July Week 2, 2013
” Brain Games ”
” ブレイン・ゲームス ”


”ブレイン・ゲームス” はアメリカのケーブル局、ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルで2013年春から放映されていた番組で、 日頃は 同チャンネルなど 決して観ない私が、DVRでシリーズ録画していたもの。
同番組は、脳の働きや、機能に関する 一般の人々の既成概念を覆してしまう内容で、 人間が全く意識していない脳の意外な働きや、判断の曖昧さ等をどんどん解き明かしていくのがそのコンセプト。 その中には、視覚的なイルージョン、時間的なイルージョン、視野や集中力の限界を明らかにするトリックに加えて、 男女の脳の構造の違いや、人がウソをつく時の脳のリアクション、脳に特定のイメージを植えつける方法など、 様々なセグメントが設けられているのだった。

私は人間の脳の働きというものに、とても興味があるので ”ブレーン・ゲームス” のエピソードを 毎回楽しみに観ていたけれど、その内容はあまりに多岐に渡りすぎていて、 詳しくこのコーナーで説明するのはとても不可能。
なので、例を挙げ易い部分を拾ってご紹介すると、まず以下の3つの例は、全てビジュアルのイルージョン。




上の2つのイメージは、共に ブラック&ホワイトの細い長方形の帯を並べたもの。 この並べ方を 左のように不均等にズラすことによって 生み出されるのが、帯の形が台形に歪んで見えるイルージョン。 でも 右のイメージのように 並べ替えてみると、 チェス・ボードのようになって、ブラック&ホワイトの四角が 実際のシェイプである正方形に見えるだけでなく、 帯が全て長方形であることが明確になってくるのだった。




上のイメージは、アニメーションではなく 完全な静止画。(ある程度、 画像が大きくないとイルージョン効果が発揮されませんので、 スマート・フォンや小さめのタブレットで同ページを観ている場合は、画像が動かない、もしくはムーブメントが小さくなります。)
波を打つイルージョンを生み出しているのは、カラーとシェイプ、その配置の巧妙なトリックで、 その鍵の1つを握っているのが補色。 補色とは、反対色のことで、ブラックの反対色は言うまでもなくホワイト。オレンジの反対色はブルー。
人間の目で察知したカラーは、脳に補色の残像を残すので、 その残像を巧みに使うことによって、静止画でありながら アニメーションのような視覚効果を生み出すことが出来るのだった。




写真上は、2枚のグレーのパネルのイメージであるけれど、これを見て誰もが思うのが 下のパネルの方が薄いグレーで、上のパネルの方が濃いグレーであるということ。 でも実際に、この2枚のパネルは全く同じ色。
そう言われると、「まさか!」と思ってしまうけれど、 2枚のパネルの間の影を 人差し指で隠してみると、2つのグレーが全く同じ色であることが認識できるのだった。
この場合、イルージョンを生み出しているのは影。 人間の脳は、過去に学んだ経験や知識から ”影” というものを、 物の位置や 動き等を察知する情報源として使っていて、 このケースでは その情報のせいで 逆に視覚的に翻弄される結果になっているのだった。




私が ”ブレーン・ゲームス” を通じて学んだことは、脳が物事を判断したり 記憶に留めたりする場合に、 実際にその場で見たり、聞いたりした情報だけでなく、 既に蓄えられた知識や既存概念、先入観を使っているということ。 したがって、事件の目撃証言などは 脳が情報を組み合わせているケースが非常に多いのだった。
更に、日常的で 当然分かっていると思い込んでいることを、意外に脳が理解していないということ。 この例として番組の中では 「自転車の絵が描けるか?」という課題をボランティアに与えていたけれど、 多くのボランティアはペダルが無い自転車、車輪の支えが無い自転車など、走行不可能な自転車の絵を描いていたのだった。

また、人間の脳は 「プロセスのキャパを超えた タスク や情報量を与えられると、機能を失う」というのも同番組で痛感したことの1つ。 世の中には自分がマルチタスク、すなわち複数のことを同時にこなすのに長けていると思い込んでいる人は多いけれど、 実際には脳が1つのタスクに集中した方が、所要時間が短い上に、ミスが少ない結果に終わるとのこと。
そもそも人間の集中力は、とても限られた範囲にしか働かないもの。 関心を注いでいること、集中して学んだこと、精神的インパクトが強いものについては、身についたり、記憶に残ったりするけれど、 通常、脳は手抜き状態でも十分に機能しているのだった。

例えば多くの人が いつものように通勤して、ふと気付くと 自分がどうやって会社に辿り着いたかの 全行程を覚えていなかったりするけれど、そんな毎日のルーティーンとしてやっていることは 脳が手を抜いても こなせるタスク。 でも これが初めて出向くクライアントのオフィスとなると、交通機関のチョイスや駅からの道順など、 余分に頭を使わなければならない分、詳細が記憶に残ることになるのだった。




さて、上は 太字で 「自分は騙されないと思っているだろう?」と描かれたカード。 その下に「今騙されたばかりだ。もう一度読んでみろ」と小さな字で書いてあるけれど、 番組の中では、ホストが公園を歩きながら 出会う人々に カードを読んで、何かおかしな部分が 無いかを尋ねていたのだった。
私は英語がセカンド・ランゲージなので、アメリカ人よりも 時間と注意力を注いで センテンスを読むため、 1度で この文章の ”You” がダブっていることに気付いたけれど、 普通のアメリカ人はこんな簡単なセンテンスを見せられると、 脳が怠けて 読むという労力の手抜きをする結果、 何度読んでも、”You” のダブりに気付かないのが実情。 種明かしをされて やっと気付くような始末なのだった。

私はこれまで、アメリカ人よりも 遥かに読むスピードが遅いことを、 ハンディキャップだと思ってきたけれど、同番組を観てからは 「そのスロー・プロセスのお蔭で、より正確なインフォメーションが脳に入ってくる」 と考えられるようになったのだった。

”ブレーン・ゲームス”は 初回から全放映分をDVD録画してあるので、時間がある時に また見直してみようと思っているけれど、同番組は脳についての知識を得て、賢くなったような気がする反面、 それによって学ぶのが ”脳の不完全さ” や”脳の限界 ” というパラドックスのようなコンセプト。
「騙されない」と思いながら観ていても、あっさり騙されてしまうトリックが 毎回登場するだけに、 同番組を観ていると、自分の能力について謙虚にならずには居られなくなってくるのだった。





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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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