July 26 〜 Aug. 1 2004




大統領選挙=マーケティング?

今週のアメリカは民主党の党大会が行われていただけに、仕事でもプライベートでも、 いろいろな人に会う度に訊かれたのが「Are you following the politics?」という質問。
これは要するに、政治に関心があるか?と訊ねている訳であるけれど、 私は一応、法学部政治学科を卒業しているし、実際に政治には関心がある方なので、 当然「Yes」と答えることになる。すると、その途端に始まるのが民主党党大会の話題で、 今週は、誰と会っても、何処へ行っても大統領選挙の話題が必ず1度は出て来る週だった。
ニューヨーカーは慨してリベラル派であるだけに、ニューヨーク州は民主党支持者が多いことで知られるエリアで、 私が話した人達も ほぼ全員がデモクラット(民主党支持者)であったけれど、 彼らが大統領候補であるジョン・ケリーを支持しているか?と言えば決してそうではなく、 「もうブッシュ/チェイニー政権だけはご免だ!」という声の方が多かったのが実際のところだった。

今回の大統領選挙は、私がニューヨークに住み始めてから4回目のもので、 私自身は市民権が無いから投票は出来ないものの、 個人的にはアメリカ大統領選挙は非常にエンターテイメントなものだと思っているし、 アメリカという国のいろいろな側面が見られる点でも、非常に有益なカルチャー・ウォッチングだと 考えていたりする。
私にとって、アメリカに来て最初の大統領選挙は、現在のジョージ・W・ブッシュの父親が 現職の大統領で、彼とクリントン前大統領が争った92年の選挙戦であったけれど、 私はこの時に、アメリカの大統領選挙が国民にとって非常に身近なものであることに とても驚いたのを今でもはっきり覚えている。
実際この時の選挙は、前回のブッシュVS.ゴアの選挙の際に見られたような 「どっちもイヤだけれど、こっちがまだマシ」的な空気は無く、 共和党支持者は真剣にブッシュ再選を望んでいたし、民主党支持者はクリントン前大統領に 熱烈に希望を託していた訳で、まず選挙の熱気からして全く違うと言えるものだった。 さらに、この92年の大統領選は、MTVが若い層の投票を呼びかけて、 マドンナを起用した「Rock The Vote」というキャンペーンを行った初めての選挙でもあり、 今では政治色が強いロッカーとして知られるU2のボーノ等、様々なミュージシャンが、 大統領選についてオープンに語ったり、自らの候補者支持を表明し始めたのもこの時だった。

私がこの年の選挙キャンペーンを見ていて、最もビックリしたのは、 当時私が毎日のように観ていた人気トークショー、 「アーセニヨ・ホール・ショー」のオープニングで、いきなりショーのテーマソングが 「ハート・ブレイク・ホテル」に替わり、真っ黒のレイバンのサングラスを掛けた クリントン前大統領がサックスを吹く姿が映し出された際で、 私も最初は「この人誰?、クリントンそっくり…」としか思わなかったし、 会場の観客にも同じ様に映っていたけれど、 やがてそれが本人だと分かり、会場中が大歓声のスタンディング・オーベーションになったという エピソードである。 この時点でのクリントン候補は、アンケート調査でブッシュ大統領にかなりの差をつけられ、 苦戦を強いられていたけれど、その猛烈な巻き返しはここから始まったとさえ言われており、 実際にMTVは同局製作の「歴史的なロックンロール・モーメント Top50」という番組で、 クリントン大統領が「アーセニヨ・ホール・ショー」で見せたサックス演奏を 「アメリカの政治の流れを変えた歴史的パフォーマンス」として 第1位に選び出しているほどである。
この時に、「自分達の世代の音楽やユーモアを解する大統領候補が登場した」ことを体感した若者は多かったと言われるし、 結果的にクリントン大統領が予想よりも大きく ブッシュ大統領を引き離して当選した理由も、それまで投票所に行かなかった若い層にアピールし、 彼らの票の掘り起こしに成功したからだとも言われているのである。

これに止まらず、この時のクリントン大統領の選挙キャンペーンでは、 大統領候補として初めてMTVに出演し、MTV視聴者である10代、20代の若者から 直接 そのパーソナリティーや政策について質問を受けるといったオープンさを見せ、 「ボクサー派ですか?ブリーフ派ですか?」といった質問にも、 間髪入れずに「ボクサー」等と答える、新しい政治家のイメージをアピールしており、 同じMTVからのオファーをあっさり断った当時のブッシュ(シニア)大統領とは 正反対のキャンぺーンを展開していた。
加えて、この時のクリントン大統領の選挙戦で「非常に有効だった」と今も語り草になっているは、 そのキャンペーン・テーマソングを設定したことで、それに選ばれたのが70年代の フリートウッド・マックの大ヒット曲「ドント・ストップ(シンキング・アバウト・トゥモロー)」だった。 今回行われた民主党党大会でもケリー候補が、U2の「ビューティフル・デイ」や、 ブルース・スプリングスティーンの「ノー・サレンダー」などを そのスピーチの後や、 登場の際に使用しながらも、未だテーマ・ソングになるような 強力なナンバーが見つかっていないことがメディアに指摘されているけれど、 90年代初頭のリセッションにあえいでいたアメリカでは、 クリントン陣営が選んだ「ドント・ストップ」という楽観的な歌詞と、誰もが知っているメロディは、 大統領が語る「明日のアメリカの明るいビジョン」のスピーチに 相乗効果をもたらしたとさえ言われているのである。

このように考えると大統領選挙というのは、候補者を売り込むマーケティングである訳で、 クリントン陣営が、どんなに頑張っても決して自分の支持者にはならない 古くからのリパブリカン(共和党支持者)へのキャンペーンを最小限に留め、 自分と同じベビー・ブーマー世代や、未だ投票所に足を運んだことも無いような若い層からの 支持を取り付ける選挙キャンペーンを行ったのは、正しいターゲット設定であったと思うし、 ブッシュ(シニア)前大統領の「政策を打ち出して、相手を中傷する」だけのオールド・ファッションな キャンペーンが、クリントン前大統領のキャラクター・マーケティング戦法に勝てなかったのも 十分に納得が行くところなのである。

でも、今回の民主党党大会でのスピーチやそれまでの選挙活動を見た限りでは、 残念ながらケリー候補には、クリントン大統領のようなカリスマ性やキャラクターは感じられない訳で、 民主党が彼を「魅力ある商品」としてアメリカ国民に売り込むのは極めて難しい というのが 実際のところである。
事実、今回の大統領選挙は、ブッシュVS.ケリーというよりは、ブッシュVS.アンチ・ブッシュの 争いと言える訳で、それだけに民主党が本当に勝利したいと思うのなら、 ケリー候補の良さをアピールするよりも、ブッシュ叩きに徹する方が 遥かに有効なマーケティング戦略であると私は考えていたりする。

ところで、選挙と言えば日本でも7月に参院選挙があったのは周知の通りで、 実は私はこの週に日本に一時帰国をしており、選挙報道そっちのけの「曽我さん&ジェンキンズさん報道」やら、 選挙の結果を受けた様々な報道番組を日本のTVで観ることになったけれど、 選挙後の報道で何度も耳にしたのが、民主党大躍進による2大政党時代の到来を歓迎する声だった。 すなわち「アメリカのような2大政党制の方が政治が安定する」というのが、その歓迎の意図であったけれど、 アメリカと日本というのは言うまでもなく全く異なる国な訳で、国民性も異なれば、 同じ民主主義でも政治の仕組みも歴史も異なるし、国土の大きさも、抱える問題も異なる訳であるから、 直ぐに「アメリカ」を持ち出して、それを叩き台にするのは非常に不思議であり、滑稽であったりするのである。
事実、現在のアメリカでは「どうしてブッシュとケリーの中から 大統領を選ばなければならないんだ!」という フラストレーションが、2大政党制に対する不満として国民の間で浮上してきている訳で、 そのことは「ファーレンハイト911」の監督であるマイケル・ムーア等が メディアを通じて 声を大にして訴えていることである。
私から見れば、野球の2リーグ制を収益のために1リーグに統合しようなどと論議する国が、 もし2大政党制になってしまったら、そのうち「1大政党の方が選挙費用が掛からない」などという理由で 統合されてしまいそうな気がして、その方がよほど恐ろしいと思えてしまうのである。







Catch of the Week No.4 July : 7月 第4週


Catch of the Week No.3 July : 7月 第3週


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Catch of the Week No.1 July : 7月 第1週