Dec. 17 〜 Dec. 23, 2012

” Secret Double Life ”

今週も、サンディ・フック・エレメンタリー・スクールの銃乱射事件の報道に最も時間が割かれていたアメリカ。
中でも今週、最も報道と非難の矛先が向けられていたのが、NRAこと、ナショナル・ライフル・アソシエーション。 先週のこのコラムでもお伝えしたように、アメリカの銃規制の最大の障壁になっているのがこの団体であるけれど、 金曜にはそのNRAのエグゼクティブ、ウェイン・ラピエールが記者会見を行い、 「銃を持った犯罪者に対抗出来るのは、銃を持った警備しか無い」とコメント。 それと同時に、「メディア報道のせいで 銃が不当に規制されようとしている」、 「ビデオ・ゲームやハリウッド映画のヴァイオレンスの方が規制されるべき」 といった、いかにもNRAらしい理論を展開。
当然のことながら、同会見は人々とメディアの顰蹙を買い、 翌日土曜日には、保守派で知られるニューヨーク・ポスト紙でさえ、写真上右のようにウェイン・ラピエールを「Gun Nut (銃気違い)」と厳しく批判。
例によって、銃愛好家が規制を恐れて銃を買い貯めする中、 銃規制を求める動きも大きく広がっており、多くのセレブリティが出演する銃規制を求めるCMの放映が週末にスタート。 ニューヨーク・デイリー・ニュースは、銃規制の署名運動をサイト上で展開しており、 ニューヨークを含む全米各地でデモも行なわれているのだった。

ところで、今週NYPD(ニューヨーク市警察)が発表したのが、 コロラド州オーロラの映画館で起こった銃乱射事件、 サンディ・フック・エレメンタリー・スクールの事件を含む、過去324件の 銃による無差別殺人を分析した 210ページに渡るレポート。 それによれば 銃乱射事件の犯人は、その36%が2つ以上の武器を所持しているとのこと。
その場に居合わせた人間が取るべき行動は、当然のことながら「避難する」、「隠れる」ということであるけれど、 この2つのオプションが無い場合にするべきなのが、行動を起こすこと。 最も効果的なのは、射殺犯に向かって物を投げることで、投げる物が無い場合には、何かを振り回す、 もしくは怒鳴るなど、相手の気を散らすのが生き残る道。
事実、射撃というのは 日頃からトレーニングをしていても、気を散らされると、それほど簡単なものではないもので、 これは犯人を落ち着かせようとするよりも、遥かに効果的であると指摘されているのだった。



その一方で、今週、木曜に大きく報じられたのが、 元オリンピックの中距離陸上ランナー、Suzy Favor Hamilton/スージー・フェイヴァー・ハミルトン(44歳)が、 ラスヴェガスの高級娼婦としての ダブル・ライフを送っていたことを告白、謝罪したというニュース。
彼女は1992年、1996年、2000年のオリンピックに出場したランナーで、リタイアした後も、 ディズニーが主催するファミリー・イベントにゲスト出演したり、 モチベーショナル・スピーカーとしても活動してきた存在。 そんな彼女が、ラスヴェガスの高級エスコート・サービスのウェブサイトで、 写真上左の ニューヨーク・ポスト紙の表紙のような、 セクシーで挑発的な写真とプロフィールを ”Kelly / ケリー” という名前を使って掲載。 1時間600ドル、12時間で4,000ドルという料金をクライアントに請求していたニュースは、 かなりショッキングに報じられていたのだった。

この事実が明るみに出たきっかけは、彼女のクライアントが メディアに情報を漏らしたためで、 報道の直前に、スージー・フェイヴァー・ハミルトンは、彼女のプロフィールをウェブサイトから削除。 その後、 3183人がフォローする彼女のツイッター・アカウントを通じて、 謝罪をすると同時に、事情を自ら説明しているのだった。
それによれば、彼女は 現在7歳になる娘を出産したのを機に、うつ病気味になり、 彼女自身の人生と、結婚生活において難しい局面を迎えていたとのこと。 「周囲が自分の行動を理解してくれることは期待していない」としながらも、「エスコートとして働くことが、 自分の抱える問題を緩和するメカニズムを持っていた」と語り、生活のためにエスコート・サービスをしていた訳ではないこと、 夫がそれを承知で、何とかやめさせようとしていたこと、 現在、彼女はサイコセラピストに助けを仰いでいることを同時に告白しているのだった。



私が、スージー・フェイヴァー・ハミルトンの記事を読んで 思い出したのが、写真上の2本の映画。
いずれも、女性のダブルライフを描いたもので、写真上左側は、1967年に封切られたルイス・ブニュエル監督作品、 カトリーヌ・ドヌーヴ主演の 「Belle de Jour / ベル・ドゥ・ジュール(邦題:昼顔)」 。 右側は、1977年に封切られた、若かりし頃のダイアン・キートンの代表作、 「Looking for Mr. Goodbar / ルッキング・フォー・ミスター・グッドバー(邦題:ミスター・グッドバーを探して)」。

「昼顔」では ヒロイン、セヴリーヌは 裕福な医師を夫に持ち、何不自由の無い生活を送りながらも、幼い頃に受けた性的虐待が原因で、 夫との性生活が食い違う一方で、マゾヒズムに満ちた 淫らなファンタジーを描いている若く、美しい妻。 その彼女がある日、テニス・クラブの友人が高級売春婦をしていると聞いて 自らも のめりこんでいくのが、 夫が仕事をしている平日の午後のみ、 売春婦として働くダブル・ライフ。
徐々に性格が明るくなり、夫との生活がどんどん改善される一方で、売春の常連客である若いギャングに気に入られてしまうセヴリーヌ。 やがて、ジェラシーから若いギャングが 夫に銃弾を浴びせ、その逃走中に射殺され、夫は命は取り止めたものの、半身不随で車椅子の 余生を強いられる身。 しかしながらラスト・シーンは、セヴリーヌが 健康な夫との幸せな生活をファンタジーとして思い描く様子で締めくくられているのだった。

「ミスター・グッドバーを探して」で、ダイアン・キートン演じる独身のヒロイン、テレサは、 幼い頃に健康を煩って手術をし、その大きな手術の傷が、 性生活のコンプレックスになっているという設定。 彼女は、昼間は 聴覚障害を持つ子供の教師として働き、その仕事を評価されながらも、平凡で退屈な生活を送る身。 そんな彼女は、シングルズ・バーに通って ワンナイト・スタンド(一晩のセックス)の相手を見つけるエキサイトメントに目覚め、 それが徐々にエスカレート。ラフなセックスを好むあまり、その相手もどんどん低俗化していき、 やがては教え子のクラスをすっぽかすまでに生活が乱れてしまう。
でも年末を迎えて 生活を改める決心をした彼女は、 「今日が最後」と 大晦日の夜に バーに出かけ、そこで出会った男性、ゲーリーをアパートに連れ帰るけれど、 ゲーリーは性的コンプレックスを抱える精神が不安定な帰還兵。 テレサの一言にキレてしまった彼は、彼女に襲い掛かり、やがてナイフで何度も彼女を突き刺して殺害してしまうのが結末。
テレサが死の2〜3日前に、フラッシュ・ライトのような照明を部屋に設置するけれど、そのフラッシュ・ライトの中で、 殺害される彼女の表情が映し出されるラスト・シーンは、私がこれまで観た映画の中で最もショッキングなものの1つなのだった。

「昼顔」は、セヴリーヌが描くファンタジーで幕を開け、ラスト・シーンも彼女のファンタジーで幕を閉じているけれど、 オープニングが 恵まれながらも、退屈な生活を送る彼女の 暴力的で淫らなファンタジーであるのに対して、 ラスト・シーンは車椅子生活になった夫の面倒を見る彼女の 幸福で健全なファンタジー。
同映画は人によっていろいろ解釈があるけれど、私は人間が自分の生活に欠けているものを求める姿と解釈しているのだった。

「ミスター・グッドバーを探して」はニューヨークに実在した学校教師の殺人事件を基に書かれた同名小説の映画化で、 女性が性の自由を模索し始めた70年代を背景に、ヒロインが教師としての退屈な昼間の生活とは正反対の、 ワイルドなセックスのスリルとエキサイトメントに 中毒的にはまっていく様子が描かれたもの。
どちらのヒロインも、性的コンプレックスを セックスで解消しているのが共通点で、 どちらの作品にも特定のパートナーが登場するものの、ヒロインがパートナーとのセックスは楽しんでも、恋愛を求めている訳ではない 様子が描かれているのだった。



スージー・フェイヴァー・ハミルトンのケースが、この2本の映画のヒロインと異なると思う点は、 彼女が Attention Seeker / アテンション・シーカー (関心や注目を集めたがる人物)であるという点。
2012年のロンドン・オリンピックの際には、女性アスリートがスポーツの話題性を煽るために、 雑誌のグラビアにヌード/セミ・ヌードで登場するケースが少なからず見られていたけれど、 彼女は2000年のシドニー大会の時点で、既にそれを実践していた存在。 エスコート・サービスのウェブサイトに登場するまでもなく、服を脱ぐのを厭わないアスリートであったことが指摘されているのだった。
彼女の精神的な落ち込みが始まった原因と言われるのが、2000年のシドニー大会の1500メートル走において、 ラスト150メートルで転倒し、メダルを逃したこと。 1999年に弟が自殺し、その弟の死を乗り越えて メダルを獲得するという、 オリンピック報道にありがちな 絵に描いたようなヒロインのシナリオが、まさかの転倒で終わったのは 当時、ナイキのTVCMにも出演し、注目を集めていたスージー・フェイヴァー・ハミルトンに かなりの精神的打撃を与えたことは、本人も認めているのだった。

その後 リタイア、出産、そして40代を迎えて、人々やメディアからの関心と注目がどんどん失せていくのを味わった彼女であるけれど、 ラスヴェガスのエスコートの世界では、 クライアントから「高額に値する!」といった絶賛の書き込みがされる存在で、 人気ランキングではNo.3。 かつてメディアの注目を集めていた スター・アスリートにとって、そのエゴを満たす世界が広がっていたことを窺わせているだった。

そんな彼女のアテンション・シーカーぶりもあって、インターネット上の一般の人々のリアクションは、 同情の声は全くと言って良いほど見られないのが実情。
彼女をモチベーショナル・スピーカーとしてイベントに迎える予定だったディスニーは、 当然のことながらそれをキャンセルし、FBIが彼女に対して売春容疑の捜査に入ったとも言われているのだった。

ところで、先述の「昼顔」は、カトリーヌ・ドヌーヴのコスチュームをイヴ・サンローランが担当し、シューズがロジェ・ヴィヴィエ。 この映画の中でカトリーヌ・ドヌーヴが履いていたロジェ・ヴィヴィエのバックル付きのシューズは、今でも「ベル・ドゥ・ジュール」というネーミングで、 同ブランドのシグニチャーになっているもの。同作品の中では、ヒロインは裕福な夫の収入によって、それらを手に入れている設定。
一方、スージー・フェイヴァー・ハミルトンは、生活のためにエスコートをしていた訳ではないと言いながら、 そのプロフィールでは しっかり高額品のギフトをリクエストしており、それによれば彼女はルイ・ヴィトンとクリスチャン・ルブタンが好み。 自らを「高額なテイスト」と評しているのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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