` CUBE New York Catch of the Week




Mar. 16 〜 Mar. 23 2003




今年のオスカー

戦争状態で迎えた今年のオスカーは第75回目のアニヴァーサリー・イべントであったけれど、 直前までトム・ハンクス、キャメロン・ディアスといったセレブリティが出演を決めかねていたり、 5日前になってレッド・カーぺットが廃止されたり、アフター・パーティーの取材を シャットアウトするところが出たりと、主催者泣かせ、プレス泣かせのものだった。
また直前になってトーン・ダウンしたドレスやジュエリーに変更する女性セレブリティのために、 各デザイナーやジュエラーは授賞式前日の夜中、当日明け方まで振り回されたというし、 これをコーディネートするパブリシストやスタイリストは、 他のセレブリティとドレスやジュエリーの派手さを調整するために、電話連絡に追われていたという。
でも終わってみれば、一部のプレスが危惧したようなブラック・スーツと地味なドレスの洪水イベントになるような事は無く、 超ゴージャスなジュエリーこそは見られなかったものの、 クリスタルやレースをあしらったドレスが多く見られ、例年に比べて特に見劣りするラインナップではなかったように思う。 でも目玉になるようなベスト・ドレッサーや、目玉になるようなワースト・ドレッサーが居なかった分、 オスカー・ファッションの醍醐味に欠くイベントであったのはいたし方無いという感じだった。
さて、今回のオスカーは総体的に 私が記憶している中では最も政治色の強いイベントだったように思う。
俳優4部門のうちの、3人の受賞者が戦争についての直接的、間接的なコメントをしたというのは、 極めて異例なことだと思ったし、ドキュメンタリー部門を「ボーリング・フォー・コロンバイン」で 受賞したマイケル・ムーアも、当初からブッシュ批判、戦争批判のコメントが予想されていたものの、 「Shame On You, Presindet!(恥を知れ!大統領)」と、あまりに大っぴらに、そして激しく批難を展開したので、 少々ビックリしてしまった。
私も個人的にはブッシュ大統領を支持しないし、今回の戦争にも賛同はしないけれど、 彼の反戦デモのリーダーのようなスピーチは、彼の実に巧妙に、そして時にシニカルに 事実を描き、その見解をクリアにするドキュメンタリーの手法と比べると、 攻撃的かつ 反発を煽るものに受け取られた。 マイケル・ムーアという人は、インタビューなどを聞いていると物凄く頭がキレるし、 批難を恐れず 大企業や政治家を敵に回す勇気ある人物なので、 私は彼を非常に注目しているけれど、今回のスピーチは オスカーというアートの祭典という舞台を考慮して、もう少し平和的なひねりが欲しかったと思う。
それでもこのスピーチを聞いて、「胸がスッとした」反戦支持者は多かったようだし、 彼の過激スピーチとそれに反応する客席のブーイングや歓声の交じり合ったリアクションが 今回のオスカーで最も印象的な場面だったという声も少なくない。 また、オスカー後のニュース番組も、マイケル・ムーアのスピーチを大きく取り上げており、 もし彼の今回の意図がニュースで報道されるような物議を醸すことなのであれば、それはかなり成功していたと思う。
でも今回のオスカーで、明らかにショー・スティーラー(英語では予想外にイベントの主役になってしまう人のことを こう表現する。)と言えたのは、大どんでん返しで主演男優賞を受賞した エイドリアン・ブローディーだった。
スピーチ前半は受賞にビックリしていて、ジョークも喜びの表現も中途半端だったけれど、 彼が指揮者、ビル・コンティが演奏を始めようとするのを止めてまで続けた後半のスピーチは、 会場が総立ちで拍手を贈ったリアクションを見ても分かる通り、今年のオスカーのベスト・スピーチであったと思う。 第二次大戦のナチス制圧下から逃れたユダヤ人のピアニストを演じたブローディーであっただけに、 戦争の悲惨さと平和的解決を望むメッセージは重みのあるものだった。
この他、今年のオスカーの番狂わせと言えたのはロマン・ポランスキーの監督賞、 そしてU2の受賞が確実視されていた主題歌賞を、エミンネムの「エイト・マイル」の主題歌、 「ルーズ・ユアセルフ」が受賞したことだった。 私は監督賞は、ダンスの振り付けまでを手掛けた「シカゴ」のロブ・マーシャルが受賞するべきだったと思っているけれど、 主題歌賞については全く同感で、オスカーの投票者も随分と頭が柔らかくなったものだと 妙に感心してしてしまった。
全体的には今回のオスカーはスピーチが短めで、比較的無駄な時間が少なかったので好感が持てたけれど、 放映局であるABCがオスカーの最中に2回も戦争のニュースを割り込ませ、 しかもその内容が特に進展のない、アカデミー賞放映前にさんさん報じた内容のリピートであった (ABCはオスカー放映前2時間を戦争報道に当てていた)のは納得に苦しむものだった。
オスカーの詳細、バック・ステージ・エピソードについては例年通り特集してレポートしますので、 お楽しみに。



War Time, Spring Time

ニューヨーカーは、「四季の中で春が1番好きだ」という人が多い。
これはNYに暮らしてみれば納得できることで、暑過ぎる夏、寒すぎる冬、日が短くなって 寒くなって行く秋に比べれば、 どんどん日が長くなって、暖かくなっていく春という季節はNYでは例年非常に短いけれど、 気持的に楽観的になれるし、何より仕事が終わって外に出た時に明るいというのは爽快で、 夜遊びがしたくなる気持ちがムクムク湧き上がるものである。
今週は週半ばにこそ 雨が降って気温が若干下がったものの、すっかり春らしくなってきて、 戦争や、テロへの警戒が無かったら、本当に心から春の到来を感じて ウキウキしたくなる季節である。
ことに火曜日や土曜日は晴天で暖かかったこともあり、 早くも素足にサンダルを履いている女性を何人も見かけたけれど、 特にここ数年は、ブーツからサンダル、サンダルからブーツへの移行が早く、 その中間の季節に履くべきスリング・バックやパンプスというシューズの出番がかなり減ってきている。
だから秋冬はブーツ、春夏はサンダルを毎年のように買い足すことになってくる。
私にとって今の季節はタックス・リターンの小切手を受け取って、 税金申告を済ませた自分へのご褒美として ヒールも値段も高いサンダルを1足買うと決めている時期であり、 セルフ・タンニング・クリームを脚に塗り始めるのもこの季節。 そして冬の間は自分で塗っていたぺディキュアをプロの手に委ね始めるのもこのシーズンである。
でも今年は戦争というものがのし掛かっていて、サンダルを買いにバーグドルフ・グッドマンの シュー・セクションに出かけたり、その地下にあるバフ・スパでペディキュアをしてもらうという気持ちが 今1つ盛り上がらなくて、例年の春を感じるイベントを実行できずにいるのが実情である。
ニューヨークはテロへの厳戒態勢が敷かれているとは言え、戦場ではないし、 自分の友達や家族が戦地で戦っている訳でもないけれど、 自分が暮らすアメリカという国が戦争をしているというのは、やはり心穏やかにしていられるものではない。
ことに、ここニューヨークでは2001年9月11日以来、「平和」を感じたことが無いという人々は多く、 戦争が始まる以前から 生物化学兵器テロが起こるかもしれないと警告され、 「食料を備蓄しろ」だの「ダクト・テープを購入しろ」などと脅され続け、 これに輪をかける厳寒と大雪の冬のお陰で そのストレス・レベルは益々高まっていたと言える。 そしてその厳しい冬がやっと終わったと思った途端に 戦争が始まってしまったから、 ニューヨーカーの心の休まらなさ加減は、長期的というよりも半永久的なものになりつつある。
またニューヨークにはリベラル派、すなわち戦争に反対する人々が多く、 土曜日も10万人以上を集めたデモが複数のロケーションで行なわれていたけれど、 その一方で戦争を支持する人々も多い訳で、こうした世論の衝突も 自分の意見をクリアに持っている人々にとってはストレスになるのも事実である。
私が心穏やかになれない原因の1つは、毎朝新聞で 爆撃の様子や、捕虜になったイラク兵が地面にひれ伏している写真等を目にすることで、 ことに日曜の新聞に掲載されていた 顔半分が爆撃の影響で焼け爛れたイラク人の子供の写真は、 痛々しくて見るに耐えないものがあった。
そんな中、個人的に非常に皮肉だと思ったのが右のNYポスト3月22日、土曜日版の表紙になった 写真である。
これはアメリカ兵が銃を突きつけながら、捕虜になったイラク兵に水を飲ませているシーンであるが、 まるで民主主義という水をアメリカが銃を突きつけてイラクに飲ませているように見えて、 水は飲みたいけれど、アメリカ兵から与えられたくないイラク兵の姿と、 引き金を引いたら何時でも殺せる状態で、イラク兵を救うための水を与えるアメリカ兵の姿が、 何ともこの戦争を象徴しているように思えてしまった。
本来だったら、ニューヨーカーが1年で1番ニューヨークを楽しめる春だけれど、 毎朝のようにニュースや報道写真で「戦争」というものを見せつけられてしまうだけに、 今年の春は、例年ほどエンジョイすることが出来ない、重たい春になってしまうのが 非常に残念な限りである。






Catch of the Week No.3 Mar.: 3月 第3週


Catch of the Week No.2 Mar.: 3月 第2週


Catch of the Week No.1 Mar.: 3月 第1週


Catch of the Week No.4 Feb.: 2月 第4週