

澤山 美紀さん
インテリア・デザイナー
話題のレストランや小売店が次々とオープンし、世界中のリッチ・ピープルが住居を構えるニューヨーク。
世界でもトップ・レベルのデザインを維持するため、インテリア・デザイナーやアーキテクトの需要が非常に多い街である。
しかし、建物が過密状態にあるマンハッタンでは、新しいビルを建設する余地がそれほど無いこともあり、
建築を本来の領域とするアーキテクトが、インテリア・デザイン市場にも参入し、その競争をさらにハイレベルにしている。
今回、紹介する澤山美紀さんは、そんなニューヨークで レストランや商業施設、
居住空間までを幅広く手掛け、活躍する インテリア・デザイナーである。
高校時代からアートを専攻
大阪で生まれた美紀さんは、絵画を趣味とする ご両親の影響で、アートや画材に囲まれて育った。
「両親が家の中に 常に絵を飾ってましたし、小さい頃から身の回りに絵の具や絵筆が転がってましたから、絵を描くということが自然だったんです」。
ごく自然の成り行きでアートを目指すことになった美紀さんは、高校は公立としては珍しくアート専攻コースがある港南高校の
モダン・クラフト科へ進むことになる。モダンクラフトは絵画だけでなく、工芸も含めた幅広いアートを学ぶ学課で、
毎日6時間の授業のうち2時間はアートに当てるというシステム。
高校3年になると、空間デザインを専攻とし、大学は大阪芸大のインテリア・デザイン学科に進学した。
「もともとインテリアに興味があったのですが、就職率の高さも魅力でした。当時はバブル真っ只中でインテリア・デザイン科を卒業すると、
仕事のオファーが5〜6社から殺到すると言われていたんです」。
新しいナイト・クラブやアミューズメント施設が次々とオープンしたバブル期。そうした華やかな商業施設のデザインを夢見て選んだ学科だったが、
卒業前には バブルがはじけてしまい、トレンディなレストランやクラブの新設ブームはすっかり去っていた。
在学中からレストラン・デザインを得意とするある企業への就職を希望していた美紀さんだが、卒業年度にはその企業の新卒採用枠はゼロ。
待っているだけでは、何処からもオファーがないと悟った美紀さんは、商業空間デザインが専門の会社を当たり、
大手スーパーチェーン「サティ」の設計を手掛けている大阪のスペース株式会社に就職した。
「いずれはマーケットの大きい東京で仕事をしたいと思っていたのですが、
その頃のインテリア・デザイナーの平均的な初任給は15万。手取りにすると12万程度ですから、とても東京で1人暮らしは成り立たちません。
それで、まず地元の大阪からスタートすることにしたのです。
商業施設のデザインを選んだのは、自分の作品を沢山の人に見てもらえるからです。 住居デザインは、作品を公開することが出来ないので、
当時は全く興味がありませんでした」。
実務から学んだ仕事の本質
スペース株式会社では、ショッピング・センター内のフード・コート等、コモン・スペース(公共エリア)を担当するクリエイティブ・デザイン部門に配属され、
小売店舗のデザインの中でも クリエイティビティを発揮できる 面白い分野を担当させてもらうことができた。
アメリカでは、学生のうちからインターンという無給の見習いの形で仕事を始めるケースが殆どであるけれど、
日本の場合は、デザイナーのような専門職でも 新卒がいきなり現場で仕事というのが一般的。 なので、美紀さんも実地体験を通じて仕事を覚えることになった。
「学校で習ったことは全く役に立ちませんでした。まず違うのはスケジュール。
この仕事はお客様次第で全てが動きますから、急に ”明日デザインを出してくれ” と言われることもありますし、
途中でデザインの変更を言われることもあります」。
そんな美紀さんが実務を通じて学んだのは、インテリア・デザイナーは、アーティストというよりは、
客商売であり、サービス業であるということ。
「”私の作品を見て下さい” というような意識では通用しません。お客様の希望を実現することこそが私達の仕事なんです。
それが理解出来るかどうかが、インテリア・デザイナーとしてやっていけるかの分かれ道になると思います」。
したがって、自分のデザインがしてみたくて就職したものの、顧客の希望に沿った仕事ばかりをこなす事に納得出来ずに辞めて行くスタッフが多いのも
この世界。就職時10人だった美紀さんの同期も、次々と退社し、残ったのは僅か2〜3人であったという。
スペース株式会社に就職して3年が経過し、次第に仕事に慣れてきた美紀さんは次のステップを考えるようになる。
デザイナーとしての感性を磨くために、 外国に行きたいと思うようになったのだ。
「言葉の問題から英語圏ということで、イギリス留学を選びました。当時、アメリカのデザインには興味が無かったので、アメリカ行きは考えていませんでした。」
退職して留学するつもりでいた美紀さんだったが、理解ある上司から休職を薦められ、半年間のイギリス留学がスタートする。
4ヶ月間、ロンドンの語学学校に通い、パリとスペインも回ったが、やはり半年はあまりに短い期間。
英語にもやっと慣れ始めた頃だったので、滞在を延長するために、イギリスの日系インテリア・デザイン会社 数社にデザイナーとして応募してみたが、
どの会社からも 「仕事を始めたら、ガッカリすると思いますよ」 という警告を受けることになった。
「当時のロンドンは建築デザインに関する規制がすごく厳しかったんです。トラディショナル一辺倒で、
デザイナーの仕事も古いものをきれいにするだけでしたから、思うような仕事は出来ないと釘を差されてしまいました」。
新たな目的地はニューヨーク!
結局、休職していた職場に戻ることになった美紀さんだが、その1年後には 東京の大型商業施設設計を専門とするハクヨー・プロデュースに転職。
これは「将来海外で働きたい」という希望を実現させるために選んだステップだった。
ハクヨー・プロデュースはカナダのデザイナーとの提携で、ショッピング・モール等の大型商業施設を手掛ける会社。
美紀さんは、広島駅ビル ASSE や、廿日市 NATALIE などを担当し、それぞれのプロジェクトで一緒に働いた外国人デザイナーから、
日本人には無いデザイン感覚、色彩感覚を学ぶことになる。
ハクヨーで働きながらも、再び海外を目指していた美紀さんが 新たにターゲットにしたのはニューヨーク。
「旅行で出掛けた際、レストランやショップのデザインを見て、すっかり気に入ってしまったんです 」。
そこで、東京で働きながら ニューヨークに行くための資金作りを始めるが、インテリア・デザイナーという職業は華やかな響きがあるものの、
会社員としての給与は決して高くはない。そこで美紀さんは、ある時、フリーの仕事を引き受けたのをきっかけに、
フリーランス・デザイナーに転身することになった。
「4社掛け持ちで仕事をしていましたから、それは忙しかったですが、フリーなら働くだけお金になりますから・・・」。
こうして2000年、美紀さんはニューヨークに渡り、日系のデザイン会社、ハシモト・アンド・パートナーズで働き始める。
ビザをサポートしてくれて、レストランやリテール関係のデザインをしている会社で、さらに日本に支店があるということで選んだ職場だった。
「日本でインテリア・デザイナーとして7年間の経験があった訳ですが、殆んど役に立ちませんでした。ビギナーのようなものでしたね」
まず、まごついたのが アメリカがセンチやメートルではなく、フィートやインチを使っていること。
テーブルの高さ1つにしても、センチ・メートルで言われれば感覚的に すぐにサイズが把握できるが、
慣れないインチやフィートでは いちいち換算しなければ分からない。
また、アメリカでは 何かにつけて日本よりはるかに厳しい法規制がある。
バリア・フリー、その他、デザイン以前にクリアしなければならない要素が多い上に、
日本なら1日で許可を取れるものが、アメリカだと1ヶ月も掛かったりするという。
さらに素材の入手に掛かる期間も 非常に長く、家具1つをオーダーするにも、
8週間を要することなど珍しいことではない。
美紀さんは、こうした「日本ではあり得ない」環境の違いに慣れるのに1年は掛かったと言う。
レストラン・プロジェクトは時間との戦い
ハシモト・アンド・パートナーズは、レストランやリテールのデザインがやりたくて入った会社だったが、
実際の業務はオフィス・デザインが殆どだった。
「オフィスというのは、デザイン上の法規制が最も多いんです。ですから、結果的には、オフィスを数多く手掛けたことが、
アメリカのインテリア・デザインを学ぶ上でとても良い経験になりました」。
しかし、「どうしてもレストランをデザインしたい」という思いが強かった美紀さんは、2年後にヨシ・デザインに転職。
ここで、日本食レストランを中心に、数々のレストランのデザインを経験することになった。
「レストランは多くの人の目に触れますから、遣り甲斐のある仕事ですが、スケジュールがすごくキツいのが辛いところです」。
ニューヨークでは、レストラン・オーナーが物件を所有しているという事は まず無いので、レストラン・スペースの賃貸契約を結んで
店をスタートする。この場合、店の内装、外装を整える等の開店準備期間は、レストラン側に収入がないことが明らかであるため、
通常、家賃無料期間が提供されることになるけれど、
「この期間内に内装を仕上げて欲しい」というのが レストラン側の希望である。
しかし、この家賃無料期間は長くて3ヶ月、通常は2ヶ月程度。
だが、店を造る側にとっては、デザインに掛かる時間はどんなに急いでも1ヶ月、レイアウトに1ヶ月、申請図面作りに2週間、
市の承認を得るのに2週間と、着工前に3ヶ月は必要となる。
そして、その後 施工となれば、どうしても4ヶ月は掛かる訳で、非常に無理なスケジュールを強いられることになるのである。
もちろん、レストランのオーナーにしてみれば、家賃無料期間が過ぎても内装が整わなければ、レントを支払っているのに、
売り上げが無いという赤字の状態になるから、家賃を払い始める前に内装を終えて欲しいという希望は、当然といえば当然のもの。
したがってレストランのプロジェクトは、常に時間との戦いとなり、とにかくスピード・アップが重要になってくるのである。
ヨシ・デザインで多忙な毎日を送るうち、やがて美紀さんは 商業施設だけでなく、住居のデザインも手掛けるようになっていく。
「住居の場合は、期間は十分与えられるのですが、毎日暮らす上での快適さを追い求めることが前提なので、
素材にも 色にも、ある程度の制限がある中でデザインすることになります。
その点、レストランはデザインで遊べる部分は多いですから、それぞれに違った面白さと大変さがありますね」。
独立、そしてパートナーとのデザイン・オフィスを・・・
インテリア・デザイナーが顧客あっての仕事であることは、日本でも、アメリカでも変わらないが、
その関係やシステムには様々な違いがある。
美紀さんにとって、アメリカで仕事をする 最大のメリットと言えるのは、明確にデザイン・フィーがクライアントに請求できることだという。
「日本にはデザイン・フィーというものが存在しないんです。インテリア・デザインの料金は設計施工費の中に組み込まれていて、
請求書にデザイン・フィーと書くと 『何ですか、これは?』 と尋ねられることになります」。
アメリカでも、建築家や施工会社とインテリア・デザイナーは連携して仕事をするが、責任の所在をはっきりさせるため、
支払い請求は それぞれが別個に行うことになる。また、支払い方法も日本では完成時に一括支払いが慣習となっているが、
アメリカでは前金が常識。これは建築家やデザイナーが素材やサービスを発注するのに資金が必要になるためだが、
日本のクライアントの場合には、こうした支払いから説明しなければならない場合もあるという。
専門職であるインテリア・デザイナーは9時〜5時のオフィス・ワークでは済まない仕事だか、会社勤めである以上、
給与があまり高くないのは、ニューヨークも日本と同様。あまり経験の無いジュニア・デザイナーで 年収は3万ドル程度、
10年以上の経験を持つシニア・デザイナーでさえ 4万5千ドル程度の年収という職場も多く、
収入を上げて、仕事を広げていくためには独立が必要になってくる。
美紀さんも、ヨシ・デザインでの2年間の勤務後、2004年にフリーランスとして独立した。
「仕事の性質上、飛び込みの営業で仕事が取れるということはまずありません。幸い今は、これまで築いた信頼関係で仕事をいただいています」。
一言にインテリア・デザイナーと言っても、その仕事は幅広い。建築家の領域とも重なってくるし、
インテリア・デコレーターの領域とも重なってくる。アメリカにおけるインテリア・デザイナーのライセンスは 州によって事情が異なるが、
ニューヨーク州には営業許可に当たるライセンスは無いので、経験さえあれば、誰でも参入可能な業界。
それだけに生き残っていくには、デザインのセンスやスケジュール管理も含め、顧客の希望を どれだけ活かせるかというサービスが勝負である。
「フリーになってから、顧客サービスの内容も含めて、自分の判断で決めていけるので、とてもやり易くなりました。
例えば、会社勤めのデザイナーだったら、『部屋に合ったベッド・リネンの購入に立ち会って欲しい』と クライアントに言われても、
直接の利益に繋がらない行為に時間を割くことは許されないので、立ち会ってあげたくても出来ません。
でもフリーであれば、サービスとしてやってあげたいと思えば、自由に出来るんです」。
現在、美紀さんは、アメリカ人建築家、台湾出身のインテリア・デザイナーとともに、ステーション・デザインというオフィスを構えている。
ステーション・デザインでは、写真左上のビアード・パパ、ウェスト・ヴィレッジ(カーマイン・ストリート)店や、ミッドタウンの紀伊国屋ブック・ストア、
TOTO ショールームといった商業空間に加えて、数々のレジデンシャル(個人宅)物件のインテリアを手掛けるなど、
幅広いデザイン活動を行っている。
今年に入ってからは、既に日本食レストラン2軒のデザインも手掛けており、パートナーと共に仕事に追われる毎日である。
さらに、美紀さんには 日本にもパートナーとして仕事をするインテリア・デザイナーが居るとのことで、
将来はこの関係を活かし、ニューヨークを拠点に、日本、中国にもプロジェクトを広げていくのが夢であるという。
Station Design. Inc.
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