Aug. 16 〜 Aug. 22 2004




オリンピック・マルチアングル 2

アテネ・オリンピックも開催から1週間が経過したけれど、その会場が空席だらけであることは、周知の事実。 オリンピック関係者の間でも、今大会は、 「近年で最も観客動員数が少ないオリンピックとして記憶されることになるだろう」 と言われているという。
実際、開催6日目の時点で、売れているチケット数は290万枚、未だ売れ残っているチケット数は530万枚と言われ、 このまま行けば、シドニー・オリンピックのチケット売り上げ(670万枚)にも、 アトランタ・オリンピックのチケット売り上げ(830万枚)にも、遥かに及ばないことが見込まれている。 でもこの空席だらけの会場を最も気にかけていない、 もしくはそのように振舞っているのは、開催側で「チケット収益はオリンピック全体の収益の10%程度に過ぎない」と、 ゆったり構えているのが現状である。
アメリカのメディアは、ギリシャの人口約110万人の平均年収が、米ドルに換算して1万1000ドル、 日本円にして120万円程度であることに着眼し、10ユーロ〜190ユーロというチケット代が 地元の人々にとって高額すぎることを指摘しているけれど、 閑散とした会場とは正反対に、アメリカ国内でのオリンピック視聴率は至って好調で、 ことに今週、18日の水曜日に、アメリカ男子体操のポール・ハーンが大逆転の末、 個人総合の金メダルを獲得した放映には、2840万人がチャンネルを合わせたことが伝えられている。
それでも、TVの放映前にインターネットで 競技の結果が分かってしまうため、 過去の記録を塗り替えるような メガ視聴率に結びつかないのは 時代を反映した問題点である。

さて、そのポール・ハーンが金メダルに輝いた男子体操個人総合であるけれど、 翌日なって発覚したのが、3人のジャッジが銅メダルとなった韓国の梁泰栄の採点を間違え、 実は彼こそがゴールド・メダリストであったという事実。
世界体操連盟では、採点を間違えたジャッジを停職処分にして、ミスが起こったことを認めながらも、 ポール・ハーンのゴールド・メダルはそのままにし、梁泰栄に 新たに金メダルを与える予定は無いとしている。 ここで多くの人々が思い出すのは、ソルトレイク冬季オリンピックのショート・トラック決勝で、 韓国選手がジャッジに失格と判断されたため、アメリカのアポロ・オーノが ゴールド・メダルを獲得したというエピソード。 また同じソルトレイク大会のフィギュア・スケートのペアでは、ジャンプの着地で グラついたロシア・ペアが、完璧な演技を見せたカナダ・ペアを抑えて金メダルを獲得したことに 世論が猛反発をした結果、フランスのジャッジとロシアのジャッジの密約が暴かれ、 カナダ・ペアにも金メダルが与えられたのは未だ記憶に新しいところである。
当事者である梁泰栄は、銅メダルに終わったのは、 「自分が演技で見せたミスのせい」と記者会見でサバサバと語っているものの、 韓国側の出方によっては、今後、同問題がどう展開するかは未だ分からないというのが大方の見解で、 「後から結果が覆されても不思議ではない」、「それほどに人々が結果に執着する」のが オリンピックである。
それが証拠に、前回のシドニー大会で、医師から与えられた風邪薬が原因のドーピングで、 女子体操個人総合の金メダルを剥奪されたルーマニアのアンドレア・ラドゥカンにしても、 当時、彼女の体内から検出された薬物は、現在ではドーピングの対象から外されているため、 ラドゥカンは彼女の金メダルを有効とさせる訴えを起こしていることが伝えられているのである。


男子体操のジャッジのミスについて、体操連盟は「ジャッジも人間であるから、 ミスが起こるのは仕方が無い」と弁明していたけれど、 ミスの原因も、誰のミスかも分からないまま失格扱いとなり、その30分後に 失格が取り消されたのは、男子競泳200メートル背泳で金メダルに輝いたアメリカのアーロン・ピアソルである。
彼は、最終ターンでイリーガルな泳ぎをしたと判断され、失格扱いとなったが、 実際には、ジャッジのイリーガル・レポートは空欄のまま提出されており、 「どうしてそのようなミスが起こったのかは分からない」まま、失格が取り消され、金メダルを 獲得することになった。
ピアソルは、「自分が不正な泳ぎをしていないのは分かっていた」と語っていたけれど、 失格とされた瞬間、ピアソルの脳裏をかすめたのは、8月15日、日本の北島康介選手が100メートル平泳ぎで 金メダルに輝いた際、そのターンで、イリーガルとされているドルフィン・キックを見せたと、彼が 猛烈に抗議した事に対する「ジャッジからの仕返しではないか?」ということだった。 北島選手が100メートル平泳ぎ決勝で見せたターンについては、アメリカの解説者も放映時に 「ジャッジがドルフィン・キックを見落とした」と指摘していたけれど、 水中カメラでのリプレイを見たピアソルは、彼に敗れたチームメイト、ブランドン・ハンセンの ために、北島選手のターンとそれを見落としたジャッジをオープンに批判していたのである。
ニューヨーク・タイムズ紙では 北島選手自身も、海外のメディアからドルフィン・キックを指摘され、 気分を害していたことが報じられていたけれど、 NBCでは、後日行われた200メートル予選、及び決勝の北島選手の全ターンを水中カメラで分析し、 ドルフィン・キックと見なされた問題のターンと比較するなど、 かなり北島選手のターンをマークしていたのは事実である。
結果的に金メダルとなったピアソルが、後に感謝していたのは、同じレースで銀メダルに 輝いたオーストラリアのマーカス・ローガン選手に対してで、彼が 失格扱いになった直後のピアソルに「そんなはずが無い。抗議するべきだ」と 声を掛けてくれたのが、非常に心強かったと語っている。


その男子競泳で、今大会、最も注目を集めていたのがマイケル・フェルプスであるけれど、 彼は結局6つの金メダルを含む8つのメダルを獲得し、1大会最多メダル獲得記録を打ち立てている。
彼が最後に獲得した400メートル・メドレー・リレーの金メダルは、彼が観客席に居ながらにして得たもので、 これは、彼がチーム・メイトのイアン・クロッカーに自分のスポットを譲ったため。 クロッカーと言えば、15日に行われた400メートル・リレーの第一泳者として、調整不足の泳ぎを見せて チームの足を引っ張り、アメリカに屈辱の銅メダルをもたらした張本人であると同時に、 マイケル・フェルプスにメディアの注目が集っていることに、批判的なコメントをしたことでも 知られる存在。
それでもフェルプスが クロッカーに金メダル獲得のチャンスを与えたことで、 クロッカーのフェルプス批判が感謝に代わったのは言うまでも無く、 アメリカ男子競泳チームは、本当の意味でのハッピー・エンディングを迎えることになった。
ちなみに、フェルプスが決勝で準決勝、決勝に参加せずにメダルを獲得できるのは、 予選でアメリカ・チームの1員として泳いでいるため。 フェルプスは、今回のオリンピックで レースとレースの間が30分しかないという 強行スケジュールをこなしており、21日、観客席でチームメイトを応援していた際に、 初めてリラックスした表情をしていたことも伝えられている。


一方、今週末には、ニューヨークのブルームバーグ市長がアテネ入りをし、 2012年のオリンピックのニューヨーク開催をアピールしていたけれど、 アメリカ国内、ことにニューヨークでは、今回のアテネ大会を1週間見た段階で、 「オリンピック誘致が、必ずしも経済効果には繋がらない」という指摘が盛んにされ始めている。
カナダのモントリオールは、1976年に開催された大会の12億ドル(1320億円)の負債を今も 払い続けていることが伝えられているけれど、確かに1984年に行われた ロサンジェルス・オリンピックが、民間企業のスポンサーシップを使って、商業的な サクセスを収めるまでは、オリンピックは赤字を続けていたイベントで、 一時は存亡の危機さえも囁かれていたのである。
ロサンジェルスに次いで、商業的に成功を収めたと言われるのは、 1992年のバルセロナ大会で、1996年のアトランタと2000年のシドニー大会は、 それぞれ今回のアテネよりも開催コストが低く、負債額はゼロ。 開催地に経済効果をもたらした点で「サクセス」と見なされる大会であった。
もし2012年にニューヨークでオリンピックが行われた場合、 現時点での推定コストは35億ドル(3850億円)、大会がもたらす地元への 経済効果は120億円(1兆3200億円)という かなり強気の見積もりがされている。 しかしながらコストの中には、オリンピック・スタジアムの建設費15億ドル(1650億円)や、 地下鉄の整備費14億ドル(154億円)が含まれておらず、 オリンピック・スタジアムはここをホーム・フィールドにするNFLのニューヨーク・ジェッツが スタジアム建設費の一部を負担するとし、地下鉄の整備費については、 市の開発費に見なされるとして、オリンピック予算として計上されていないのが実状で、 オリンピック誘致反対派が指摘するのは、これらの巨額負債をニューヨーク市が抱え込むことになる点である。
さらに、オリンピックのようなビッグ・イベントの開催には予算オーバーが付き物な訳で、 今回のアテネ大会にしても、ギリシャ政府が負担したコストは約86億ドル(9460億円)で、 これは当初の見積りから52%も膨れ上がったことが伝えられているのである。
例えこれだけの多額のコストをつぎ込んでオリンピックを開催したとしても、 テロを恐れて世界各国からの旅行者が寄り付かず、 加えて、よそ者や旅行者を嫌うニューヨーカーが、オリンピック開催期間中をバケーションに当てて 不在となってしまったら、アテネ・オリンピック同様の空席だらけの状況となる訳で、 今大会が、「NYC 2012」のオリンピック誘致キャンペーンに警鐘を促すものとなったのは間違いないようである。


ところで、今回のオリンピックでは、メダル授賞式の際に選手の頭に 葉っぱの冠をかぶせることになっているけれど、選手の間では これはかなりの不評であることが伝えられている。 さらに、アメリカをはじめとする幾つかの国の選手を混乱させているのが、 国歌演奏の際にこれを外すべきなのか、否かという問題。
マイケル・フェルプスを初めとする多くのアメリカ選手は、葉の冠を外して、 胸の位置に持ちながら、国歌を聴いていたけれど、これは彼らが冠を帽子と見なしているためで、 アメリカの法律では、国歌演奏の際は、野球の試合でも、学校のイベントでも 帽子を初めとする、ヘッドピースを外すことが義務づけられているのである。
でも同じヘッドピースでも、これが王冠やティアラである場合、故ダイアナ妃がアメリカを訪れた際の ホワイト・ハウス・ディナーで、ティアラをつけたまま、米国、英国の国歌演奏を聴いていたことを 思い起こせば分かる通り、つけていても問題が無いことになる。 このためメダリスト達の間では、国歌演奏の際に葉っぱの冠を外すか、外さないかで 迷いがあると言われているけれど、ことに女子選手は、髪が乱れることを理由に 冠を外したがらないそうである。
それでもオリンピックが行われているギリシャには、こうした国歌演奏とヘッドピースに関する 取り決めが無いとあって、アメリカ国内のリアクションは「冠を外す方が適切であるものの、 つけたまま国歌を聴いてもお咎め無し」ということに落ち着いているようである。







Catch of the Week No.3 Aug. : 7月 第3週


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