Feb. 9 〜 Fab. 15 2004




ファッション・メディア・マルファンクション

今週のニューヨークはファッション・ウィークが行われていたけれど、 エディターやバイヤーが事ある毎に使っていたのが、先週のこのコーナーで触れた「ワードローブ・マルファンクション」という言葉。
カルバン・クラインのコレクションのオープニングの数枚や、各デザイナーのイヴニング・ドレスでは、 胸元のVカットがあまりに深く、大きいために、モデルが歩いているうちに胸が見えてしまっていたけれど、 これが、決してランウェイ上では珍しいことではないのは誰もが認識することである。 でも今シーズンに限っては、ジャネット・ジャクソンの胸露出事件の余波を受けて、 モデルの胸が覗く度に、バイヤーやメディア関係者が 「ワードローブ・マルファンクション」と言って、面白がったり、皮肉ったりしていたのである。
そしてそのファッション・ウィークが終わった翌々日の2月9日 日曜日のニューヨーク・タイムズ、 「サンデー・スタイル」セクションに掲載されたのが、 「Sex Doesn't Sell: Miss Prim Is In」という記事。
このタイトルは「もうセックスでは売れない、お堅いお嬢様がイン」という意味で、 記事には「セックスがメディアに溢れているアメリカで、今デザイナー達が 身体の露出を抑えたクラシックな優等生ファッションを打ち出し始めた」現象が書かれており、 グッチやヴェルサーチでさえ2004年春夏物の広告はそのセックス・アピールを控えめにしていること、 今年のグラミー賞ではあの露出狂、クリスティーナ・アギュレラでさえマニッシュなスーツで肌を 見せずにパフォーマンスしたこと、そして様々なメディア関係者や、 ファッション・コンサルタントがコンサバでクラッシーなイメージがメイン・ストリームに なりつつあると語ったコメントなどが紹介されており、 一般の人々にしても、昨年末のパリス・ヒルトンのセックスビデオや2週間前のジャネット・ジャクソン胸露出事件で、 「あからさまなセックス、露骨なセクシーさにはそろそろウンザリし始めている頃」ということが書かれていた。

実際のところ、この記事の通り 2004年秋冬のニューヨーク・コレクションは 過去のシーズンよりもファッションがコンサバになっており、 2004年春夏の各ブランドの広告にしても、セックス描写がかなり抑え気味になっているのは事実である。
でも私に言わせれば、こうした傾向は4年に1度のアメリカ大統領選挙の際には顕著な傾向で、 今回のコンサバ・トレンドも、その4年に1度のサイクルが巡ってきただけに見受けられたりもするのである。
これはアメリカに住んでみれば誰にでも分かることだけれど、大統領選挙の年というのは、 どんなに政治に関心の無い人でも、この話題を避けて通れないほど、 メディアも、人々の心も大統領選一色になる時で、候補者のモラルや、様々な政治政策、 社会や政治に対する理想論がメディアに大きく取り上げられ、 それらが話題になる時期であるだけに、人々のマインド・セッティングが日頃よりコンサバになるのは、 容易に理解できるものであるし、実際そうなってきたのは歴史が証明する通りである。
だからこれを受けて、広告展開など、ありとあらゆるマーケティングがコンサバ傾向となる訳で、 当然の事ながら人々の気分が消費を左右するファッションも、この傾向を反映させることになるのである。

このことは前回の大統領選の年、2000年の秋冬コレクションにも顕著で、写真左に例として紹介したのは、 左側がドナ・キャラン、右側がマーク・ジェイコブスのコレクション。 特にドナ・キャランのボリュームのあるAラインのボトムと、ウエストをマークする細いベルト使いは、 今シーズンのニューヨーク・コレクションで非常に多く見られたスタイルであり、 一方のマーク・ジェイコブスにしても、このシーズンには 写真のような見事にババ臭いスーツを筆頭に、 60年代のジャッキーO.をイメージしたボクシー・シェイプのコートなどを発表しており、 往年のファースト・レディ・ファッションを展開していたのである。
この他、2000年はプラダが、CUBE New Yorkでもコピーしている 首に巻くリボン付きのファー・カラーを初めて発表した年で、 そのプラダでもツイードのスーツやコートをメインにフィーチャーしていたのは記憶に新しいところ。

さらにその4年前、1996年に遡れば、グッチはメンズ仕立てのスーツを全面に打ち出したコレクション、 プラダはヴィンテージ感覚を取り入れた古着のようなコレクションを見せた年で、 どちらも今から振り返れば懐かしいコレクションではあるけれど、例年に比べて各デザイナーがコンサバ傾向に走っているのは この年にも言えるものだった。

さらに広告について言及するならば、2000年春のヴェルサーチの広告(写真左)は、 大統領選を意識して、ホワイト・ハウスのファースト・レディをイメージしたものになっており、 アンバー・ヴェレッタが、VO5ヘア・スプレーで固めたように膨らませたヘアと、 アイラインをくっきり入れた古臭いメークで、いかにも共和党的な コンサバを演出しているのが見受けられるものになっていたのである。

だからこれらを考えれば、ジャネット・ジャクソンが胸を出さなくても、 パリス・ヒルトンのセックス・ビデオが出回らなくても、 アメリカ、及びファッション業界は、4年に1度の大統領選の年にはコンサバになるというのが、 トレンドのサイクルと言えるものなのである。
でもそのコンサバというのにはいろいろな度合いがある訳で、私がニューヨーク・タイムズの記事を読んで抱いたのは、 「ここまでコンサバになる必要がある?」という疑問であった。
この記事では「今、リボン付きのブラウスこそがエッジー」とされ、 「セックス・アンド・ザ・シティ」の中でサラー・ジェシカ・パーカーが何シーズン着用しても 決して流行らなかったボリュームのあるAラインのスカートや、膝丈のコート、膝丈のナロー(細身)・スカート等がメイン・ストリームとされており、 マーク・ジェイコブスやオスカー・デ・ラ・レンタのコレクションなどがその好例として挙げられていたりする。

そこで、今シーズンのエッジーなファッションの条件を満たした服を、 ランウェイ・ショットから選んでみると、写真右のマーク・ジェイコブスの1枚がこれに当てはまることになる。 リボン付きのブラウス、膝丈のナロー・スカート、今シーズン何人ものデザイナーが見せていたニットベスト、 その上から細いベルトでウエストをマークするというのが2004年の秋冬のトレンドとなっているけれど、 正直言って私にとっては、この服を着て外を歩くことは ジャネット・ジャクソンの胸露出事件やパリス・ヒルトンのセックス・ビデオと同じくらい 恥知らずの行為に思えてしまうのである。
こんな70年代の学校の教師のようなスタイルを見せられて、 何か新しいことが起こっているかのように騒ぎ立てるのは、 ファッション・メディアの寂しくも愚かな部分であるし、 「最新の変な服」が「以前からある誰にでも似合う服」よりも優れたものだと扱われる傾向は、 未だにこの世界では根強いのである。

でも、私が「Sex Doesn't Sell: Miss Prim Is In」の記事に賛同しない最大の理由は、 「Sex」と「Prim」があまりに極端過ぎるからである。 私にとってはジャネット・ジャクソンの胸やパリス・ヒルトンのポルノ・ビデオはセックスとかセクシーというよりは、 悪趣味とかグロの世界に属するものな訳で、彼女らをセクシーとかセックスと定義付けるのであれば、 それに対して一般大衆がウンザリしていても無理は無い訳である。
でもだからと言って、その反動でリボン付きのブラウスを着たがる女性が果たして何人存在するかは、 答えが分かりきっているだけに疑問以前のものである。
そもそも現代女性の「機能的かつ、モダンでセクシーな服を選ぶ傾向」はライフスタイルに裏付けられたものであって、 デザイナーの思いつきがこれを覆せないことは、何シーズンにも渡るトレンド予測と 実際のヒット商品が 如何にかけ離れていたかを見れば一目瞭然なのである。

大体、「Sex Doesn't Sell」などと言ったところで、世の中には売れるセックスはまだまだ沢山ある訳で、 その最たる例は、写真左、今週発売になった毎年恒例のスポーツ・イラストレーテッド・スイムウェア・イッシュー(水着特集号)である。
本来、フットボール、ベース・ボールなど男性のプロ・スポーツがそのメイン・フィーチャーである スポーツ・イラストレーテッド誌だけれど、毎年ダントツで売れ行きが高いのが このスイムウェア特集号である。
表紙に選ばれたモデルがスター扱いをされて、メディアから引っ張りダコになるのは例年のことで、 今年のカバー・ガール、ヴェロニカ・ヴァロコヴァもトークショーからニュース番組に至るまでに 登場し、インタビューを受けていた。 このスポーツ・イラストレーテッドは、フェミニストのグループから 「スポーツでも水着でもなく、セックスを売っている」と抗議されたことが度々あり、 事実ジャネット・ジャクソンよりも遥かに露出度の高いモデルを数十ページに渡って フィーチャーしているけれど、そのカバー・モデルのニュースが 華やかに取り上げられるのを見ていると、アメリカのメディアが 放映できるセックス、世間が受け入れるセックスについては、まだまだオープンであることは十分伺えるのである。
また世の中一般を考えても、例え大統領選の年でコンサバなマインド・セッティングになったとしても、 女性達はデートにリボン付きのブラウスよりも、セクシーなミニ・ブラック・ドレスを着用するだろうし、 男性達もそれを好むことには変わりないのである。

人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」の中で、 ジャネット・ジャクソンの胸露出事件がアメリカにもたらしたものは、 「6週間のオーバー・リアクション(過剰反応)」とコメントされていたけれど、 実際、6週間も経てば、現在の極端な反応が正常に戻るのかもしれない。





Catch of the Week No.2 Feb. : 2月 第2週


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