May. 24 〜 May. 30 2004




スワン=アグリー・ダック ?

アメリカではここ数年リアリティTVが大ブームになっているけれど、 そんな中で最も物議を醸している番組と言えたのが今週で最終エピソードを迎えた「スワン」である。
この番組では 毎週2人ずつの女性が登場し、整形手術や精神のカウンセリング、ダイエットやエクササイズを含む、 総合的なメイクオーバーを行い、2人のうち より美しくなった1人だけが番組の最終回に行われる「スワン・ページェント」に 参加することが出来るというもの。メイクオーバーは8週間に渡って、16人の女性に対して行われ、 それぞれの週で勝ち残った女性8人に、敗れた8人から敗者復活で選ばれた1人を加えた 9人で「スワンの栄冠」を競うのが、今週放映された「スワン・ページェント」である。
この番組が「スワン」とネーミングされているのは、「醜いアヒルの子」が 美しい白鳥になって羽ばたくことを意味したもので、実際にメイクオーバーを受けた16人の女性達の殆どは、 幼い頃から顔や身体にコンプレックスがあり、精神的にも後ろ向きで、自分に自信が無く、 自分を醜いと思うあまりに、夫との離婚を考えたり、自分が誰からも愛されないと考えている女性達である。

彼女らはメイクオーバーを受ける3ヶ間もの間、家族から隔離され、 鏡の無い環境で生活をすることになる。 この鏡の無い環境というのは、かなり徹底したもので、彼女らが滞在する部屋からは、ガラス、 鍋の底など、姿を反射する一切の物体が取り除かれ、女性達は番組の フィナーレで、鏡の前に立ち、生まれ変わった自分の姿に対面するまで、自分がどんな姿に なっているのかが分からないままメイク・オーバーに励むことになるのである。
毎週番組は、メイクオーバーを終えた女性達がイブニング・ドレス姿で登場し、 3ヶ月ぶりに鏡を見て、その新しい自分の姿に感激して泣き出したり、喜んだり、驚いて叫び声を上げたり、 飛び跳ねたり、うずくまったりするリアクションがメイン・イベントになっているけれど、 そんな彼女らを「自分の作品」として誇らしげに見守っているのが、2人の美容整形医、美容歯科医、 エクササイズ・トレーナー、サイコ・セラピスト、栄養士らである。
でも、この手の番組では、どんなにメイクオーバーが総合的なものであったとしても、 その主導権を握るのは やはり美容整形医で、 「現代の美容整形が何処までに外観の悩みを解消して、人間を美しく作り変えることが出来るか?」 というのが番組のポイントであると同時に、視聴者の関心であり、 様々な方面からの批難が集中している点であったりもする。

アメリカは世界の中ではブラジルに次いで整形手術が盛んな国であるし、 一般の人々が整形手術を受ける歴史も長いけれど、 それだけに整形手術のネガティブな部分に着眼する傾向も強く、「スワン」のような番組の 「整形手術によって美しさが手に入れられる」、「手術で手に入れた美しさが自分を変え、人生を変える」 といったメッセージを危険視する声は非常に多いのである。
実際、こうした危惧は美容整形医の間でも頻繁に語られていることで、 アメリカではまともな医者であれば「手術で変えられるのは外観だけ。それで幸せになれるかは 本人の努力次第」というスタンスを強調し、決して「手術をすれば男性にモテるようになる」というような、 付加価値の期待を抱かせるようなことは明言しないと言われているのである。

「スワン」でメイクオーバーを担当した2人の美容整形医にしても、彼らはビバリーヒルズの有名ドクターであったけれど、 当初は同番組にそれほど乗り気ではなく、ともすればリスキーなプロジェクトであると考えていたという。
「スワン」では、整形外科医に与えられたバジェットは、女性1人当たり 日本円にして約2750万円。
殆どの女性がブレスト・インプラント(豊胸手術)、ライポサクション(脂肪吸引)、タミー・タック(腹部を平らにする手術)、 リーノプラスティ(鼻の整形)、アイブロウ・リフト(目をパッチリさせる手術)を行い、 この他に個人の悩みに合わせて、唇をふっくらさせたり、目の下のクマにファット・インジェクション(皮膚をふっくらさせるために、ライポサクションで 吸い取った脂肪を注入すること)をしたり、足首を細くするための手術等を行うことになるが、 2人の担当医によりれば、これだけの全身大改造を行うには、2750万円というバジェットはかなりタイトなものであったという。
一方の女性達にとっても、顔と身体を一気に、それも大々的に手術をするため、 術後の腫れや身体への負担はかなりのもので、暫らくは付き添い無しでは生活できない状態になるし、 多くの女性達がそのあまりの痛みや辛さに精神的に落ち込み、 「どうして自分がこんなことをしようと思ったのか分からない」とまで言い出すほどに 後悔するのは珍しくないことだった。
でも医師達が、対応に苦労したのは術後の女性達の経過よりも、むしろ手術を受ける前の 彼女らの非現実的な整形手術への期待の大きさで、身体についた脂肪が、 ライポサクション(脂肪吸引)で全て落とせて、モデルのような身体になると思い込んでいたり、 身体とのバランスを省みずに豊胸手術のサイズとして、大きめのDカップをリクエストしたり、 肉体的な負担や危険を説明しても、無理な手術を望む等、 「このチャンスに自分を全て作り変えたい」という女性達の欲張りで、 リスクを省みない要望には かなり苦慮したようである。

私はこの番組については、最終回の「スワン・ページェント」以外は、最初の2回程度しか見たことが無かったけれど、 各エピソードに登場した女性達が メイクオーバーを終えてイブニング姿で登場した際は、 「ちょっと不自然だけど、それなりにキレイになった」という気持ちで見ていたと記憶している。 でも今週の「スワン・ページェント」を見てからは、「2750万円掛けても、 この程度にしかならない」という印象の方が強くなってしまったのが実際のところだった。
その理由の1つは、通常の番組ではメイクオーバーされた姿が最後の5分ほどしか登場せず、 それまではメイクオーバー以前の姿や、術後の腫れた顔に包帯を巻いている姿ばかりが映し出されていたので、 そのコントラストでメイクオーバー後が必要以上にキレイに見えているということがあったと思う。
加えて、「スワン・コンテスト」では水着姿やランジェリー姿で女性達が審査を受けたため、 イブニング・ドレスを着ていた時には見えなかった全身が露わになったことも、 手術の限界を見せ付ける要因になっていた。
でも私が最も感じたのは、「スワン・コンテスト」では 女性達が2時間もの番組中、 ずっと画面に登場していたので、通常の番組でメイクオーバー後の姿を5分程度眺めたのでは気が付かない問題点、 特に表情の粗が目についたということであった。

整形手術でメイクオーバーされれば、確かに鼻の形やあごの線はきれいになるし、頬骨も高くなって、 唇もふっくらして、目もパッチリすることになるから、以前に比べてずっと整った印象になるのは紛れもない事実である。 でも、手術では顔のパーツの形は直せても、顔の筋肉を動かすクセまでは直せない訳で、 彼女らの顔は、努めて笑顔を作っていない時は、自分を醜いと思っていた時代の 表情が戻ってくることがあり、それは「美人の表情」とはかけ離れたものだった。
世の中には、顔自体はさほど美しくなくても、きれいに見える人、可愛らしく見える人というのは 沢山居るけれど、それは表情がそうさせている訳であって、笑顔の作り方や目線の走らせ方など、 人の顔を魅力的に見せるには、表情というものが非常に大切なものである。 同じことは身体にも言えることで、姿形は整っていても、歩き方や姿勢が悪ければ 魅力的なボディには見えない訳である。
今は亡き大女優で、その脚線美で知られたマレーネ・デイトリッヒは、 「私の脚は特に美しい訳ではないけれど、どうやったら脚が美しく見えるかは熟知している」 と語ったそうだけれど、スワンに登場した女性達は全くその逆で、顔やボディ・パーツは 手術で整えてもらったものの、それを美しく見せる方法を知らないという感じが漂っていた。
だから、メイク・オーバー後の第一印象では「きれいになった」というイメージを抱かせても、 眺めている時間が長ければ長いほど、「醜いアヒルの子」時代の表情が出てきてしまう事になり、 結局は「あれだけ手術をしてもこの程度のキレイさ」的な印象を与えてしまうことになるのだと思ってしまった。

さらに言うならば、同じ医者によって手術された女性が1度に何人も登場すると、 目の上がり方や鼻の形などが、非常に似ているのに気が付くことになったし、 その医者の作風が似合う女性の顔は比較的自然な仕上がりであったけれど、 作風が顔に合わない女性達は、同じように不自然な仕上りになっていたのも目についたことの1つだった。
以前このコーナーで、「美容整形医を選ぶ時は、その作風、すなわち医者が手掛けた患者の 姿を見てから決めるべき」と書いたことがあるけれど、 今回のスワンを見て私が思ったのは、医者の作風が気に入るかだけでなく、それが自分の顔に合うかも考えて ドクターを選ぶべきなのだろうということだった。

ちなみにアメリカでは、同じ整形手術を受けるにしても、土地によって結果が異なると言われており、 例えば鼻の形を直すにしても、ニューヨーク、マイアミ、ダラス、ビバリーヒルズでは それぞれ違う鼻の形に仕上がるほど 土地ごとの流行りのパターンというのものが存在するそうである。
今回の「スワン」の美容整形医は、先述のように2人ともビバリーヒルズのドクターであったけれど、 仕上がった女性の顔は、確かにビバリーヒルズの医者の作品にありがちな、 ショービジネス型の顔が多く、それだけにB級映画女優のように見える女性が多かったというのが偽らざる感想である。

多くの批評家は、「スワン」という番組が、整形手術を受けて簡単に美しさを手に入れたい という風潮に 拍車を掛けることを心配していたけれど、私個人としては この番組によって「整形手術に頼って、大金を投じても、医者の作品のカーボン・コピーになるだけ」 ということを再認識させられたし、やはり本当に美しくなろうと思ったら、専門家による3ヶ月の集中的かつ、総合的なメイクオーバーよりも、 自分自身の日々の努力を続けることの方がずっと効果的であることも痛感させられた感じだった。



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