June Week 3, 2012
” Paris Is Burning ”
” パリス・イズ・バーニング ”



2012年の春にニューヨークにオープンしたレストランの中で、最も話題になっていたのが ”NoMad / ノーマッド”。
このレストランについては、既にCUBE New Yorkで記事にしているけれど、 同店を手掛けたのは、 ニューヨークの4つ星レストラン、 イレブン・マディソン・パークのシェフ、ダニエル・ハムとマネージャーのウィル・グイダラ。
私は、そもそもイレブン・マディソン・パークというレストランが非常に好きなこともあって、早速4月末に同店にディナーに訪れたのだった。 ディナーの予約は8時からだったけれど、あえて友人と7時半に待ち合わせたのは、同レストランの バー・エリアと”ライブラリー”と呼ばれるラウンジ・スペースをチェックして、多くの人々が高く評価するカクテルを味わうため。

ノーマッドには、プライベート・ダイニング・スペースを含む3つのダイニング・エリアがあって、その奥にあるのがバーとラウンジ。 同店は、この春 新しくオープンした同名のホテル内のレストランで、オープンに際しては、そのラウンジ・エリアで 「昔ながらの ホテルのカクテル・ラウンジを再現しよう」 というコンセプトが打ち出されていたという。
したがって、レストランのフードだけでなく、カクテルにも非常に力を注いでいるのがノーマッドであるけれど、 事実、かつてイレブン・マディソン・アベニューがオープンした時点では、そのカクテルのヴァラエティはわずか6種類。 それが今では15種類に増えているけれど、ノーマッドはオープン時にして30種類のオリジナル・カクテルを揃えており、その他に8種類の クラシック・カクテルをメニューに加えているという充実ぶりなのだった。
ノーマッドのカクテルをデザインしているのは、イレブン・マディソン・アベニューでもバー・マネージャーを勤めているレオ・ロビシェック。
彼が、オリジナル・カクテルをデザインするにあたってインスピレーションを得たのは、ノーマッド・ホテルが位置するエリアの歴史とカルチャー。 NoMad/ノーマッドとは、ノース・オブ・マディソン・スクエア・パークの略称で、2年ほど前から使われ始めた言葉であるけれど、 このエリアはかつて、マンハッタンの 「Tenderloin/テンダーロイン」と呼ばれ、様々なサロンや、ギャンブル場、ダンス・ホールが あったエリア。
したがって、そのカラフルな歴史とカルチャーをロビシェックのクリエーションに反映させたのが、ノーマッドのカクテル・メニューなのだった。






ノーマッドのオリジナル・カクテルのメニューは、複数のセクションに分かれていて、 ”ソフト・カクテル”、”アペリティフ”、”ライト・スピリテッド”、”ダーク・スピリテッド”と、アルコールの強さで分けられているのだった。
その中で私が気に入ったのが、ここに紹介する”パリス・イズ・バーニング”。 これはロンドン・ドライ・ジン、メスカル、サンジェルマン、パイナップル、レモン、アンゴスチュラ・ビターズを用いたカクテルで、 口当たりが良く、甘すぎず、とても飲みやすいもの。 私はそもそもパイナップル・ジュースを用いたカクテルをトライするのが好きなので、このカクテルを選んだけれど、 ”パリス・イズ・バーニング”は、これまで飲んだ中で 極めて優秀なカクテル。
ウェイトレス嬢も このカクテルがNo.1か、No.2 の人気と説明してくれたけれど、それは全く納得なのだった。

ノーマッドのカクテル・メニューには ”バーテンダーズ・チョイス”というものがあって、それは自分のカクテルの好みを 伝えると、バーテンダーがオリジナル・カクテルを作ってくれるというもの。
私は、一度それをトライしていて、確かに好みを反映してくれて、悪くはなかったけれど、 でも それよりも 私の好みで、しかも美味しかったのが”パリス・イズ・バーニング”。 なので私は別の友人と訪れる度に、 まずは”パリス・イズ・バーニング” をトライするように薦めているのだった。

ところで私が不思議に思ったのは、 ”パリス・イズ・バーニング”というネーミングが、ノーマッド・ホテル・エリアの歴史やカルチャーをどう反映しているのか?ということ。
私は最初、 ”パリス・イズ・バーニング”が、第二次大戦の終わりを描いた映画「パリは燃えているか」から来ているのかと思ってしまったけれど、 この映画のタイトルは疑問文なので、英語のタイトルは「Is Paris Burning?」。 同映画は第二次大戦でドイツ軍に占領されていたパリの解放までを描いた有名な作品で、ヒットラーが降伏する前にパリを焼き払うように命令したのに対し、 ドイツ軍のディートリヒ・フォン・コルティッツ将軍がこれに背いて、パリを守ったというストーリー。タイトルの「パリは燃えているか?」は、焼き払いを命じた後の ヒットラーが 側近に尋ねたと言われる センテンスなのだった。

でも、どうやらこのカクテルのインスピレーション・ソースになっているのは、「Is Paris Burning?/パリは燃えているか」ではなく、 70〜80年代のニューヨークにおけるゲイ・ピープルのダンス・カルチャーを 描いたドキュメンタリー、「Paris Is Burning」のようなのだった。
同作品には、ドラッグ・クイーン達が様々なダンス・スタイルを生み出し、黄金時代を築いていた 当時のニューヨークのクラブ・シーンが描かれていて、公開されたのは1990年。 その中で描かれていたダンス、”ヴォーギング(グラマラスなポーズを 取り続けるダンスのスタイル) ”は、 その1年後の1991年に マドンナがヒット曲、”ヴォーグ”の中で 振り付けに使っているのだった。




私がノーマッドというレストランを気に入った理由の1つは、バー、ラウンジ、そして複数のダイニング・エリアが、 それぞれ異なる雰囲気のインテリアになっているため、ラウンジでカクテルを味わってから、レストランに移るというシンプルなプロセスでも、 気分がガラッと変わること。 なので、1箇所に居ながらにして、違うラウンジとレストランを訪れたような感覚が味わえるのだった。
もちろんラウンジの支払いは、レストランの請求書に回してくれるので、2箇所の雰囲気を楽しんでも支払いは1回。 しかも 各エリアは、空間としては しっかり区切られていても、オペレーションは連動していて、 レストランのテーブルの準備が出来たところで、メートルディーがラウンジに呼びにきてくれるのだった。 したがって、レストランのテーブルの状況や、予約の時間を気にしながらカクテルを味わう必要が無いのも利点になっているのだった。

ノーマッドのバーやラウンジで出されるフードは、レストランのアペタイザー・メニューと同じであるけれど、 レストランの料理で名物になっているのが、フォアグラとブラック・トリュフ、ブリオッシュを詰めたチキン。
チキンを丸ごと2人でシェアするこの料理のために、ノーマッドではブルックリン・ブリュワリーに特別にオーダーして、 ”Le Poulet / ル・プーレ”というブラウン・エールのペアリング・ビールをクリエイトさせているのだった。 なので、私も この名物チキンを味わう際に オーダーしてみたけれど、このビールはさっぱりしたドライ感覚で、確かにチキンの味とマッチしていたのは事実。
特に一口飲んだ時は、味覚がリフレッシュするような味わいで、美味しいと思ったけれど、 やがて半分も飲まないうちに飽きてしまったのだった。 それは友人も同様で、そもそも あまりビール党ではない友人と私にとっては、ディナーのためにオーダーしたピノ・ノアールの方が ベターという意見で一致したのだった。




さて、私はワインに凝りだす前は、カクテルを飲むだけでなく、自分で作るのを趣味にしていた時期があって、 その頃は常にジンとウォッカが冷凍庫に入っていたもの。
もちろん本も買って勉強したけれど、特にルールに捉われる必要が無いことを悟ってからは、変わったカクテルをバーで味わったりすると、 それを真似したり、アレンジしたりして、自宅で作っては、味わうのを楽しんでいたのだった。 これをワインに切り替えたのは、カクテルは ある程度甘くしないと美味しくないので、どうしてもカロリーが高くなってしまうため。
今も、開けたシャンパンやワインが不味い時は、それでカクテルやサングリアを作ることにしているけれど、 その方が、不味いシャンパンやワインを飲み続けたり、捨ててしまうより遥かにベターなのだった。

私はリカーを複雑にミックスするよりも、1種類か2種類に抑えて、 フルーツやハーブ、スパイスなどで 味に捻りを加えるのが好み。
誰にでも簡単に作れるのはシャンパン、もしくはプロセッコのカクテルで、ホワイト・ピーチのピューレとシロップのミックスにプロセッコを注げば、 簡単に Bellini / ベリーニ が作れるし、ピーチの替わりにラズベリーやブラック・ベリーを使っても非常に美味しく仕上がるのだった。 プロセッコやシャンパンの味が今ひとつだと思った時は、隠し味でグラン・マルニエのドロップをフルーツ・ピューレにミックスするのが 私のトリック。

それ以外にエスプレッソを使ったカクテルに凝った時期もあったけれど、コーヒーというのはジンとミックスしてはいけないことになっていて、 理由は忘れてしまったけれど、これはミクソロジーの常識なのだった。
私がエスプレッソと一緒によくミックスしていたのはカルーアやアマレットでべースはウォッカ。 エスプレッソを使ったカクテルの場合、リカーの量をエスプレッソより少なくすることと、上質なエスプレッソ・ビーンを使った 濃厚なエスプレッソを使うことがとても大切で、私が好んでいたのは、カクテルの甘さを抑えて、 ヴァニラ・アイスの溶けかかった状態をフロートさせるというもの。
これは 文句なしに美味しいけれど、非常に高カロリー。でもデザート代わりになるので、メガ・カロリーのデザートを食べることを思えば、 こちらの方がベターなのだった。

昨今のアメリカは、再びカクテル・ブームが訪れて久しいけれど、現在のミクソロジストは、 かつて使わなかったようなハーブや、ガーニッシュ(添え物)を使うようになっているのだった。
昨年のクリスマス・シーズンに味わったちょっと意外なドリンクは、ローズマリーを使ったもの。 ミントやバジルだったら驚かないけれど、ローズマリーはちょっと意外だったハーブ。 もちろん味わいも斬新で、機会があったら自分でもトライしてみようと思っているのだった。
今後、マンハッタンには60種類のカクテルを揃えたラウンジもオープンするといわれているけれど、 様々なアイデアを凝らしたカクテルが登場して、”デザイナーズ・カクテル”などと呼ばれるようになってから、 アップしたのがカクテルのお値段。今ではカクテルが一杯20ドルというところも少なくないのだった。 ちなみにノーマッドのカクテルは、1杯15ドル。
カクテルは、グラスのサイズの小ささを考えると、ビールやワインより遥かに割高ということになるけれど、 そんな高価格を付けられるのは、ただグラスに注ぐだけの ビールやワインとは異なり、カクテルの場合、サーヴィングに手が掛っているのに加えて、 中にどんなリカーやハーブ、シロップがどれだけ入っているかが分からないので、オーダーする側にその原価が分かり難いため。
以前親しくしていたレストランのオーナーが、レストランのフードの収益より、バー収益の方が 遥かに高いと話していたけれど、 そう考えると、レストランやラウンジが このところカクテルに力を入れる理由が良く理解できるのだった。





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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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