May Week 4, 2012
” New Plaza Food Hall ”
” 新しくなったザ・プラザ・フード・ホール ”



1907年にオープンしたプラザ・ホテルが 4億ドルを投じた改装後、コンドミニアムとホテルのコンプレックス、”ザ・プラザ” として生まれ変わったのは、 2007年のこと。
超高額で売り出されたコンドミニアムはあっという間に完売したものの、間取りが悪い上に、問題が多い 批難轟々の物件。オーナーの約30%が 値崩れした状態で手放したことさえ伝えられているのだった。その一方で高級ショッピング・アーケードとして ホテル内にデビューした ”ザ・ショップス”は、 あまりの客足の無さから店舗の撤退が相次ぐ始末。
それだけでなく プラザ・ホテルのかつてのシンボルであった1階のカフェ・レストラン、 パームコートにしても、オープンから数ヶ月で閉店に追い込まれるなど(現在は再オープン)、その改装、リオープンは期待外れ以外の何物でもない状況になっていたのだった。

その”ザ・プラザ”の起死回生のプロジェクトとして2010年にオープンしたのが、地下フロアのフード・ホール。
このフード・ホールは、ボストン出身のシェフで、ニューヨークにもそのシグニチャー・レストラン、「オリーブ」をオープンしている トッド・イングリッシュが監修したもの。宿泊客に加えて、近隣オフィス・ビルに勤める人々のランチ・ニーズ等を満たす目的で、 テイクアウト&カジュアル・ダイニングを提供するグルメ・フード・ホールとしてオープンし、当初はかなりの注目を集めたのだった。
店内は本格的なシーフードを提供するレストランから、ワイン・バー、ベーカリー、食材を扱うセクションなどが デパ地下感覚で 立ち並ぶ作り。 CUBE New York でもこのフード・ホールは、記事にしていたので オープン当初の2010年に早速出掛けたのを覚えているのだった。

ところが、このフード・ホールは足を踏み入れた途端に、メートルディーが寄ってきて、「何処で食事をするのか?」と訊ねてくるシステム。 そんなことを訊ねられたところで、常連客以外は答えられないのは当然のこと。
プラザ側は メートルディーが 来店客を お目当てのカウンターまで案内して着席させるサービスを提供しようとしていた訳だけれど、 これが明らかに裏目に出ていて、メートルディーの案内無しで 果たして着席して良いのかも分からないようなシステムになっていたのだった。
加えて、メニューの多くは 軽食としては重過ぎるものが大半。 はす向かいのバーグドルフ・グッドマンのショッピングの後に立ち寄った友人と私は、ディナーまでの時間つぶしをしようと思っていたけれど、 結局はワインを1杯飲んで、直ぐに出てきたような有様。「写真で見るより遥かに小さく、 写真で見るより遥かに魅力が無い」という印象に終わっていたのだった。




そのプラザのフード・ホールが拡張され、テナントを増やして再オープンしたのが、私がこれを書いている前日、5月23日のこと。
私は今日ちょうど傍を通ったので、早速立ち寄ってみたけれど、まず驚いたのがエントランスが改善されていること。
以前は、非常階段のような細い階段を下りてフードホールがある地下にアクセスしなければならなかったけれど、 改装後は、扉を開けて中に入ると、上りと下りのエスカレーターが並んでいて、ストレス・フリーでフード・コートに辿り着くことが出来るのだった。

また拡張されただけあって、フロアは以前よりも遥かに広々としていて、購入したものをその場で食べるエリアが 何箇所も儲けられている設定。
営業時間は午前10時〜午後8時までなので、プラザ・ホテルの宿泊客のブレックファストのニーズを満たすには、 オープン時間が少々遅いという印象。
トッド・イングリッシュがプロデュースしているエリアは、そのまま ”トッド・イングリッシュ・フード・ホール” というネーミングで個別に運営されていて、 そのエリアのみ、営業時間が金曜、土曜は午後11時まで、それ以外は午後10時までとなっているのだった。





今回のプラザ・フード・ホールの拡張再オープンが話題を集めている理由の1つは、ニューヨーカーに好まれているグルメ・ストアが 何店も新しいラインナップに加わっていること。 例を挙げれば、スシ・オブ・ガリ、以前このコーナーで取り上げたルークズ・ロブスター、 南麻布のペーパームーンの海外進出版、レディM、メゾン・ドゥ・ショコラなど。
これらは全て、私の自宅からそう遠くないところに店舗や支店があるけれど、全て距離は近いものの、あまり行くチャンスが無い ”近くて遠い場所”。 でも、プラザ・フードホールに入ってくれたお陰で、今後は遥かに頻繁に訪れるチャンスがあると思うのだった。

加えて、数年前にレキシントン・アヴェニュー73丁目の店舗がクローズして以来、すっかりご無沙汰になっていた パティスリーのパイヤードが入っているのも朗報。 さらに、アッパー・イーストサイドのマディソン・アベニュー沿いにあるウィリアム・グリーンバーグ・デザーツが初の支店をオープンしていたり、 卸売りのベーカリーとして知られるパン・ダヴィヨンが、初の小売店をオープンしているのも画期的と言われているのだった。 パン・ダヴィヨンはイレブン・マディソン・パークやコルトンなどニューヨークの3ツ星、4つ星レストランにパンを卸しているロング・アイランドのベーカリー。
例によって パン好きの私は、早速 同店のパンを買ってみたけれど、今日は大雨でパンを買うには全く適さない日。 クロワッサンは食べる前に湿気てしまったけれど、オーブンで温め直して、焼きたてのコンディションにして味わった感想はイマイチ。 個人的にクロワッサンがイマイチのフレンチ・ベーカリーは評価しない主義であるけれど、一緒に買ってきたロシアン・スタイル・ブレード(下段、右側の写真の左側のパン)は ブリオッシュにそっくりの、バターとオレンジ風味の ほのかに甘いパンで、こちらは優秀。 「これでフレンチ・トーストを作ったら どんなに美味しいだろう」と思いながら食べていたのだった。

今回の拡張で加わった店舗はベーカリーやデザートショップが多いけれど、実際に拡張前の段階で極めて弱かったのがこの分野。 そしてプラザのフード・コートの人気が高まらなかった理由も、そこにあると言っても過言ではないのだった。
実際、かつてプラザ・ホテルのショッピング・アーケードで 唯一 集客力があったのが、ザッハ・トルテで知られるデメル。同店は、ホテル側とレントで揉めた結果、既にテナントを出てしまって久しいけれど、 デメルのザッハ・トルテやチョコレート・ムース・ケーキを目当てに、当時 全くパッとしなかったプラザのショッピング・アーケードを訪れるファンは多かったのだった。
なので、ニューヨーカーの間で名の知れたトップ・ベーカリーやパティスリーを新たにラインナップに加えることは、 ビジネスの方向性として極めて正しいチョイスだと思うのだった。





ザ・プラザ・フード・ホールへは、59丁目沿いの入り口に加えて、58丁目側の ”ザ・ショップス”のエントランスからも アクセスが可能になっていて、どちらにも上り、下り 両方向のエスカレーターが設置されているのだった。
特に59丁目側の入り口はエスカレーターの正面が大きなミラーになっていて、フード・ホールに降りていく自分の姿が鏡に映し出されるけれど、 私がこのアイデアを「賢い!」と思ったのは、鏡が 俗に言う ”スキニー・ミラー”になっていること。 ”スキニー・ミラー”とは、その名の通り、痩せて見える鏡で、90年代半ばにはバーニーズ・ニューヨークのドレッシング・ルームのミラーが ”スキニー・ミラー”になっているため、「自宅で着用してみると服のイメージが違う」と指摘されていたもの。
でもフード・ホールにエスカレーターでゆっくり下りて行く 約15秒程度の間に、 鏡に映る自分の姿が確実に3〜5キロは痩せて見えるというのは 気分が良いと同時に、 「今日は沢山食べても大丈夫」という安心感さえ与えるもの。 これは サラダやサンドウィッチを買いに来たビジネス・ランチ客が、ケーキやクッキーをデザートに買って帰ったり、 軽食を食べに来た来店客が、しっかりスシやパスタを食べてしまうという効果をもたらすと思しきもの。
逆にこのミラーが実際の姿を映し出す、もしくは太って見えるようなミラーだったら、エスカレーターを降りた時点で、上りのエスカレーターに乗って 来店客が出て行っても不思議ではないもの。

通常、こうしたフード・コンプレックスにおいて、来店客の食欲を煽るのは嗅覚にアピールすることであるけれど、 プラザのフード・ホールのセッティングはエレガント過ぎて、フードの匂いが充満するようなプレゼンテーションはご法度。
それが出来ない分、このエントランスのスキニー・ミラーが 十分に来店客の食欲を煽る役割をすると私は考えているのだった。


Plaza Food Hall
1 West 58th Street, NY 10019



追記:デメルはザ・プラザの店舗を出た後は、未だ新しいロケーションはオープンしておらず、現在はEメールで申し込むことによって通販で全米からオーダーが可能。 マンハッタン内では、ディーン&デルカのソーホー、もしくはマディソン・アヴェニュー店がデメルを取り扱っています。
詳細はデメルのウェブサイトをご覧ください。





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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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