Aug. 9 〜 Aug. 15 2004




オリンピック・マルチアングル

13日の金曜日に行われたアテネ・オリンピックの開会式の模様は、アメリカ東部時間の13日午後 8時から放映されたけれど、これを放映したNBCが 今回のオリンピックの放映権料として支払ったのは$793ミリオン、日本円にして約872億円。
既に広告スポットが完売して、黒字が伝えられているNBCではあるものの、 今回のオリンピックの視聴率は、次回のオリンピックの広告費を左右するだけでなく、 NBCは2012年の夏季オリンピックまでの放映権を買い取っているだけに、 アテネ・オリンピックの放映は、これまでのシドニー、ソルトレイクの問題点を 遥かに改善するものになっている。
例えばソルトレイクでは、開会式の選手入場を映し出す際、CM中に登場した国は、 小さな分割画面でのみ紹介したため、「差別」であると顰蹙を買ったけれど、 今回はCM放映中に登場した国も、時間を短めに編集しているものの、きちんと全体画面で紹介する体制をとっていた。 ちなみにNBCの放映では、アメリカが登場した直後にCMに突入したため、 その次に登場した日本もCM中に紹介された国の1つであったけれど、CM終了後に その入場が映し出されている。

また今回のオリンピックではNBC以外にも、傘下6つのケーブル局を使った1,210時間放送体制をとっているため、 アメリカ選手がメダル・レースに絡まない競技も放映されることになり、 夜中のケーブル・チャンネルでの放映とは言え、柔道で日本が獲得した2つの金メダルを見ることが出来たのは、 前回シドニーとは大きな違いと言えるものだった。

開会式に話を戻すと、アメリカのメディアが最も注目していたのは、先週のこのコラムでも触れた通り、 ブッシュ政権のイラク政策に批判的なギリシャ国民や、世界各国からの観客達が アメリカ選手に対してどのようなリアクションを見せるか?ということ。 でも、蓋を開けてみればブーイングは聞かれず、観客が政治とスポーツを切り離して、 アメリカ選手団を暖かい歓声で迎えたことは NBCのアナウンサーはもちろん、ニューヨーク・タイムズ等のメディアも指摘しており、 AOC(アメリカ・オリンピック委員会)関係者をホッとさせたと言われている。
しかし、観客が完全に政治とスポーツを切り離していたかと言えば、そうでもないようで、 実際、参加約200カ国の中で、開催国ギリシャに次いで大歓声で迎えられたのはイラク。 次いで大きな歓声が沸き上がったのは、女性蔑視を改め、初めて女子選手を加えたことで オリンピックへの再参加が許されたアフガニスタンであったのは 誰もが認めるところだった。

開会式のアメリカ選手のユニフォームを担当したのは、前回のソルトレイク冬季大会に続き、 カナダのアパレル、ルーツ。 ルーツがセレモニー用のユニフォームを担当することになったのは、 リーボック、ナイキといったアメリカのブランドが、「儲けが上がらない」ことを理由に 製作を引き受けなかったからであるけれど、 ソルトレイクでルーツが製作したUSAベレー帽は生産が追いつかないほどの大ヒット商品となり、 同社はアメリカのオリンピック商品で44億円もの収益を上げたことが伝えられている。
これによって「オリンピック・ユニフォームでも儲けられる」ことを立証したルーツであるけれど、 今回は、自国カナダ、アメリカに加えて、イギリスや台湾、バルバドスのユニフォームも担当しており、 USAグッズに関しては、開会式を待たずして注文が殺到していたと言われている。
ルーツがこれだけの成功を収めているのは、それまでの 選手も着たがらない、消費者も買いたがらないユニフォームの枠を脱して、 ストリートで着られるカジュアル・ウェアとしてのユニフォームをデザインしたからで、 今回のアテネでは2004年を意味する「04」の文字をフィーチャーされたゴルフ・ハットや 「アテネ」、「USA」の文字をあしらったパーカなどが 人気を集めているという。
ゴルフ・ハットについては、ルーツ側は「後ろ前に被るか、斜めに被るか、正面に被るかは、 選手の好みやファッション・センス次第」としていたけれど、セレモニーでのアメリカ選手団は その殆どが帽子を後ろ前にして、後ろに刺繍されたUSAの文字が見えるように被っていた。

さて、開会式ではアメリカ選手に対するブーイングが聞かれなくても、いざゲームになってみれば、 ギリシャの人々が 強いアメリカ・チームよりも、弱い対戦相手を応援したくなるのは、 政治的な意図があっても、無くても 人情というもの。 それが顕著に表れたのが、アメリカVS.プエルトリコの男子バスケットボールの試合で、 このゲームではプエルトリコが92-73という、19ポイントの差をつけてアメリカに大勝したけれど、 会場内はプエルトリコが得点する度に大歓声が沸き起こっていた。
でもアメリカでの報道はそんな観客のリアクションよりも、アメリカ男子バスケットボール・チームが オリンピック史上3度目の敗北、NBA(プロバスケット・ボール)選手を投入して以来 初の敗北をしたことに対するショックと屈辱にフォーカスが当てられていた。
アメリカは92年のバルセロナ・オリンピック以来、NBA選手を投入し、 男子バスケットボール・チームを「ドリーム・チーム」と呼んで来たけれど、 確かに当時はマジック・ジョンソン、マイケル・ジョーダン、ラリー・バードといった 名選手中の名選手が1つのチームでプレーをする、本当の「ドリーム・チーム」であった。 でも続くアトランタ・オリンピックの「ドリーム・チーム2」では、 世界のレベルがドリーム・チームに近付いていることを感じさせる場面が何度も見られ、 NBAプレーヤー、オランゾ・モーニングが 「自分が生きている間は、アメリカ・チームが負けることは無い」とコメントしたのに対して、 NBAのコミッショナーが「彼が何年生きるつもりでいるかは知らないが、 そんなのん気なことは言っていられなくなった」と警鐘をうながしていた。
もちろんこのオランゾ・モーニングは、今も生きているので、彼がアメリカ・チームの敗北を どう受け止めたは知る由も無いけれど、今回の敗北の理由として盛んに指摘されていたのが、 NBAプレーヤーの多くが、オリンピック出場を拒否し、シャックも、コビーも、ケヴィン・ガーネットも 居ないチームは、「ドリーム・チームとは言い難い」ということだった。
その背景にあるのは、オリンピックよりもオフ・シーズンの公告出演やバケーションを優先させる NBAのトップ・プレーヤー達の姿で、 同時にアレン・アイヴァソン、ル・ボン・ジェームス等、今回のオリンピックに参加したNBAプレーヤー達も 練習不足による息の合わないプレーの連続で、先に行われたエキジビション・ゲームでの 敗北の時点で、今回のドリーム・チームのレベルの低さは 既に懸念されていたものであった。
NBCのキャスターが、海外試合経験が殆ど無いにも関わらず、オリンピックで2勝目を上げて 大健闘を見せるイラクのサッカー・チームのことを、「彼らこそが真のドリーム・チームだ」と賞賛していたけれど、 確かに他国の選手が 自分の母国のため、自分達のプライドのために戦っている姿を目の当たりにすると、 今のアメリカのオリンピック選手、及びスポーツ選手は、 あまりにビジネス&マーケティングの一部に成り過ぎているのを痛感してしまうのが実際のところである。

それを象徴するかのように、現在発売されているプレイボーイ、FHMの9月号では、 それぞれアテネ・オリンピックに出場する女子選手数人がヌードになっており、 女子ソフトボールのエースで、パメラ・アンダーソンに似たルックスで人気のジェニー・フィンチも、 オリンピック直前のインタビューで、「プレイボーイからのヌードのオファーは、 大金を積まれた場合のみ交渉に応じる用意がある」などとコメントをしている。
すなわち、選手の一部にとってはオリンピックは、自分がこれまで積み重ねてきたトレーニングの成果を見せる 桧舞台というよりは、自分を売り込むためのステージになりつつある訳で、 NBAプレーヤーのように自分を売り込むのに オリンピックを必要としない選手は、 出場を依頼されても 参加しようとはしない訳である。

その一方で、オリンピックのスポンサー企業のエグゼクティブは、通常、 放映局であるNBCの招待で、現地でオリンピック観戦をするのが慣習になっているけれど、 今回のアテネに関しては、宿泊施設の不備やテロへの警戒などの理由で参加者が殆ど集らず、 NBCがその観戦ツアーをバミューダのビーチ・リゾートに移したところ、そちらは大賑わいになったことが レポートされている。 すなわち、このNBCの観戦ツアーでは、スポンサー・エグゼクティブ達がビーチ・テラスや プールサイドに設置されたTVで、トロピカル・ドリンクを片手にオリンピックを観戦する という名目になっている訳だけれど、これが単なる接待ツアーで、それに参加する エグゼクティブの関心がオリンピックに注がれていないことは言うまでも無い事である。

そうかと思えば、巨額のスポンサー・フィーを支払わずに、オリンピックをマーケティングに 利用しようという企業も少なくない訳で、過去にこの成功例と言われたのは、 96年のアトランタ・オリンピックにおけるナイキであった。
ライバル、リーボックが数億円を支払ってオフィシャル・スポンサーになったのに対し、 ナイキは、スポンサーにはならず、代わりにオリンピックのメイン・スタジアムの前に 特設テントを設置し、オリンピックに参加しているナイキの契約選手のイメージを 巧みに使って、誰もがオリンピック・スポンサーと疑わないマーケティングを展開し、 大成功を収めたのである。
以来、アメリカのオリンピック委員会は、スポンサー以外の企業が 広告やマーケティングにオリンピックを利用しないように目を光らせているけれど、 今回のオリンピックでも、オフィシャル・スポンサーの アンハイザー・ブッシュ社(ビールのバドワイザーの製造元)に対抗して、 スポンサー料を支払っていないミラー・ビールは、 アテネを舞台にしたビール・テイスティングをCMにして、オリンピック便乗広告を行っている。 でもこのアテネというのは、同じアテネでも アメリカのジョージア州アテネというのが そのオチであり、スポンサー料を支払わずに出来るCMということになっている。

こうして考えてみると、オリンピックというのはスポーツの祭典であるけれど、 先進国であればあるほど、それにビジネスが絡んでくる訳である。
先述のNBCのキャスターのコメントにもあったとおり、アメリカの男子バスケットボール・チームより、 イラクのサッカー選手の方がずっとピュアなスポーツマン・スピリッツで 試合を戦っているであろうこと、そして世界中が イラク・チーム健闘を望んでいることに思いを巡らせると、イラク戦争が益々空虚なものに感じられる アメリカ人は少なくないかもしれない。







Catch of the Week No.2 Aug. : 8月 第2週


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