` CUBE New York Catch of the Week




Mar. 24 〜 Mar. 30 2003




ボイコット The Boycotting

毎週水曜日はニューヨーク・タイムズ、NYポスト共にレストラン・レビューを始めとする フード・セクションが掲載される日であるけれど、奇しくも両紙に掲載されていたのが、 昨今のフレンチ・ボイコットに泣かされるフレンチ・レストランについてだった。
記事としてはNYタイムズの方がやはり世界的なメディアであるだけに客観的なもので、 一部のフレンチ・レストランが、ことに戦争が始まって以来、すっかり閑古鳥が鳴いている反面、 数少ないながらも混みあっているフレンチ・レストランは引き続き 流行っているというものだった。
顕著なのはフレンチ・ワインをオーダーする客が激減しているとのことであったけれど、 チーズ料理で有名なレストラン、アーティサナルのシェフのコメントとして、 「お客の1人がチーズトレイからチーズを選ぶ際、最初はフランス製のものは嫌だと言っていたけれど、 結局はフレンチ・チーズを3種類選んだ」といったエピソードを紹介して、 フレンチ・ボイコットが流行っている店や美味しそうな食べ物を除外して行なわれている 気まぐれなものであることを述べている。 しかしながら、有名フレンチ・レストランでの会食が「招待客がフレンチを食べたくないと言っている」ことを理由に キャンセルされた等、フレンチ・レストランがすっかりこの戦争のせいで 不必要な「とばっちり」を受けている様子も 説明されていたりする。
最終的にこの記事は、昨今のフレンチ・レストランの不振は「フレンチ・ボイコットというよりも、 自国が戦争をしている上に、テロが懸念されるという時期であるため、 外食を控える人々が多いだけ」と 指摘したコメントで締めくくられている。
一方のニューヨーク・ポストの記事は、タブロイド誌であるだけにもっと軽薄なもので、 ソーホーの人気フレンチ・ビストロ、バルタザールの客数が激減した例を挙げて、 「ニューヨーク市内のフレンチ・レストランのオーナーの多くはアメリカ人(もしくはフランス人以外)なのだから、 フレンチ・レストランのボイコットは誤っている」と言っているところは まだまともであるが、プジョーの車やエルメスを例に挙げて、「ターゲットにすべきは (アメリカ人の経営するフレンチではなく) これらのフランス産のプロダクトである」と述べる愚かさ加減である。
そもそもニューヨーク・ポストはこれら一連のフレンチ・ボイコットに火を付けたメディアの1つで、 以前もこのセクションでお伝えしたようにフレンチ・ワインはもちろんのこと、フレンチ・チーズ、 フレンチ・ミネラルウォーター等、ありとあらゆるフレンチのボイコットを 奨励していた、プロ・ワー(Pro War/戦争支持)メディアである。
ニューヨーク・ポストのボイコット奨励はこれに止まらず、戦争反対を掲げるセレブリティを リストし、そのコンサートに行かないように、CDを買わないように、映画を見ないようにと、 言わばブラック・リストを公開するという、公のメディアとしては卑劣とも言える 報道を行なっているのが実情である。

私がこうしたボイコットの呼びかけに対して非常に腹立たしく感じるのは、 このグローバル・エコノミーの世の中で、フランスが気に入らないからといって フランスのプロダククトをボイコットしたり、アンチWAR(戦争反対)のメッセージが気に入らないからといって、 そのセレブリティのCDを買わない、映画を見ないようにと奨励することは、 自国の経済にダメージを与えるだけの無責任な行為だからである。
フレンチ・レストランのオーナーの多くがアメリカ人であるのと同様に、 アメリカ中のエルメスやシャネル、サンローラン、ルイ・ヴィトンのブティック、ルノーやプジョーのショールームで 働くスタッフ、その流通に関わる業者、これらのブティックやストアをテナントとして入れている 建物のオーナーはアメリカ人な訳であるし、 フレンチ・ワインのボイコットにしても、フレンチ・ワインが大量に売れ残って、経営が苦しくなるのは アメリカ人のリカー・ショップのオーナー達なのである。
こうした小売りや流通に止まらず、大企業の資本融資に至るまで、 今や世界経済は地図上の領土のように、「ここまでがアメリカ」、「ここからがフランス」というように、 はっきり分けて考えられるほどシンプルなものではないのは 改めて説明の必要さえ無い事実である。

でもふと思い起こしてみると、前回の湾岸戦争後にも「バイ・アメリカン/Buy American」として、「アメリカ製品を買うように」という 大々的なキャンペーンが行なわれたことがあった。 この当時は特にジャパン・バッシングが激しい時期であったので、日本車が槍玉に上がったり、 「キャノンやパナソニックというのは、アメリカ企業のような名前だが実は日本の会社だ」などという報道がされたりした。
とは言っても 既に当時の時点で、ホンダや日産はアメリカでの生産を始めていた訳で、 日本車ボイコットがアメリカ経済をどれだけ助けたかは定かではないけれど、 この翌年にはホンダのアコードを抜いて、フォードのトーラスがアメリカでの売り上げNo.1になったのであるから、 この運動に乗せられて、まともな判断力や価値観が狂ったアメリカ人は多かったと言える。
私はこのジャパン・バッシングの時期にアメリカに暮らしていた日本人として、 現在のフランス系移民の人々の気持ちが少なからず理解出来ると思っている。 別に個人的に嫌がらせをされたことや、人種差別を受けたことはアメリカに来て一度も無いけれど、 自分の生まれた国が批難されてたり、ボイコットの対象になっているというのは、 腹立たしいと共に、悲しかったり、悔しかったりするもので、 私にとってこの時期は本当にTVのニュースを見るのが嫌だったのを覚えている。
今朝(3月30日)のニューヨーク・タイムズには、韓国の人々がマクドナルド、ナイキ、シティ・バンク等、 アメリカ企業のボイコットを呼びかけている記事が載っていたけれど、この事とて アメリカのフレンチ・ボイコット同様、これらの企業に従事する韓国の人々の方が犠牲になってしまうだけだと思う。

一方のセレブリティ・ボイコットであるが、3月初旬のコンサートでブッシュ大統領批判のコメントをした ディキシー・チックスは、その最初の「いけにえ」、もしくは「見せしめ」として、 大バッシングのターゲットとなってしまったセレブリティである。
人々が彼女らのCDを粉々に砕いている映像はどのメディアでも放映されたし、 彼女らの曲のオンエアを拒否するラジオ局が出たため、オンエア率が20%下がり、 アルバムの売り上げは14%下がっていると言われる。
このコメントはブッシュ批判が激しいロンドンでのコンサート中のものであったけれど、 どうしてロンドンでディキシー・チックスがコンサートをしていることさえ知らなかったアメリカ国民が、 このコメントを知り、大きなバッシング運動に発展してしまったかと言えば、 この背景には共和党支持者を基盤とした超保守派のシンジケートとも言うべき、 情報伝達システムが存在しているためである。
一部の保守派のグループは、 こうした情報を突き止めては、ウェブ上で伝達する組織を持っており、 まずこのサイトにアクセスする人々にボイコットや抗議を呼びかけることになる。 もちろん、ウェブ・サイトには通常、抗議先のメール・アドレスや電話番号が掲載されているのは言うまでもない。
そして「何百もの抗議メールや抗議電話が寄せれられた事件」として、これらを必ず取り上げるのが、 各州のローカル・ラジオのトーク・ショーである。 車社会アメリカでのラジオのパワーは絶大なもので(多くの人々は通勤時間中に、 ラジオのニュースやトーク・ショーを聞いて世情を知るのである)、 この情報がやがてTVのニュースやトークショーのネタになるころには、 実際にボイコットがかなりの規模に進行した状態である。 でもTVのパワーというのは、それに最後の一押を加えるもので、これによって運動がさらに大きく、 全米レベルで広がっていくというのがその伝達システムであり、シナリオである。
このような情報伝達と、メディア・コントロールのパワーは、 戦争に反対するリベラル派よりも、大統領と戦争を支持する保守派の方がはるかに勝っており、 この保守派の拠点となっているのは主にアメリカの南部、中西部、 すなわち共和党の支持基盤となるエリアである。
今では、こうした保守派グループによって戦争に反対するセレブリティをバッシングするための リストを掲載したウェブサイトも作られており、ここに名前が載ってしまうと CDのボイコット、出演番組のボイコットはもちろんのこと、 そのセレブリティのウェブ・サイトにはヘイト(憎しみの)・メールが大量に送付されてくるという。 このリストの中には大統領批判を繰り広げたマーティン・シーンや、 戦争反対を訴えるTVCMに出演したスーザン・サランドン、ブッシュ大統領への戦争反対の嘆願書にサインをした ジョージ・クルーニ等の名前が掲載されているというけれど、 最近では「Peace/平和」という言葉を口にしたり、手でVの字を作るピース・サインを見せただけで、 「戦争に、大統領に反対する非愛国者である」という扱いをしようというところまで 保守派グループによるハリウッドのリベラル狩りは過激になってきているという。
これはまさに第二次大戦後のハリウッドの赤狩り、すなわちコミュニスト排除のムーブメントにそっくりである。
このムーブメントについてはアメリカで一昨年に公開されたジム・キャリー主演の「マジェスティック」にも描かれているけれど、 この作品の終わり近くで、ジム・キャリー扮する主人公が語る通り、 様々な人が、様々な考えをもって、それを自由に発言したり、表現したりすることが出来ることが アメリカという国の素晴らしさなのであり、その自由を守ることこそが 愛国心であるというのがリベラル派の主張である。
これに対して、保守派の人々の主張は、「アメリカ国民である以上、(共和党の)大統領の決断は 支持すべきである」、「アメリカを守るために戦っている兵士をサポートしなければならない」というもので、 そのためには「言論の自由が一部制限されることも止むを得ない」とさえ考えていたりもする。
これを立証するかのように、既に保守派の著名政治家からは、「国益にならない発言を公の場で行なったセレブリティを 処罰する法律を作るべき」との提案すら出されたことが非公式に伝えられている。
今回のイラク攻撃は皮肉にも「オペレーション・イラキ(イラクの英語発音)・フリーダム」とネーミングされているけれど、 自国の言論の自由さえも脅かされようとしているアメリカが、他国に自由などもたらせるのであろうか?というのは 昨今の私の素朴な疑問である。

さて、これは戦争には関係無いけれど、土曜日には3大ネットワークの1つ、CBSの本社ビルの前で 小規模なデモンストレーションがあった。
これは未だに女性に門戸を開かないゴルフ・カントリークラブ、オーガスタへの性差別に抗議するため、 当初ここで行なわれるマスターズを別のカントリークラブに移す運動をしていた団体が、 それが実現しなかったことを受けて、それならばマスターズを放映することになっているCBSを ボイコットしようという運動であった。
要するに、アメリカという国はボイコットというものが好きなのかも知れないけれど、 フランスの場合も、CBSの場合も、問題の本質を摩り替えて、 手っ取り早いターゲットに怒りの矛先を向けているように見えてしまうのが実際のところである。




その後のマイケル・ムーア

さて、セレブリティ・ボイコットについて述べてきたけれど、 コンサートで「ブッシュ大統領が同じテキサス出身であることを恥に思う」とコメントした ディキシー・チックスが大バッシングにあっていたのに対して、 先週のオスカーの受賞スピーチで、「恥を知れ!」とブッシュ非難を展開した ドキュメンタリー監督、マイケル・ムーアは、バッシングの対象になるだろうという大方の予想を裏切り、 リベラル派のヒーローとしてのポジションを益々確固たるものにしたという感がある。
戦争が始まる前からブッシュ大統領への非難を続けてきた彼であるだけに、 彼がオスカーを受賞したら、戦争や大統領について彼が黙っているはずが無いことは誰もが予想したことで、 ドキュメンタリー賞という本来ならば地味な賞にも関わらず、マイケル・ムーアがステージに 上がる際に 会場が総立ちで拍手を贈ったのは、もちろん「ボーリング・フォー・コロンバイン」という 作品が優れていたからでもあるけれど、バッシングを恐れない彼が、 多くのハリウッドのリベラル派を代弁するスピーチをしてくれるという期待が含まれていたとも言える。
彼のスピーチに対する観客のリアクションはブーイングと、歓声が滅茶苦茶に入り混じっていたのは 先週お伝えした通りだし、その後映画評論家や、一部のセレブリティ、 戦争を支援するメディアからは「不適切なスピーチ」として批判をされていた。 しかしながら、その後出かけた大学での講演会では 彼が英雄的な大歓迎を受けたことが伝えられているし、オスカーのバックステージでも多くのセレブリティが 彼に握手を求めてきたことを彼はその後のインタビューで述べている。
またオスカー後、トークショーに出演した際も、反ブッシュ、リベラル派の観客から、 その一言一言のコメントについて拍手が贈られていたし、彼のベストセラー書で 「ボーリング・フォー・コロンバイン」の原作となった「スチューピッド・ホワイトマン(説明するまでも無く 馬鹿な白人という意味)」の焼き捨ても起こらなければ、映画のボイコットを訴える運動も少なくとも現時点では起こっていない。
彼をサポートするセレブリティも少なくなく、中でも彼のスピーチを支持するコメントを 公のメディアで行なっていたのがマドンナである。 「ボーリング・フォー・コロンバイン」を歴史上とても大切な作品と賞賛し、 マイケル・ムーアを「非常に優れたフィルム・メーカー」と語る彼女は、 自らの反戦メッセージを含んだビデオの監督を彼に依頼しているほどで、 「彼のスピーチに賛同しても、しなくても、言論の自由は尊重されるべき」と、 スピーチに対するメディア批判に一釘刺すコメントもしている。
では何故コンサートで大統領批判をしたディキシー・チックスがあれだけ叩かれたにも関わらず、 それよりもっと過激なスピーチをオスカーという世界中何億もの人々が見守る舞台で行なった マイケル・ムーアがそれほど叩かれないかと言えば、 それは支持基盤の違いによる部分が大きいと言える。 ディキシー・チックスのようなカントリー・ミュージックの売り上げというのは 共和党保守派の多い南部、中西部を中心としたもので、アメリカではカントリー・シンガー、 及びカントリー・ミュージックのファンは共和党支持者というイメージが非常に強かったりもする。 それだけに、ディキシー・チックスが大統領批判をすれば、彼女らの音楽を聞いていたファンから見れば 「身内から裏切り者」となってしまうけれど、 マイケル・ムーアのようにセレブリティというよりは、アクティビスト(運動家)的な存在で、 最初からリベラル派であることが明らかな存在は、民主党の議員がブッシュ批判をしても 誰も驚かないのと同様の扱いをされる傾向にあると言える。
私は偶然、オスカー後にマイケル・ムーアが登場したケーブル局HBOのトークショーを見ていたけれど、 彼は、現在のアメリカの世論調査の数字が必ず世論を映しているとは考えていないようで、 テロ以降、そして戦争に突入してからもブッシュ大統領が高い支持率を維持しているのは、 こうした国が1つに纏まらなければならないという危機感が感じられる時期は、 アメリカ国民はとりあえず大統領を支持する傾向にあるものだし、突然「戦争とそこで戦う兵士達を支持するか?」という 世論調査の電話が掛かってきたら、「それを支持する」と答えてしまう人が多いことを指摘している。
確かに、戦争が始まってからというもの、戦争とアメリカ兵士へ支持をワンセットにして 世論調査を行なうところが増えているのは事実で、これによって戦争に賛同しない人も 兵士をサポートすると言えば、戦争賛成に数えられることが、昨今の世論調査の圧倒的戦争支持の背景であるという 声も聞かれている。
マイケル・ムーアのスピーチは、これまで大掛かりなデモしか行なうことが出来なかった 戦争反対派の人々に活力を与えたとも言えるものだったけれど、 こうしたマイケル・ムーアを始めとする 戦争に反対するセレブリティの存在は、 イランの武装市民と同様、アメリカ政府にとって 今回の戦争における意外な誤算要因になりうるかもしれない。






Catch of the Week No.4 Mar.: 3月 第4週


Catch of the Week No.3 Mar.: 3月 第3週


Catch of the Week No.2 Mar.: 3月 第2週


Catch of the Week No.1 Mar.: 3月 第1週