Apr. Week 2, 2012
” Tom Ford Men's Collection ”
” トム・フォード・メンズウェア ”



私が昨今、趣味にしているのがメンズ・ウェアのショッピング。
このところ、ウーマンズ・ウェアのショッピングが以前ほど楽しくないので、自分の服は以前に比べると本当に買わなくなってきているけれど、 父親やテニスのパートナーのためのショッピングをするのは楽しくてしょうがない状態。 なので、メンズ・ウェアについては過去2年ほどで随分学んだと思うし、その分、男性のファッションを見る目が以前よりシビアになってきたのは 自分でも感じることなのだった。

とはいっても、男性のファッションにシビアになりつつあるのはメディアも同様。
今年初めの映画の授賞式シーズンでは、男性セレブリティのタキシードの着こなしがメディアで比較されるようになり、 タキシードが最も似合うセレブリティと言われるジョージ・クルーニーでさえ、「パンツの丈が長すぎる」、「ジャケットのウエストを絞りすぎている」などと非難されるあり様。
また3月下旬には、 昨シーズンのNFLで ”ティーボーイング”でセンセーションを巻き起こしたティム・ティーボーがニューヨーク・ジェッツに移籍し、 そのプレス・カンファレンスが行なわれたけれど、その翌日、3月27日のニューヨーク・ポスト紙が掲載したのが写真下、左側の記事。 これは、彼がプレス・カンファレンスで着用していたアウトフィットを こてんぱんに叩いたもので、デンバーから移籍してきたティム・ティーボーは、 ニューヨーク・メディアの厳しい洗礼を受けることになったのだった。
記事によれば、彼はヒューゴ・ボスの895ドルの規制のスーツを着用していたとのことだけれど、彼は下半身ががっちりし過ぎていて、ヒューゴ・ボス体型ではないので、 歩くたびに、スラックスの太腿の部分に何本も横ジワが寄る見苦しさ。 彼が選んだホワイト・シャツは「安全で退屈なチョイス」と言われ、ペール・グリーンのタイはインパクトが無いと指摘され、 加えて この日履いていたスクエア・トウのスリッポンは、「マイアミだったら別にかまわないけれど、ニューヨークではカジュアル過ぎる」と けなされまくっていたのだった。



「フットボールの選手にファッション・センスを問わなくても・・・」と思う人もいるかもしれないけれど、 今やファッションは職業に関わらず、男性の大切なイメージの一部。
今年のスーパーボールの直前には、開催地入りした際の ニューヨーク・ジャイアンツのクォーターバック、イライ・マニングと、ニューイングランド・ペイトリオッツのクォーターバック、トム・ブレイディの ファッションが 同じくニューヨーク・ポスト紙で比較され、その内容は 多くのウェブ上のメディアが引用していたのだった。(写真上中央)
それによれば、写真中央左側、イライ・マニングが着用していたのは、彼のお気に入りであるエルメネジルド・ゼニアの3600ドルのスーツ。 ドレス・シャツとタイもゼニアで、シャツが345ドル、タイが180ドル、ポケット・チーフが90ドル。シューズもゼニアのミラネーゼ・ウィング・チップで$595ドルというお値段。
イライ・マニングは、決してファッションに精通しているタイプではないけれど、きちんとパブリシストがついているので、 スーツがボディにフィットしていたのはもちろん、彼のキャラクターにあった実直なアウトフィットのチョイスがなされていたのだった。

これに対して、天下のスーパーモデル、ジゼル・ブンチェンの夫であるトム・ブレイディが着用していたのは、トム・フォードの2011年秋冬コレクションからの3ピース・スーツで、 お値段は5000ドル。ホワイト&グレーのギンガム・チェックのシャツは495ドル、シルク・ニットのタイは245ドル、ポケット・チーフは145ドルで、全てトム・フォードのもの。 シューズもやはりトム・フォードのレースアップ・オックスフォードで、お値段は1290ドルになっているのだった。

スーパーボウルでは、イライ・マニング率いるニューヨーク・ジャイアンツに負けてしまったトム・ブレイディであるけれど、このファッション対決は 誰もがトム・ブレイディに軍配を上げていたのは言うまでもないこと。
トム・ブレイディは、スーパーボウルの際だけでなく、様々なオケージョンで トム・フォードを着用することで知られており、 写真上右のタキシードもトム・フォードの作品。彼はスポーツ界のベスト・ドレッサーに選ばれるほどのファッショニスタなのだった。

トム・ブレイディ以外にも、トム・フォードのメンズウェアは、ファッションに煩いプロフェッショナル・アスリート達が好んで着用するほか、ブラッド・ピットやコリン・ファースなどの ハリウッド・スターのお気に入りでもあり、またトム・フォードは 「007 慰めの報酬 / Quantum of Solace」で、ダニエル・クレイグ扮する ジェームス・ボンドの衣装をサングラスに至るまで 全て担当。 その超高額なお値段も手伝って、今や ラグジュアリアスなメンズウェアのトップ・ブランドと言える存在になっているのだった。





トム・フォードが、グッチのデザイナーを辞任後、まずメンズのコレクションを手掛け始めたのは、グッチとの間に交わされた レディース・デザイナーとしての契約期間が残っていたためで、 2011年から彼がレディース・ラインをスタートしたのは、その契約切れを待ってのタイミング。
2007年からコレクションが製作され始めたトム・フォードのメンズ・ラインは、規制のスーツと、ビスポーク(メイド・トゥ・オーダー)の2本立てでスタートしていて、当時は ビスポークのスーツが5000ドルであったけれど、今は規制のスーツでそのお値段。 私も最初は、ニューヨーク・ポストの記事で見たトム・ブレイディのシャツのお値段が高いと思っていたけれど、495ドルはトム・フォードのシャツの中ではかなり良心的なお値段。 今シーズンのシャツは650〜950ドルという価格帯で、ヒューゴ・ボスのスーツ並みのお値段になっているのだった。

でも、気を失いそうに高額な替わりに、あまりのクォリティの良さやカットの美しさに放心状態になってしまうのもトム・フォードのメンズウェア。 そもそもメンズウェアは、ウーマンズとは異なり、スーツにストレッチ素材を用いることがない分、仕立ての良さとフィットが命。 欧米では今もジョルジォ・アルマーニが最も体型をカバーするスーツをクリエイトするという認識が強いけれど、 トム・フォードの仕立てはその一段上。体型をカバーするだけでなく、遥かにベターに見せるもの。
そもそもトム・フォードは自らのブランドをスタートするに当たって、マスにアピールすることは全く考えず、 素材と仕立てに徹底的にこだわっているので、 一目見て いかに高額かが見て取れるだけでなく、 どんな男性でもファッショニスタにしてしまうオーラが感じられるラインになっているのだった。

写真上は、トム・フォードの2012年春と秋の広告用に撮影されたフォトであるけれど、広告で打ち出されているイメージは、普通の男性にはトゥーマッチのものが少なくないのが実情。 でもニューヨークで、トム・フォード・ブティック以外に唯一、彼のラインを扱っているバーグドルフ・グッドマンの品揃えは、 広告のイメージよりもずっとコンサバなテイストに抑えられているので、非常にシック。本当に惚れ惚れするようなシャツやタイ、スーツがズラリと並んでるのだった。




また、服もさることながらトム・フォードのメンズ・シューズのコレクションは まさに芸術的で、特に靴底の仕上げの美しさはピカイチ。 お値段は1200〜1500ドルで、クロコダイルだとその4倍程度になるけれど、レザーの質といい、 シューズのフォルムといい、自分で履けないと分かっていても、うっとりしてしまうのだった。
実際、クリスチャン・ルブタンの1400ドルのパンプスよりも トム・フォードの1400ドルのメンズ・シューズの方が遥かに質が良くて、完成度が高いというのが 私の偽らざる意見。 クリスチャン・ルブタンのシューズは、CUBE New Yorkのお客様の取り寄せの分も含めて、くまなくチェックしているけれど、 高い割にはソールのエッジがギザギザしていたり、レザーの縫込み部分に小さなシワが寄っているなど、不良品とは見なせないものの、 完璧とは言えない問題がかなりあるのだった。 それに引き換え、トム・フォードのシューズは どこからどう見ても、非の打ちどころの無い100%完璧なシューズばかりで、クリスチャン・ルブタンと同じ価格帯でも その完成度には大きな開きがあるのだった。

トム・フォードは、男性とて「外に出る際は、自らがベストに見えるアウトフィットを身につけるべき」という意見の持ち主で、 これはココ・シャネルが女性に対して、「何時でもきちんとメークをして、美しく装っているべき」と語っていたのと共通の見解。
したがって トム・フォードにとっては、男性が街中をショーツやビーチ・サンダルで歩くのは論外。 また、装いもさることながら、男性にとって大切なのは、「仕事に情熱を注いで、世の中に何らかの貢献していること」、「マナーを心得ていること」、 そして「偏見を持たず、謙虚に振舞えること」で、きちんとした装いをすることは、自分のためだけでなく、「相手に対する敬意でもある」と語っているのだった。

私の個人的な考えでは、ファッショナブルかつ、センスの良いアウトフィットを着用して より恩恵を受けるのは女性よりも むしろ男性。 というのは、男性の方が服に無頓着な人が多い分、ファッショナブルにしていると目立つのに加えて、男性が女性のファッションをチェックする以上に、 女性が男性のファッションをチェックしているため。

男性は、一度ファッションにこだわりだすと、周囲の服装にも関心を払うようになるもので、ファッションにこだわり始めてから、それまでの自分自身や周囲の 悪趣味な服装に 改めて気付く男性は非常に多いのだった。 男性がファッションにこだわるきっかけになるのは、自分が新しく購入したアウトフィットを着用して、ルックスが向上したように感じて、 気分が良くなること。加えて、そのアウトフィットを周囲に誉められるのこと。特に、それまで 人にファッションを誉められたことが無かった人が、 着ている物で周囲のリアクションがポジティブに変わることを実感すると、ファッションのパワーを認識して、着る物にどんどん関心を注ぐようになるのだった。

私の考えでは、男性のファッションは女性のファッション以上に量より質であるべきもの。
メンズウェアは、ウーマンズに比べてずっとシンプルなスタイルで、視覚的なごまかしが効かない分、どうしても仕立てや素材に目が行くもの。 なので、数は少なくても質が良いものを着用して、それを清潔に着こなすことがとても大切だと思うのだった。
昨今、私が一緒にショッピングを楽しんでいる テニスのパートナーは、初めてディナーをした時は、ジーンズにH&Mのブラック・シャツを着ていて、遠目はスタイリッシュであったけれど、 素材に触れたら ザラザラの粗悪素材で、 すっかり興醒めしてしまったのだった。 でもその彼も今やヒューゴ・ボスのスーツやアルマーニのシャツ、バーバリーのコートを着用するようになって、 ベッタニン&ヴェントゥーリのシューズや、エトロのスーツが識別できるようになり、トム・フォードのメンズウェアを眺めて 私と一緒に ため息をついてくれるという著しい進化ぶり。当然のことながら、「もうH&Mのシャツには戻れない」と言っていたのだった。

その彼と3月半ばにバーニーズ・ニューヨークでショッピングをしていたら、今シーズンのトレンドの目玉であるカラー・ジーンズを 色違いで5本も買っている男性と遭遇したけれど、 今や、男性もファッションにはかなりのハイ・レベルでこだわる時代。ビスポークのスーツやシャツの需要も高まる一方であるという。
それだけでなく、グルーミングにこだわる男性も非常に多くて、私がこれを書いている4月12日付けのニューヨーク・ポストには、男性がマニキュア&ペディキュアに お金と時間を掛けているという記事が掲載され、ニューヨーク・タイムズ紙には男性がビキニ・ワックスをするようになったという記事が大きくフィーチャーされていたのだった。 マニ&ぺディには驚かないけれど、ビキニ・ワックスというのは少々意外な展開。
とは言っても、ボトックスからフェイスリフトまで、今や男性は女性がすることを全てやるようになっているので、ビキニ・ワックスも 考えようによっては自然の成り行きと 言えるかもしれないのだった。





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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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