July Week 2, 2019
★ "What's Best for My Children's Future?"
就職に備えて、娘に習い事よりスポーツをさせたいのですが…


Yoko Akiyama さま、
現在結婚してアメリカに暮らしていますが、日本に居た頃からずっとCUBE New Yorkのウェブサイトを愛読してきた大ファンです。 このコーナーでいつも Akiyama さんが様々な悩みの相談に応えていらっしゃる様子を読ませて頂いて、 他人事ながら学んだり、感動したり、納得したりしています。 今日は私もアドバイスをして頂きたいと思ってメールをいたしました。

私には2人子供が居て長男が14歳、長女が11歳です。 長男は小さい頃からスポーツが好きで、サッカーやベースボール、バスケットボールなど何をやっても運動神経が良いので、 「スポーツで大学の奨学金も夢ではない」と夫が夢を膨らませています。
娘の方は小さい頃からある習い事を続けていて、怪我をすると習い事に響くことを理由に 全くスポーツをしたがりません。 それはそれで良いと思っていた矢先、既にお子さんがずっと大きくなっている知人から、 「習い事はよほど才能があって、それで身を立てるのでない限りはキャリアの役に立たないし、チーム・スポーツよりずっとお金が掛かる”トラップ”」と言われてしまいました。

知人によれば「就職のレジュメにスポーツ、特にヴァーシティ・チーム(高校や大学を代表するエリート・アスリートを集めたチーム)に属していたと記載すると 採用にとても有利になるので、スポーツは子供の将来に役に立つけれど、 習い事はそれに関連する職場でもない限りは役に立たない」、「習い事のカテゴリーによっては 就職の際に逆に敬遠される」とのこと。 その女性には3人の子供が居て、音楽学校にはあえて行かなかったものの 長年ピアノを熱心に習い続けてきた頭脳明晰な長男、 長男よりは成績が劣るもののスポーツマンの弟、同様にスポーツ好きの娘さんという3人兄妹ですが、スポーツをする下の2人の方が 頭脳明晰な兄よりもずっと良い仕事に恵まれていて、その理由として下の2人がヴァーシティ・チームのサッカー、バレーボールの選手であること、 スポーツチームの先輩の方が就職の時にいろいろ助けてくれること、性格的にもアメリカ企業が好むチームプレーヤー・タイプに育っていることを説明されました。 ピアノを熱心に習ってきた長男の方が「レッスン代などに ずっとお金が掛かってきたのに、素人のピアニストでは就職の際に何の役にも立たないし、 変わり者だと偏見を持たれることさえある」、「実際に長男は長年ピアノを熱心にレッスンしてきたせいで 社会性や社交性が今一つの変わり者に育ってしまった」 とも言われました。

その話の席には夫も居たのですが、帰りの車の中で 習い事に熱心な娘の将来について夫と共に心配になってしまいました。 娘にはその習い事で将来食べて行けるような才能はありません。それは本人も分かっていますし、その道のプロになることは考えていません。 それより親馬鹿に聞こえるかもしれませんが、娘にはアントレプレナー的なビジネスの才能の方が備わっているように思います。 娘の将来展望を考えると、習い事よりスポーツをして 就職を有利にするべきではないかというのが私たち夫婦の考えなのですが、 先にもご説明したように娘は怪我を恐れてスポーツをしたがりません。
習い事は競争がある世界なので、習い事の友達と一緒に居る時間が長い割には 娘が友達の悪口を言っていることが多く、その環境では友情が育めるような友達に恵まれないように思えています。 あと、今までは男女の違いなのかと思ってきたのですが、スポーツをしている長男に比べると 娘の方が わがままで協調性がありませんし、細かいことを気にします。
そんなことを考えると、益々娘にはスポーツをして心と身体を鍛えて欲しいように思うのですが、 だからと言って 今まで続けてきた習い事をやめて スポーツに切り替えろとは言えません。 でも進路変更が可能な早い時点で 娘に将来についての計画性や自覚を持って欲しいと思っています。

そこでAkiyamaさんにご相談したいのは、親はどの程度、もしくはどういうい形で子供の将来に介入&口出しをするべきなのかという事です。 夫は娘に甘く、娘に嫌われるようなことを言いたがらないので 娘にこうしたことを話せるのは私しかいません。 でも言い方を誤って 徐々に自己主張が強くなってきている娘の反抗期を招くようなことはしたくありません。
何かアドバイスをしていただけたら嬉しいです。 お忙しいところ恐縮ですが、何卒よろしくお願い申し上げます。

- F -



スポーツの経験が米国社会で武器になるのは紛れもない事実です


Fさんのメールを読んで最初に私の頭をよぎったのが、少し前に「大学のヴァーシティ・チームのメンバーに選ばれた」と言っていた友達の息子さんに 「That's Great! もしスポーツの道に進まなかったとしても、Job Hunting (就職)には断然有利だから!」と言って祝福してあげたやり取りでした。
Fさんの知人がおっしゃる通り、アメリカのビジネス界全般において 学生時代に何等かのスポーツを真剣に取り組んでいたという経歴は 体力、忍耐力、精神力、チーム・プレーヤーとしてのメンタリティ等、企業が求める人材の資質を備えている指針と見なされるのは紛れもない事実です。 私自身も アメリカ生活が長くなるうちに、 何等かのスポーツで「ヴァーシティ・チームに属していた」と聞けば、その人に対して一目置くようになりましたが、 ヴァーシティ・チームというのは決められた人数のチームに実力で入らなければならないので、 運動神経が良いだけでなく、スポーツをコンペティティブなレベルでプレーするだけの精神力やセンスを備えているということを意味します。 ですからそんなハイレベルでスポーツをしながら、成績も同様にハイレベルを保っている学生であれば、 企業が採用したがるのは当然だと思います。
それと同時にアメリカのビジネス界は驚くほど スポーツマン、スポーツウーマンで占められていて、 特に管理職の女性の80%以上が高校、大学時代にチーム・スポーツをプレーしていたというデータもあるほどです。 企業においては職種による差違はあっても、1人でコツコツと取り組むプロジェクトより チームで取り組むプロジェクトが仕事の中心になりますので、 多くのビジネス・ピープルが「チーム・スポーツを通じて学んだ経験が、社会に出てから役に立っている」と語っているのもまた事実です。

でも11歳の段階で就職のことを考えるのはあまりに打算的で夢が無いと思いますし、私にはそれがお嬢さんのためになるとは思えません。 既にお嬢さんは習い事でプロになれるほどではないことを自覚していらっしゃる訳ですし、11歳という年齢はこれまで親に言われてやってきたこと、 周囲に合わせてやってきたことから徐々に卒業して、自分に向いていないことへの興味が薄れ始める時期です。 ミドル・スクール、ハイスクールに上がったのを機に これまでと全く別の事を始める可能性もあれば、 異性への関心が高まってくるので 「スポーツをしている方がモテる」、 「交友関係が華やかになる」といった理由で、さほど練習がキツくないスポーツ・チームを選んで それに属するケースも少なくありません。 お嬢さんはアントレプレナーの才覚がおありとのことだったので、ひょっとしたら学生時代からビジネスを始めてしまうかもしれません。 要するに、今の段階でFさんが何を心配したところで単なる取り越し苦労にしかならないのです。


 子供達が生きる将来は親の世代とは異なります


私は親が愛情という名のもとに子供の将来に口を出すのは控えるべきという考えの持ち主です。 人間にはそれぞれ与えられた天分というものがあるのですから、それを自ら悟って その道に進むのが一番だと思いますし、 たとえそれが高額収入の職種に繋がらないと思えても、親が口を出したり、ブロックするのは間違いです。
それより親がフォーカスすべきは 子供にきちんと物事の善悪、正義が何たるかを教えること、人の道を外さず正しく生きて行くための処世術や 人付き合いを含む社会との関わり方をしっかり教えて、将来どんな場所に暮らして、どんな仕事をしても、立派に生きていける人間に導くことです。 それと同時に財産管理や投資、世の中の経済がどう動いているか といったお金に関する正しい知識を教えて、しっかりした金銭感覚を身につけさせることが 人生を決める重要な要素になると私は確信しています。

今や株式トレードはもちろん、企業の経営戦略や美術館のキュレーションまでもがAIで行われる時代です。 現在人間が行っている仕事の殆どが、AIとロボットによって取って替わられるのは時間の問題ですので、 その時代には もはや仕事、労働はメインの収入源にはなり得ません。その兆候は既に欧米社会では顕著で、 裕福な人ほど仕事をせず、投資で巨額な財産を築く一方で、貧困層ほど給与の安いパートタイム・ジョブを2つも3つも抱えて、 1日10時間以上働くケースは珍しくありません。
時代はどんどん変わっていますし、その変化のスピードも早まっています。 親達が自分が生きてきた30年が そのまま子供達の30年になると思っていたら それは大間違いです。 今から10年後、Fさんのお嬢さんが就職活動をしているはずの時に 就職活動という概念が無くなっていても不思議ではないのです。

ですから私が子供に限らず、この先の時代を生きる全ての人間にとって大切だと思うのは、 どんな時代が来ても順応できる強さや機転、フレキシビリティ、そして自分の天分を生かしたスペシャルティを持つことだと思います。 加えて自分に無いものを周囲との協調やチームアップによって補うためのコミュニケーション力や駆け引きのノウハウを持つことも大切です。 さらに「体力がある」、「病気をしない」、「若さを保てる」ということも人生においては非常に大きなメリットをもたらします。 その意味で私はスポーツやエクササイズを年齢、性別を問わず、誰にでも奨励する立場です。
どんなにストリクトに食事制限をしたところで、身体を動かさなければ本当の意味での健康は手に入りません。 世の中にはスポーツが苦手でも身体が強い人は沢山居ますので、スポーツをしなくても身体は鍛えられるのです。 身体を鍛えるということは心を鍛えるという事であり、その心身のバランスが伴って初めて人間は強くなることが出来ます。 強さこそが 人間が健全に生きて行く上で必要不可欠な要素なのです。

Fさんのお嬢さんに話を戻すと、Fさんがメールに書いて下さった通り、お嬢さんは年齢的にどんどん自己主張が強くなってくる時期ですので、 自らが望んだり、悟ったりしない限りは親が特定の物や方向性を押し付けることは もはや出来ないと思いますし、 ご本人の自主性を育むためにもそうあるべきなのです。 Fさんもご自分の人生を振り返ってみれば、若い頃の経験はどんな事でも決して無駄にはなっていないことを自覚していらっしゃると思います。 それは自分の人生にある程度満足している大人ならば誰もが感じることです。
ですからお嬢さんにも様々な経験をさせて、それが成功でも失敗でも そこから常に何かを学び取る前向きで真摯な姿勢を持ち続けるように お嬢さんを励まし、サポートすることがFさんの親としての重要な役割だと私は考えます。 また女児は男児よりも将来展望がどんどん変わる傾向にあるので、それも考慮して見守って頂きたいと思います。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。




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