Oct. Week 2, 2013
” Shinola Watch "
”シノラ・ウォッチ ”



シノラは、過去98年に渡ってシュー・ポリッシュ(靴磨き)やレザー・ワックスをクリエイトしてきたメーカー。
かつてアメリカでは 誰もが知るブランドであっただけに、 「常識的なことが全く分かっていない」という意味で 「You don't know shit from Shinola! / ユー・ドント・ノー・シット・フロム・シノア!」というスラング・センテンスが 存在するほど。
そのシノラが本拠地を構えるデトロイト市が、2013年7月18日に破産申請をしたのは周知の事実。 私がこのコラムを書いている10月10日 木曜日には、10年間に渡って デトロイトで汚職まみれの市政を展開した 元市長、クワメ・キルパトリックに28年の禁固刑が下っているのだった。
でも自動車産業とモータウン・レコードで知られてきたデトロイトには 実は既に新しい側面が誕生しつつあって、 それは ハイテク・スタートアップ企業の新キャピタルというもの。
デトロイトの ハイテク関連のスタートアップは、ベンチャー・キャピタリストが金銭面を強力にサポートしている一方で、 ヴェンチャー・フォー・アメリカが 有能な人材を次々と送り込んでおり、 倒産でどん底をつけたイメージが強いデトロイトでは、そこから 這い上がろうというムードも徐々に高まっているのだった。

とは言っても やはりデトロイトと言えば アメリカ製造業のシンボルと言える街。
それをグラスルーツ・レベルで取り戻そうとしているのがシノラで、 同社では 本業であるレザー・ワックスとシュー・ポリッシュに加えて、 今では、レザー製品、自転車、そして時計を製造。 しかも、それらは ハンド・ビルト、ハンド・アセンブル、ハンド・カット&ソーイングという人間の手によって クリエイトされているもの。
こうした昔ながらの 生産工程は、アメリカではもう何十年も行なわれてこなかったものであるけれど、 それを あえてデトロイトに取り戻したのがシノラなのだった。







私がシノラの存在を知ったのは、同ブランドが9月にニューヨーク・タイムズ紙に初めて掲載した大々的な時計の広告を見た際。 そこにフィーチャーされていたのが、写真上、上段左の新作ウォッチ 「ゴメルスキー」。
ハンド・クラフトっぽい仕上がりで、まるでヴィンテージのようなクラシックなフォルム、それでいて何処となくモダンで、 シンプルなルックスを見て 気に入ってしまったけれど、「メイドイン USA」ではなく 「デトロイト」 を謳っているところにも 何故か惹かれてしまったのだった。
そこで早速お値段を調べてみたところ、税込みで600ドル前後の時計が殆ど。 もし これが 1600ドルだったら 「デトロイト製なのに!?」 と思ったかもしれないけれど、 600ドルというお値段は ”実直で真摯な製造業をしている” という印象で、 「このお値段で、このルックス。しかも今時珍しいハンド・アセンブルということを考えたら、 買いかもしれない!」 と真剣に考えてしまったのだった。

600ドルというお値段は、時計を買うにはさほど勇気が要らない価格帯であるけれど、 昨今のアメリカは、特に若い世代の男性が徐々に時計をしなくなりつつあることが伝えられているのだった。 その理由は、学生時代から時間を携帯電話でチェックする習慣が付いている世代だからとも言われるけれど、 確かに20代のハイテク・スタートアップ・ミリオネアが、 Bling Watch / ブリン・ウォッチを つけている姿は 見かけないもの。
その一方で、女性達が付けなくなっているのが 文字盤の小さな時計。 今では、ウーマンズ・ウォッチも直径3cmを超えるものが主流になってきているのだった。 なので、昔ながらの小さな文字盤の時計をしていると、ファッションの見地からは老けた印象やコンサバな印象を与えるのが 実際のところ。

時計のカテゴリーから徐々に消えつつあるのは イヴニング・ウォッチで、私がNYに来たばかりの1990年代には ブラックタイ・パーティーに行くと、女性の手首に必ず輝いていたのがダイヤを始めとする宝石入りの華奢なイヴニング・ウォッチ。 でも 今は携帯電話で時間がチェック出来るので、ブレスレットはつけても イヴニング・ウォッチはつけない女性が殆ど。
ふと考えると 90年代以降に大きく普及したのが 日常用のダイヤ入り時計であるけれど、 以来 「ダイヤ入りウォッチ=イヴニング・ウォッチ」 という概念は崩れて久しい状況。
またアメリカでは、フォーマル・オケージョンのドレス・コードがどんどんカジュアルになってきていることもあって、 よほどフォーマルな席でない限りは 日常用時計、特にここ数年はメンズ・サイズのウォッチをつけるのが ファッション&メディア関係者や、 エグゼクティブ・ビジネス・ウーマンの間で一般的になっているのだった。






シノラのウーマンズ・ウォッチは、いずれも文字盤が大きめで、最も小さい文字盤のサイズは直径28mm。 それ以外は、34mm、36mm、最大の文字盤で 直径 41mm というラインナップ。
私は 実はレザー・バンドの時計はあまり好きではないけれど、 ダブルラップ(二重巻き)は例外で、シノラの時計を買う場合は、ダブルラップのバンドを選ぶ予定なのだった。

シノラは、ノードストロームやバーニーズ・ニューヨークといったストアでも取り扱いがスタートしているけれど、 それ以外に直営店もオープンしていて、ニューヨーク店があるのはトライベッカ。
ブランド・イメージにぴったりの シンプルで、ニュートラルにスタイリッシュなプレゼンテーションの中で、 シノラの全ラインナップを実際にトライすることが出来るのだった。

私は自転車で大怪我をしたことがあるので、自転車には乗らない主義なのと、 シノラのレザー・グッズは デザインがシンプル過ぎて 私のスタイルではないので、 恐らくシノラのプロダクトで縁があるとすれば、時計とレザー・ワックスだけだと思うけれど、 シノラは製造業本来のスピリッツに立ち返って、地道なビジネスを展開しているという点で 非常に好感が持てるブランド。
こうしたマス・プロダクションではないブランドが、様々な分野で デザインやクォリティを売りにして、 適正価格で優れた商品を打ち出せば、アメリカにも再び製造業が戻ってくるかもしれない と私は思っているのだった。





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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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