July 19 〜 July 25 2004




ゲリラ・マーケティング

先日、私のアパートの上階の住人が訪ねて来たので、何の用かと思ったら、 「週末にパーティーをするから、ノイズがうるさくてもドアマンに苦情を言わないで欲しい」と、 わざわざ頼みに来たのだった。
実は彼は、春先にも同じパーティーを行っており、この時も、 「パーティーなので、どうしてもうるさくなるけれど、なるべくノイズ・レベルを落とすようにします」 というメッセージを添えた パーティーのインヴィテーションを、前もって近隣のアパート全てに配布しており、 妙に用意周到なのが気になっていたのだった。 でもこの春先のパーティーのノイズ・レベルというのは かなりのもので、午前1時に帰宅した私は、1時半から仕事を始め、 2時半までは何とか我慢をしていたけれど、遂には堪忍袋の緒が切れて、 ドアマンに苦情の電話をすることになってしまった。 すると、既に私以外からも苦情の電話が寄せられていたこともあり、直ぐにドアマンが対応してくれて、 ノイズは収まったけれど、今回訪ねて来た口調から察して、 彼は 私の苦情だけが原因でドアマンが飛んできたのだと信じ切っているようだった。
結局、私はこの上階の住人と30分ほど話し込むことになってしまったけれど、 そこから判明したのは、彼のパーティーは某ビール会社から依頼されて行っていたということで、 ドアマンに苦情が行くことを恐れていたのも、苦情が重なって、やがて パーティーが出来なくなることを彼が懸念したためだった。
実際にインヴィテーションを見ると、「食べ物の持ち寄りは歓迎!」とあるものの、 「ドリンクはxxxxが沢山あるので、持参しないで下さい」と、聞いた事も無い マイナーなビールの名前が書いてあった。

彼が行っていたのは、現在アメリカの中小企業を中心に広まっている ゲリラ・マーケティング、もしくはアンダーカバー・マーケティングと呼ばれるもので、 これは一般消費者を装ったスタッフを使って、消費者に悟られないように、ごく自然に商品を売り込む手法である。
私のアパートの上階の住人は、ビール会社に勤めている訳ではなく、 年に4回、彼のアパートで20代、30代の若者を集めたパーティーを行うように依頼されているだけで、 春先に行われた1回目には、入れ替わり、立ち替わりで150人程度がパーティーにやってきたという。 ここで出されるドリンクは、彼にパーティーを依頼した会社のビールのみで、これらはもちろん 無料で支給されたものである。1回のパーティーを主催して、彼に一体いくらが支払われているのかは 定かではないものの、ブランドの知名度を上げて、飲み易い味である事を知ってもらうには、 バーで無料のテイスティングをするよりも、こうした知人のパーティーで試飲の機会を与える方が 遥かにブランド・イメージが良く、しかも効果的であるという。
こうしたゲリラ・マーケティングは、通常、多額の広告バジェットを持たない中小企業が その商品を売り込むために行っているもので、TVCMや雑誌広告に関心を払わない 20代〜30代の消費者にアプローチするには、最も効果的なマーケティング手段と言われている。 このゲリラ・マーケティングでは、宣伝文句はあくまで口コミ情報として伝えられるため、 非常に魅力的かつ、信憑性を帯びて聞こえるけれど、それだけに一般消費者を装う マーケティング・スタッフは相手に宣伝意志を悟られないように、自然な会話の中で 商品を売り込んでいくことが要求されてくる訳である。

私が知るこれ以外のゲリラ・マーケティングは、 ナイトクラブで夜遊びするモデルにタバコを売り込ませるもの、パーティーでデジカメを売り込むもの があるけれど、前者は モデルに声を掛けたさに「タバコ1本貰って良い?」と寄ってくる男性に、 モデルが特定ブランドのタバコを売り込むというもので、彼女らに「最近これを吸っているのがクールなのよ」 などと言われたら、それを真に受けて 同じブランドのタバコを買ってしまう男性が増えても、決して不思議ではないものである。
後者は、マーケティング・スタッフがホーム・パーティーから、コーポレート・パーティーまで、 様々なパーティーに出掛けて行っては、出席者をスナップしたり、 出席者に自分の写真を写してもらったりしながら、カメラの使い方を説明したり、 それがいかに便利で、簡単に使えるかをさり気なく会話の中に盛り込むもので、 メカ音痴な人ほど、これを鵜呑みにして全く同じカメラ、そうでなければ同じブランドのカメラを購入する 傾向があると言われている。

このゲリラ・マーケティングは、CBSが放映する報道番組「60ミニッツ」でも 「アンダーカバー・マーケティング」として特集されており、 そこでは、一般客を装って、スターバックスに長居をしながら コンピューター・ゲームにいそしんで、声を掛けてきた人にゲームのディバイスを 売り込むという某大手メーカーの戦略、 タイムズスクエアに旅行者を装ったアクターを送り込み、通りがかりの人に 写真撮影を頼む傍ら、デジカメを売り込む、某カメラ会社のマーケティングが 描かれていたけれど、番組内のコメンテーターは、 こうした手法は、それが一般消費者にバレた場合に、バックラッシュ、 すなわち「騙された」という怒りを買う危険性が高く、その場合、 消費者のブランド離れを招くことになるとも指摘していた。
ところが、消費者側の意見を聞いてみると、意外にも 商品さえ気に入っていれば、 どんなきっかけでそれを知ることになったか のプロセスは問わないのが実際のようで、 逆に、正規の手段で売り込まれた商品でも、そのクォリティや効用に満足しなければ 「騙された」、「失敗した」というネガティブな意識を抱くようである。
これらのことから分かるのは、大切なのは売り方ではなく、 商品本体、すなわち商品そのものの魅力ということであるけれど、 こうしたゲリラ・マーケティングに対して、メーカー側が罪悪感を抱かないのも、 商品の売り込み文句にはウソが無く、説明通りの商品を提供しているためであるという。

ゲリラ・マーケティングのルーツは、日本のさくら商法や タイアップ・パブリシティであるとも言われているけれど、実際に「60ミニッツ」に登場した 会社の1つは、日本企業のアメリカ支社であった。
でもアメリカは日本よりも広告についての規定が遥かに厳しい国で、例えばセレブリティは、本当に その製品を使っていない限りは、広告に出演して その売り込みをしてはならないことになっているし、 ペーパー・メディアにしても、広告と記事をはっきり区別しなければいけないことになっているので、 「メーカーが取材費を負担し、雑誌がそのメーカーの商品について肯定的な記事を書く」というような、 日本のメディアでは決して珍しくないタイアップ・パブリシティも、 消費者を欺く違法行為と見なされる訳である。
それだけに、メーカー側のセールスピッチ(売り込み文句)を的確かつ、有効に伝える手段は 限られている訳で、90年代前半は知人を装ったダイレクト・メール、 90年代後半からは知人を装った 売り込みEメールなどが盛んに送付されているけれど、 やはりセールスは生身の人間が行うに越したことはないだけに、 中小企業が限られた広告バジェットを ゲリラ・マーケティングに注ぎ込む気持ちは、少なからずとも理解できたりする。
このゲリラ・マーケティングがニュー・スキンやアムウェイやノニ・ジュースと異なる点は、 マーケティングを請け負った人間が 実際に商品を販売する必要が無い事で、 逆にセールスの意図を相手に悟られたのであれば、それは失敗と見なされるのである。 だからメーカー側からすれば、この草の根マーケティングがどの程度の効果を上げているかは、 非常に判断し難いことも事実である。

さて、私の個人的な印象で、最近めっきり減ったと思えるのは、日本における「今NYで大流行のXXXX」という 売り込み文句である。
90年代後半には、見たことも、聞いたこともないプロダクトについて 「NYで爆発的に流行っているんでしょ?」と訊かれる事が非常に多くて、 「知らない」と答えると、私が流行に疎いように思われたこともあったけれど、 最近、この手の質問がめっきり減ったことは、非常に喜ばしいことであったりする。
この要因は、やはりインターネットが普及したおかげで、 いい加減な事を書いたらバレる時代になったからだと言えるけれど、 インターネットの有無に関わらず、メディアというものは、 常に中立で、事実を伝えるものであって欲しいと思う。







Catch of the Week No.3 July : 7月 第3週


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