June 14 〜 June 20 2004




ウェディング・ブルース

言うまでも無く、6月のアメリカは結婚式シーズンである。
アメリカの結婚式が、日本の結婚式と最も異なる点は、 式を詳細まで取り仕切るのが花嫁本人であること。 ウェディング・ドレスのチョイスはもちろんのこと、テーブルに飾る花から、 パーティーの形式、出される料理に至るまで、決定権を握るのは花嫁である。
それもそのはずで、アメリカでは伝統的に、花嫁側のファミリーが結婚式の費用を全額支払うことになっており、 裕福なファミリーであればあるほど、今もそのしきたりは健在である。 だから花嫁の希望で、1本20ドル(2200円)のバラの花を1000本デコレーションに使おうと、 レセプションのシャンペンとしてクリスタルを200本用意しようと、 ヴィラ・ウォンの1万5000ドル(165万円)のガウンを着用しようと、新郎側から文句が来ることはまず無いのである。

でもこれが、ミドル・クラス以下の結婚ということになると、その費用は新郎新婦の折半という場合が 現在では非常に多いという。 それでも、結婚式の準備に関しては、やはり花嫁側に主導権があることには変わりはないけれど、 総体的に アメリカでは収入のレベルとは無関係に、結婚式というものが年々豪華になる傾向にあると言われる。
スーパーリッチなソーシャリート・カップルの結婚になると、式の費用はミリオン、すなわち億円単位になることも 珍しくなく、この規模の結婚式になると、プライベート・アイランドを借り切ったり、プライベート・ジェットを チャーターしたり、ニューヨークの4つ星レストランのシェフとスタッフが ケータリングのために 式場に待機する等、ありとあらゆるディテールにお金が掛けられることになる。
一方、ごく一般的な結婚式の費用は、全米平均では2.5〜3万ドル(約270〜330万円)程度、 都市部になると、その費用はアップして、アベレージで約5万ドル(550万円)と言われている。
でもこの5万ドル前後という金額は、若いカップルにとっては税引き後の年収以上に匹敵する額であったり、 銀行預金の全額にあたる金額であったりもするので、これを支払うために、親やカップル自身が借金をするケースが、ここ数年非常に増えているという。
この借金とは、主にカード会社への負債となって現れるとのことで、 ローワー・ミドルクラスのカップルになると、挙式費用の借金を返済するのに、 2〜3年を要する場合も少なくないという。
そもそも、アメリカの結婚式の場合、ゲストが「お祝儀」を持ってくるという習慣は無いので、 1人当たり、1万3000円相当を掛けた着席ディナーのパーティーをしても、カップルは 6000円のエスプレッソ・マシーンをウェディング・ギフトとして受け取る程度であったりする。 すなわちアメリカの結婚式というのは、ゲストに対して一方的に振る舞うイベントであるため、 式に掛けた費用をお祝いから回収することは不可能なのである。

それでも人々が借金をしてまで、豪華なウェディングをしたがるのは、 「結婚式は一生に1度のイベント」と結婚前は固く信じていることに加えて、 「イン・スタイル」誌を始めとする、様々なメディアがセレブリティ・ウェディングの詳細を ケーキ、ブーケ、エンゲージメント・リングに至るまで紹介し、一般の花嫁達がそれと同じようなお金の掛かった、 こだわりのあるウェディングを思い描くようになったため、と言われている。 さらに、そんなドリーム・ウェディングを具現化する「ウェディング・プランナー」の存在もこの傾向に拍車を掛けていると言われる。
ウェディング・プランナーとは、現在アメリカでその数が急増している職業で、 式場、ケータリング、フラワーアレンジ等、結婚式の全てを、花嫁の希望通りに実現する オーガナイザーで、式に掛かった費用の20〜25%をサービス・フィーとして受け取るのが通常である。 プランナーを雇うことによって、花嫁は式の準備に右往左往することもなく、 プランナーが自分の希望に沿って探してきたオプションの中から、選ぶだけで、自分の 夢見たウェディングが可能になる訳であるけれど、ウェディング・プランナーを使えば、 花嫁が1人ではとてもリサーチしきれない、様々な豪華なオプションが提示されるため、 式の費用が予算より40%前後跳ね上がることは決して珍しいことではないという。

中には結婚式の準備の段階で、お金をめぐる喧嘩がスタートしてしまうカップルも少なくないようで、 往々にして、「たった1日の結婚式にそんな大金を支払って何になる?」という男性側と、 「小さい頃から夢見てきた一生に1度の結婚式なんだから、好きなようにさせて欲しい」という 女性側が対立するのがお決まりのシナリオである。
また借金を抱えてまで結婚したカップルも、その負債が原因で夫婦喧嘩が絶えず、 借金を返済する以前に、離婚してしまう例も増えているという。 すなわち結婚式が原因で離婚をすることになる訳であるから、これでは本末転倒と言わざるを得ない状況である。
現在、アメリカでは3組に1組が離婚をすると言われているけれど、 その男性側の離婚原因の第2位、女性側の離婚原因の第1位になっているのが、 「お金の問題」である。 だから「借金を抱えた夫婦生活がいかに厳しいものであるか?」ということを、 考えてから結婚式をプランするべきであるけれど、 多くのカップルが銀行残高を省みないのは、結婚式というイベントが、 ある意味でエゴと見栄のショーケースになっている部分も大きいという。
すなわち、多くのカップルが、自分の友人達より豪華、もしくはクリエイティブで、 人の記憶に残る結婚式をしたいという願望と競争心を持っているとのことで、 金銭的な無理をしてまで 結婚式にお金を掛けてしまうのは、そうしたエゴと見栄の結果であるというのは、 「ブライダル負債」が増えているカード会社側の分析である。


さて、アメリカに住む多くの日本人が指摘するのは、アメリカの結婚式の方が、日本の結婚式よりも、 遥かにロマンティックなイベントであるということ。
日本を離れて何年も経ってみると、確かに発砲スチロールのケーキに写真撮影のためだけに入刀するというのは、 興醒めであるし、披露宴にしても、式次第がビッチリ決まっていて、学芸会のように運営されていくのは、 日本人があまりパーティー慣れしていない人種であることを痛感させられるものであったりする。
アメリカの結婚式では、ケーキは必ず本物で、新郎新婦がカットしたケーキをお互いの口に与え合うのが、 「どんな時にもお互いに施し合う」誓いのイベントとして行われることになる。
そしてケーキのトップ・レイヤーは新郎新婦が1年目のアニヴァーサリーに2人で食べるために、 冷凍庫行きとなるけれど、残りはゲストの人数分にスライスされて、アイスクリームやフルーツソースを添えた デザートとしてサーブされることになる。

また、昨今では日本でもブーケ・トス、ガーター・トスが欧米の結婚式の見様見真似で行なわれるようになっていて、 時にブーケ・トスもガーター・トスも花嫁が行っていたりするけれど、 正式にはガーター・トスを行なうのは花婿で、花婿はそのガーターを花嫁のドレスの中に潜り込んで、 口でくわえて取ってくるのが正しいマナーになっている。 これは婚前交渉が無かった時代に、新婚初夜のプレビューとして行われていたイベントで、 最近ではタイトなドレスを着用する花嫁が少なくないため、ガーターを予め太腿から 膝の位置まで下げて、この行事を行う例も少なくない。
新郎の投げたガーターを受け取るのは新郎の独身の男友達で、 これをキャッチした男性は、ブーケトスで、花嫁が投げたブーケを受け取った女性の脚に そのガーターをつけるのが次のイベントである。これは周囲がはやし立てる中、 その男性がガーターを女性の脚の何処まで上げるられるか?で「2人がカップルになれるか?」を 見極めるもので、女性が男性に好意を持っていれば、ガーターは膝を超えて太腿の位置まで上がっていくし、 その気が無ければ、形だけのイベントとして、女性が直ぐにストップを掛ける訳で、 周囲はガーターがアップすれば盛り上がるし、女性をがストップを掛けると ガッカリすることになる。
ちなみに新郎も新婦も、ガーターやブーケを投げる際は後ろ向きになって、頭越しに投げるのが正式であると同時に、 フェアなトスの仕方である。

花嫁のガーターに圧倒的にブルーが多いのは、結婚式の際には、「Something old, something new, something borrow, something blue」(何か古い物、新しい物、借りた物、ブルーの物)を花嫁が身につける 習わしになっているため。 通常、花嫁は白1色の装いであるため、外から見えないガーターにブルーを身につける場合が圧倒的に多いのである。
この他の古い物、新しい物、借りた物というのは、新しいドレス、アンティークのティアラ、 母親から借りたネックレス等を身につけることで条件を満たす場合が多くなっている。

ところで、これまでアメリカのウェディングと言えば、日本とは異なり、お色直しというものが無く、花嫁は ずっと1枚のウェディング・ドレスを着用していたけれど、 昨今のトレンドは、セレモニー(挙式)用のドレスと、パーティー用のドレスの2枚を着用するというもの。 どちらもウェディング・ドレスではあるものの、シンプル、もしくはコンサバティブなドレスをセレモニー用に、 よりセクシーでモダンなドレスをパーティー用に着用するのが一般的である。
2週間前に結婚したジェニファー・ロペスも、挙式ではヴィラ・ウォン、パーティーではドルチェ&ガッバーナのミニドレスに 着替えたことが伝えられている。

さて、ここニューヨークには、わざわざ日本から式を挙げにやって来る日本人カップルも 居るようで、私は以前その様子がニューヨーク・タイムズのコラムに掲載されていたのを読んだことがあるけれど、 アメリカ人にとって、こうした日本人カップルが最も不思議に映るのは、 彼らが日本に帰ってから親戚や友人に見せるビデオ撮影のためだけに、 ビデオ映りの良い結婚式を、撮り直しまでしながら行っているという点であることが指摘されていた。
おそらくやっている本人達は、それなりに楽しんでいるのだと思うし、 「ビデオ撮影の苦労」は、カップルにとって結婚式の忘れられない思い出になっているのだろうけれど、 式のロマンティックな雰囲気や、新郎新婦が愛を誓い合うという目的を度外視して、 ビデオ映りを重視する彼らの姿は、アメリカ人から見れば、やはり不思議に思えるようである。
でもそんなロマンティックな結婚式を行うアメリカ人も、 20代で結婚したカップルの約50%、30代で結婚したカップルの34%が離婚するという統計が出ているのが 厳しい現実で、マリッジ・カウンセラーによれば、こうした離婚に至るカップルの多くは 「結婚式の準備ほど真剣に結婚生活には取り組まない」のだそうである。







Catch of the Week No.3 June : 6月 第2週


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Catch of the Week No.4 May : 5月 第4週