Vol. 5 "Wine and Entertainment"




今回のテーマとして取上げたのは、”ワイン&エンターテイメント”。
ワインを飲むことは、ライフスタイルの一部。 それだけに 映画やTVといったエンターテイメントの中で、ワインはその登場キャラクターやそのバックグラウンド、 暮らしぶりを表す手段として用いられたり、ストーリーにひねりを持たせる小道具として登場しているケースが多々あります。
ここでは、先ずハリウッド映画とその中に登場したワインの興味深いエピソードをご紹介していくことにします。


007 Series / 007シリーズ

2006年ホリデイ・ムービーの目玉として、ダニエル・クレイグが新しいジェームス・ボンドを演じる 007シリーズ、「カジノ・ロイヤル」が公開されたけれど、 ジェームス・ボンドが愛飲するドリンクとして知られるのは、ウォッカ・マティーニ。 「Shaken, Not Stired / シェイクン・ノット・ステアード」 という台詞があまりに有名であるけれど、 007シリーズには、ワインやシャンパンも沢山登場していることでも知られています。
まず、シャンパンで常連となっているのはドン・ぺリニヨン。記念すべき第1作目、1962年に公開された「 Dr. No / ドクター・ノー」では、 55年もののドンペリをドクター・ノーに出されたジェームス・ボンドが「53年のヴィンテージの方が好みだ」 というシーンが出てくるけれど、 当時はこの台詞のせいで、ドン・ぺリニヨンの53年ものが売れに 売れたというエピソードが残っています。
同じようにジェームス・ボンドが55年ものより 53年もののドン・ぺリニヨンを好むシーンは、「Goldfinger / ゴールド・フィンガー」にも登場していますが、「Thunderball / サンダー・ボール」ではその55年ものを、「You Only Live Twice (邦題:007は2度死ぬ)」では59年ものの ドン・ぺリニヨン を飲むシーンが出てきます。
ドン・ぺリニヨン同様に007御用達シャンパンとなっているのは Bollinger / ボリンジャー で、こちらも69年、75年、88年、90年もののヴィンテージががそれぞれ登場。
ワインについては、単に飲むシーンだけではなく、ストーリー・ラインの中に組み込まれて登場する有名なシーンが2つあるけれど、 そのうちの1つが、007シリーズで最も人気が高いといわれる「From Rossia With Love / ロシアより愛をこめて」 の オリエント・エクスプレス におけるディナーの場面。
ショーン・コネリー扮するジェームス・ボンドと ソヴィエトのエージェント、タティアナは、夫婦を装ってオリエント・エクスプレスに乗り込むけれど、 途中から ボンドの応援に来たエージェントに成りすまして列車に乗り込むのが、敵のスペクターが送り込んだ殺し屋、レッド・グラント。 ディナー・シーンで、ボンドとタティアナはテタンジェのシャンパン、ブラン・ド・ブランと共に舌平目を味わっているけれど、 同じ料理を注文したグラントがオーダーしたのが ”Chianti / キアンティ”。 困惑したウェイターが、ホワイト・キアンティかと訪ねたのに対して、 グラントは "No, the red kind." 、すなわち「赤」と答えて、 いぶかしげな表情をしたボンドの顔が一瞬 映し出されることになります。
その後、寝台車のキャビンに移って グラントがボンドに銃を突きつけて ひざまずかせた時にボンドが語るのが、 "Red wine with fish. Well, that should have told me something." (魚料理に赤ワインをオーダーした時に、何か変だと思うべきだった) という台詞。 この映画が公開された1963年は、ワインは肉料理にレッド、魚料理にホワイトを選ぶ ルールが 例外無しに定着していた時代なので、 このボンドの台詞を聞いて 見る側は 「なるほど・・・」 と頷いたもの。 でも今では、このルール自体が時代遅れなものになってしまって、ワインはソースや味付け、もしくは肉や魚の種類で選ぶ 時代になっているので、ワイン選びで 敵のスパイを見抜くことは出来なくなってしまいました。

007シリーズにおける、ワインが登場するシーンで もう1つ有名なのは 1971年に公開された「Diamonds are Forever / ダイヤモンドは永遠に」の中のクルーズ船での食事の場面。
給仕に扮した 敵のエージェントがワインを持ってくるけれど、ボンドは既に彼の強いコロンの香りで、その正体を見破っています。 そして繰り広げられるのが以下の会話。

Steward / 給仕 :
"Wine sir? Mouton-Rothschild '55. / ワインはいかがですか? ムートン・ロスチャイルドの55年ものです"

コルクを抜いて、それをボンドに手渡した彼は更に、

給仕 :
"A fine selection, if I may say. / あえて申し上げるならば、 非常に良いセレクションです”

ボンド:
"I'll be the judge of that. / それは自分で判断する"

と言って、ワインを一口飲んで、

ボンド:
"The wine is quite excellent, although for such a grand meal I had rather expected a claret. / ワインは非常に優秀だ、でもこれだけ贅沢な食事にはクラレットを望むところだが・・・。"

給仕:
"Of course, unfortunately our cellar's rather poorly stocked with clarets. / さようです。残念ながら当船のセラーは あまりクラレットの ストックがございません。"

ボンド:
"Mouton-Rothschild IS a claret. / ムートン・ロスチャイルドはクラレットだよ。"

こう言って、敵のエージェントにまんまと尻尾を出させてしまうことになります。
この ”クラレット” という言葉は007の母国、イギリスではボルドー・ワインを指す言葉。でも、ある程度 ワインに精通した人が使う言葉なので、給仕に成りすました敵のエージェントが意味を解さないであろうことを見越したボンドが仕掛けた言葉の罠だった訳です。
アメリカでクラレットという言葉がワインに使われるのは、ボルドー・スタイルの赤ワイン。 でも本場フランスでは、クラレットという言葉は輸出用ワイン以外には使用されない言葉です。

ここまで書いてくれば分かる通り、ジェームス・ボンドはそのトレードマーク・ドリンクこそはウォッカ・マティーニであるけれど、 実際には かなりのワイン通として描かれているのです。




Disclosure / ディスクロージャー



マイケル・クライトンの小説を映画化した1994年の作品。シアトルのハイテク企業におけるセクハラ訴訟が中心となったストーリー であるけれど、ワイン関係者の間では 映画がワインの売り上げに多大な影響を及ぼした例として、 記憶に鮮明に残っている作品。
マイケル・ダグラス扮するエンジニア、トムは自分が昇進すると思っていたポジションに、 元ガールフレンドのメレディス(デミー・ムーア)がヘッドハントされ、自分のボスになったことを 不満に感じていますが、そのメレディスが申し出てきたのが、仕事の後 彼女のオフィスでのトムと2人きりのミーティング。 ここでメレディスが用意し、2人で飲んだのが、91年 Pahlmeyer / パールメイヤーのシャルドネ。
その後、メレディスはトムを猛然と誘惑するものの、トムは彼女とのセックスを拒否。 しかし翌日には、彼はセクハラでメレディスに訴えられ、彼もそれに応戦する訴えを起こすことになるのがストーリー。
ここでワイン好きにとって たまらないのは、メレディスが選んだ91年の パールメイヤーのシャルドネ に、 彼女が最初からトムを誘惑する意図だったという事実が隠されていること。 パールメイヤーのシャルドネは、2人が交際していた時に ワイン好きのトムとメレディスがナパを旅行して、 最も気に入ったワイン。すなわち2人にとって思い出深いボトル。 トム側の弁護士に、これを指摘されたメレディスは、91年 パールメイヤーのシャルドネは、「秘書が偶然選んだもの」 と言い訳するけれど、同ワインは生産数が少なく、シアトル市内でこれを扱うワインショップは1軒も無く、 あえて取り寄せなければ手に入らないワインであるという事実を突きつけられます。
さらに トムの弁護士は、「メレディスから3週間前にトムとのミーティングのために91年 パールメイヤーのシャルドネを 取り寄せておくように指示されていた」という彼女の秘書の証言も引用し、トムとのミーティングが、 メレディスによって計画的に 彼を誘惑するためにセットアップされたものであることを、遠まわしながらも立証したのです
結局トムは、友人の留守電に残っていたセクハラ場面の録音によって救われることになるけれど、 このセクハラ事件そのものに さらなる罠が隠されているというのが同映画のストーリー。

映画そのものの評判は、賛否両論で、ことにリアリティの無さが指摘されていたけれど、 これに登場したパールメイヤーのワインには問い合わせが殺到。その売り上げも シャルドネだけでなく、カベルネ・ソーヴィニヨン、 メルローに至るまで大幅にアップし、これに伴ってパールメイヤーのワインの価格もアップすることになってしまいました。
ところで、この映画が製作された90年代初頭は、未だハリウッドに 「プロダクト・プレースメント」というアイデアが存在していない時代。 プロダクト・プレースメントとは、映画やTVの中に特定の商品を登場させることによって、その広告代金を メーカーから貰い受けるシステムで、現在のハリウッドだったら、映画の台詞の中に何度も商品名を使って貰い、 その商品について語る時間が3分も含まれていたら、かなりの大金を支払わなければならないけれど、 パールメイヤー側によれば、当時はワーナー・ブラザースから「ワインを映画に使わせて欲しい」と1本電話が掛かってきただけ だったとのこと。 なので、パールメイヤー側にとっては 大ラッキーと言えたワインのキャスティングでした。




Philadelphia / フィラデルフィア

「フィラデルフィア」は、1993年に公開された作品で、主演のトム・ハンクスは同作品で、 彼にとっての初のオスカー主演男優賞を受賞しています。
ストーリーは、トム・ハンクス扮する企業弁護士、アンドリューが エイズに感染したことから 職を追われ、 その差別に対して訴訟を起こすという 実話に基づいたもの。
同作品の始まりでは、後に彼を弁護することになるデンゼル・ワシントン扮する弁護士、ジョーに子供が生まれたという電話が 掛かって来るシーンがあるけれど、ここで 妻の出産に立ち会えなかったジョーは、彼にとっての最高のシャンパン、 ドン・ペリ二オンを妻にプレゼントするように電話の主に頼みます。しかし、1本100ドル以上もすると言われた彼の リアクションは、「そんなに高いなら、カリフォルニアの良いワインでもっと安いのがあるだろう、それで構わない」というもの。 さりげないやり取りに見えるこのシーンも、後になってから大きな意味を持ってくることになります。
ジョーは、アンドリューの訴訟を担当し、2人は「アンドリューの解雇がエイズに対する差別ではなかった」と言い張る企業側と 真っ向から対立するけれど、裁判が後半に差し掛かって ジョーがアンドリューを励ますために語る台詞が、 「裁判に勝って、一緒にドン・ぺリニヨンを開けよう」というもの。 リッチなクライアントが多く、華々しい弁護士キャリアを築いていたアンドリュー のキャラクターにとっては、 ドン・ぺリニヨンは裁判に勝利する度に開けていた御用達シャンパン。 一方の貧乏弁護士、ジョーにとっては妻が子供を出産したお祝いのオケージョンでも 手が届かない 高嶺の花のシャンパンがドンペリなのです。
結局、2人は裁判に勝利するけれど、法廷で倒れたアンドリューはそのまま病院に運び込まれ、 誰もが彼が人生の最期を迎えようとしているのを悟っている時、 ジョーが手に持って現れるのがドン・ぺリニヨン。 このドン・ぺリニヨンは、彼らが勝ち取った勝訴の証であると同時に、2人の友情のシンボルとして登場しており、 アンドリューが もはやシャンパンなど飲める身体でないことを知りながらも、ジョーは彼にとっての大金を叩いて 約束のボトルを持って現れるという、 さりげなさの中に感動を誘うシーンとなっています。

ところで、今やドンペリより高いカリフォルニア・カルトのワインは沢山あるご時世だけに、「(ドンぺリが)そんなに高いなら、 カリフォルニアのワインで構わない」 というコメントは時代を感じるものだけれど、 次に紹介する映画 「スリバー」 も 同じようなシチュエーションで、ドンペリとカリフォルニア・ワインが登場します。




Sliver / スリバー



シャロン・ストーンが、映画「ベーシック・インスティンクト(邦題:氷の微笑み)」の大ヒットの後、 そのセックス・シンボルとしてのステイタスが最高潮に高まっていた1993年に公開された作品。
シャロン扮する編集者、カーリーは新しいアパートに引っ越してくるけれど、ビルの住人から、彼女のアパートの前住人、 ナオミが彼女そっくりで、バルコニーから飛び降り自殺を遂げたことを知らされます。 彼女は住人を装ったビルディングのオーナー、ジーク(ビリー・ボールドウィン)と付き合うようになる一方で、 作家で やはり同じビルに住むジャックからも付きまとわれるうちに、2人のどちらかがナオミの死に関わっているのでは?と 疑うようになるというストーリー。
ドン・ぺリニヨンは、カーリーが友人やビルの住人を招待して カクテル・パーティーを行った際に登場するもの。 カーリーが招待しなかったジャックがいきなり現れるものの、ドン・ぺリニヨンを片手にしていたために、 カーリーの友人が彼をすっかり気に入ってしまいます。 その直後に現れたジークも紙袋に入ったボトルを手に持っていたので、 カーリーは「貴方もドン・ペリヨンを持ってきてくれたの?」と訪ねると、「カリフォルニアの赤だよ」 というジークからの答え。気まずそうな顔をしたカーリーが 「Sorry/ごめんなさい」と小さく謝って、カリフォルニア・レッドワインは すっかり 「期待外れのプレゼント扱い」を受けることになっています。
そしてパーティーが終わって帰る際、ジークは「Sorry For California Red」と今度はカリフォルニアの赤を持ってきたことを 謝るけれど、カーリーは 「I Love California Red」と言って、ダメージ・コントロールをするシーンも見られます。
ちなみにジャックが持ってきたのは、良く見ると同じドンペリでも 貰ったら更に嬉しいロゼ。 これを持って来られたら、招待していないゲストがパーティーに現れても 断れない気持ちは理解できるというもの。

このようにドン・ぺリニヨンは様々な映画にステイタス・シャンペンとして登場しているけれど、この理由の1つとしては 映画のように世界中の幅広いオーディエンスにアピールし、理解されなければならないエンターテイメントの場合、 ドン・ぺリニヨンくらいの知名度が無いと 直ぐに高額シャンペンだと悟ってもらえないということが挙げられると思います。
ちなみに、ドン・ぺリニヨンは、「スター・トレックW:ジェネレーションズ」にも 2265年もののヴィンテージが登場しています。 17世紀からシャンパンのパイオニアとして存在していたドンペリだけに、23世紀に エンタープライズのような宇宙船の中で飲まれている設定にしても、誰からも文句が来ないのがこのシャンパン。 それだけに、映画の作り手の洒落が感じられると同時に、理にかなったチョイスが行われていると言えるでしょう。




Mr. & Mrs. Smith / ミスター・アンド・ミセス・スミス




2005年に公開されて、アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットのロマンスのきっかけとなったのが、「ミスター・アンド・ミセス・スミス」。
ストーリーは お互いに殺し屋とは知らずに結婚したジョン・スミス(ブラッド・ピット)とジェーン(アンジェリーナ・ジョリー)が 退屈な夫婦生活を送っているけれど、2人が同じターゲットを狙ったのがきっかけで 互いの正体に気付くと同時に、 所属する組織から追われる身となり、2人が組織を向こうに回して戦うというブラック・コメディ・アクション。
この映画の中で、お互いが殺し屋だと勘付いている2人が決定的な確信を得るのが、ジョンが手に持っていたワイン・ボトルを わざと落とし、それをジェーンが反射的にキャッチしてしまうというシーン (写真上)。 妻がただ者ではないこと目の当たりにしたジョンと、自分の正体を見せてしまった事にハッとするジェーンの視線が合った途端、 ジェーンは掴んだボトルをわざと床に落とすけれど、時既に遅しで、この瞬間から2人はお互いが同じ殺し屋であることを 確信することになります。
同シーンに登場するレッド・ワインは、カリフォルニアのケイマス・ヴィンヤードが 選りすぐったブドウのみを用いてクリエイトする ケイマス・スペシャル・セレクション。ヴィンテージにもよるけれど、小売価格にして160ドル前後のワイン。 ジョン&ジェーン・スミスはダブル・インカム&ノー・キッズでかなり裕福な暮らしをしている設定ではあるけれど、 もし夫婦間のディナーで開けるエブリデイ・ワインに この ケイマス・スペシャル・セレクションを選ぶのだったら、 少々 値が張リ過ぎという印象。 でも、映画の中で この日のディナーが 2人にとっての 「スペシャル・オケージョン」と位置づけられていることや、 食事のメニューが ”ポット・ロースト” であることを考慮すると、非常に頷けるワイン・チョイスになっています。
でも興醒めなのは、ブラッド・ピット扮するジョンが、ワイン・グラスをブランデー・グラスのように手に持ってワインを注ぐシーン。 ケイマス・スペシャル・セレクションを自宅のディナーで味わうくらいのキャラクターだったら、 正しいワインの注ぎ方くらいは理解していなければならないもの。 (ワインはグラスをテーブルの上に置いたまま注ぐのが正式なマナーです。)
さらに、写真上2列目の一番右は、隣人宅のパーティーに出掛けた際に、シャルドネを飲むジェーンの姿であるけれど、 このグラスの持ち方を見れば、ジェーンも大したワイン通でないことは一目瞭然。
したがって、「ミスター・アンド・ミセス・スミス」では、正しいワインが選ばれて登場していたけれど、これを飲む登場キャラクターが ワインの格に追いついていなかったというツメの甘さが見られていました。




Ocean's Twelve / オーシャンズ・トゥエルヴ



オーシャンズ・トゥエルヴには、これと言って印象に残るワインのシーンは登場していないけれど、あえて取上げたのは、 グラスの持ち方の良いエグザンプルとなるシーンがあるため。
アメリカは、ヨーロッパや日本などに比べてワイン・グラスの持ち方がかなりいい加減な社会。 なのでワイン・グラスのステムではなく、カップの部分を手に持っている人が多いけれど、 このオーシャンズ・トゥエルブでブラッド・ピットとジョージ・クルーニがホテルの部屋でワインを飲むシーンは、 正しいワイングラスの持ち方と、間違った持ち方の好例と言えるもの。
写真を見て分かるように 間違っているのはブラッド・ピットの方。ブランデーだったら、手で温めることによって立ち上る香りを楽しむ 飲み物であるからブラッド・ピットのグラスの持ち方の方が正しくなるけれど、ワインではこのグラスの持ち方は奨励されないもの。
ブラッド・ピットが「オーシャンズ・トゥエルヴ」で演じているラスティ・ライアンは、それほど育ちが良いキャラクターではないので、 役作りの一環としてわざと間違ったグラスの持ち方をしているという見方もあるけれど、 先述の「ミスター&ミセス・スミス」でも同じようなグラスの持ち方をしていたことを思うと、 これはブラッド・ピット自身のキャラクターと言えるもの。
でも、だからと言ってブラッド・ピットがワインに全く興味が無いか といえば そうでもないようで、 今年春には、彼がヴィンヤードを買い取るかもしれないという噂を一部のメディアが報じていたほどでした。




Intolerable Cruelty (イントルラブル・クルエルティ) / ディボース・ショウ (邦題)



「ファーゴ」等で知られる ジョエル&イーサン・コーエン兄弟が描くブラック・コメディ。
ジョージ・クルーニ扮する弁護士、マイルス・マッシーに 離婚訴訟で打ち負かされた ゴールド・ディッガー(お金目当てでリッチな男性に近付く女性)、マリリン (キャスリン・ジータ・ジョーンズ)が、復讐のために策略を練って 彼と結婚するというストーリー。
同映画の中で、離婚訴訟を戦う間柄でありながら、レストランで密会する2人が交わすのが以下の会話。

マイルス: Something to start? Some wine, perhaps? / 先ずは飲み物でも? ワインでどうです?

マリリン: Red? French? / レッド、 フレンチでは?

マイルス: Bordeaux? Chateau Margaux? / ボルドー、シャトー・マルゴーでは?

マリリン: '57? '59 / 57年もの? 59年。

マイルス: '54 / 54年で・・・

マリリン: Mmm, Mr Massey Good, sir / ふーむ、ミスター・マッシー、さすがだわ・・・。


同シーンでは、この会話が矢継早に 間髪入れずに行われるけれど このスピードこそが 2人がワイン通であることを示しているもの。 映画には、マルゴーのボトルは登場しないけれど、マイルスもマリリンも、その立場こそ違うものの、 離婚によって経済的に潤うことによって、「高くて美味しいワインを飲みつけている」 という印象を見る側に与えるシーンになっています。




Something's Gotta Give / 恋愛適齢期

ダイアン・キートン、ジャック・ニコルソンが熟年ロマンスを展開するロマンティック・コメディ。
ジャック・ニコルソン扮する63歳のハリーは、離婚した54歳の脚本家 ダイアン・キートン扮するエリカの娘、 マーリン(アマンダ・ピート)とデートしている。ハリーとエリカは、エリカが所有するハンプトンの別荘で出逢うけれど、 その別荘でのディナーの最中、マーリンとの馴れ初めを尋ねられたハリーが語るのが、 クリスティーズのワイン・オークションで、オークショネアをしていたマーリンの笑顔見たさに、 シャトー・マルゴーの殆どのヴィンテージを落札してしまったというエピソード。 以来、彼とマーリンは落札したマルゴーを一緒に飲む間柄になったというのが、2人のロマンスのきっかけ。 でも映画にはマルゴーのボトル自体は登場しません。
同作品には、マーリンの職場としてクリスティーズが何度も登場するけれど、実際にクリスティーズで撮影したのはビルの外観のみ。 オークション会場や、マーリンのオフィスは、架空のセットで撮影されたシーンになっています。
この映画では、この他にもワインを飲むシーンが何度も出てきますが、プロダクト・プレースメントが行われていないために、 全てラベルが隠された状態で登場しています。






Mondvino / モンドヴィーノ


モンドヴィーノとは、イタリア語で ”World of Wine” すなわち、ワインの世界という意味。
同作品は2004年に製作されたドキュメンタリーで、ここに描かれているのは グローバリゼーション&ローカリゼーションという視点から眺めた現在のワイン業界の姿。
カリフォルニアのロバート・モンダヴィ・ファミリーを始めとして、フランス、イタリアの著名ワイン・プロデューサーや、 ワイン・コンサルタントのスーパースター、ミシェル・ロラン、そしてワインの世界で最も大きな影響を持つワイン批評家、ロバート・パーカー、 クリスティーズのマイケル・ブロードベントなどが登場しています。
ここで紹介されるワイナリーは、モンダヴィやオーパス・ワン、トスカーナのオルネライア、ボルドーのシャトー・クリネなど、 その数は19。
この作品を手掛けたジョナサン・ノシター監督は、ニューヨークのソーホーにある人気ビストロ、バルタザールでソムリエとしての トレーニングを受けているうちに、この映画のアイデアを思いついたとのことで、 その彼のワインの知識が生かされたドキュメンタリーに仕上がっています。





Sideways / サイドウェイズ




数ある ハリウッド映画の中でも ワインやワイナリー巡りの楽しみが見事に描かれていると同時に、 ワイン・マニアや愛好家の間でも高く評価されていたのが2004年に公開されたこの作品。
マイルス、ジャックというミッドライフ・クライシスを迎えた2人の男性がワイナリー巡りの旅に出て、 それぞれがマヤ、ステファニーという女性に出逢うというストーリーであるけれど、 この 地味ながらも 味わい深い映画のお陰で、マイルスが好むピノ・ノアール人気はアメリカで急上昇。 加えて映画のロケ地であるサンタ・バーバラのワイナリーへの観光客も急増したことが伝えられています。
映画の中には、数々のワインが登場するけれど、会話に名前だけ登場するものから、実際にボトルが画面に登場するものまで、 そのラインナップは以下の通り。ここではカリフォルニア・ワインとフレンチ・ワインに分けてリストアップしました。

California Wines / カリフォルニア・ワイン
Byron Sparkling Wine (100% Pinot Noir) - バイロン・スパークリング・ワイン (100%ピノ・ノアール)(写真上1)
Sanford Pinot Noir and Chardonnay - サンフォード ピノ・ノアール & シャルドネ
Sanford Pinot Noir-Vin Gris (Dry Rose) - サンフォード ピノ・ノアール & ヴィン・グリス (ドライ・ロゼ)(写真上2)
Hartley Ostini Hitching Post Highliner Pinot Noir - ハートレー・オスティーニ・ヒッチング・ポスト・ハイライナー (ピノ・ノアール) (写真上3)
Opus One / オーパス・ワン (カベルネ・ソーヴィニヨン ブレンド)
Fiddlehead Sauvignon Blanc - フィドルヘッド (ソーヴィニヨン・ブラン)(写真上4)
Whitcraft Winery Pinot Noir - ウィットクラフト (ピノ・ノアール) (写真上5)
Sea Smoke Botella Pinot Noir - シー・スモーク・ボテッラ (ピノ・ノアール) (写真上6)
Kistler Pinot Noir - キスラー (ピノ・ノアール)
Andrew Murray Syrah - アンドリュー・マーレイ (シラー)(写真下9)
Fess Parker Syrah - フェス・パーカー (シラー)

French Wines / フレンチ・ワイン
Dominique Laurent Pommard Les Charmots, Premier Cru (Red Burgundy) - ドミニーク・ローレン・ポマール・レ・シャルモ (バーガンディ赤)(写真下7)
Domaine Gaston Huet Vouvray (Loire Valley, several varieties) - ドメーヌ・ガストン・ユエ・ヴーヴレイ (ロアール・ヴァレー)
Domaine de la Romanee Conti Richebourg (Red Burgundy) - ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ リシュブール (バーガンディ赤) (写真下8)
1961 Cheval Blanc, St. Emilion, Grand Cru (Red Bordeaux) - 1961 シュバル・ブラン,センテミリオン (ボルドー 赤)




ワイン通の人々にとって、「サイドウェイズ」で1つ腑に落ちないのが、マヤとステファニーとのディナーの前に、ジャックに向って 「メルローなんて絶対飲むもんか!」といっていたマイルスが、 自分のワイン・コレクションの「スター」を ”シュバル・ブラン” であると語っていること。
このコラムのNo.2 「ワイン・オークション」の 中でもご紹介している通り、シュバル・ブランはカベルネ・フランと メルローを用いたワイン。 メルローを毛嫌いしているような彼の言動を考えると、ちょっと矛盾したチョイスと言うことになります。
映画の中で このシュバル・ブランの61年ものは、マイルスが離婚した彼の妻に再会し、彼女が再婚した新しい夫との子供を妊娠している と聞いてショックを受け、その自棄酒として飲まれてしまうことになりますが、よりによってこれを飲んでしまうのが、 バーガー・ジョイントのスチロール製のカップ。これはワインの味を台無しにしてしまう最悪のチョイスと言えるカップ。 しかもマイルスがシュバル・ブランと共に味わっていたのはチーズ・バーガーとオニオン・リングという組み合わせで、 ワインのデリケートな味をかき消してしまうような脂っぽく、塩辛い食べ物。
ワイン通にとっては 見ていられない ほどもったいないシーンでもあるけれど、本当にワイン通だったら、 自棄酒に自分の取って置きをわざわざ取り出して来て飲むようなことはしないものなのが実際のところです。
でもこの映画によって、これまではワイン通しか知らなかったシュバル・ブランを始めとして ヒッチング・ポスト、アンドリュー・マーレイと いった無名ワインが一躍有名になったのは言うまでも無いこと。 中でもシー・スモークは「サイドウェイ」に登場してから、価格が30%以上アップしたことが伝えられています。




これまで紹介してきた映画は、ワインが登場するハリウッド映画のほんの一部であるけれど、 ハリウッドでは、実生活でもワインを好むセレブリティが非常に多いのが実情です。
ジョニー・デップ、ジョージ・クルーニ、トム・クルーズといったスター達は、ワイン愛好家としても知られていますし、 P.ディディやJay−Zといったラッパー達が高額シャンパンや一流ワインを好むのは、そのリリック(歌詞)にも表現されているもの。
ちなみに、セレブリティのお気に入りのワイン&シャンパンを紹介しておくと、 ジャック・ニコルソン、パメラ・アンダーソン、クリスティーナ・アギュレラはいずれもシャンパンのヴーヴ・クリコがお気に入り。 ジョニー・デップはボルドーの赤ワイン、カロン・セギュールを愛飲し、マドンナ、ブリットニー・スピアーズはシャンパンのクリスタルを 好むのだそう。ジョージ・クルーニは、ピープル誌によって2006年度の”セクシエスト・マン・アライブ” に 選ばれた際の インタビューで、最も良く飲むワインは彼の友人、モーリツィオ・ザネッラのワインだと語っています。

もちろんハリウッドにはワイン愛好家が嵩じて、ワイン造りを始めてしまったセレブリティも多いけれど、 その代表選手であると同時に、最もサクセスフルな存在になっているのが、フランシス・フォード・コッポラ。 2005年には、娘で映画監督のソフィア・コッポラと共にクリエイトしたシャンパン、”ソフィア”が、大ヒットしたのが記憶に新しいところ。
「サイドウェイ」にもワイナリーが登場したフェス・パーカー (Fess Parker)も、今でこそ 低価格ながらも定評のあるワインや、 宿泊&スパ施設付きのワイナリー・ビジネスの方が有名になっているけれど、彼自身は50年代のハリウッドのTVスター。
この他、俳優でコメディアンのロビン・ウィリアムスもワイン販売こそしていなくてもワイン造りを趣味にしているというし、 同じく俳優でコメディアンのダン・アイクロイドも つい最近自らのワインを発売したばかり。

一方、フランスの俳優でも、ジェラール・デパルデューや、かつてのボンド・ガールでシャネルのスポークス・モデルを務めたこともある女優のキャロル・ブーケらが コラボレーションを含めた 自らのワイン造りを行っていることは良く知られています。
音楽の世界に目を移せば、スティング、ボブ・ディラン、オリヴィア・ニュートン・ジョン、マライア・キャリーの元ボーイフレンドとしても知られるラテン・シンガー、ルイス・ミゲル、ロック・バンド、モトリー・クルーのヴィンス・ニールなどがワイン造りを行っていますし、 マドンナの父親もミシガンでチッコーネ・ヴィンヤード&ワイナリーをスタートしています。
ゴルファーでは、グレッグ・ノーマン、アーニー・エルズ、そして最近ではニック・ファルドが自らのワインを手掛けている他、 かつてNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の名クォーターバックとして知られたジョー・モンタナは、ナパの老舗ワイナリー、 ベリンジャーとのコラボレーションで ”モンタジア”というワインをクリエイト。 この他、ナスカー・ドライバーのジェフ・ゴードンや、マリオ・アンドレッティもワイン造りをしているし、、 今年春にはNBA (ナショナル・バスケットボール・アソシエーション) 関係者が、カリフォルニア・カルトの頂点を極めるスクリーミング・イーグルを買収するなど、 スポーツの世界もワインに熱心なセレブリティが多いのが実情です。

また、セレブリティがワインをクリエイトするのではなく、ワインそのものになってしまう例としては、 エルヴィス・プレスリー、マリリン・モンローなどがあります。
エルヴィス・プレスリーのワインをクリエイトしているのは Graceland Cellars / グレイスランド・セラーズで、 ワインには、Blue Suede Chardonnay / ブルー・スウェード・シャルドネ、King Cabernet Sauvignon / キング・カベルネ・ソーヴィニヨン、 Jailhouse Red Merlot / ジェールハウス・レッド・メルロー 、All Shook Up Champagne / オール・シュックアップ・シャンパン (シャンパーニュで作られていないので、正式にはスパークリング・ワイン) といったエルヴィスにちなんだネーミングがつけられています。
お値段は、メルローとシャルドネが約10ドル、カベルネ・ソーヴィニヨンが約18ドルといった手頃な価格で、 エルヴィスの写真をフィーチャーしたボトルがコレクティブル性を高めているもの。

一方のマリリン・モンローの方は、Marilyn Wines / マリリン・ワインズがクリエイトするもので、「マリリン・メルロー」、「マリリン・カベルネ」 などがあるけれど、お値段は最新の2004年リリースのもので、メルローが26ドル、カベルネ・ソーヴィニヨンが38ドル。 この他に高額ラインのヴェルヴェット・コレクション(写真)がマグナム・ボトル(通常の750ml入りのボトルの2本分に相当する1500mlサイズ) で200ドルという価格で販売されています。
デビュー・ヴィンテージは意外に古くて1985年。毎年マリリン・モンローのバースデーである6月1日に、 新しいヴィンテージがリリースされることになっています。
でも、マリリン・モンロー自身が好んでいたのはワインよりシャンパンだったそうで、 特にドン・ぺリニヨンがお気に入りだったことが伝えられています。

その一方で、セレブリティ・ワインセラーというビジネスでは、ローリング・ストーンズ、キッス、マドンナといった音楽業界の アイコン的スターのボトルをクリエイトして、人気を呼んでいます。
このボトルは、ペーパーラベルをボトルに貼り付けた安価なバージョンと、同じ絵柄をエッチングでボトルに刻み込んだ コレクターズ・バージョンがあり、ペーパーラベルのものは40ドル、エッチング・ボトルは100ドルというお値段。 既に発売されている殆どのワインが完売する人気商品となっています。
アメリカでは、一部の州で 法律により州外からワインを購入することが禁じられているため、 セレブリティ・ワインセラーでは”ノン・ワイン” という中身のワインが入っていない ボトルだけの商品も開発。 これによってワインに興味がなくても、コレクティブル・グッズとしてボトルを購入したいというファンが 全米のどの州からでもオーダーが出来るように配慮しています。
ボトルの中身はカベルネ・ソーヴィニヨンで、ノン・ワインをエッチング・ボトルで購入した場合のお値段が80ドルなので、 中身は20ドルという計算になります。


こうして見てみると、ワインとエンターテイメントというのが密接な繋がりがあることが分かりますが、 実際、こうしたポップ・カルチャーがきっかけで ワインに興味を持ったり、凝り始めたりする人々は決して少なく無いと言われています。
きっかけは何であれ、ワインに興味を持って、ワインを積極的に楽しむのは素晴らしいこと。 またこうしたエンターテイメントをフォローしていれば、ブドウの種類や、味わい、当たり年など知らなくても、 ワインについて より興味深い会話を楽しむことが出来るのです。







Back Number / バック・ナンバー


Vol. 1 ”Wine Shops in NY”


Vol. 2 ”Wine Auction”


Vol. 3 ”Wine Tasting”


Vol. 4 ”Napa Valley Vineyard Tour”






渡邊順子 プロフィール

ワイン・スペシャリスト。
名古屋生まれ。 88年に渡米し、日本向けの輸出業を自ら起業。 成功を収めるが、以前から好きだったワインの道に進むためにビジネスをクローズ。 ニューヨーク、パリ、ボルドーでワインを学んだ後、2000年にオークション・ハウス、クリスティーズで、 日本人初のワイン・スペシャリストに就任。今日に至る。

キャリア・プロファイルの記事も併せてご覧下さい