Aug. 23 〜 Aug. 29 2004




オリンピック・ラップアップ

17日間に渡って行われたオリンピックが遂に幕を閉じたけれど、 アメリカ選手団は当初から掲げていたメダル100個の目標を突破する103個を獲得し、 アメリカ国内でもオリンピックの視聴率も上々で、今回のアテネは表面的には「サクセス」と呼べる 大会となっている。

今大会で、1番のヒーローと言えたのは、何と言っても水泳のマイケル・フェルプスで、 19歳の彼が前評判通りの活躍を見せ、8つのメダルを獲得したことは、 IOCのジャック・ローグ会長も、「今回のオリンピックのハイライト」に挙げているものである。
逆にアメリカを最も失望させたのは、男子バスケットボール・チームで、 予選リーグで2敗し、結果的に銅メダルとなった彼らが、もはやドリーム・チームというネーミングが相応しくなくなったことは、 世界中が認めるところである。
しかも、26日木曜に行われた対スペイン戦では、11点差をつけながらも、試合時間残り23秒で、アメリカ・チームが タイムアウトを取ったことから、会場中のブーイングを受けるという屈辱も味わっている。 これは、ヨーロッパでは 接戦でない限り、試合時間を僅かに残してタイムアウトを取ることは 相手チームを侮辱した行為だと見なされるためで、 コーチのラリー・ブラウン、及びアレン・アイヴァソン等のプレーヤーが、 「あのタイムアウトはフォーメーションを整えるために必要だった」と言い訳をしていたものの、 このことはインターナショナル・マナーをわきまえなかったラリー・ブラウンの采配ミスと言えるものだった。
さらに土曜日に行われた銅メダルを決定する対リトアニア戦では、アメリカ・チームが誤って、 リトアニア選手と同じ白のユニフォームで登場するというアクシデントが起こり、 アメリカ・チームの赤のユニフォームが届くまで、試合開始が大幅に遅れるという失策のおまけまで付いてしまった。 このユニフォームの色の誤りは、アメリカのメディアでは、スーパーボウルのジャネット・ジャクソンに次ぐ 「ワードローブ・マルファンクション(衣装の不具合)」などと、冗談めかしに言われていたけれど、 最後の最後まで、物議とトラブルが絶えなかったのが今回のドリーム・チームであった。

アメリカのメディアは、NBAプレーヤーでチームを構成しながらも、銅メダルに甘んじた 今回のドリーム・チームを猛烈に叩いていたけれど、その一方で、チーム関係者は、 「自分達を責めるのではなく、他国の躍進振りを称えるべきだ」と別の見解を述べている。
実際、今回のオリンピックは、「世界のスポーツ地図を塗り替えるものになるかもしれない」と 言われるほど、思わぬチームが 思わぬ種目でメダルを獲得しているのが目立っていた。 男子バスケットでは、セミ・ファイナルで ドリーム・チームを破って、金メダルに輝いたのは、 1952年のヘルシンキ大会以来、メダルを獲得したことがなかったアルゼンチン。 野球についても、発祥国アメリカは、オリンピックにチームを送り出すことさえ出来ず、 これに対して「あわやキューバを破って金メダル」の大健闘を見せたのは、意外にもオーストラリアであった。
キューバの選手を見ようと決勝を観戦したシカゴ・ホワイト・ソックスのスカウトも、 オーストラリア選手の進化に目を見張っており、 「オーストラリアには、メジャーのオールスター・クラスのプレーヤー、 もしくはそれに成り得るプレーヤーが何人も居る」と意欲的に語っている。 オーストラリアのプレーヤーならば、キューバや日本の選手とは異なり、言葉の障壁も無い訳で、 今後メジャー・リーグでオーストラリアの選手が活躍するのも時間の問題といったところである。

一方、ドリーム・チーム同様に、今回のアテネで 間接的ではありながらも ブーイングを受けたと言えるアメリカ選手は、 男子体操のポール・ハーン、そして陸上男子200メートルの決勝に参加したショーン・クロフォードを初めとする3人のアメリカ人 ランナーである。
ポール・ハーンに関しては、月曜に行われた種目別の鉄棒演技の際、 彼の前に演技を終えたロシアの選手に対するスコアが低かったために、観客がこれを不服として ジャッジに対して 猛烈なブーイングをしたというものであった。結局はこのブーイングのせいで、ジャッジがスコアを訂正するという 異例の事態が起こった訳であるけれど、次に演技を行うために壇上に上がっていたポール・ハーンが、 個人総合で、ジャッジの採点ミスから金メダルを獲得し、本来金メダルを獲得するはずであった韓国選手に 2つめの金メダルを与えることを拒否していたことが、このブーイングをさらに激しいものにしていたというのは、 アメリカのメディアも、体操関係者も認めるところである。
史上稀に見る大逆転で金メダルを獲得したポール・ハーンであるものの、採点ミスが発覚してからというもの、 国内外のメディアに対して「自分こそがゴールド・メダリストである」ことを インタビューで説明する毎日が続き、彼は今大会で最も祝福されないゴールド・メダリストとなってしまった。 ポール・ハーンは種目別の前日、声明を準備していたと言われるけれど、 この発表はアメリカの体操協会によって、種目別の翌日まで引き伸ばされており、 「韓国選手は国中から支援されているのに、自分は自国の体操連盟さえも 味方につけることが出来ない」と、彼が愚痴っていたことも伝えられている。
結局、ポール・ハーンは彼のパブリシストの提案で、アメリカに予定より1日早く戻り、 トークショーに出演。アメリカ世論の同情を集める方向に努めたけれど、 彼が金メダルをキープすべきかどうかについては、アメリカ国内でも賛否両論となっている。 しかし、米国体操連盟は彼に対して やっと協力的になったようで、 世界体操連盟からポール・ハーンに対して出されたメダルの自主的返還の要請を、彼に代わって断わり、 メダルのキープに向けて努力することを明らかにしている。

一方、26日木曜に行われた陸上男子200メートルでのブーイングは、本来ならばこのレースに出場していたであろう シドニー・オリンピックのゴールド・メダリストで、地元ギリシャのコンスタンティノス・カンテリスが、 ドーピング疑惑で不参加となっていたため。
ギリシャの国民的ヒーローである彼が、疑惑に包まれたまま不参加となったのは、 今大会最大の汚点と言われているけれど、スタジアムを埋め尽くした 56,000人の観客の多くは、1年以上も前からチケットを買って、彼の金メダルに 期待を掛けていたギリシャの人々で、彼らのブーイングと、カンテリスの名前の連呼が あまりに激しく、スタートが8分間も遅れたのは、前代未門の出来事であった。
この200mレース前の選手紹介の際、ブーイングが一際大きかったのが、 アメリカ選手に対してで、これは、一部で今回のドーピング騒ぎが、 アメリカの策略であるという噂が流れたためとも言われてる。

カンテリス選手のドーピング疑惑は、ギリシャの人々を大いに落胆させたけれど、 その一方で、オリンピックが開催国にラッキーな結果をもたらすことは、 珍しいことではない訳で、その好例と言えたのが、8月16日に行われた男子3mシンクロナイズド・ダイビングで、 ギリシャに金メダルをもたらしたシラニディス・ニコラオスとビミス・トーマスのペア。
彼らがメダルを獲得出来たのは、完璧な演技を見せたからではなく、 2人が全く同じミスを全く同じタイミングで犯したため。 しかも特筆すべきは、2人は 日頃練習するプールに飛び込み台が1つしかないため、 シンクロナイズド種目にもかかわらず、殆ど一緒に飛び込んだ事がなかったという事実。
すなわちこの金メダルは、飛び込み台が1つしかないせいで、「お互いが練習中に、お互いのジャンプを何度となく見る 機会に恵まれた」ために もたらされたとも言える訳で、 施設が整わない状況で練習を重ねる国の選手達には 希望を与える結果になったと言えるものだった。

ところで、今回のオリンピックは日本も女子選手の活躍が目立っていたけれど、 これはアメリカも同様のこと。今回アメリカは、女子選手の数が史上初めて選手団全体の40%を超えており、 サッカー、ソフト・ボール、体操、ビーチ・バレー、バスケットボール等で、ゴールド・ラッシュを繰り広げた。
しかしながら、メダル記者会見の席では、女子プロサッカー・リーグのブランディ・チャステインが、 女子プロスポーツのスポンサーの不在を訴えるなど、オリンピックの栄光が 必ずしもその後の国内での女子プロ・リーグ育成には繋がっていない 厳しい現実を垣間見せている。

さて、今回のアテネ・オリンピックをアメリカから見ていて、私が日本人として最も感激したのは、 やはり日本選手の活躍ぶりで、体型的に小柄な日本人選手が、期待通りにメダル争いに絡んで、 金メダル16個を含む、合計37個のメダルを獲得したというのは、やはり凄いことだと思ってしまった。
その一方で、非常に恥ずかしく思ったのは、NBCの女子体操の放映で、ルーマニア・チームのプロフィールが 紹介された際に、選手の3人が日本のポルノDVDに出演して、ヌードに近い姿で演技を見せたことが 述べられ、オリンピックで活躍しても金銭的に貧しい彼女らが、日本のポルノ・ビジネスによって 見せ物にされていたことが遠回しの表現ながらも説明されていたことだった。 番組を見ていたアメリカ人が これについてどの程度関心を払ったかは 定かではないけれど、 オリンピックというスポーツの祭典も「性的な色眼鏡で見る日本」という印象を持たれても 仕方が無いものであっただけに、このモラルの低さには、飽きれると同時に情けなくなってしまった。

こうして終わってみるとオリンピックとは、スポーツの祭典であると同時に、 人間ドラマであることが痛感されるけれど、同時に政治とビジネスが深く絡んだイベントであることも事実である。
オリンピックの運営費の大半は、アメリカでの放映権料から稼ぎ出されているのは、 IOC関係者ならずとも熟知していることであるけれど、それだけに ジャッジの審査や判定がアメリカに有利に働いているのでは?という疑問は、 NBCのキャスターのIOCジャック・ローグ会長に対するインタビューでも 訊ねられていた問題である。
いずれにしても、アテネ・オリンピックが終了した時点で言われていることは、 これだけ小さな国がオリンピックをホストするのは、恐らくこれが最後であろうということ。 ニューヨーク都市部に匹敵するほどの人口しかいない、小さな国家が今回のオリンピックを 無事に終えたことは、大きく評価されているものの、 今後ギリシャが返済していく借金の額も決して小さくないもので、 オリンピックのために用意されたアパート、オフィス施設の多くも、 その使い道が無いことが指摘されている。
また、マラソンでトップを走っていたブラジルのバンデルレイ・デ・リマ選手を アイルランド人のプロテスター、コーネリアス・ホーランのレース妨害から プロテクト出来なかったことは、ロシアのオリンピック委員会が、開幕当初から指摘していた 「大国の方が、警備が行き届く上に、結果的に費用が掛からない」というセオリーを 立証する結果になってしまったのも事実である。
ちなみに、このコーネリアス・ホーランは、2003年の7月に行われたF1のブリティッシュ・グランプリにも グリーンのベレーと赤いキルトという全く同じ服装で、レース・トラックに現れ、 車に轢かれそうになりながら「聖書には真実が描かれている」プロテストをしていた牧師とのこと。
最後の最後で警備の失態を見せたアテネ・オリンピック開催側にとっては、 彼がテロリストとの関わりがなかったことが、不幸中の幸いと言えることだった。








Catch of the Week No.4 Aug. : 8月 第4週


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