` CUBE New York Catch of the Week




May 5 〜 May 11 2003




コン・アーティスト(詐欺師)との遭遇

先々週の「私のニューヨーク・アニヴァーサリー」 については何通も読者の方からEメールを頂戴したけれど、 ニューヨークのような街に暮らしていると、本当にいろんなことを経験するし、 いろいろな人にも出会うことになるのはつくづく感じること。
そんな中で、短い関わり合いしかなくても、よく覚えている人というのは、 良い意味や悪い意味で何らかの教訓をもたらしてくれた人であったりする。 私にとってのその最たる例と言えるのが、もう何年も前に1度だけ会ったジェームスという男性であった。
私がこの男性に会ったのは、まだパートナーと一緒にビジネスをしている頃で、 この当時、CUBE New Yorkのショッピング・セクションはバーチャル・ショッピング・ネットワークという 名称になっていた。ジェームスを私に紹介したのは パートナーのうちの1人で、 当時ケーブル・モデムのビジネスをしていた彼が、その仕事を通じて知り合ったのが ジェームスであった。
このジェームスという男性は、パートナーによれば ミッドタウンのカーネギー・タワーの並びにある メトロポリタンという高級コンドミニアムに暮らし、モデルのガールフレンドが居るという プレイボーイだそうで、その余りある資産の一部をインターネット・ビジネスに投資することを 考えているとのことだった。 だからパートナーが私にジェームスを紹介したのは、ジェームスがバーチャル・ショッピング・ネットワークの バッカーになってくれるかも知れないという希望を抱いていたからに他ならなかった。
ミーティングは私とジェームス、そしてパートナーの3人で行なわれることになったけれど、 この時点でパートナーは既にジェームスにすっかり惚れ込んでしまっていて、 ジェームスがいかに手広く様々なビジネスに投資をしているか、そしていかに彼がリッチでサクセスフルであるかを ミーティングの前にイヤという程聞かされたのを良く覚えている。
さて、ミーティングの当日、待ち合わせはジェームスのアパートがあるメトロポリタンのロビーということになっており、 私は時間通りにロビーに着いて、パートナーが現れるのを待っていた。 ところがこの日は彼の仕事が大幅に遅れた上に交通渋滞が酷く、私は結局20分も ロビーで待たされることになってしまった。
その私が待っている20分の間に、私の目に留まったのが背が低く、態度の大きい1人の男性だった。 彼はメッセンジャーで届けられた分厚い封筒をドアマンから受け取り、 エレベーターで上がっていったけれど、 暫くすると同じ封筒を持って再びロビーに下りてきた。 そして「Yokoという女性が自分を訪ねて来なかったか?」と私の目の前でドアマンに訊いていたので、 私は内心「まさかこの人がジェームス?」と思いながら自己紹介をすることになり、 数分後にパートナーが現れる前に、私と彼は対面することになった。
彼は「本当は自分のアパートでミーティングをしたいところなんだけれど、 引越し前で、家具を全て運び出してしまった」と早口で言い訳をし、 ドアマンに対しては横柄だったものの、私には感じが良く、フレンドリーに接して来た。 でも、彼に対する私の第一印象は「パートナーが言っていたジェームスという人間像と 彼本人があまりにかけ離れている」というもので、私には どう見ても彼が「リッチでサクセスフルなプレイボーイ」には見えなかった。
後でそれをパートナーに話したら「ハリウッド映画じゃあるまいし、 背が高くてハンサムな男が、いつもリッチでサクセスフルになる訳じゃない」と言われ、 「リッチでサクセスフルならば、モデルの1人や2人とも簡単に付き合える」とも諭されてしまったけれど、 この第一印象のせいで、私は 終始彼のことを細々とチェックすることになった。
先ず私が気がついた、というより気がつかされたのは その強烈なコロンの匂いで、 苦痛なほどに匂うそのコロンは、彼が嗅覚が麻痺した人間としか思えないものだった。 私は自らの経験から「コロンを常につけ過ぎて居る人間は何処かがおかしい」 という持論を持っていることもあり(この経験について説明すると長くなるので、今回は省略します)、 匂いの不快感と共に、彼への警戒心はさらに高まることになった。
こうした状況で私が始めるのは 全身のチェックであるけれど、 彼は特に高そうではないものの、きれいに磨かれたシューズを履き、時計はロレックスの ダイバー・ウォッチの安いバージョンをしていた。 当時は夏だったので、彼はコットン・シャツにチノパンという出で立ちであったけれど、 そのピンク色のシャツの胸にはポロ・ラルフ・ローレンのマークが刺繍されており、 全体的に小奇麗には纏まっていた。
でも、私にとって引っ掛かったのは、ミーティングをするために近所のレストランに向って歩き始めた時、 彼のチノパンの後ろポケットに「ドッカーズ」のマークが縫い付けてあったことだった。 「ドッカーズ」とはリーバイス傘下の、当時チノパンで大きく稼いでいたブランドであったけれど、 非常に大衆的なイメージで、その取扱店もJ.C.ペニーやメーシーズ等、 「リッチでサクセスフルなプレイボーイ」が買い物をする場所とは程遠いところだった。
レストランに着くと、ジェームスは先ず手にもっていた封筒を開けて、 「今度出資する映画の脚本が今届いたばかりなんだ。ちょっと大至急でチェックしなきゃならないことがあるから…」と言って、 パートナーと私の前で書類をペラペラとめくり始めた。 するとパートナーが「ジェームスはハリウッド映画にも投資しているんだ。」と私に説明を始め、 「ジェームスのビジネスの傘下にはドイツの金融機関もあって…」等と彼のビジネスについて 更に大きな話を聞かせられることになったけれど、 私には彼がこの脚本をパートナーと私に見せびらかすために持って来たとしか思えなかった。
というのもジェームスは 私とパートナーに会う少なくとも10分前には ドアマンから脚本が入った封筒をピックアップしていた訳で、彼はその様子を私が見ていたことには気が付いていなかった。 彼はその後一度自分のアパートに戻り、「大至急のチェック」をする時間が十分にあったにも関わらず、 同じ封筒を持って再び下りて来たのである。
私はこのことでもジェームスという人物が信用が出来なくなったので、 その後レストランで3時間のミーティングをしていたけれど、パートナーに言わせると 「全然乗り気じゃ無さそうだった」という態度を取っていたようである。
逆に私に言わせれば、3時間のミーティングの間にジェームスという人物が インターネットやインターネット・ショッピングについて驚くほど無知であることを言葉の端々から窺い知ることになったし、 自らのビジネスにしても、空虚な自慢話をするだけで、全くクリアなビジョンを持っていないと感じさせられるばかりだった。
結局、この日のミーティングは「是非バーチャル・ショッピング・ネットワークに投資をしたいから、 先ず会社の資産を見積もって欲しい。その半分を買い取るから。」と彼に言われて終了したけれど、 この資産の見積もりというのは、会計士に見積もらせるのではなく、自分達の見積もりで構わないという おかしな話だった。 私が冗談めかしに「じゃあ私達が会社が10億と見積もったら、5億円支払ってくれるんですか?」と 訪ねると「もちろん君たちが適切な見積もりを出してくれると信じている」と言って来たけれど、 真に受けるにはあまりに馬鹿げたオファーだと私は思っていた。
でもパートナーはすっかりジェームスを気に入っていた上に、欲にも目がくらんでいたので、 この日、ミーティングの後、彼と私は大喧嘩をすることになった。 以前も書いたようにパートナーは、バーチャル・ショッピング・ネットワークの仕事は何もしないし、 投資をしていた訳でもなかった割には「馬鹿げたビジネスに加担させられた」という被害者意識を持っていたので、 少しでもこのビジネスをお金に替えて手を引きたいと常日頃から考えており、 ジェームスからの投資話は彼にとってみれば天の恵みのように思えたようだった。
「こんな儲からないビジネスへの投資を真剣に考えてくれるビジネスマンなんてもう現れないから、 適当な値段を会社につけてジェームスにレポートするべきだ」と言う彼に対して、 「彼は絶対に詐欺師! 契約書にサインだけさせられて、 会社の半分を取られて、きっと一銭も入ってこないから。 第一、この会社は私にとってはプライスレスなんだから。」と私が言い返すと、 パートナーは皮肉交じりに大笑いをして「プライスレスじゃなくて、ワースレス(worthless/価値が無い)だろ」 とやり返してくる状態で、ジェームスを信じきっている彼と私は真っ向から対立することになった。
私は日を改めて、パートナーに私が抱いたジェームスへの不信感について説明をしたけれど、 コロンやドッカーズについては説得力が全く無かった。 でもジェームスが脚本を見せびらかすために持って来た話は、パートナーも少し変だと思ったようで、 「そう言えば… 」と、パートナーが不思議に思い始めたのが、 どうしてジェームスが家具を運び出した後の何も無いアパートに、彼と出会ってからの 何週間もの間、暮らしていたのか?ということだった。
パートナーはケーブル・モデムの仕事で、ミーティングの数週間前にジェームスのアパートの中に入っているけれど、 その時点で部屋の中にはまともな家具は全く無かったそうで、彼と付き合っているモデルというのは、 若くて、細くて、背が高いけれど、キレイとはいえない女性で、彼がそのモデルを見た時は、 彼女はガランとした部屋の中で大きな空のダンボール箱に絵を書いて遊んでいたそうである。
少し頭を冷したら、いろいろなことがおかしいと気付き始めたパートナーは、 後日 その投資話を断ったけれど、ジェームスはその後「どうしても投資をしたい」と 何度も彼のところに言ってきて、その都度、全くリアリティの無い話をして来たという。
ところがある日、パートナーが支払いが遅れているケーブル・モデムのビジネスの代金を支払ってもらおうとコンタクトしたところ、 ジェームスは忽然と消えてしまい、メトロポリタンのコンドミニアムも どうやら彼のものではなかったらしいことが明らかになった。 結局パートナーにとってはジェームスを信じたことが痛い出費になったようだけれど、 彼が騙されて、私が騙されなかったのは、 決してパートナーが私より騙され易い性格だった訳ではなく、 会社への思い入れの違いが要因だったと私は思っている。
私はこのビジネスが大切だったし、一生懸命やっていたから、 やたらな人間に投資をしてもらうなんて まっぴらだと考えていたのに対して、 パートナーにとってはヴァーチャル・ショッピング・ネットワークは 「馬鹿げた儲からないビジネス」でしかなかったから、誰でも良いから投資をしてくれるか、買い取ってくれる人を探して 少しでもお金にしようと思っていた訳で、だからジェームスのような人間に飛び付いてしまったのである。
人間は信じたいものを信じようとする傾向にあるけれど、 上手い話が降って沸いてきて「そろそろ自分にも幸運が巡ってきても良い頃」と考えて飛び付いてしまう人というのは、 ビジネス、結婚等、様々な分野で、こうした詐欺師の格好のターゲットになってしまうタイプだと思う。



ニューヨーカーがペニー・セイバーになる日

失業者が6%に達したニューヨークであるけれど、 仕事がある人間にとっても、給与は上がらない一方で、 バスと地下鉄の運賃の値上げ、水道代の値上げ、 不動産税のアップによって今後見込まれるレントの値上げ、 同じく今後見込まれる売上税のアップ、所得税のアップ等で、 これまでと同じ金額を使っていたら、確実に蓄えが減ったり、赤字が増える状況に追い込まれてきている。
多くのニューヨーカーは、SARSを理由に夏のバケーションを近場で、 しかも短く済ませる人が多いようで、好況期には3週間をヨーロッパ等で過ごす人々が多かったことを思うと、 かなりのダウン・スケールである。
また、バケーションのような特別な出費でなくても、 日常生活の出費を見直さなければならないニューヨーカーは数多く、 1セント・コイン(ペニー)でも節約するほど切り詰めて暮らす人をペニー・セイバーと言うけれど、 今のニューヨーカーは徐々にこのペニー・セイバーになりつつあるのが現状である。
シングルのニューヨーカーにとっては、1番出費を削り易いのは 外食費で、もし週に1回、40ドルのディナーを15ドルのテイクアウトに切り替えただけで、 年間で1300ドルをセーブすることが可能であるという。
デートや友人に会う際も、シリアスなディナーより、バーで軽食を取りながら ドリンクを楽しむというのが 昨年からの主流であったけれど、最近では家で食事を済ませてから ドリンクだけをしにバーに行くというニューヨーカーも増えている。 さらに「セコイ!」とも言えるのは、大きなバッグにビールを入れて、バーにこっそり持ち込むという手法で、 これによってビール1本あたり5ドルはセーブが出来るという。
この他、決して映画館には行かず、ビデオやDVDをレンタルして、友達と一緒に見るというのも 若い層を中心に行なわれているお金の節約方法であったりもするし、 ジム通いを止めて、セントラル・パークでジョギングをすることにより 年間600〜1400ドルの ジムのメンバーシップ代を浮かせる人々も居るという。
努力次第で最もお金をセーブできると言われているのはやはりランチで、 1回10ドル使っていたランチを、サンドウィッチ等のお弁当に切り替えれば年間に 1800ドル程度を節約できるというけれど、これはよほどお金に困った ニューヨーカーでないと出来ないというのが私の個人的な意見である。 というのも、私は自分のビルのエレベーターで、テイクアウト・フードを持って帰って来る住人は 沢山見るけれど、食材を買って来る住人というのには まずお目に掛からないためで、スーパーの袋を下げている人が居ても、 その中身はシリアルやソーダや洗剤等が入っているケースが殆どである。
実際のところ、ランチに簡単なサンドウィッチを持参するにしても、先ず買い物に出掛けて、 サンドウィッチを作って、それをオフィスに持って行くために詰めるビニールバッグ等も用意しなければならず、 それだけの時間と手間を掛けるなら、1日10ドルでも支払った方が良いと考える ニューヨーカーは少なくないのである。
むしろ激減しているのはレストランでランチを取るニューヨーカーで、 チップも含めて25ドル支払っていたランチを、10ドルのテイクアウトで済ませるといった人々は増えている。 このため、ミッドタウンのオフィス街のレストランは、 ランチ客の激減のせいで経営がかなり悪化していることも伝えられている。
こうした経済状況下で、「収入が増えないから、出費を削らなければ…」というのは、 ニューヨーカーにとってノー・チョイスの選択ではあるけれど、 何でもかんでも切り詰めてばかりいたら、人生が寂しくなってしまうだけな訳で、 自分を幸せにする出費というのは、やはりどんな家計の状況下でも、ある程度はしていかなければならないものだと思う。 そうやって、出費に慎重になっている時に、無理をしてでも買ったものは、 大切にするし、長持ちしたり、使いでがあったり、買った甲斐があるものであるから、 使い捨てや無駄な消費が多かった好況時代のニューヨーカーを思うと、 ここへ来てペニー・セイバーになるというのは、決して悪いアイデアではないと思う。





Catch of the Week No.1 May : 5月 第1週


Catch of the Week No.4 Apr.: 4月 第4週


Catch of the Week No.3 Apr.: 4月 第3週


Catch of the Week No.2 Apr.: 4月 第2週