Feb. 23 〜 Fab. 29 2004




今年のオスカー:ノー・サプライズ、ノー・エキサイトメント

私がこのコラムを書いている2月29日は、第76回アカデミー賞授賞式の日であったけれど、 今年のオスカーが例年と異なる点は、 例年見られるオスカー・フィーバーが殆ど感じられないことだった。
今年のオスカー・フィーバーが控えめであった理由の1つとして挙げられるのは、 ノミネートが発表される以前から受賞者が予測できるほど、賞捕りレースの行方が はっきりしていたことである。このため例年ならば各映画スタジオが 票集めのための派手なパーティーを行ったり、 他の候補作品に不利なパブリシティを画策するなど、 表と裏からの様々な手練手管を駆使するものであるけれど、 今年に限っては、既に受賞者がほぼ確定しているだけに、こうしたオスカー・ムードを盛り上げる イベントが殆ど見られない状況が展開していたのである。
ニューヨーク・タイムズ紙は、オスカー前日の「オスカー・マドスライディング(オスカーの地崩れ):イッツ・ソー・ラスト・イヤー」というタイトルの記事の中で、 このことを「クリーンかつ退屈」と評していたけれど、 実際のところ今年のプレ・オスカー・パーティーの地味さや、オスカー関連のパブリシティの少なさは、 イラク戦争が始まって、自粛ムードになった昨年とも比べ物にならないほどであった。 逆に昨年の方が、「ハリウッド・スター達の戦争に対する見解」という視点があっただけに、 戦争が始まって出演を辞退したセレブリティのニュースや、 マイケル・ムーアやエイドリアン・ブローディーらのスピーチが、 大きなリアクションと論争を巻き起こして、メディアの格好のネタとなっており、 また自粛ムードの中でセレブリティがどんなドレスで現れるかも、 ファッションという見地からの面白味はなくても、ニュース性は感じられるものだったのである。


さらに、今年のオスカー・フィーバーが控えめだった もう1つの理由としては、 日程が1ヵ月早まった事が挙げられると言える。
このために今年は、ゴールデン・グローブ賞の授賞式の2日後、1月27日にオスカー・ノミネーションが発表されることになったけれど、 例年ならばこの2つの間には約3週間のインターバルがあり、 その間メディアは、ゴールデン・グローブのファッションや受賞者をじっくりと特集したり、 分析したりしてオスカー・ノミネーションを予測する特集を組むものなのである。 でも今年はその期間が無かったために、ゴールデン・グローブのメディア・フォーカスが小さくなっただけでなく、 オスカーもノミネーション予測のパブリシティを失うことになってしまった。

オスカー・ノミネーションが発表されてからも、 メディアの関心は、結果が見えているオスカーの賞捕りレースよりも、 ジャネット・ジャクソンのスーパーボウルのハーフタイム・ショーにおける 胸露出事件に集中し、それが収まらないうちに、 今度は昨年から大変な議論を巻き起こしてきた問題作、 メル・ギブソン監督の「パッション・オブ・ザ・クライスト」の公開で、 ハリウッドの批評家や宗教関係者、そして一般大衆を巻き込んだ 大論争が巻き起こっていた。だから、メディアも一般の人々の関心も、オスカーからすっかり遠退いており、 私の周囲でも 今週末にオスカーが行われるのを知らない人が殆どであった。

かく言う私自身にとっても、今週のオスカーよりも 先週末に「セックス・アンド・ザ・シティ」 が終わってしまったことや、 今週水曜日にトム・フォードによるグッチのラスト・コレクションが行われたことの方が ビッグ・イベントに思えたし、ひとつの時代の終わりを感じさせるものだった。
また別の人々にとって今週のオスカーよりも大事件であったのは、大胆かつ、わいせつな言動で知られてきたラジオ・パーソナリティー、 ハワード・スターンの番組がラジオ・ネットワークの最大手、クリア・ウォーターから放送停止処分を受けたこと。 ハワード・スターンはカルト的なリスナーを多数擁することで知られるだけに、 この事件も今週ありとあらゆるニュース・メディアが取り上げており、 「ジャネット・ジャクソンの事件が引き金で、(放送のモラルが強化されたために) 自分が追い出される羽目になった」とハワード本人がコメントしたことは、ジャネットの画像入りで大きく報道されていた。
さらに時を同じくして、先週から今週にかけては、サンフランシスコがゲイ間での結婚を認めたことで、 ゲイ・マリッジ論争がアメリカ世論を2分する勢いで激化しており、 世の中も、メディアも、こうした論争やイベントに忙しくて「オスカーどころではない」という状態だったのである。

さて、そんな抑え目なムードの中で行われたオスカーであったけれど、 ビリー・クリスタルのホストぶりは4年のブランクの間に、すっかり時代遅れのイメージになってしまったし、 授賞式の進行は例年よりも歯切れが悪く、ギクシャクしていた。 昨年のオスカーは視聴率が、リアリティTV「ジョー・ミリオネア」の最終回に抜かれて、年間第3位の視聴率に 甘んじていたけれど、今年はそれをさらに下回る視聴率が放映前から予想されている状態で、 そうなっても仕方ないような退屈な授賞式になっていたことは事実である。
今回のオスカーで特筆すべき点と言えば、「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:リターン・オブ・ザ・キング」 がノミネートされた全11部門を受賞し、「タイタニック」、「ベン・ハー」の記録に並んだという快挙であったけれど、 主演、助演部門等、主要全部門の受賞者は、全くサプライズ無しの予想通りの顔ぶれ。 それ自体は悪いことではないけれど、その割には受賞者がスピーチをきちんと用意しておらず、 名前の羅列だけのつまらないスピーチに終始し、昨年に比べると、俳優部門の受賞者からユーモアやパーソナリティを感じさせる スピーチが全く聞かれなかったのは 今年のオスカーを益々退屈なものにしていた。

ドレスについても、ソフィア・コッポラがマーク・ジェイコブス、二コル・キッドマンがシャネル・クチュール、 キャサリーン・ジータ・ジョーンズのヴェルサーチ、ホリー・ハンターのヴィラ・ウォン、 レネー・ゼルウェガーのキャロリーナ・ヘレラ、リブ・タイラーのジヴァンシー等、 主要セレブリティのドレスは全て事前に発表されていた通りの、番狂わせ無しのファッションで、 それと同時に抜群のベスト・ドレッサーも、ワースト・ドレッサーも存在しないものであった。

一方、オスカー同様に、全く予想通りの サプライズ無しの展開となっていたのが、オスカー前日の土曜日に発表された ゴールデン・ラズベリー・アワード(通称ラジー・アワード)である。
これはオスカーとは正反対で、その年のワースト・ムービー、ワースト・アクター等を選び出す賞であるけれど、 今年は予想通り、ベン・アフレック&ジェニファー・ロペス主演の「ジリ」が、 ワースト・ピクチャー(最悪作品)、ワースト・アクター(最悪男優)、ワースト・アクトレス(最悪女優)、ワースト・スクリーン・カップル(最悪共演カップル)、ワースト・スクリーンプレイ(最悪脚本)、 ワースト・ディレクター(最悪監督)という主要6部門を総なめにしており、 ワースト・ムービー版の「ザ・ロード・オブ・ザリング」になっていた。
ちなみに、ラジー・アワードでの6部門受賞は、同賞の過去24年の歴史上初めての快挙(?)。
ワースト・サポーティング・アクター(最悪助演男優)は、今年で10回目の受賞となるシルベスター・スタローン(スパイ・キッズ3)で、 ワースト・サポーティング・アクトレス(最悪助演女優)は、「チャーリーズ・エンジェル:フル・スロットル」のデミー・ムーア。 彼女の受賞については「ボトックスの打ちすぎで、顔に表情が無かった」というジョークが 以前から飛び交っていたので、折込み済み。ちなみに 彼女が出演した「チャーリーズ・エンジェル」もワースト・シークエル(最悪連作)部門を 受賞していた。

アカデミー賞に話を戻すと、個人的には、今年のオスカーで最も印象的だったのは、 スピーチは纏まっていなくて下手であったけれど、 ショーン・ペンの受賞に会場中がスタンディング・オーべーションとなったシーンと、 私の好きなジョニー・デップが何時に無く、グッドルッキングに登場していた点で、 それ以外は 本当に退屈で、何の記憶にも残らないであろうオスカーだった。
これは要するに、私自身もニューヨーク・タイムズの記事通り、オスカーというイベントそのものに 飽きてしまったということなのかもしれない。





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