 それというのも北朝鮮のサイバー・インフラストラクチャーには、中国のモデルが用いられているためなのだった。




でも週末に入って、ソニーのサイバー・アタックよりも大きく報じられるようになったのが、 12月20日、土曜の午後にパトカーの中でランチ取っていたNYPD(ニューヨーク市警察)の警官2人が、 至近距離から処刑スタイルで射殺されたという事件。
事件が起こったのは、ブルックリンのベッドフォード・スタイベサントで、同エリアは治安が悪いため、 警官が自治体の依頼を受けてパトロールに来ていたとのこと。
犯人は、メリーランド州ボルティモア在住のイズメイル・ブリンスリー(28歳)で、その日の朝にガールフレンドに 発砲し、怪我を負わせてから、母親が住むブルックリンにやってきて犯行に及んだとのこと。 ブリンスリーには複数の州での計19の逮捕歴がある上に、精神障害も患っており、警官を射殺後、彼自身も自殺を図っているのだった。
犯行前にはガールフレンドのインスタグラムのアカウントを使って、 警官によるバイオレンスで命を落とした ミズーリ州のマイケル・ブラウン、ニューヨークのエリック・ガーナーの復讐のために、 警官を射殺することを明らかにしていたという。

このことをボルティモア警察が NYPDに警告した直後に起こったのが同射殺事件。 言うまでもなく NY市民とNYPDに大ショックを与えた同事件は、その直後からメジャー・ネットワークで 大報道されるニュースになったのだった。 ソーシャル・メディア上では、それまでの#Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)というハッシュタグに替って、 トレンディングになったのが #NYPD Lives Matter、Blue Lives Matter(どちらも NYPDの命は大切という意味)という ハッシュタグ。
その一方で、警官慈善協会のプレジデント、パトリック・リンチは、先週土曜日にニューヨーク市内で、 約3万人が参加して行われた警察への抗議デモで、 「警官を殺せ」と叫んでいた人々に対し、「There is blood on many hands」と いう表現で、「2人の警官の射殺事件に加担したのと同じ」との批判を展開。 さらに、その反NYPDのムーブメントが NY市長のオフィスからスタートしているとして、 デブラジオ市長に対する事実上の宣戦布告とも取れるアナウンスメントを行ったのだった。

そもそも、デブラジオ市長はNYPDによる「ストップ・アンド・フリスク」という人種偏見に基づく捜査に 反旗を翻し、黒人&ヒスパニック票を集めて当選した存在。 それだけに NYPDを全面サポートしてきた前ブルームバーグ市長とは異なり、 デブラジオ市長は 就任直後から NYPDと歩調が合わない、チグハグな様子を見せていたのだった。
でもここへ来て、特にNYPDの関係者が眉を吊り上げたのは、 ただでさえ市民からの警察への反感が高まっている中で、 市長が 自分の黒人ハーフ息子に対して 「警官には気をつけるように言っている」と公にコメントしたこと。
そんな市長に対するNYPDの反感は、土曜日の事件でピークに達し、 射殺された警官が収容された病院に市長が入ってきた際には、警官が全員 市長に対して 背中を向けるという無言のプロテストを展開。
市民感情は、同事件でNYPDに同情する方向に大きくなびいた一方で、市長とNYPD関係は これまで以上にアグリーな様相を呈してきたのだった。





ニューヨーク市長とNYPDの関係がアグリーになるのは、市民としては歓迎できないことであるけれど、 世の中には、アグリーであれば あるほど歓迎されるものもあって、それが アグリー・クリスマス・セーター。
アグリー・クリスマス・セーターとは、その名の通り、クリスマス・モチーフを編みこんだ、みっともないほどにアグリーなセーターのことで、 かつてはアメリカ人の間で、最も迷惑なクリスマス・プレゼントの筆頭に挙げられていたもの。 それが3年ほど前から、ジョークで着用することが徐々にホットなトレンドとなり、今年はアグリー・クリスマス・セーターが空前のブームに なっているのだった。 アグリーであればあるほど、人々がエキサイトして着用し、極めてアグリーなセーターを着ている人を街角で見かけると、 一緒に写真を撮影するほどのブームになっているけれど、 このところのアメリカは ちょっとしたクラフト・ブーム。なので、人々が よりセーターをアグリーにするために、 自分で手を加えて、自分だけの極めつけのアグリー・セーターに仕上げるというのもトレンドになっているのだった。




アメリカ社会がアグリー・クリスマス・セーターに夢中になる背景には、ソーシャル・メディアの影響があって、 今や多くのアメリカ人が、日常生活の中で ソーシャル・メディア上で 何らかのバズをもたらすこと、 トレンディングになっていることをトライしては、その写真やビデオをポストしている状況。 したがってアグリー・クリスマス・セーターのアグリーさを競うのもその一環であるけれど、 アグリー・クリスマス・セーター・パーティーなるものも全米各地で開催されていて、 周囲の注目を集めるアグリーなセーターでスター気分を味わったり、 単に友人達とアグリーなセーターを着用するジョークを楽しんだりと、 その底辺にあるのは、ホリデイ・スピリッツを盛り上げるエンターテイメント性でもあるのだった。



ところで、アグリー・クリスマス・セーターほどアグリーではないものの、見場が良いわけではないので、 アグリー・ダック(醜いアヒルの子)からのネーミングで、”ダック・ブーツ”と呼ばれているのが L.L.ビーンのビーン・ブーツ。
世界的トレンドをもたらしたUggブーツも、そのネーミングは”Ugly/アグリー”から来ていることは有名であるけれど、 1912年に生まれたL.L.ビーンのビーン・ブーツも、102年の伝統を持つクラシックな定番とは言え、 アメリカではやはりアグリーなカテゴリーに入るブーツ。
でもそのビーン・ブーツが2014年は空前のベストセラーになっていて、今年だけで L.L.ビーンが販売した ブーツの数は、45万足以上という同社史上の最高記録。 L.L.ビーンでは、昔ながらの生産工程を続けているため、製作工程の一部は今も職人のハンドメイド。 このため、L.L.ビーンでは生産ラインを55パーセント拡大し、100人の新スタッフを雇い入れ、 生産シフトを増やしているものの、全く生産が追い付かない状態。 一部のスタイルは 現在オーダーしても 出荷されるのは2015年の4月という人気ぶりで、 Eベイでは 小売りで109ドルのビーン・ブーツに 約400ドルというプレミアム価格が付いているのだった。

今年、大学生の間で行われたアンケート調査によれば、L.L.ビーンは今やナイキを押さえて、 履きたいシューズのNo.1 ブランドになっているけれど、若い層の間で、 L.L.ビーンがリバイバル的な大人気になっているのは、過去3年ほど続いている Lumberjack chic / ランバージャック・シック のトレンドの影響。
ランバージャックとは ”木こり”や木材職人のことで、 チェックのシャツを着用し、ファッショナブルなバックパックを持って、足元はビーン・ブーツやティンバーランド系のアウトドア・ブーツという ランバージャック・スタイルは カレッジの学生を中心に好まれているトレンドであるものの、セレブリティやファッショニスタも着用するスタイル。
今年2月に行われたNYファッション・ウィークでは、連日雪が続いたため、雑誌のエディターやスタイリストが ランバージャック・シックでファッション・ショーに姿を見せており、 その際も、防水効果のあるL.L.ビーンのビーン・ブーツが人気を集めていたことが伝えられているのだった。

要するに アグリー・クリスマス・セーターはユーモアとフェスティビティ、ビーン・ブーツは機能性やクラシックなスタイルが そのアグリーさと共にアピールしている訳であるけれど、 ココ・シャネルがその語録で「醜さには慣れるが、だらし無さには我慢できない」と語った通り、醜さというのは必ずしも ネガティブに働く訳ではないもの。 それどころか、まともで美しいものが もたらせないようなメガ・ブームやセンセーションを生み出してしまうこともあるのだった。


Will New York 宿泊施設滞在



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。




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