Nov. Week 2, 2012
” Five Thirty Eight ”
”ファイブ・サーティー・エイト”



ご存知のように、11月6日火曜日に行なわれたアメリカ大統領選挙では、オバマ大統領が再選を決めたけれど、 この日は、アメリカ東部時間の午後7時を前後して、3大ネットワークはもちろんのこと、 ケーブルのニュース・チャンネル等が、 全て選挙特番の放映一色になっていたのだった。
その放映を見ていて 明らかに感じられたのが、各メディアが選挙データの 専門分析チームを雇い、 過去の選挙のデータ分析を含む 十分な下準備をした上で、 投票が締め切られてから、刻々と入ってくるデータを詳細に分析して、的確な勝利予測をしていたこと。
そのデータを視聴者に解説するキャスターも、データ分析の内容を混乱することなく語るために 勝敗を分けるポイントとなる州や、その開票状況と時間との関係などを、 数週間を掛けて 学んだことが伝えられているのだった。
なので、ウィスコンシン州でオバマ氏が勝利した段階で、オバマ大統領が オハイオ州の選挙人を手中に収めさえすれば、 もうミット・ロムニー側に勝利の道が無くなることは、多くのメディアがこぞって報じたこと。 そして そのオハイオで オバマ大統領の勝利が確定した瞬間、アメリカ東部時間11時12分に、殆どのメディアがオバマ大統領の再選を伝えたのだった。

でも それに至るまでは、”スウィング・ステート”、”バトル・グラウンド・ステート”と呼ばれる、民主、共和 のどちらにも転ぶ可能性がある州の 開票状況が あまりに接戦で、なかなか戦況が読めない状態が続いていたのが実情。 この”バトル・グラウンド・ステート”と呼ばれていたのは、 前述のウィスコンシン、オハイオの他に、コロラド、ヴァージニア、ノース・キャロライナ、ペンシルヴァニア、そして選挙が終わって、今日木曜の時点で未だ開票を続けているフロリダを含む9州。 基本的に今回の大統領選挙は、これらの州の選挙人をどちらの候補者が獲得するかで決まることになっていて、 それ以外のケンタッキー、ネブラスカ、オクラホマといった州は、何が起こっても共和党候補が勝利する州。 逆にニューヨーク、ニュージャージー、カリフォルニアといった州は、投票が締め切られた30分〜1時間後には、オバマ大統領勝利が伝えられるなど、 圧倒的に民主党が勝利を収める州。
したがって、選挙予測も この”バトル・グラウンド・ステート”の投票を読むことが重要とされていたけれど、 とにかく、間際まで様々な世論調査で ”全く互角”と言われていたのが今回の大統領選挙。
それほど、どちらが勝っても不思議ではないと思われいた選挙にも関わらず、10月30日、すなわち選挙の1週間前の時点で、 オバマ大統領の勝利を80%の確率で断言していたのが、ニューウェイブの統計学で知られるネイト・シルヴァーのブログ、 ”ファイブ・サーティー・エイト”なのだった。




ネイト・シルヴァー(写真上)は、今年34歳。彼が初めてアメリカで知られるようになったのは、 メジャーリーグ・ベースボール・プレーヤーの パフォーマンス予測のシステム、”PECOTA/ペコタ”を開発した際。 彼は、このシステムを2003年に売却し、その後もシステムのマネージメントを担当してきたけれど、 ネイト・シルヴァーの名前が もっと広く一般に知られるようになったのは、前回2008年の大統領選挙の際。
この時点では、オバマ大統領が民主党の予備選挙で、当時のヒラリー・クリントン候補とデッド・ヒートを繰り広げていたけれど、 彼が同大統領選の予測ブログをスタートしたのは2007年のこと。 そして2008年3月になって、”ファイブ・サーティー・エイト” と名付けた自らのウェブサイトをスタートし、 以来、同サイトで選挙の行方を分析したブログを展開。
結果的に2008年の大統領選挙では、インディアナ州の結果をミスしただけで、残りの49州の選挙結果を全て正確に予測しただけでなく、 同時に35州で行なわれていた上院議員選挙の結果も全て当てるという、信じられないほど的確な予測を披露。 アメリカ中のメディアを驚かせ、この時の彼の選挙予測ブログは、500万人が閲覧したと言われるのだった。

この功績から、2009年4月には、タイム誌が ネイト・シルヴァーを「ザ・ワールド100モースト・インフルエンシャル・ピープル(世界で最も影響を与える100人)」の 1人に選出。その後 彼は、様々なメディアに執筆をするようになり、 2010年からは ニューヨーク・タイムズ紙のオンライン版が 彼のブログ、”ファイブ・サーティー・エイト”の掲載をスタート。 益々その読者数を増やしているのだった。




今回の選挙で ネイト・シルヴァーは、全米50州全てにおける選挙結果を正確に予測。同時に行なわれた上院議員選挙の結果も、 ノース・ダコタ州のみをミスする結果に終わっており、「大統領選挙の勝者はオバマ大統領ではなく、ネイト・シルヴァーだ」 と指摘するメディアもあったほど。
結果的に、前述の”バトル・グラウンド・ステート”は、9州のうちノース・キャロライナを除く全てで オバマ大統領が勝利したけれど、 多くのメディアは、9州のうち5〜6州の予測を誤って、選挙人の獲得数が結果より遥かに接戦状態であるだけでなく、 中にはロムニー勝利を予測するところさえあったのだった。

そのロムニー陣営は、大統領戦勝利の直後にデビューさせるはずだった ウェブサイトを誤ってスタートさせてしまい、 そこには就任式の予定について触れたページまであったというけれど、 それだけでなく ロムニー勝利が確定した後には、ボストン・ハーバーで8分間に渡る 花火の打ち上げが行なわれる予定になっていた等、 ロムニー陣営が勝利を疑っていなかった様子は、様々な方面からレポートされているのだった。

一方、共和党寄りのメディアの中には、かなり早い時点からオバマ大統領勝利を予測してきたネイト・シルヴァーに 反論を唱えるキャスターも居て、その1人が 熱烈なロムニー支持者である MSNBCのジョー・スカーボロー。 スカーボローがあまりに彼の予測を批判するため、ネイト・シルヴァーは 写真上のように、ツイートで大統領戦の賭けをオファー。 オバマが勝利した場合はスカーブローが、ロムニーが勝利した場合は彼が それぞれ、ハリケーン・サンディの被災者のために、 レッド・クロスに1000ドルを寄付するというのがこの賭けで、その後、掛け金は2000ドルに跳ね上がっていたのだった。
この結果、レッド・クロスに寄付をしたのは、言うまでもなくスカーボロー側。 ネイト・シルヴァーは、賭けに勝利しただけでなく、彼の予測のプログラムが極めて正しいことを 改めて立証する結果になったのだった。




そのネイト・シルヴァーは、9月末に初の著書、「The Signal and the Noise: / ザ・シグナル・アンド・ザ・ノイズ」を出版。同書には長いサブ・タイトルが付いていて、 それは「Why So Many Predictions Fail-but Some Don't :ホワイ・ソー・メニー・プレディクション・フェイル−バット・サム・ドント」、 すなわち 「何故多くの予測が外れて、一部は外れないのか」というもの。
私は、この本は読んでいないけれど、レビューによれば政治の予測について書かれた部分は少ないとのこと。

私が個人的に、選挙前に ”ファイブ・サーティー・エイト”を読んで、オバマ勝利を確信した理由は、 ネイト・シルヴァーが私情を全く交えずに、数字だけを淡々と追うことによって、データ分析をし、どのメディアよりも明確な予測をしていたため。 もちろん彼も各州の世論調査の結果をデータに使っているけれど、世論調査はそもそも全員に聞き取り調査をしたわけではないので、 ある程度の誤差が出るのは 当然のこと。世論調査はメディアが行なう場合が少なくないけれど、そのメディアが特定の政党を支持している場合、 誤差は 支持政党に有利な方向に出ているケースが多いのが、過去のデータと照らし合わせたネイト・シルヴァーの見解。 そこで彼は、意図的に誤差を操作する傾向にある世論調査や、ヒスパニック系が投票所に行かないと見込んで、数値を改ざんしている調査結果など、 世論調査そのものの傾向を分析してから数字を取り入れるなど、独自のデータ収集を展開しているのだった。

それに比べると、敗れたロムニー陣営や共和党寄りのメディアににデータを提供していた側の言い分は、「2008年の時に比べて黒人層が3%増え、ヒスパニックが2%増えているから、これまでのアメリアとは、人種の比率が変わってしまっている」という、人種データも省みていなかったかのようなコメント。
そもそもロムニー陣営は、彼の税制では赤字減らしが出来ない と多くの経済専門家から指摘されていても、彼の税制で成り立つという説を展開した 僅か6つの機関の説を、事ある毎に持ち出してきていたので、自分達に有利な情報にしか耳を傾けない傾向があったのは確かなのだった。
ネイト・シルバーによれば、予測というものは 様々な疑いを持って、外れる可能性を検証していく過程で正確さを増していくとのことで、 一番良くないのは予測について自信過剰になること。 これは選挙に限らず、経営者や、受験生などにも通じる教訓であると思うのだった。

でも、これだけ様々な情報が飛び交う時代になると、彼の本のタイトルの通り、どれが信頼できると同時に指針となるシグナルで、 どれが人々を翻弄するだけのノイズであるかを識別するのは難しいこと。
このノイズというのは、日常生活の中に溢れかえって、選挙結果予測に止まらず、人々の判断をも狂わせるもの。 例えば、ハリケーン・サンディの襲来後のニューヨークでは、様々なデマが飛び交い、パニックになる人々や、 振り回される人々が少なくなかったのが実情。「証券取引所が浸水した」、「ニューヨークで50万ドル分のフードスタンプが配られる」、 「ロングアイランドの浸水で、街中にサメが泳いでいた」といった デマがソーシャル・メディアから飛び出し、 ソーシャル・メディアを逐一チェックしている人々や、情報をすぐ真に受ける人々ほど そんな ノイズ に 翻弄されていたのだった。
これに対して、ネイト・シルヴァーのプログラムは、まず信頼できるソースからの情報を出来る限り入手して、 それを私情を交えずに的確に計算、分析するのが基本のプロセス。 世の中には、まず自分で予測をしてから それを裏付けるデータを集める人も居るけれど、それだと予測の段階で私情が入っているので、 予測に反する貴重なデータを取り逃がす可能性があるのに加えて、その予測に基づいて集めたデータが、全てシグナルではなく、 ノイズであるケースも生じると思うのだった。

”ファイブ・サーティー・エイト”は、インターナショナル・アカデミー・オブ・デジタル・アーツ・アンド・サイエンシスが選ぶ ウェビー賞において、 2012年度のベスト・ポリティカル・ブログにも選ばれているけれど、同ブログはやはり大統領選挙などのイベントを間近に控えている時に読むのが面白いと言えるもの。
ネイト・シルヴァーは今後、 彼の予測プログラムを 彼が現在既に行なっているスポーツや政治、ポーカーの世界だけでなく、 別の分野にも展開していくことを明らかにしているのだった。





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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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