` CUBE New York Catch of the Week




Mar. 31 〜 Apr. 6 2003




禁煙条例に思うこと

目下ニューヨーカーの間で、イラク戦争と同様に意見が真二つに分かれているのが、 先週日曜日からスタートしたバーでの禁煙条例である。
ニューヨークではレストランや、オフィス等の職場が禁煙になって久しいけれど、 「バーも、そこに働く人間が居る限りは れっきとした職場である」として、 バーに勤める人々の健康に配慮して 今回の条例が議会で可決されたのは昨年の秋のこと。 この時の議案によれば、バーで8時間働くことは、煙草1箱分の喫煙に相当するだけの セカンドハンド・スモーク(他人の煙草の煙を吸わされていること)になると説明されていた。
ただし、昨年末までに既にオープンしていたシガー・バー(葉巻を吸うためのラウンジ)、 個別に換気システムのある喫煙室を持つバー、そして非利益かつオーナーのみが働く(スタッフを雇っていない)バーは この条例の対象外となっている。
、 もし条例に違反すれば、初回の罰金が200〜400ドル、2回目が500〜1000ドル、3回目が1000〜2000ドルと、 かなり厳しい罰金が科せられ、3回を超える違反を犯したバーについては、 営業ライセンスの差し止め処分が待っているという。
この禁煙条例には、当然ながら愛煙家と 売り上げが下がることを恐れるバーのオーナーが 当初から猛反対をしていたけれど、実際に条例が施行されてからもヘビー・スモーカーを中心にその怒りや反発は収まらないようである。
バーのオーナー達はこぞって客足が減ったこと、そして訪れた客が 外に煙草を吸いに行くのに忙しくて、バーでドリンクを買ってくれないことを嘆き、 その売り上げは50%程度下がっているという。
一方のスモーカー達も今週はニューヨークの気温が低かったこともあり、 外で寒い思いをして煙草を吸わなければならないこと、いちいち席を立って外まで煙草を吸いに行く 面倒臭さに不平不満を漏らしていた。 またアルコールと煙草を「バーの醍醐味のワンセット」と考えるスモーカーも多く、 「煙草が吸えないバーで飲んでもつまらない」という声も聞かれていた。
バー側も何とかスモーカーのご機嫌をとろうと、ニコチン・ガムを無料で配ったり、 ニコチン・マティーニなるドリンクを開発するといった工夫を凝らす一方で、 店内に「禁煙は店側の意向ではなく、法律だから仕方が無い」と張り紙をし、スモーカーの理解を求める等、 様々な努力が見られている。
中には既にこの条例を無視して喫煙を黙認しているバーもあるとのことで、 その店は噂を聞きつけたヘビー・スモーカー達で混みあっていることも伝えられているけれど、 市側も違反バーを摘発するために、私服警察官のパトロールを行なっており、 違反も長くは続けられないのが実際のところである。
これに対してノンスモーカー達は「バーに居ても髪の毛や服が煙草臭くならない」、 「健康を害されている気がしない」と一様にこの条例を歓迎しており、 加えてソーシャル・スモーカーと呼ばれる「バーに来て、周囲が吸っている時だけ つられて煙草を吸ってしまう」という人々も、「これを機会に完全に煙草が止められる」と この条例の賛成組に回る傾向があるという。

私は個人的にはかなりの嫌煙家である上に、喫煙を習慣としたことが無いので、実際のところ喫煙者の気持ちというのは それほど分からなかったりする。
そもそも煙草というものは、アルコールや甘いもののように「飲み過ぎなければ身体に悪くない」、 「食べ過ぎなければ身体に悪くない」というものではなく、 最初から量に関わり無く 身体に悪いものなのであるから、どうしてこれを好んで嗜好するのかが 良く分からないし、煙草の匂いが嫌いな私としては、 自分の口の中があの匂いで充満することは何としても避けたいものでもある。
でも私が嫌煙家である最大の理由は、煙草を吸っている人の煙のせいで 煙草を吸わない人間の肺の中までが汚れてしまうためで、煙草を吸わない人間のきれいな肺ほど セカンドハンド・スモークによる悪影響が大きいというのは医学的に立証されている事実である。 実際にアメリカでは毎年数万人がセカンドハンド・スモークによる健康傷害を訴えているわけで、 子供の喘息にしても親の喫煙が影響している場合が多いという統計も出ているのである。
だから世の中が禁煙ブームになって来ているのに対して「自分が好きで、自分のリスクで煙草を吸ったところで何が悪い」と 居直る人がいるけれど、完全に隔離された状態で1人で煙草を吸ってくれるのでない限りは、 自分だけのリスクとは言い切れないと言わなければならない。
ニューヨークの私の知人の中には、9月11日のテロ以降、再び煙草を吸い始めたというスモーカーが何人か居るけれど、 彼らは「止めなきゃ」と言いながらも、昨年の煙草税の値上げと、今回のバーでの禁煙については 非常に腹を立てていて、「禁煙は自分でするもので、市の税金や条例にさせられるものじゃない」等と 文句を述べている。中には「吸うなって言われると、無性に吸いたくなる」という心理で、 今回の禁煙条例に反発する人も居るようだけれど、 私が気に入らない禁煙反対説は戦争にかこつけて「アメリカ兵が、自由のために戦っているのに、 そのアメリカ国内では煙草を吸う自由さえないのか?」というもの。
アメリカで保証されている自由というのは他人の人権や利益を損ねない範囲のものであるとされているから、 いくらアメリカが自由の国と言っても、人を殺す自由や、人を差別する自由などは許されない訳で、 その意味で喫煙が、セカンドハンド・スモークで他人の健康を損ねたり、煙草の匂いが苦手な人に 過ごし難い環境を作る場合がある限りは、やはりそれが制限されても仕方が無いことである。 この禁煙反対説を記事に書いていたのはNYポストのコラムニストで、 反戦を口にするセレブリティをこき下ろしていた人物であるけれど、 最も大切な「言論の自由」はそっちのけで、自分勝手な「喫煙の自由」が守られるべきだと言うのははなはだしい勘違いである。
でもNYでは嫌煙家である私も日本に帰国した際は、自分でも驚くほど喫煙には寛大である。 というのは日本という国は、禁煙が少しずつ行き渡ってきたとは言え、私に言わせれば「喫煙者パラダイス」なわけで、 この国でいちいち煙草を気にしていたら、何も楽しめないからである。
私は嫌煙家を自称しているけれど、煙草を吸っている人に禁煙を勧めたことなどは一度もないし、 ニューヨークだろうが、日本だろうが、よほどマナーの悪い吸い方をしているのでない限りは、 煙草を吸っている人に文句を言ったことも無い。だから法が許すエリアで人が煙草を吸う自由は尊重するし、 嫌いなのは煙草とその煙であるから、煙草を吸っているというだけで、その人に対する見方が変わることもない。
でも女性の喫煙者を見ると、どうしても肌の老化具合をチェックしてしまうクセがあるのは事実である。
喫煙者というのは、止めようと思いながら止められない人、 止めようと思えば止められるから吸い続けている人、吸い続ける気は無いけれど 人が吸っている時だけ吸いたくなる人等、 様々なパターンがあるけれど、煙草を吸っている人は多かれ少なかれ、煙草を止めることも考えている人だと思って私は見ている。 中には「煙草が吸えないなら死んだ方がマシだ」と言っている人も居るけれど、そんな人でも一度入院するような思いをすると 「やっぱり煙草のためになんて死にたくない」と思うのだから、 喫煙者にとって煙草というのは「いつかは止めることになるのを承知で、 もしくは何処かで感じながら付き合っていく嗜好品なのだろう」というのが煙草を吸わない私の臆測である。



セントラル・パーク・ジョガーの告白

ニューヨークの犯罪史上、最もメディアの注目を集めたと同時に、 最も人々に衝撃を与えたレイプ犯罪と言えるのが、 1989年4月19日に起こったセントラル・パーク・ジョガー・レイプ事件である。
この事件はソロモン・ブラザースに働く当時28歳の女性インベストメント・バンカーが、 夜9時過ぎにセントラル・パークの102丁目付近を1人でジョギングしていた際に襲われ、 茂みの中へ290フィートも引きずられた後、顔面を石で殴られ、手を縛られ、服を引き裂かれて レイプされたという事件で、被害者の女性は奇跡的に一命を取り留めたものの、 頭蓋骨や顔面の損傷が激しく、大量の出血をしており、病院に収容されてからも12日間 意識が無い状態が続いたという重体であった。
事件当日のセントラル・パークでは十数人の黒人ティーンエイジャーのグループが 通りがかりの人から金品を奪ったり、嫌がらせをしたり、殴る等の暴行を加えるといった 行為を働いており、こうしたティーンによる集団犯罪行為は後にワイルディング(Wilding)という言葉を 生み出し、一種の社会現象として捕えられるようにさえなった。
当然警察は、このレイプもワイルディングの一環であるとして捜査を進め、 やがて5人のティーンエイジャーを逮捕。 そのビデオ撮影された自供が決め手となって彼らは有罪となったけれど、 精液のDNAも一致しなければ、少年達の証言もまちまちで、現場の状況とも一致していなかったため、 彼らが逮捕、有罪となった後も、「少なくとも もう1人の犯人が存在しているに違いない」と言われ続けてきた。
この事件で唯一目撃者となりうる被害者は、 頭部を強く殴られていたために事件の記憶は全く無い状態であった。 被害者の記憶は戻ることは無かったものの、もともと運動神経に優れていたという彼女は、 リハビリに猛然と取り組み、事件の5ヶ月後にしてジョギングを再開するまでに回復。 そしてその後も、彼女の名前を含むアイデンティティは一切公開されなかったものの、 彼女がソロモン・ブラザースの職場に復帰したニュース、その後ソロモンを辞めて、 自分のような事件にあった被害者をサポートする活動を始めたというニュースは、 その都度メディアで報道され続けてきた。
しかしニューヨーカーがこの事件のことをまざまざと思い出すことになったのは、 昨年になって、既にレイプ及び殺人で服役中であったマティス・レイアスが、 「自分こそがセントラル・パーク・ジョガー・レイプ事件の犯人であり、自分1人による単独犯行である」ことを 自供するという、思いがけない展開を見せたためであった。
その後のDNA鑑定で彼の犯行が立証されたため、裁判所はこの事件の犯人として服役していた 5人の少年の有罪判決を取り消し、5人は釈放。現在彼らはNY市に対して$280ミリオン(336億円)の 賠償金を請求する裁判を起こしている最中である。
そんな中、今週日曜日に事件後初めて沈黙を破り、メディアの前に姿を見せたのが ニューヨーカーの間では約14年間に渡って「セントラル・パーク・ジョガー」として知られ続けてきた トリッシャ・マイリー女史である。(写真左)
彼女は、NBCの1時間スペシャル番組に出演し、事件の前後についての自らの経験を 非常に落ちついた柔らかい口調で語り続けたけれど、やはり事件そのものについては 何の記憶も無いとのことで、彼女にとっては、自分に起こったことを警察官の証言や、 加害者と言われてきた少年達の証言で知らされることが何よりも衝撃的で、辛いことだったようである。
彼女はジョギングができるほどに回復してから、先ず自分のレイプ現場を自ら歩き、 その場に供えてあったニューヨーカーからのカードや花束を見て非常に励まされたと同時に、 自分自身の中の恐怖心にも終止符を打ったと語っていたけれど、 彼女の回復は周囲が思うほど簡単なものではなく、意識はしっかりしていても「文字が読めない」、 「2時を指している時計の絵を描くように言われて、時計の長い針が何を意味するのかを忘れいてた」等、 MBAを含むマスター・ディグリーを2つも取得したエリートであるマイリー女史が、自分の失われた能力に 自らショックを受ける日々が続いたという。
彼女が今回、事件の14年後にその沈黙を破ってメディアに姿を見せたのは、 1つには彼女が自らの経験を綴った著書を出版するためでもあったけれど、 これは「クリントン・スキャンダル」のモニカ・ルインスキーがその著書を売るためにTVインタビューに答えるというのとは 明らかに異なるものであったと言える。
現在は結婚して、幸せな家庭を築いている彼女であるけれど、 そんな彼女があえてNY史上最も有名かつ、ショッキングなレイプ被害者として身分を明らかにしたのは、 あくまで彼女のような被害者が立ち直るためのインスピレーションとなり、 そうした人々をサポートして行くための活動の一環であり、 決して売名行為や商業的な目的ではないのは、インタビューを受ける彼女の真っ直ぐな姿勢からも 見て取れるものであった。

私にとって、このレイプ事件が忘れられないのは、ショッキングな事件であるからなのはもちろんだけれど、 これが私がニューヨークに暮らすために渡米した翌日に起こった事件だったからでもある。
私はこのレイプ事件が起こる前日の4月18日に日本を発ち、時差の関係で同じ18日にニューヨーク入りしたけれど、 先ずこの日に、乗っていた車が偶然 飛び降り自殺現場の前を通ったために、 生まれて初めて死体とそこに流れていた大量の真っ赤な血を見てしまい、物凄くショックを受けてしまった。 そしてその翌日、19日の夜に起こったこのレイプ事件のニュースを20日のニュースで知ることになり、 「覚悟はしていたけれど、凄い街に来てしまったかもしれない」と一時的ながらも不安になってしまった。
もちろんこのレイプ事件は日本でも大きく報道されたため、家族や友人にも とても心配されたし、 その後通い始めた英会話学校でも、この事件のディスカッションを何度となくしたのを覚えている。
私としては、そんなニューヨークに着いたばかりの頃の恐怖心を煽られた事件であっただけに、 今回マイリー女史が顔に若干の傷を残しながらも、強く生き続ける姿を見せてくれたというのは、 個人的に非常に嬉しいものだったし、人間の本当の強さというのは 打ちのめされた時に出て来るものだということを改めて実感してしまった。
今では犯罪数も低下して、この当時に比べるとすっかり安全になったニューヨークではあるものの、 レイプ犯罪については、毎年その数は増加傾向を続けていることが伝えられているだけに、 彼女の存在は、今後そんな被害者女性達に希望を与えるものになってくれると思う。






Catch of the Week No.5 Mar.: 3月 第5週


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