Sep Week 1 2018
★ " Bitter Ending of Heart Warming Story "
ヴァイラル美談のアグリーな終焉
大金が人間を変えるシナリオ


通常月の1週目と3週目がQ&ADV、2週目と4週目がフェイバリットのコーナーになっていますが、 8月が5週目まであった関係でQ&ADVのコーナーが続くので、今週はアドバイスをお休みして 8月末にアメリカで大きく報じられた あるヴァイラル美談の行方について書くことにしました。 人間の善意とお金、クラウド・ファンディングを始めとするチャリティなどについて 改めて考えさせられるストーリーです。

善良なホームレスのための善良なチャリティ


このストーリーが美談としてソーシャル・メディアでヴァイラルになったのは昨年2017年11月のこと。
ニュージャージー在住の27歳のケイト・マクルアーは フィラデルフィアのハイウェイで車がガス欠でストップしてしまい、 ボーイフレンドに電話をして迎えに来てもらうことにしたものの かなりの距離。そんな彼女を救ったのはホームレスのジョニー・ボビット(34歳)で、 まず彼はケイトの身の安全を心配して、 「車の扉にロックをして中に居るように」と彼女に伝えて居なくなり、やがてガソリンの容器を持って戻ってきて ケイトの車に給油してくれたとのこと。 当時、ケイトは全くキャッシュの持ち合わせがなく、彼に何もしてあげられなかったものの、 ジョニー・ボビットは単なる親切心でそうしただけと恩を着せるような態度も取らなかったという。
後にケイトがボーイフレンドと一緒に 彼にお礼に訪れた際に知ったのが、ケイトのガソリン代に使った20ドルが 彼の手持ちの現金の全てであったという事実。 この時 ケイトとボーイフレンドは 彼のために衣類やキャッシュ、生活用品、食料を差し入れたというけれど、 その彼の感謝のリアクションというのが、それらを仲間のホームレスに分けてあげられるので、「皆も喜ぶ」というもの。 聞けばジョニー・ボビットは元海軍で、パラメディックの長時間勤務をこなし、2014年まではごく普通の生活をして、その近況をフェイスブックにアップしており、 家もあればガールフレンドも居たとのこと。 そんな彼の最後のフェイスブックのポストは、「自分と周囲に正直になるべき、人生を転換させるのに遅すぎる時期はない」というものであったという。

ところが不運と金銭トラブルに見舞われた彼は、その後ドラッグに手を出し、 過去18カ月を 友人も家族も居ないフィラデルフィアでホームレスとして過ごしていたとのこと。 しかしながら ジョニー・ボビットはそんな不遇について語りながらも 「全ては自分が招いたことだから仕方ない」と、 他人や社会を責めるような身勝手さのかけらも無い、謙虚な人物。 そんな彼の 「たとえ自分がホームレスであっても、人を助けてあげたい」という気持ちに 動かされたケイトとボーイフレンドは、 その後も何度か彼のところに差し入れに出向き、 彼の仲間のホームレスの分の衣類も友人達からの寄付で集めるなどして、 徐々にジョニー・ボビットと親しくなっていったという。


やがて2人が思いついたのが クラウド・ファンディングのウェブサイト、「GoFundMe」で ジョニー・ボビットがホームレス生活から脱するための資金集めをするということ。 特にその考えに熱心だったのがボーイフレンドのマーク・ダミーコ(38歳)。 彼は「不遇な人間にはちょっとしたきっかけが必要」という考えの持ち主で、何とかジョニー・ボビットの人生の巻き返しの手伝いをしたいと考え、 「クラウド・ファンディングで集めた金額を 彼のアパートのレント、彼が仕事を見つけるまでの生活費や携帯電話の料金に使えるように 遣り繰りする」と GoFundMe.comで公約。1万ドル(約110万円)をゴールに「GoFundMe」で寄付を募り始めたところ、 僅か12日間で集まったのが ゴールの10倍を上回る11万ドル(約1,210万円)。 その後もメディアがこのニュースを取り上げたことから、更に寄付は膨れ上がり、 この美談に動かされた1万4000人もの人々が、総額40万3000ドル(約4,470万円)もの寄付を寄せるに至ったのだった。



多額の寄付の使い道は贅沢なライフスタイル&ヴァケーション!?


ところが、その約9か月後の 2018年8月末になって報じられたこの美談の後日談は 人々を失望させるアグリーな金銭争いに発展していたのだった。
再びジョニー・ボビットがメディアに登場したのは、フィラデルフィアの地元紙が報じたニュース。 それによれば、GoFundMeで集まった約40万ドルの寄付金が ケイト・マクルアーとマーク・ダミーコの口座に振り込まれて2人が贅沢な生活をする一方で、 ボビットは一銭も受け取ることが出来ず、再びドラッグの使用を始め、ホームレスに逆戻りしたとのこと。
そのケイト・マクルアーとマーク・ダミーコのライフスタイルは昨年末から突如グレードアップして、BMWの新車を購入したかと思えば、 フロリダ、カリフォルニア、ラスヴェガスでヴァケーションを楽しむようになり、 グランド・キャニオンを訪れた際はプライベート・ヘリコプター・ツアーを楽しむ様子をソーシャル・メディア上にポストする羽振りの良さ。 2017年のニューイヤー・イブにはチケット代2400ドル(約27万円)のガラに、それぞれタキシード&イヴニング・ガウン姿で出席しているのだった。



そんな2人の様子を不審に思ったジョニー・ボビットがメディアに訴え、彼が元海軍であったことから ノンプロフィットの弁護士が 彼について始まったのが 寄付金をめぐるカップルとの争い。
ボビットの弁護士から 贅沢なライフスタイルについて尋ねられたケイト・マクルアーとマーク・ダミーコは、「全て 自分達のお金による支払いで、ボビットのために集まった寄付金には一切手を付けていない」と主張。 とは言ってもケイト・マクルアーはニュージャージー州の交通局の受付、一方のマーク・ダミーコ は大工で、 とても高額所得者とは言えないカップル。 遺産が入ったか、ビットコインで大儲けでもしない限りは、2人の収入でこれだけの贅沢な生活が不可能なのは誰の目からも明らか。
2人が唯一認めたのはフィラデルフィアのカジノでギャンブルに使った500ドルで、これはその場に居合わせたボビットの 許可を得て使ったと語っているのだった。

カップルが語る 寄付金使途の明細


そもそも何故ボビットのための寄付金が2人の銀行口座に振り込まれたかと言えば、 寄付が集まった直後のボビットにはIDも銀行口座も無かったためで、 その後2人は彼のIDの取得や、銀行口座開設のために手を尽くしただけでなく、その間も 彼に食事を差し入れたり、住む場所を提供するなどの面倒を見てきたとのこと。
既に使われた金額の明細は、まずGoFundMeの手数料に3万ドル。 そして彼のために購入した携帯電話、TV、SUV、ラップトップ・コンピューター、家よりもトレーラーで暮らすことを望んだボビットの住宅としてのトレーラー、 弁護士の費用に加えて、彼の家族への送金、彼のドラッグ中毒の弟の世話代 などを列挙しているものの、 一切の記録やレシートが無い状況。 一部のメディアは、「2人がボビットの面倒を見た時間や労力、彼のために差し入れた食料や身の回り品に至るまでを 全て寄付金から利益を上乗せして 差し引いている」と報じていたものの、ケイト・マクルアーとマーク・ダミーコは とてもそんな細かい計算をしているとは思えない様子を窺わせているのだった。

これを受けてGoFundMeが2人の寄付金の使い道についての捜査に入ったことが伝えられ、 2人に対してはバッシングや嫌がらせが寄せられるようになったというけれど、 そんな彼らに弁明の機会を与えたのが3大ネットワークの1つ、NBCの朝のトークショー。
2人は番組のインタビューで、「ボビットが銀行口座を開いた後も 彼に寄付を全額渡さなかった理由は、 口座開設直後に彼に2万5000ドルを 振り込んだところ、彼がそれを僅か13日間で使い果たしてしまい、 ドラッグに使用していると判断した」と説明。ボビットがドラッグで寄付を全てを使い果たすことを危惧した2人は、ボビットにリハビリ入りを勧め、 彼がドラッグを止めて生活が軌道に乗るまで、寄付の支払いを差し止めると彼に言い渡したという。 しかしながらボビットのドラッグ使用について 2人は動かぬ証拠を掴んでいた訳ではなく、単に彼の足取りで判断した結果。 そう言われたボビットは仕事も無く、寄付金も差し押さえられて ホームレスに戻らざるを得なくなり、 再びドラッグに手を染めたことを自ら認める状況。 裁判やメディアへの申し立てはケイト・マクルアーとマーク・ダミーコに対するフラストレーションや失望の末の手段なのだった。

裁判所の支払い命令、その残金は…


結局8月末に裁判所が ケイト・マクルアーとマーク・ダミーコに対して 彼らの口座に残る寄付金の全額を ボビットに支払うように命じたことで、事件は一件落着に思われたのも束の間。 彼の弁護士が寄付金の残高を取り戻そうとして明らかになったのが、既に寄付の全額が使い果たされていたという事実。
TV番組のインタビューに出演した際の2人は、集まった40万3000ドルの寄付から、 既に使った金額を差し引いた残高として、「優に15万ドル以上は残っている」と語っていたものの、 それでも20万ドル以上もの大金が ホームレス男性とその家族の面倒を9カ月見るだけに使われていたというのは 常識では考えられないこと。 ところが蓋を開けてみれば、40万3000ドルの殆どが カップルの贅沢なライフスタイルに使われていた訳で、 これが報じられてから マーク・ダミーコは突如 「GoFundMeの手数料が3万ドルではなく 5万ドルであった」と訂正するような有様。 2人が裁判所の支払い命令を見越して財産隠しをしたかは定かではないものの、 アメリカの年間平均所得の6倍を9カ月で使い果たす 彼らの計画性の無さや貪欲さ、偽善と不誠実ぶりは、 ボビットのために寄付をした1万4000人もの人々の善意を踏みにじるものなのだった。

とは言っても善意からスタートした行為が、大金への欲望によって捻じ曲げられていくストーリーは決して珍しくないもの。
かつて3大ネットワークの1つであるABCでは、恵まれない貧困家庭のために家を大改築して 生活環境を改善する ホーム・メイクオーバーのリアリティTVを放映していたことがあるけれど、 その中の1エピソードに登場したのが自分の子供以外に、7人のアフリカ系アメリカ人の少年少女を里子として引き取って、小さな自宅で育てるカップル。 このカップルのためにABCは番組バジェットを投じて、小さな一軒家を 夫婦のためのマスターベッドルーム&マスター・バスルーム、 子供全員のための個室、ゲームルーム、屋外のバスケットボール・コート等を含む 大邸宅に改築。 番組自体はハッピー・エンドのハート・ウォーミング・ストーリーに終わったのだった。
しかしながらその数か月後には カップルが7人の里子全員を施設に送り返し、邸宅を自分達の財産として着服。 ABC側は夫婦が里子をキープする条件付きで家を改築した訳では無いので 訴えることも出来ず、 「善意が仇になっただけ」という後味の悪い後日談があるのだった。
そうかと思えば、最初はピュアな良心から ある老人の介護を無料で始めた女性が、実はその老人がかなりの資産家であることに気付き、 徐々に老人を家族から孤立させて、遺言を書き直させるまでに洗脳してから、 毎日少量の毒をもって殺害したという事件もあるけれど、アメリカの場合、火葬しないケースが多いので、 死去から時間が経過してしても検死の結果、殺害が明らかになるケースは少なく無いのだった。

どちらも慎ましい生活をしている時は 他人に親切だった人物が、 突然 与えられた大邸宅や、 多額の遺産を手に入れるチャンスで、すっかり人間が変わってしまったエピソード。 ケイト・マクルアーとマーク・ダミーコにしても、当初は本当にボビットを助けたいと思ってスタートしたのが彼への一連の親切。 しかしながら彼らの年収を遥かに上回る多額の寄付があっという間に ボビットのために寄せられ、 自分達が助けるホームレスの方が自分達よりもリッチになってしまい、しかもその寄付が全額自分達の銀行口座に入って来たことから 全てが変わってしまったのがこのストーリー。
せっかくの美談が 英語でいう「Easy come, Easy go」、日本語で言う「悪銭身に付かず」という諺の実例のようになってしまったけれど、 結局のところ お金というのは使い方、稼ぎ方を知らない人に渡したところで、さほど役には立たないということ。 でも、集まった多額の寄付があっという間に何に使われたか分からない状態で消えていくというのは、 世界最大のチャリティ、アメリカン・レッドクロスでも堂々と行われていることなのだった。

Yoko Akiyama



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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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