Jan. Week 5, 2012
” Gay Men Don’t Get Fat by Simon Doonan ”
” ゲイ・メン・ドント・ゲット・ファット by サイモン・ドゥーナン ”



本を読むのが嫌いな私が、つい最近斜め読みしたのが、サイモン・ドゥーナンの最新の著書、「ゲイ・メン・ドント・ゲット・ファット」。
サイモン・ドゥーナンは、バーニーズ・ニューヨークにウィンドウ・ドレッサーとして入社以降、長年バーニーズのクリエイティブ・ディレクターを勤める傍ら、 雑誌のコラムなどで執筆活動を行なってきた人物。 既に3冊ほどの著書があるけれど、 私が特にこの本に興味を持ったのは、数週間前にニューヨーク・タイムズ紙のダイニング・セクションに掲載された 同書についての記事が 非常に面白かったため。

数年前にアメリカで、「フレンチ・ウィメン・ドント・ゲット・ファット」というダイエット・ライフスタイル本が 大きな話題になったけれど、これはフランス人女性がエクササイズもダイエットもせずに、生涯に渡って細いボディを保ち続けている 秘訣について説明した本。小さなポーションで、本当に美味しいものだけを食べて、とにかく街を歩く、といったアドバイスの数々が 書かれていたのだった。
サイモン・ドゥーナンの「ゲイ・メン・ドント・ゲット・ファット」は、この「フレンチ・ウィメン・ドント・ゲット・ファット」を パクッたタイトルであるものの、ダイエットのためのアドバイス本ではなく、内容はゲイ・ピープルのライフスタイル・エッセイ。 ファッション&ソーシャル分析をユーモラスな語り口と独得の視点で描いているものなのだった。

正直なところ、私はこの本を斜め読みして、何を一番悟ったかといえば、アマゾン・ドット・コムのレビューを含め、 メジャーな新聞の同書に関する記事や、ファッション関連のブログまでもが、全て ニューヨーク・タイムズの記事を叩き台に書かれていて、まともにこの本を読んだと思われるレビューや記事が、 少なくとも同書出版直後には 殆ど無かったということ。
ニューヨーク・タイムズ紙は、ダイニング・セクションが取り上げただけあって、「ゲイ・メン・ドント・ゲット・ファット」の食事とダイエットに関する 部分のみにフォーカスして、サイモン・ドゥーナンとインタビューをして 記事にしていたけれど、 確かにこの本の最も面白いといえる部分は、彼が食について語っているチャプターと、何故ゲイ男性が太らず、スリムな外観を保っていられるかについて 語っているチャプター。
でも、それは同書の10%にも満たない部分。加えて多くのメディアの記事やレビューが、本には書かれていないものの、ニューヨーク・タイムズ紙の 記事には書かれていることに触れており、恐らく「ゲイ・メン・ドント・ゲット・ファット」というタイトルと、ニューヨーク・タイムズ紙の記事の内容から、 勝手に この本が一風変わったダイエット本だと思い込んで、実際には同書を読まずに そうしたレビューや記事を書いている様子がありありと窺えてしまったのだった。
なので、私はニューヨーク・タイムズ紙のパワーを改めて実感してしまったけれど、実際、同書はタイムズの記事の影響で、 彼の著書の中で最もパブリシティを獲得し、話題を集めているのだった。




その彼が、「ゲイ・メン・ドント・ゲット・ファット」の中で最も興味深い 食事とダイエットに関するチャプターで何を語っているかといえば、 彼にとってフードというものは、肉&魚、野菜&果物、乳製品、炭水化物 というようなカテゴリーに分けられるものではなく、 ごくシンプルに ゲイ・フード&ストレート・フードという2つに カテゴライズされるという。
ゲイ・フードとは色がブライトで、たんぱく質を微量に含む、もしくは全く含まないもの。 例を挙げればサラダ。これに対してストレート・フードは色がダークもしくは、地味で、脂やたんぱく質が豊富なフード。 好例はステーキ。
要するに、身体に良くて、軽いフード、プレゼンテーションに凝っているのがゲイフードで、身体に悪くてヘビーなフードがストレート・フードということになるけれど、 サイモン・ドゥーナンによれば、日本食はゲイ・フード。特に握り寿司を例に挙げて、単なる魚の切り身を キュートな”フィッシュ・ボンボン”に変えてしまう スシ・シェフを誉め讃えていたのだった。
逆に、ストレート・フードとして彼が挙げていたのはメキシカン・フード。ビーフ・ブリトーやワカモレ&トルティア・チップスなどは、 彼に言わせれば典型的なストレート・フード。
でもサイモン・ドゥーナンは、ゲイ・フードだけを食べるべきと言っているわけではなく、「ストレート・フードにゲイ・フードをミックスした方が ヘルシー」というのが彼の主張。例えば ステーキを食べるのであれば、サイド・ディッシュとして、 マッシュド・ポテトやフライド・ポテトのようなストレート・フードを添えるよりも、 アルグラ・サラダなどのゲイ・フードをオーダーした方が、スリムな体型が保てるというのがその提案なのだった。
また、彼に言わせれば、The Gayest Food / ザ・ゲイエスト・フード(最もゲイな食べ物)はラデュレのマカロンだそうで、 あのカラフルで、見目美しいスウィーツを買いにストレートの男性は行列しないとメディアのインタビューでもコメントしていたのだった。

ところで、この本では彼のお得意の分野であるファッションにも触れている他、彼のお姉さんがレズビアンで、彼女がそれを明かした時の エピソードが紹介され、レズビアンについてもフォーカスがされているのだった。
それによれば、日本の無印良品/Muji は ベージュ・レズビアン(ごくベーシックを好むレズビアン)のブランド、 そしてユニクロはスポーティーなレズビアンのブランドなのだそうで、 フィービー・フィロがデザインするセリーヌのクロージングは、長身でスタイリッシュなレズビアンにピッタリとのこと。
要するに男性に対するセックス・アピールに欠くテイストが レズビアンのブランドと見なされているところには、変に納得してしまったのだった。

私がこの本の中で最も興味をそそられた部分は、彼がどうしてゲイ男性の方が、ストレートの男性より スリムな体型を保つだけでなく、 外観に気を遣うかについて、彼の考えを述べていた部分。
世の中一般では、その理由を「ゲイ男性の方が美意識が高い」とか、「ゲイ男性の方がストイックで自分に厳しい」とか、 「ゲイ男性の方がセックス・ライフがアクティブで、何歳になってもパートナーが探せるように容姿を保たなければならない」などと説明するのが常。 でもサイモン・ドゥーナンによれば、ゲイ男性が容姿を保とうとするのは、彼らの恋愛対象が 異性ではなく、自分達自身=男性であるため。
ストレートの男性は、自分と全く異なる容姿、全く異なる服装の女性という対象に惹かれるので、どんな体型や容姿でも 自分の姿を省みないで 女性に興味や愛情を抱くことが出来るとのこと。 しかしながらゲイ男性の場合、恋愛対象は自分と同じ男性で、男性の身体と服装をしている訳で、 どうしても 恋愛対象の中に自分の姿を見たり、シビアな視点で比較することになるという。 その結果、自分に見合う相手を探すため、相手に見合う自分であり続けるために、容姿や服装に気を遣うという説を展開しているのだった。





ふと思い返すと、私はサイモン・ドゥーナンをバーニーズで見かけて、話しかけてしまったことがあって、 それは 恐らく もう7年ほど前のこと。 私は 多くのニューヨーカー同様、セレブリティを見ても騒いだり、近寄って行ったりなどは決してしないけれど、 その時に限って、サイモン・ドゥーナンに話しかけてしまったのは、彼がどうしてその日バーニーズに居るのか非常に不思議だったため。
サイモン・ドゥーナンは当時のバーニーズのディレクターであるから、彼がバーニーズに居ること自体は普通なら 全く不思議ではないけれど、 私はその日の朝の業界紙で、「サイモン・ドゥーナンが銀座のバーニーズのオープニングに姿を見せた」という記事を読んでいたので、 「どう見てもサイモン・ドゥーナン以外の何者でもないけれど、そんなに早く日本から戻れるはずは無い!」と頭の中で考え始めてしまったのだった。
ふと見ると、彼が持っていたゴヤールのバッグに「S.D.」の頭文字がついていたので、「Excuse me, but, are you Simon Doonan?」と 訊いてしまったところ、案の定 本人。 「You supposed to be in Japan!」 と言って、彼の記事を読んだことを話したところ、 銀座のバーニーズのオープニングは前の週で、業界紙が遅れてレポートしたことを説明してくれたのだった。
それから彼とは銀座のバーニーズの話をして、その時一緒に居た友人が連れていた犬が可愛いと言いながら、彼が飼っている犬の写真を見せてくれるなど、 とても気さくで、もっとクレージーな人物かと思っていたけれど、チャーミングかつ 非常にナイスな人柄なのだった。

さすがにセンスが良いのは一目で分かる出で立ちで、私は当時、あまりゴヤールのバッグは好きではなかったけれど、 その時、彼が持っていたブラックかネイビーのゴヤールのバッグは、カスタムのラインとモノグラムがバッグを引き立てる絶妙のカラーで入っていて、 「こうやって見るとゴヤールも悪くないなぁ」と、ゴヤールについて考えを改めたことを覚えているのだった。
そのサイモン・ドゥーナンの昨今のお気に入りは、リバティのフラワー・プリントを用いて カスタム・メイドしたシャツで、 常にブルー、ピンク、レッドなど、ブライトなプリントのシャツを着用して Thom Brown / トム・ブラウンのジャケットとコーディネートするのが、 著書のプロモーションに登場する 彼の定番ファッションになっているのだった。

サイモン・ドゥーナンは 既に次の本を執筆中とのことであるけれど、 私に言わせると、彼の本は英語で読むべき本の典型例。彼の文章には 細かいニュアンスや、スラングと呼べるほどにはメジャーに使われていない 彼特有の言い回しや、言葉の遊びが随所に盛り込まれていて、読む人を大笑いさせるのはその部分。
なので日本語を始めとする別の言葉に訳したら、彼の文章の持ち味が 全く失われてしまうと思うのだった。 「セックス・アンド・ザ・シティ 」を日本語で観た時も すごく興醒めしたのを覚えているけれど、 彼の文章は、SATCの台詞よりずっと 英語の必要性を感じるもの。 なので、この本については 絶対に英語で読むことをお薦めします。





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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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