Nov. Week 1, 2014
”Marina Abramovic’s Generator ”
マリーナ・アブラモヴィッチズ・ジェネレーター


マリーナ・アブラモヴィッチズと言えば、パフォーマンス・アートの世界では、第一人者であり、母のような存在。 そんな彼女の最新のアートのエキジビジョンがスタート したのが、マンハッタンのショーン・ケリー・ギャラリー。

「マリーナ・アブラモヴィッチズ・ジェネレーター」とネーミングされたこのパフォーマンス・アートは、 何も展示するものが無く、ギャラリーの中は、真っ白かつ、空っぽ。 その中に一般の人々が、目隠しをして、イヤマフで耳をふさいだ状態で誘導されて、 そこで過ごしたいだけ時間を過ごすというのがこのエキジビジョン。
すなわち、観に行った人々がパフォーマンスの主体であり、その人々が目隠しをされ、耳をふさがれて、 目が見えない、耳が聞こえない状態で 感じることや、味わう心理状態がアートであるという ユニークな体験的パフォーマンス・アート。
同パフォーマンスにやってきた人々が、目隠しとイヤマフをつけて、ギャラリーの中を歩き回る姿や様子は、ビデオと写真で撮影されており、 まずその撮影に合意するためのフォームにサインをすることからスタートするのが同体験。
そして、入り口にあるロッカーにスマートフォンを含む全ての荷物を預けてから、 目隠しとイヤマフをつけて、係員によってパフォーマンス・ルームに誘導され、その後は 滞在したいだけその空間に滞在できるというシステムなのだった。







10月24日の一般公開の前に、一足早く同パフォーマンスを体験したメディア記者によれば、 目隠しとイヤマフをつけて 部屋に滞在した時間は8分間。でも、本人は20分以上に思えたとのこと。
マリーナ・アブラモヴィッチズのパフォーマンス・アートは、メディアの記事や口コミで、静かに火が付いて、 程なく行列しても入れない大混雑状況になるのが常。 なので、私が早速 同パフォーマンスに足を運んだのが、このコラムを書いている10月31日のこと。

パフォーマンスは目隠しとイヤマフをつけて、ゆっくりと係員にギャラリーに誘導されるところからスタートするけれど、 既にこの時点で目の前が真っ暗、音は僅かに聞こえるけれど、最初はとにかく歩くことさえ不安な状態。 そこで、まず部屋の壁を見つけて、その壁の端まで行ってから、壁の1辺が何歩あるかを数えるという試み。 ところがその最中に壁際に立っている人にぶつかったり、コーナーに座っていると思しき人を蹴飛ばしてしまうなどして、 部屋の大きさを把握するのには少々時間が掛かったのだった。

写真で見る通り、このパフォーマンス・ルームには柱が3本ほどあるけれど、それぞれの柱はクッションで覆われているので、 ぶつかったとしても怪我をしないように配慮されている作り。
そんなこともあって、しばらく歩き回るうちに、段々と目が見えない、音が聞こえないという不安や恐怖心から どんどん解き放たれていくのが同パフォーマンス。 すると徐々にリラックスして、不安や恐れを抱いていた自分が滑稽に思えてくるけれど、 ひとたび そうした精神状態になると、今度は部屋の中央をリラックスして歩きたくなってきて、 「目が見えなくても、出来るだけ自然に振舞いたい」というエゴとも言える不思議な欲望が沸いてくるのだった。

私個人の印象では、同パフォーマンスでは耳が聞こえないことよりも目が見えないことの方が 心理的に与える影響が大きく、盲人のシミュレーション体験のようというのが 私の偽らざる感想。
< ギャラリーの人によれば、長い人は1時間以上、短い人は5分〜10分程度で出てくるというのが同パフォーマンス。 その間、本人が何を感じるか、何を思い出したり、何を考えるかで、 その内容が異なるという、ユニークな体験なのだった。







私は結局、この部屋の中に25分ほど居たけれど、部屋を出たいと思った場合は、手を挙げると係員が部屋の外まで誘導してくれるというシステム。
私が終わりにしようと思ったきっかけは、9センチ・ヒールのブーツを履いていたので、目隠しをした状態だと、バランスが悪くて、 時々千鳥足のようになっていたため。 実際、パフォーマンス・ルームを出てみると 腰が疲れていて、そのことからも人間が日常生活の中で いかに何かに寄りかかったり、掴まったりして、 身体のバランスを支えてたり、体重をいろいろな場所に掛けて、知らず知らずのうちに楽をしようとしているかを実感したけれど、 それも目が見えるからこそ出来ることなのだった。

マリーナ・アブラモヴィッチズと言えば、前述のようにパフォーマンス・アートの女王であり、母のような存在。
そんな彼女の最も有名なパフォーマンスと言えば、2010年に MoMa(近代美術館)で行なわれた ”The Artist Is Present/ジ・アーティスト・イズ・プレゼント”(写真上、上段2枚)。 同パフォーマンス・アートでは、 マリーナ・アブラモヴィッチが1日6時間椅子に座り続け、 ミュージアムを訪れた人と 1人ずつ、 全く言葉を交わさずに向き合うというもので、 彼女と向き合って座る来館者は、自分がそこに居たいだけ座っていて良いというコンセプト。 2010年3月14日〜31日までのMoMA閉館日を除く 全日 行なわれた同パフォーマンスでは、 短い人は2分、 長い人は2時間も彼女と向き合い続けており、涙ぐむ人も多かったというけれど、 その総時間は MoMAのパフォーマンス・アート史上、最長の736時間30分。 長さだけでなく、 史上最もサクセスフルなパフォーマンス・アートとして知られるのが、”ジ・アーティスト・イズ・プレゼント”なのだった。

彼女のこのパフォーマンスは、ジェイZが 2013年にペース・ギャラリーで行った「ピカソ・ベイビー」 (写真上、下段2枚)の インスピレーション・ソースにもなったもの。写真の通り、彼女自身もジェイ・Zのビデオに出演しているけれど、 今回のパフォーマンスには、彼女が常駐している訳ではなく、やってきた人々が思い思いにトライしては、楽しんだり、 思わぬ発見したりするもの。 目隠しと耳栓をした状態で歩くだけなら、「誰にでも、何時でも出来る」と考えてしまいがちであるけれど、 実際には、そんな状態で歩き回れる場所というのはそうそう存在しないもの。
ギャラリーの入り口にフィーチャーされている マリーナ・アブラモヴィッチズのコメントでは、彼女が長年の活動を通じて 辿り着いたのが ”ジェネレーター”のコンセプトであったとのことだけれど、 こんなシンプルな体験がインパクトをもたらすのも、 マリーナ・アブラモヴィッチズというパフォーマンス・アートの第一人者の手腕があってのこと。
12月までの開催期間中は、ショーン・ケリー・ギャラリーで無料で味わえる体験なので、ニューヨークにお住まいの方や、ニューヨークを訪れる方に、 是非お薦めするパフォーマンス・アートです。

Marina Abramovic’s “Generator” at the Sean Kelly Gallery, 475 10th Ave. (at 36th Street)
ウェブサイト: www.GeneratorSKNY.Tumblr.com



Will New York 宿泊施設滞在


執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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