` CUBE New York Catch of the Week




Apr. 7 〜 Apr. 14 2003




今年のマスターズに見るアメリカの差別問題

今年のマスターズは、初日が大雨で延期となり、3連覇を目指して試合を盛り上げてくれるはずのタイガー・ウッズが、 土曜日を除いては全くの不調に終わり、1996年以来のプレーオフによる決勝も すっかり緊張感に欠くもので、ゴルフ・トーナメントとしては決してエキサイティングとは言い難いものだった。
それでも今年のマスターズがメディアや、日頃ゴルフに関心が無いような人々から注目を集めたのは、 マスターズが行なわれたカントリー・クラブ、オーガスタ・ナショナルが未だに女性メンバーシップを受け入れない 昔ながらの閉鎖的なクラブで、これに対して全米女性団体が 「性差別である」として、猛然と抗議行動を繰り広げていたからである。
女性団体は、既に今大会のかなり以前からオーガスタ・ナショナル・カントリー・クラブに対して 「女性メンバーに門戸を開くように」と働きかけをしてきたが、 再三のアプローチにも関わらず、クラブ側は一向にその姿勢を崩そうとしなかった。 そこでこれに業を煮やした女性団体は、今大会前にオーガスタの役員メンバー160人に、女性差別のポリシーに対する質問状を送りつけ、 さらにマスターズのコーポレート・スポンサーを列挙して「こうした女性差別企業をボイコットするように」と 呼びかける等、積極的、かつ攻撃的なアクションを見せることになった。
その結果、今年のマスターズのスポンサー・シップを躊躇する企業が続出し、 放映局であるCBSはCM無しの番組放映を迫られることになった。 またオーガスタの有力メンバー2人(そのうちの1人はブッシュ政権の関係者であると伝えられている)が 女性団体の抗議に賛同して、メンバーシップを放棄したことが伝えられ、 一時は女性団体の勝利が色濃くなったかに思われた。
ところが、オーガスタ側がマスターズをスムースに行なうためとして、大会開催中の女性団体のデモ禁止令を 地方裁判所から取り付けたことから、女性団体の怒りの火に油を注ぐ結果となってしまった。
このため、今年のマスターズ報道はゴルフ・トーナメントの記事と共に、 女性団体の抗議運動の様子、女性団体の抗議に抗議する白人至上主義団体KKK(Ku Klux Kran)のデモ参加者、 そしてこれら全てに抗議するPARP(People Against Ridiculous Protest/馬鹿げた抗議活動に反対する団体)なる人々が オーガスタ・ナショナル・カントリー・クラブの外で繰り広げた、サーカスのような抗議活動を 大きくフィーチャーすることになった。 このオーガスタの女性差別問題については、これまでにも幾度となくメディア・フォーカスが当てられてきており、 昨年にはタイガー・ウッズが同問題について記者から質問され、 「オーガスタは自らのクラブのメンバーを選ぶ権利がある」と発言したために 大顰蹙を買い、それまでのクリーン・イメージから打って変わって「偽善者」呼ばわりされたのは 記憶に新しいところである。
オーガスタに限らず、名門カントリー・クラブには白人男性至上主義の閉鎖性があるのは周知の事実であるけれど、 マイノリティ(少数民族)・ゴルファーとして、アマチュア時代からその差別と戦ってきたはずの タイガー・ウッズが「黒人の差別には抗議するけれど、女性差別には目をつぶる」という姿勢を見せたことは、 こうした反発を招いても仕方が無いものであった。
今大会前にコメントを求められたタイガーは、少しこの批判から学ぶところがあったようで、 「オーガスタが女性のメンバーを受け入れるのにはもちろん賛成だけれど、 オーガスタはそれほど簡単にポリシーを変えるところではない」と、オーガスタからも 女性団体からもクレームが出ないような返答をしている。

私は今回のオーガスタをめぐるゴタゴタ騒ぎで、個人的に幾つか疑問に思うことがある。
オーガスタは黒人メンバーを受け入れるポリシーに改めて既に何年も経つけれど、 実際には同クラブの黒人メンバーは僅か6人と言われている。 だから、恐らくオーガスタが女性メンバーの受け入れを始めたとしてもアメリカの女性ゴルフ人口や、 そのメンバーシップの値段の高さ、オーガスタのあるジョージア州という 比較的コンサバなエリアを考慮すると、どう考えても 多くの女性がメンバーになりたがるとは思えないのである。
したがって、女性メンバーの受け入れを打ち出したところで、 カントリー・クラブ自体には何ら主だった変化は見られないであろうにも関わらず、 コーポレート・スポンサーを失ってまで「男性メンバー・オンリー」にこだわる理由は 一体何処にあるのだろう?というのが 先ず1つ目の疑問である。
女性団体の代表であるマーサ・バーク女史は、 「オーガスタのミリオネアのメンバー達が1番恐れているのは変化だ」と指摘し、 夜のトーク・ショーでは「男には自分の妻から隔離される平和な空間が必要だ」とも説明されていたけれど、 確かに男性には「男同士のコミュニケーション」をする必要がある訳で、 逆の事は女性側にも言える事である。 そしてこれをするために、男性メンバー・オンリー、女性メンバー・オンリーのプライベートな社交クラブが 今も全米各地に、何の非難も浴びることなく存在している訳である。
そこで再び湧き上がってくるのは、 こうした性別で「差別する」のではなく「区別する」社交クラブと オーガスタでは一体何処が異なるのだろうか?という疑問である。
もちろんオーガスタは全米で最も由緒あるゴルフ・トーナメントが行なわれるゴルフ・コースとして メディアにもフィーチャーされ、その存在やポリシーが少なからず社会に影響を与えたり、 無言のメッセージとなって人々の意識に働きかけることはあると思うけれど、 男性メンバー・オンリーのプライベートな社交クラブとその性質が著しく異なるとは言い難いと思うのである。
また、このようなクラブという形でなくても、アメリカには結婚前の男性を囲んで行なう バチェラー・パーティーなる男性オンリーのイベントがある。 これは男性がその男友達と独身時代最後のワイルドなパーティーを楽しむというもので、 多量のアルコールとストリッパーが付き物のイベントである。 バチェラー・パーティーには、どんなにその男性と親しくても 決して女友達が招待されることは無いが、この理由はやはり女友達が居ては男性達が羽目を外せないからに他ならない。 でもバチェラー・パーティーに招待されないからと言って、女性がこれを性差別イベントだと見なす傾向は無く、 逆にここ数年では女性側も女友達だけを集めて、男性ストリッパーを雇ったパーティーをしていたりする。
結局のところ、女性が女性だけでしたいこと、男性が男性だけでしたいことが世の中に存在し、 女性も男性もそれを認めている限り、女性と男性が全てを平等にシェアする社会というのは やはり実現しないものだと私は個人的に思っている。
実際にこれが男女の差別という形で行なわれれば社会的に問題視されるけれど、男女の区別、区分けという形で行なわれている分には 誰も文句は言わないのである。
ある意味でこの男女区別が最も当たり前に行なわれているのは、パブリック・バスルーム(公衆トイレ)で、 男女平等を過激なまでに訴える人でもユニセックス・バスルームを好む例は極めて少ないと言える。 でもスポーツ・スタジアムやコンサート会場等で、女性トイレの長い行列に嫌気が差した女性が 男性トイレを使用してもお咎めは無いけれど、男性が女性トイレに入ろうとすれば警備員が飛んで来る訳で、 これは男性が差別されている例と言うことが出来る。

今回のオーガスタへの抗議活動を見ていると、まるでオーガスタが男女差別を打ち出す 最後の砦のように言われているけれど、アメリカ社会にはまだまだ様々な部分に男女差別が存在しているし、 人種差別も表面には現れない部分で非常に根強いと言わなければならない。
失業者が増えて、仕事探しが難しくなる一方の昨今のアメリカで問題視されているのが、 多くの企業が人種差別の無い平等な採用基準を謳っておきながら、 「アイーシャ」、「タイロン」等、明らかに黒人と思われる名前での面接の申し込みには応じず、 「レイチェル」、「クリストファー」といった白人層にありがちな名前を選んで 面接を行なう傾向にあるという事態である。
こうした大義名分と実際が異なる偽善的な企業の数々に比べれば、 「受け入れたくないものは 受け入れない」とはっきり宣言するオーガスタ・ナショナルは、 正直である分、マシな存在と言えると思う。



サダム政権崩壊後のアメリカの変化

今週水曜日は、既にご承知の通りアメリカ軍がバグダッドを完全制圧した日で、サダム・フセインの銅像を 引きずり倒すイラク市民の様子がアメリカのメジャー・ネットワークでも生中継されていた。
これと同時にイラク市民が街に出て自由を謳歌し、アメリカ兵に抱きついて感謝する姿も映し出されていたけれど、 これを見て、現地のイラクの人々よりもずっと楽観的な気持ちになったのはアメリカ国民の方だったのではないかと思う。
この日は、滅多にメディアに姿を見せないチェイニー副大統領がメディアの前で誇らしげにスピーチをし、 多くのメディアがアメリカ軍の素早い、有効な制圧ぶりを褒め称えていた。
この日を境に、オペレーション・アトラスとネーミングされたニューヨーク市内の厳戒態勢は ずっと緩いものになり、既にテロの恐れは無いと判断したのか、あれほど「テロ対策にダクト・テープを買うように」と 煽った4大ネットワークの1つで、戦争支持を強烈に打ち出していたFOXネットワークのニュースでは、 要らなくなったダクト・テープの使い方として、「ペットの毛の掃除に便利だ」等とそのマルチ用途ぶりを説明していた。
さらに、そのFOXと言えば、ニューヨーク・ポストと共にフレンチ・ボイコットをプロモートしたメディアであるけれど (この2社は共にニューズ・コープという同じ親会社に属している)、 旅行者が激減していることがNY経済に打撃を与えているため、「フレンチ・ボイコットを止めて これまで通り、フランス人の旅行者にNYに来てもらおう」という虫の良い報道までされていた。
でも今後、国連主体の戦後処理策を主張するフランスとアメリカが再び対立するのは目に見えているから、 FOXやニューヨーク・ポストが再びフレンチ・ボイコットを呼びかけても私は驚かない。
夜のトーク・ショーでは「アメリカ人が恐れなければいけないのは生物兵器テロではなくて、 咳をしているアジア人だ」等とジョークを言って、テロの恐怖が遠ざかったと思われる今、 SARSの方が深刻な問題であると指摘するまでに、アメリカ国内には余裕が出てきている。
NYの街中からも「テロが起こるかも知れない」という緊張感が全くといって良いほど感じられなくなったし、 これに春の到来も手伝って、ムードはすっかり楽観的になりつつある。 特に今週の土曜日は好天も手伝って、過去数週間に無かったほど夜の街に人が出ていて、 流行っているバーの前では禁煙条例の影響で、バー内で煙草を吸えない喫煙者の人だかりも出来ていた。
でもこの楽観はイラク情勢と季節だけを考えればの話で、アメリカ国内においては失業、経済問題を中心に 今後かなり深刻な局面を迎えることになる。
イラク情勢にしても、自由を喜ぶ人々の姿が報道された翌日には、略奪行為や不足する水や食料、 そして何より秩序が失われた状態にイラク市民がフラストレーションをつのらせていることが伝えられている。
これに対して、ラムズフェルド国防長官は、イラクの人々の略奪やバグダッド市内の無法状態について 「乱雑な状態なのは承知している。でも自由というのは乱雑なものだ。 自由になったイラク市民は、間違えを犯す自由もあれば、犯罪を犯す自由もある。」 と無責任とも言える発言をしている。
でもイラクに「犯罪を犯す自由」までも もたらしたアメリカの 国内では、戦争批判をしたセレブリティへの風当たりは未だに強く、 「言論の自由は何処へやら」という状態は続いている。 加えてニューヨーク市警察では、反戦デモでの逮捕者について、これまでにどのようなデモに参加し、どういった政治思想を持っているか?等を その個人情報と共にデータベース化するという、共産主義国家のような案さえも検討されていた。 これはさすがに猛反対にあって廃止となっているけれど、今回のイラク戦争前ならば こうした案が出ること自体が信じられないことである。
戦争に反対していたリベラル派は、「今回の戦争でイラクに自由を与えるために、 アメリカが失った自由は計り知れない」と指摘するけれど、 確かに政治的にイラクがアメリカに近付いた分、アメリカもイラクに近付いたと言えるかもしれない。





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