May Week 4, 2016
” The Bates Motel on the Met Rooftop ”
METルーフトップに登場したヒッチコックの代表作、
「サイコ」のベイツ・モーテル
私は学生時代に、集中的にアルフレッド・ヒッチコックの作品を観た時期があって、
ヒッチコックの作品にはかなり詳しいことを自負しているけれど、私が好むのは
彼の代表作の「サイコ」よりも、「裏窓」や「ノース・バイ・ノースウェスト(北北西に進路を取れ)」など、
血が流れない作品。
それでも「サイコ」という作品が映画史上に残したインパクトの強烈さや影響力は本当に凄いと思っていて、
続編やリメイクがヒッチコック死後に製作されたり、近年では
TVシリーズ、「べイツ・モーテル」が放映されるなど、オリジナルでアンソニー・パーキンズが演じた
ノーマン・ベイツのキャラクターと、彼が経営するベイツ・モーテルの存在は、
ミレニアム世代でさえ熟知しているのが実情なのだった。
そのベイツ・モーテルを再現したスカルプチャーが登場したのがメトロポリタン美術館のルーフトップ・ガーデン。
同美術館のルーフトップは、毎年様々なアートのショーケースになっていることは、
以前のこのコーナーでも歴史を追ってご紹介したことがあるけれど、
2016年のルーフトップ・エキジビジョンに選ばれたのが、”PsychoBarn / サイコバーン(サイコの小屋)”とネーミングされた
イギリス人アーティスト、Cornelia Parker / コーネリア・パーカーの作品。
写真上段、右側は映画のセットに実際に使用されたベイツ・モーテルであるけれど、
それをほぼ忠実に実現しているのが この高さ30フィートのスカルプチャー。
中には 正面とサイド片側しか完成しておらず、裏側がセットの舞台裏のようになっている様子を見て、
予算軽減のための手抜きと勘違いする人も居るようだけれど、
これは実際に映画「サイコ」の撮影のために建てられたベイツ・モーテルのセットを
完璧に具現化した演出。
したがって、未完成、もしくは手抜きに見えるこの状態が完璧なコピーという皮肉交じりなジョークが
織り込まれているところも同作品のポイントになっているのだった。
実際のベイツ・モーテルよりも。色彩がヴィヴィッドになっている理由は、
同作品が1925年のエドワード・ハーパーの絵画 ”House by The Railroad / ハウス・バイ・ザ・レイルロード”
にも影響されてクリエイトされているためと というのがアーティストの説明なのだった。
これを、マンハッタンの摩天楼をバックグラウンドに眺めるところも 醍醐味であるけれど、
私に言わせると、メトロポリタン美術館のルーフトップは、アッパー・イーストサイドでディナーをする際の
食前酒に立ち寄るのに最高のスポット。
西にセントラル・パーク、南にミッドタウンからダウンタウンに立ち並ぶ高層ビルが見渡せる
ルーフトップは、数あるルーフトップ・バーの中でも
最も素晴らしいビューが眺められるスポットの1つ。
ドリンクは、自分で買ってプラスティックのグラスで飲まなければならないのに加えて、
座れるエリアは限られているけれど、開放的で全く気取りの無い空間。
美術館の展示を閲覧する合間の休憩にも適しているのだった。
特に金曜と土曜は、夜9時までオープンしているので サンセットが眺められる時間に出かけると
さらに素晴らしいビューが眺められるのがこのルーフトップ。
”サイコバーン”のスカルプチャーに興味があっても、無くても、
この夏のニューヨークのチェックポイントの上位に挙げられるスポットだと思うのだった。
執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。