Sep. 20 〜 Sep. 26 2004




ウーマンズ・ファンタージー

先日ニューヨーク・タイムズのスタイル・セクションに掲載されていたのが、 女性用のアダルト・ムービーを製作しているディレクターの苦労話である。
世の中のありとあらゆるプロダクトの購買主導権を握っているのが女性であるということは、 マーケティング王国アメリカでは周知の事実。 たとえ独身男性であっても、車や服、下着、コロン等を買う際は、ガールフレンドの意見や、 一般的な女性の好みを考慮するもので、どんな物でも購買の決断に女性の視点が入るのが通常な訳であるけれど、 年商8兆円と言われるアダルト産業に関しては、 これだけのメガ・マーケットでありながら、女性向け、もしくは 女性の視点というものが、取り入れられたことがなく、 男性の、男性による、男性のためのビジネスであったのである。
逆に言えば、これだけマーケットが成熟化したアダルト産業も、 女性をターゲットとした市場としては、全くの未開地な訳で、 アメリカではこれを狙った動きというのが、ジワジワと始まっているのが現状なのである。

そもそも男性向けのアダルト・ムービーが一大産業となり始めたのは家庭用ビデオの普及からで、 これに時代と共に加わってきた レンタルビデオ・ビジネス、アダルト・ケーブル・チャンネル、 コンピューター&インターネットの普及、アダルト・ソフトウェア、有料ダウンロード・システムといった 新たなビジネス展開が、アダルト産業をあっという間に巨大市場にしてしまった訳である。
今やアダルト産業には間接的に大企業や、大手金融機関の資本も入っており、 その淫らなイメージとは裏腹に、ビジネス界では「最も利益率が高く、最も急速に成長し続ける市場」として、 脚光を浴びているのが隠れた実状であったりする。
しかしながら、そのアダルト産業が 女性市場の攻略に動き出すまでに、どうしてこんなに時間が掛かったかと言えば、 やはり社会における「女性のセックス観」の変化を待たなければならなかったというのが その答えのようである。

男性がアダルト映画を映画館に足を運んで見るようになった60年代後半から70年代前半のアメリカでは、 女性達は「ウーマンリブ」を掲げて、女性の自由や権利を勝ち取る運動をしていた時代。
そして70年代後半からは、ハリウッド映画に当時の時代の「新しい女性像」というのが徐々に描かれるようになっていく。 それは『結婚しない女』に描かれていたような、夫の浮気が原因で離婚をし、復縁を求めた夫を拒んで、 自由に生きることを選んだ女性であったり、『ミスター・グッドバーを探して』でダイアン・キートンが 演じたような、昼間は学校の教師として働き、夜になるとシングルズ・バーに出掛けて、麻薬を買い、 見ず知らずの男性と夜を共にする女性であったりしたけれど、 ポップ・カルチャーとして、現代女性のセクシュアリティに最も大きな影響を与えたと言われるのは、 80年代前半に登場したマドンナであると言われている。
彼女の「男性に媚びるのではなく、自分を誇示するためのセックス・アピール」や、 「女性が男性と同じように恋やセックスを楽しんで何が悪い?」という主張は、 今や現代女性の中に あまりに当たり前に浸透してしまっているけれど、 マス・カルチャーとして、これをポジティブな形で一般に受け入れさせたのは、他ならぬマドンナだったのである。

マドンナが やや極端なセックス・アイコンであったのに対し、 リアリティ&ライフスタイル・アプローチで、女性のセックス観がすっかり変わったことを世に知らしめたのが、 98年からスタートし、今年4月で番組が終了した「セックス・アンド・ザ・シティ」である。
「セックス・アンド・ザ・シティ」が、それまでハリウッド&メディアが 打ち出してきたセックス・レボルーションと異なる点は、従来のセックス・レボルーションが ショックと驚きを伴って徐々に社会に馴染んでいったのに対し、「セックス・アンド・ザ・シティ」は、 一般の女性達が番組を見て、4人のメイン・キャラクターが、 自分達と同じような異性経験をしたり、自分達と同じようにセックス体験や セックス・パートナーについて オープンに語り合っていることに共鳴している点で、 この時点で、メディアやエンターテイメントが女性のセックス・ライフをリードするのではなく、 それに追いつこうとする側に回ったというのは、あっという間の大変革と言えるものである。

事実、「セックス・アンド・ザ・シティ」のストーリーは、女性6人から構成される作家チームが、 女友達から聞いた話や、自分の体験、インターネットに掲載されていた実在の女性のエピソード等を 脚本としたもので、すっかり進化した女性のセックス・ライフの実態と本音を ありのままに伝えるのが「新しい」と言われるのは、裏を返せば、それまでの女性のセクシュアリティが、 オブラートに包んだ状態で描かれていたり、男性の視点から、思い込みが入った形で描かれていた とも言える訳である。
中には、同番組を見て以来、自分のベッドマナーが女友達の間で、 オープンに語られることを考えて、緊張のあまりヴァイアグラを飲むようになってしまった男性も居るとの事だけれど、 セックスやセックス・パートナーについて、友人に自慢したり、愚痴ったりするのは、 「男性だけがしていることではない」こと、「むしろ女性の方がずっと辛辣でシビアである」ことは、 「セックス・アンド・ザ・シティ」を見るまでは、「想像もしていなかった」アメリカ人男性は少なくないのである。

こうして セックスに対してオープンな女性像が社会で一般的なものとなり、 「女性も男性も、そのセックス・ライフには大きな違いはない」という見解が浸透して来たことによって、 初めて陽の目を見たのが、女性向けアダルト産業である。 すなわち、男性と女性のセックス観に違いが無いのならば、男性にこれだけウケて、 女性にウケないはずが無いという視点に基づいて製作がスタートしたのが このビジネスであるけれど、いざ始めてみると女性向けのアダルト・ムービーを製作する方が、 男性向けよりずっと難しく、お金が掛かるというのが、そのプロデューサーの言い分である。
女性はムードやイメージを重んじるので、衣装やセッティングに非常にお金が掛かるとのことで、 男性向けのアダルト映画のように、 ヴィクトリアズ・シークレットのポリエステル・レースの6ドルのGストリングスに、 ビニール素材の20ドルのサンダル、設定は車のガレージ というような 安上がりなプロダクションにはなり得ないのだそうである。
1番お金が掛かるのはやはりシューズで、女性は高そうなシューズを嗅ぎ分けて、 胸をワクワクさせるか、幻滅するかに別れてしまうという。 またワードローブも、アダルト映画となると、貸し出しを許可してくれる高級ブランドは非常に少ないので、 費用が掛かるというし、セットにしてもシルクのシーツや、キャンドル、シャンパン・グラス等、 女性をその気にさせる小道具が沢山必要であるという。

ここまで聞くと誰もが感じるのは、こうした女性向けのアダルト・フィルムが 「セックス・アンド・ザ・シティ」のポルノ版を製作しようとしているのでは? ということであるけれど、それは当たらずとも遠からずである。
そもそも、過去長年にわたって女性のソフトコアのニーズを満たして超ロング・セラーを 記録してきたものに「ハーレクイン・ロマンス」というものがあるけれど、 これも、いわゆる恋愛小説でありながら、ヒロインのメークの色や、サンダルのストラップ、 シルク・ガウンの光沢などについてや、部屋のインテリアや、 高級レストランの雰囲気等について、女性のファンタージーをそそる描写がふんだんに盛り込まれているのである。
でも設定やファッションはファンタジックでも、映画のヒロインは、見る側が自分に置き換えられるような、 「普通にきれいな女性」、「アベレージな女性」が選ばれるのだそうで、男性向けアダルト・ムービーにありがちな 「ブレスト・インプラント(豊胸手術)をしたモデル体型の整形美女」というキャラクターはご法度となっている。

そう考えれば、「セックス・アンド・ザ・シティ」にしても、サラー・ジェシカ・パーカーを始めとする 4人のキャラクターは、卓越した美女でも、スタイル抜群という訳ではなく、 魅力があって、ファッショナブルではあるけれど、リアリスティックで、 女性から好感を持たれるキャラクターであった訳で、 女性向けアダルト映画のプロデューサーによれば、「ヒロインはセルライトやストレッチ・マーク(肉割れ)がある方が 好ましい」のだという。
要するに女性向けアダルト産業では「セッティングはファンタジー、セックスはリアリティ」というのが サクセス・フォーミュラと見なされているようである。

しかしながら、ローバジェットで、短時間に次から次へと新しい作品を量産していく男性向けの アダルト・フィルムとは異なり、費用と時間が掛かる女性向けが、 果たしてビジネスとしてどの程度育っていくかは全くの未知数である。 その反面、マーケットが大きいだけに競争も激しい男性市場に比べ、 女性向けは、当てれば「1人勝ち」のマーケットでもある訳で、 今後アダルト版の「セックス・アンド・ザ・シティ」のようなフィルムが登場して、 サクセスを収められるかは、興味深く見守られるところである。







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