Aug Week 2, 2014
” Boyhood ”
” ボーイフッド ”


アメリカで7月11日に封切られたのが、ここに紹介する映画 『Boyhood / ボーイフッド』。
ボーイフッド とは少年時代という意味であるけれど、この作品は主演の6歳の少年が、18歳になるまでの12年間を描いた作品。 同作品がユニークな点は、本当に主演のエラー・コルトレーン(当時7歳)が成長していく様子を 12年掛けて撮影したという点で、 毎年、夏休みの数週間にキャストと撮影スタッフが集まり、過去1年間に自分達に起こったストーリーを盛り込んで、 自分達の人生を映しながら 作り上げるという、これまでに無い製作手法が取られたのが同作品。

6歳から18歳というと、小学校に入学してから 大学に進学して、親元を離れるまでの間。
ストーリーは、両親が離婚し、母親に育てられている主人公の少年、メイソン・ジュニアの成長をフォローしているけれど、 突然、「大学に行って教員を目指す」と決めた母親(パトリシア・アークエット )に振り回されて、メイソンと姉のサマンサ(ローレライ・リンクレイター )が 引越しと転校を余儀なくされたところからスタート。
父親、メイソン(イーサン・ホーク)は、仕事の無いアマチュア・ミュージシャン。 定期的に週末を 子供達と過ごす関係なのだった。

やがて母親が再婚。新しい父親の連れ子2人と、4人兄妹のように楽しく暮らしたのも束の間、 新しい父は 実はアル中で、やがて母に暴力をふるうようになり、 逃げ出すように離婚。 メイソンとサマンサは 再び引越しと転校を強いられるのだった。
時の流れと共に ティーン・エイジャーとなり、どんどん育っていく子供達。 それと同時に、父親と母親は年齢を重ねて行き、 それぞれに恋人が出来たり、新しい妻との間に子供が生まれたり…と、 人生が展開していくのだった。




この作品は、テキサスを舞台に2002年〜2013年までのメイソン・ジュニアの成長を描いているだけでなく、 その背景の アメリカ社会の移り変わりも同時に描いている点で、時の流れを忠実に反映させたと言えるもの。
例えば、父親がメイソンとサマンサを野球の試合に連れて行くシーンがあるけれど、マウンドで投げているのは、 2003年にヤンキーズを辞めて引退するかと思いきや、2004年からヒューストン・アストロズに移ったピッチャー、 ロジャー・クレメンズ。
2008年の大統領選挙の際には、リベラル派の父親の手伝いをして、メイソン・ジュニアとサマンサが、 オバマ&バイデン支持のプラカードを個人宅の庭先に置かせてもらおうとするけれど、 共和党支持派が多いテキサスなだけに、「この俺が バラック・フセイン・オバマの支持者に見えるのか?」と 住人の怒りを買うシーンが登場。

また著しく進化したテクノロジーもストーリーのディテールに反映されていて、 母親が2度目に結婚したアル中の父親が、メイソンとサマンサ、彼の連れ子の全員の携帯電話の着信暦を調べるシーンが登場したり、 イーサン・ホーク扮する父親が サマンサにボーイフレンドが出来たことをフェイスブックの写真から悟って、 「自分の子供がどうしているかを フェイスブックで知るようになるなんて・・・」とボヤいたり、 終盤では 親子のコミュニケーションが フェイスタイムになっている等、 テクノロジー面での 時代の流れも、子供達の成長と共にシンボリックに描かれているのだった。


『ボーイフッド』の監督は、日本では『ビフォア』シリーズとして知られる、『ビフォア・サンライズ』、『ビフォア・サンセット』、『ビフォア・ミッドナイト』の 監督でもあるリチャード・リンクレイター。 このシリーズは『ボーイフッド』で父親を演じた イーサン・ホークと、フランス人女優、ジュリー・ジュリー・デルピーが演じる若いカップルの、初々しい出会い、 大人になってからの再開、その後、結婚し、幸せながらも倦怠期を迎えた2人を、9年のブランクを空けながら撮影した三部作。
昨年、『ビフォア・ミッドナイト』が公開された時にも このコーナーで取り上げた通り、私はこのシリーズがとても好きで、 2作目以降は、監督のリチャード・リンクレイターと主演の2人が、Eメールを取り交わしながら、自分達の人生を反映させて脚本を仕上ていったという プロセスも非常に興味深いと思っているのだった。

この『ボーイフッド』は、 『ビフォア』シリーズで カップルが年月を掛けて変わっていく様子を描いた同監督が、子供の成長をリアル・タイムで追いながら描こうと 考えてスタートしたプロジェクト。 したがって、やはり脚本が最初から存在していた訳ではなく、毎年1回の撮影で集まったキャストが、過去1年の自分達に起こった出来事を反映したストーリーを 少しずつ盛り込んでいったもの。 なので、ドキュメンタリーとは全く異なる リアリティがあって、母親役のパトリシア・アークェットが 「撮影が回数を重ねる毎に、 家族愛が深まっていった」と語っているけれど、それが映像にも はっきり現れているのだった。
ちなみに映画の中では、メイソン・ジュニアのフィジカルな成長もさることながら、 パトリシア・アークェットの演じた母親像のリアルさが、 この作品の重要なポイントになっているのだった。






私がこの作品で最も評価するのは、ユニークな撮影コンセプトと 12年間という長いプロジェクトを纏め上げたリチャード・リンクレイター監督の手腕。 映画としては エンターテイメント性が非常に高いとは言えないし、誰もが ティーンエイジ時代に 人生第一期の中だるみを経験するように、 映画自体もメイソン・ジュニアのティーンライフを描く最中に 中だるみがあって、2時間47分という上映時間は 「ちょっと長い」というのが正直な私の感想。

個人的に『ビフォア』シリーズの方が映画として遥かに面白く感じられるのは、カップルが過ごしてきた長い年月が 1日の午後、ヴァケーションの短い期間の会話の中に しっかり盛り込まれているので、 濃縮ジュースを味わっているような、中身の濃さ、エモーションの深さが感じられるため。
これに対して『ボーイフッド』は、12年間のリアルタイムの要所を断片として 見せ続けられるので、 24コース・ディナーを 1つの料理につき 1さじずつ食べているような感触。変化を見ているようで、それがルーティーン化した平坦さにも感じられるのだった。
したがって 人生の様々な局面を垣間見せる作品は、私にとっては『ビフォア』シリーズの方なのだった。

『ボーイフッド』で最も印象的だったシーンの1つは、大学に進学するメイソンが 家を出て行く際。 アメリカでは、子育てというのは 「子供が大学に進学するまでの18年間」という意識が親達の中にあって、 それというのも 多くの子供達が、大学進学に当たって 親元を離れ、違う州の大学に行くケースが多いため。
このシーンでは、母親を演じるパトリシア・アークェットが、突如泣き出して 「今日が人生最悪の日だわ。この瞬間に、もっと何かがあると思っていたけれど、 あと私の人生に残っていることなんて、私の葬式くらいじゃない!」とメイソンに怒鳴るのだった。

子育てをしている最中は、早く自分が自由になりたいと考えて 「(子供が大学に行くまで)あと3年の辛抱」などと 言っていた親でも、 いざ子供が家を出て、エンプティ・ネストの状態になると、特にシングル・ペアレントは 虚脱感を味わうことが少なくないと言われているのだった。
でも 今の時代は、子供が大学を出ても 十分な収入が得られる仕事に就けず、 家に舞い戻る時代。最悪の場合、親が引き続き 養い続けなければならないケースも決して少なくないのだった。 したがって、子供が大学に進学した時点で、「子育てが終わった」と思える時代では無くなったのが実情。

その一方で、最も印象的だった台詞は 「母親を見ていると、(大人とは言え)自分と同じ位に混乱しているのが分かる」というメイソンの言葉。 子供を産んで、子供が育ったところで、必ずしも 親も成長して、迷いや判断の間違いの無い人間になれる訳ではなく、 同じ過ちを繰り返して 落ち込んだり、失望したり、自分の将来が分からず葛藤するのは幾つになっても 誰もがやっている事。 そのことをティーンエイジャーの冷めた視線から 捉えて、さり気無く語っているのがこの台詞なのだった。

『ボーイフッド』は誰にでも薦めるタイプの作品ではなく、こういう映画が好きな人にだけ薦める作品。
年々、見終わった後に 満足感を覚える作品が減ってきているけれど、同作品も製作のプロセスや、コンセプトは画期的だと思っても、 「大満足」という後味は残念ながら感じなかったのだった。
同作品を一緒に観に出かけた友達と、「昨年(2013年) 公開された中で 見終わって満足感を覚えた映画は?」という話題になったけれど、 私の頭に直ぐに浮かんだ2本は、1本が前述の『ビフォア・ミッドナイト』、そしてもう1本は 1970年代のF1レーサー、ニキ・ラウダとジェームズ・ハントの ライバル関係と友情を描いた『ラッシュ』。 どちらも 本当に素晴らしい映画で、この2本については 「観るべき」というより、 「観逃すべきでない!」と言えるほど、推奨する作品なのだった。


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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