May 31 〜 June 6 2004




ファッション・ヴィクティム

5月の2週目からニューヨークで始まっていたのが、多くのメジャー・デザイナー・ブランドの 秋冬コレクションのトランク・ショーである。
これは各デザイナーがランウェイで見せたファッション&アクセサリーの予約受注会のことで、 メディアによるコレクション速報等の比較的小さな写真でしか見られなかった服やアクセサリーを、 シーズン前に 一般客が実際に試着したり、手に取って眺められる 唯一のチャンスなのである。 一方のデザイナー・ブランドや小売り店側にとっては、トランク・ショーでの顧客のリアクションによって、 どのアイテムを多めに生産、もしくは発注すれば良いかが あらかじめ把握出来るという利点を もたらすイベントで、トム・フォードの大ファンである私としては、今シーズンが彼の最終コレクションとなる グッチを始め、いくつかのトランク・ショーに出掛けたけれど、 行く度に驚いたのが、人々のアグレッシブな購買姿勢であった。
しかもお値段を見てみれば、「ブランド物の値段が急激に上がった」という印象の今年の春夏ものよりも、 さらに高いお値段で、これは秋冬物だから、素材や作りの関係で春夏物より高いのは当たり前と言えば当たり前であるけれど、 昨年の秋冬物と比べたとしても、「ドカーン」という音が聞こえてくるような値上がりぶりを見せていた。

という訳で5月2週目からというもの、私の頭の中は、この秋冬シーズンのファッション・バジェットの やりくりの事で一杯になってしまったけれど、既に秋冬のワードローブに頭が行っているのは 決して私だけでないのは、各ブティックやデパートのトランク・ショーの盛況ぶりを見れば分かる通りである。
また、グッチに関しては、5月の末の時点で、既に「アーリー・フォール・コレクション」、 すなわち初秋物のコレクションが春夏物と一緒に店頭に並んでいたのであるから、 ファッション業界は5月にして既に秋の気分なのである。
そうして6月に入った途端、今度は、未だニューヨークでは 本当に夏らしい天気など 未だ1度も味わっていないにも関わらず、デザイナー・ブランドが一気に春夏物の30%オフ・セールに入り、 この価格は月末になる頃には40%オフ、もしくは30%オフから さらに25%オフという感じで、 割引率が高くなっていくのである。

ファッション業界においては、カレンダーがどんどん前倒しになっているというのは、 過去何年にも渡って顕著な傾向で、私がニューヨークに住み始めた1989年から暫らくの間は、 アメリカの夏物のセールと言えば7月20日過ぎに始まり、秋物というのは8月半ばに登場するものだったと 記憶している。 ところがここ数年で、そのセールが7月上旬になり、6月下旬になり、昨年には6月中旬になっていたけれど、 今年はそれをさらに繰り上げて6月2日からスタートしており、さらに プレ・セールと称して、セールになるまで商品を取り置きをしてくれるシステムは、 何と5月末から始まっていたりするのである。
頭を冷して考えてみるまでもなく、これから3ヶ月間は着られる服を「定価で売る価値が無くなった」として 値引きするというのは、かなり不思議な話である。 でも購入する側は、昨年の11月には今年の春夏のトランク・ショーに出かけており、 1月、2月から春夏物を購入している訳であるから、それから4ヶ月も経った6月になれば、 春夏物に飽きてしまい、春夏物が「昨シーズン物に見える」という状態になってしまうのは無理もないことなのである。
だからそんな6月に人々の財布を開かせようと思ったら、「セールしかない!」というのは 理解できるコンセプトであるけれど、こうしたファッションにおけるカレンダーの前倒しというのは、 消費者に季節感のズレを感じさせると同時に、ファッション自体のエキサイトメントを殺いでしまう傾向もあるかと 私は感じていたりする。

以前なら、これから春という季節に、秋冬のファッションを考え、これから秋という段階で春夏のファッションのことを考えるのは ファッション業界の人間のみがすることで、そのファッション業界の人間と言えば、 冬の終わりから寒さをこらえて春物ファッションを先取りした服装をし、 夏の終わりから暑さをものともせずに秋物のファッションの先取りを着用しており、 自分の職業的な季節感のズレをファッションで表現せずにはいられない宿命を背負った人々だったのである。 だから、各季節の中盤からはそのシーズンに飽きてしまい、ファッションもダレて来るので、 「シーズンたけなわ」の、一般の人々が季節のファッションを楽しんでいる時には、意外にシラケタ格好をしていることが多いのである。
私は、このようなファッション業界の人々の「体内時計」ならぬ「体内シーズン」のズレは、言わば職業病のようなもので、 「この仕事を好きで選んだ限りは仕方がないもの」と思って見てきたけれど、昨今の 一般顧客のファッション・シーズンのサイクルもまさに同じ状態になっていると言えるのである。

ファッションそのものを見ても、春夏物にもシックで肌を被ったアイテムが見られる反面、秋冬物にも薄手の素材を用いた、肌を露出したスタイルが多く、 今年の春などはスプリング・ファーと呼ばれる、パステル・カラーの春物のファー・ショールも登場していたから、 ファッションから季節感が失われているというのは、セールやトランク・ショーのタイミングだけではなく、 商品構成についても言えることなのである。
一方のファッションを着る側にしても、トレンディなクラブやレストランに行けば、冬でも袖の無い服を着ている 人は多いし、夏でもブーツを履いて街を歩く人が珍しくない等、だんだんと人々のクローゼットが「衣替え」とは無縁になりつつあるのも 事実なのである。
また、服に季節感がなくなる余波は、ビューティー・ビジネスにも影響を与えることになる。 秋冬でもサンダルを履く人が増えるので、ネール・サロンは冬もペディキュアを受ける人が以前ほど減らないというし、 冬でも肌を露出するので、スプレーのフェイク・タンをする人々は一年中同じペースで訪れているという。
コスメティックのボビー・ブラウンにしてもシマー・ブリックの「ブロンズ」がシーズンを問わないベスト・セラーになっているという。

でもファッションに季節感が無くなって、人々が季節に逆らった装いをするようになっても、 季節そのものは以前と変わらず、冬は寒く、夏は暑い訳であるから、 ファッショナブルな人であればあるほど、初春に素足にサンダルを履いて震えることもあれば、 未だ周囲が夏物を着ている初秋に、レザーのスカートを履いて内側が汗で蒸れて心地悪い思いをしている事も少なくないのである。
とは言っても、ファッショナブルな人々というのは、こうした気温との戦いだけでなく、ハイヒールを履く足の痛みや、 タイトなドレスを着用する苦しさ等とも 常に戦っている訳で、 歴史を振り返ってみても、18世紀の女性のコルセットや、中国の纏足(てんそく)等、 ファッションというのは美しくも、苦しいものなのである。
でもその不快さは微塵(みじん)も感じさせず、美しく装っている自分に満足と誇りを覚えながら 優雅に振る舞うのが、真にファッショナブルと呼ばれる人々であるし、 美しく装うためには、それなりの金銭的な出費を強いられたりもするものである。
アメリカではこうした人々を「ファッション・ヴィクティム」、すなわち「ファッションの犠牲者」と 呼ぶ傾向があり、これは決して誉め言葉という訳ではなかったりするけれど、 詐欺や殺人事件の犠牲者になることを思えば、 「ファッションの犠牲者」というのは極めて平和で、前向きなものである というのが 私の考えである。





CUBE New York主催 第4回目ニューヨーク・エリア在住女性のための
ネットワーク・パーティー開催のお知らせ

既に、ホーム・ぺージでもお伝えしております通り、CUBE New York主催のネットワーク・パーティーを 来る6月13日の日曜日にとり行うことに致しました。
前回のネットワーク・パーティーからは9ヶ月ぶり、今年2月のミルクレープの会から4ヶ月ぶりの会となりますが、 今回も参加していただいた皆さんに楽しんでいただける、有意義な会にしたいと考えています。
詳細はここをクリックしてご覧いただければと思います。
今回も会場準備の都合で、参加ご希望の方にR.S.V.Pをお願いしています。
カストマー・サービスまでお名前、(お友達と参加される場合は、そのお名前と人数)を明記の上、 Eメールにてご連絡をお願い致します。
R.S.V.P は、ケータリングの準備の関係で、 6月10日(木曜日)正午までにお願い致します。

お1人でも、お友達同士でもお気軽にご参加いただければと思います。






Catch of the Week No.5 May : 5月 第5週


Catch of the Week No.4 May : 5月 第4週


Catch of the Week No.3 May : 5月 第3週


Catch of the Week No.2 May : 5月 第2週