May Week 5, 2013
” Before Midnight ”
” ビフォア・ミッドナイト ”



今年の夏は、ハリウッドのビッグ・バジェット・ムービーが22本も封切られることになっているけれど、 私が最も楽しみにしていたのが、今回取り上げる 「Before Midnight / ビフォア・ミッドナイト」。
「ビフォア・ミッドナイト」は、1995年に封切られた「Before Midnight / ビフォア・サンライズ (写真下、上段)」、2004年に封切られた 「Before Midnight / ビフォア・サンセット (写真下、下段)」の続編で、シリーズの3作目に当たる作品。
3本の連作の間にそれぞれ9年というブランクがあるけれど、映画の中のストーリーもリアルタイムで進んでいて、 95年の「ビフォア・サンライズ」では、ヨーロッパを旅行中のアメリカ人学生、ジェシー(イーサン・ホーク)と、 フランス人女性、セリーヌ(ジュリー・デルピー)がユーロ・トレインの中で出会い、ウィーンから飛行機に乗って帰国予定の ジェシーに誘われて、セリーヌがウィーンで途中下車し、彼と翌朝まで一緒に過ごす様子が、美しいウィーンの街を舞台に描かれたのがこの作品。
2人は1年後の再会を約束して、連絡先も取り交わさずに列車の駅で別れるのがラストシーン。

続編に当たる「ビフォア・サンセット」は、その9年後に再開した2人を描いた作品。
セリーヌとのロマンティックな一夜を小説に書いて、ベストセラー作家になったジェシーが、パリの書店に著書のプロモーションにやってきたところに、 セリーヌが彼に会いに来るという設定。 時間のブランクを全く感じさせない2人の会話から明らかになるのが、セリーヌが1年後にジェシーに会いにいけなかった理由や、 環境活動家になった彼女の現在。一方のジェシーは既に結婚し、子供も居る身。しかしながら彼の結婚は決して幸せなものではないことも 語られるのだった。アメリカに帰国する飛行機の時間までのつもりの2人の再開は、 どんどん長引いて、やがてはセリーヌのアパートにやってくるジェシー。
「Baby, you are gonna miss that plane... / ベイビー、飛行機に乗り損ねるわよ」というセリーヌに、ゆったりソファーに座って「I know / 分かってる」と 応えて微笑むジェシーのやり取りは、インディ・フィルムのファンなら知らない人は居ないというほど 有名なラスト・シーン。 誰もが 「この先 2人は どうなっていくんだろう・・・」と思いを巡らさずには居られない、素晴らしい余韻を残す ラストシーンなのだった。

実は私は、2作目の「ビフォア・サンセット」を観てから 1作目の「ビフォア・サンライズ」を観て、 すっかりこの2本の連作に惚れ込んでしまったけれど、特に「ビフォア・サンセット」は何度観たか分からないほど好きな作品。
監督のリチャード・リンクレイターによれば、3作の中で最初から脚本というものが存在したのは1作目の「ビフォア・サンセット」だけ。 その「ビフォア・サンセット」で、彼がイーサン・ホークとジュリー・デルピーをキャストした理由は、 既に存在する脚本を 自分の言葉で書き換えてくれる俳優を望んでいたためだそうで、 実際、映画の中の2人の台詞は 非常に自然な会話になっていたのだった。

2本目の「ビフォア・サンセット」は、監督のリチャード・リンクレイターとイーサン・ホーク、ジュリー・デルピーが 一緒に脚本を担当して、オスカーの脚本賞にノミネートされているけれど、 同脚本は ストーリーのドラフトを決めてから、Eメールのやり取りで書き上げられたというもの。
イーサン・ホークは「欲望という名の電車」で知られる脚本家、テネシー・ウィリアムスが曽祖父の兄弟であることでも知られているけれど、 自らも2冊の著書を書き上げた作家。 一方のジュリー・デルピーはシンガー・ソングライター兼、プロデューサー。 ともに執筆の才能がある2人が、スクリーン上でも息の合った演技を見せられるというのは極めて稀なこと。
どちらの作品も、基本的には ”2人が喋っているだけ” という設定であるけれど、とても演技とは思えないような キャラクターのナチュラルさと 2人の間のケミストリーが、 ウィーンやパリの街の光景と一緒に 画面いっぱいに溢れて、観る側を惹きつける仕上がりになっているのだった。





そして、9年後の今年夏、厳密に言えば先週金曜、5月24日に封切られたのが。「ビフォア・ミッドナイト (写真下)」。
「ビフォア・サンライズ」の中で 20代で出会い、「ビフォア・サンセット」の中で 30代で再開した2人は、 「ビフォア・ミッドナイト」では40代を向かえ、ジェシーは妻と離婚。セリーヌとの間には双子の娘が生まれ、 2人は結婚はしていないものの、パリで暮らしていることが、オープニングのモノローグから明らかになるのだった。 彼らは ギリシャで6週間のバケーションを過ごしていたという設定で、今作品の舞台はそのギリシャ。
今作品では、ジェシーのティーンエイジャーになる息子、双子の娘、ジェシーとセリーヌの友人と思しき年老いた作家など、 初めて2人と関係があるキャラクターが登場し、前2作の 2人だけの世界に浸る状況とは 一線を画している設定。 それだけでなく 若くして恋をして、大人として再会した2人のロマンスが実り、カップルとして、そして子供達の親としての ”生活” が始まった時に、 2人が直面する問題やジレンマが描かれているという点で、シビアであり、非常にリアリスティックでもある作品に仕上がっているのだった。
2人の間では、30代後半から40代を迎えたカップルの間で頻繁に起こる口論や、やり取りが交わされるけれど、 そんな使い古された文句でも、ジェシーとセリーヌのちょっと捻った皮肉っぽいユーモアや、 相手の言葉尻を捉えてやり返す様子に、 絶妙のリズムと知性が感じられるのは、脚本の上手さ以外の何者でもない点。
なので普通のカップルだったら辛らつになりそうな 口論のシーンにも、観客が思わず笑ってしまうような台詞が連続して出てくるのだった。

私は、映画を観終わってから 同作品に関する記事を何本か読んだけれど、リチャード・リンクレイター、イーサン・ホーク、ジュリー・デルピーは 3人ともこの作品を前2作のようなロマンティックな映画にはしたくなかったそうで、40代のカップルが遭遇する ありとあらゆる問題を検証して 、それを脚本に組み込むために非常に苦慮したとのこと。 ジュリー・デルピー曰く、今までで 最も難しく、時間が掛ったのが「ビフォア・ミッドナイト」の脚本であったという。
でもその甲斐あって、映画を観終わった後の私と友人の第一声は「Very Well Written Script!」、すなわち ”凄く良く書けた脚本”というもの。 私は文句なしに 「3本の中でこれがベスト!」と思ったけれど、友達は「初々しいロマンスを描いた 1本目も捨てがたい」という意見なのだった。





私が「ビフォア・ミッドナイト」を3作の中でベストだと思った理由は、他に同作品のような映画が存在しないため。
ロマンスを描く作品や、カップルの問題を描く作品は沢山存在しているけれど、ロマンスが成熟し、カップルが生活の中で お互いに抱く愛情と不満を、これほどまでにリアルに、 なおかつウィットに富んだ台詞で描いている作品は他に無いと思うのだった。
「ビフォア・サンライズ」、「ビフォア・サンセット」の中では、英語で 「Match Made In Heaven」と表現される 完璧な マッチと思われたジェシー&セリーヌ。そんな2人でも 一度 ”生活”というものが始まると、世の中の全てのカップルと同じ 問題に遭遇し、同じように文句を言い、口論を繰り広げ、完璧なカップルなどあり得ないことを描きながらも、 最終的に愛情関係というものは、どんなに問題を抱えようと、お互いがどれだけ一緒に居たいと思うかに懸かっていることを お説教めいた側面など一切無しに、自然に悟らせてくれるのがこの作品。

また、今回の作品では2009年に 実生活で息子を出産しているジュリー・デルピーの腰周りが前作より一回り大きくなっていたけれど、 様々な点で、ジェシー&セリーヌの台詞が、リアルタイムでそのキャラクターの年齢を生きるイーサン・ホーク(42歳)、ジュリー・デルピー(43歳)の私生活を 反映しているのもこのシリーズの興味深い点。
前作「ビフォア・サンセット」では、ユマ・サーマンと離婚したイーサン・ホークが、 ジェシーの台詞の中で その結婚観を語っていたことが話題になっていたけれど、 「ビフォア・ミッドナイト」でも、 離婚した妻との間の息子との関係や、 母親として感じるプレッシャーなど、やはり2人のリアルライフが脚本に反映されて、台詞にリアリティを与えているのだった。

映画の世界では、連作と言えば ”3部作で打ち切り” という意識が定着しているけれど、同シリーズについては 50代になった2人が どうなっているかを是非観てみたい というのが私の偽らざる気持。
そもそも3本良い映画を連作で作るというのは大変なこと。私がこれまで3部作で3本全てを評価する映画は、「スター・ウォーズ」の最初の3部作(エピソード4〜6)と「ロード・オブ・ザ・リング」だけ。 1本目と2本目が絶品と言える「ゴッド・ファーザー」でさえ、3本目でコケていることを考えると、 バジェットが溢れるほどあったとしても、3本連作で良い映画を仕上げるのは至難の業。 それをロウ・バジェットでやってのけたという点でも、同3連作は評価に値すると思うのだった。

いずれにしても ジェシー&セリーヌは、 私にとって 映画に登場する中で 最も好きなカップル。 2人が語り始めると、その流れるような会話のやり取りに引きこまれてしまうのは3作を通じて言えること。
「ビフォア・ミッドナイト」のラストシーンは、 例によって さり気なく、 2人がその後を 過ごす様子を 観る側に連想させる仕上がりになっているけれど、 ラスト・シーンに関しては、 やはり 「ビフォア・サンセット」の素晴らしさは 超えられない というのが正直な感想。
それと同作品に関しては、 前2作を観て 2人のキャラクターに 思い入れを抱けば抱くほど、 その素晴らしさが実感出来る 作品になっていると思うのだった。





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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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