Nov. Week 5, 2019
★ "Discrimination Against Asian in USA"
アジア人はアメリカでどの程度差別されているのでしょう


秋山曜子さま、
2001年の9/11の直後にYokoさんが書いた記事に感動して以来、一方的ですが長くお付き合いさせていただいています。 今では2人の子供達がティーンエイジャーになり、外国好きの夫と私が子供たちを早くからホームステイで海外に送り込んでいたこともあり、 2人はアメリカの大学に進学を希望して準備を進めています。
ですがトランプ政権になってから 白人至上主義のグループの活動が問題になったり、人種差別のヘイト・クライムが増えているニュースを観るにつけて、 親としてはとても心配でなりません。 大学進学のコンサルタントにも実態を尋ねているのですが、そういうことに関しては全く事情を把握していません。 マリファナの使用や 長女の場合はキャンパスの性的虐待など、心配したらキリがないのですが、 アメリカ生活が長い秋山さんが ニューヨークでのアジア人についての差別やお友達がアメリカの大学で経験された差別などについて ご存知でしたら、是非その実態やアドバイスをお願いできたらと思っています。

お時間がある時に是非よろしくお願いします。 今後の秋山さんのご活躍、CUBE New Yorkのご発展をお祈りしています。

- K -



アジア人差別が深刻な問題なのはアジア系アメリカ人です


近年、ニューヨークでは日本人コミュニティがどんどん小さくなっている様子が指摘される一方で、 私は日本の特に若い世代には もっと海外に出てビジネスや勉強をして欲しいという考えなので、 Kさんのお子さんがアメリカの大学進学を目指していらっしゃるのは素晴らしいことだと思います。
Kさんがご指摘の通り、トランプ政権になってからのアメリカではヘイト・クライムが増えていますし、 地方都市では母国語で話しているヒスパニック系やアジア人に対して「ここはアメリカなのだから英語で話せ!」という 罵声を浴びせる嫌がらせが多数レポートされていたりもします。
私自身はニューヨークに約30年暮らして 特に人種差別というような扱いを受けたことはありませんが、 アジア人の英語のセンテンスには a や theが足りないことは トランプ大統領が選挙戦のスピーチでジョークにしていたことですし、 「アジア人は運転が下手」、「アジア人は目が小さくて吊り目」、「アジア人なのだから計算が得意なはず」 といったアジア人のステレオ・タイプを 押し付ける傾向は ポリティカリー・コレクトネスに極めて過敏になった現在でも根強いものがあります。 ですがアジア人はマイノリティの中では学力レベルが高く、貧困層や犯罪者が少ないこともあり マイノリティの中では比較的差別の対象にはなり難い人種ではあります。

過去数年でアジア人差別として最も問題になったのは、ハーバード大学がアジア人学生の受け入れに非常に高いハードルを設定して その数を制限しているということでしたが、実際に どんなに優秀でも「アジア人の枠の数」でしか受け入れてもらえないアファーマティブ・アクション(マイノリティ人種受け入れ枠を設ける政策)は アジア人のサクセスにとって大きな障壁であり、差別問題と見なされるものです。 ハーバード大学については今年に入って裁判所がハーバード側に非が無いという判断を下していますが、 その一方でビジネス界、スポーツ界、エンターテイメント界に アジア出身の著名人が極めて少ないことは、 人種に対する理解とアピールが他人種に比べて劣る要因と見なされています。

またアジア人は他のマイノリティに比べて大人しい人種なので、弱肉強食的なアメリカ社会においては それが差別的扱いを招く原因になったりもします。私の中国人の友人はフィラデルフィアの大学に通っていた時代に テールランプが壊れた車を運転していて、同じ警官に1回の外出の往復で2回チケットを切られたことがあるそうですが、 彼女曰く それは明らかなアジア人差別の嫌がらせだったとのことでした。でもそれがアフリカ系アメリカ人やヒスパニック系になると、 単なる警官によるトラフィック・ストップが逮捕、最悪の場合は射殺事件に発展するケースさえあるのは 過去数年の「ブラック・ライヴス・マター」のムーブメントに象徴される通りです。
さらに言えば現在のアメリカでは中国にネガティブ感情を抱くアメリカ人が少なくないので、特に地方では 「アジア人=中国人」と短絡的に捉える程度にしか アジアについての知識が無いアメリカ人の怒りやフラストレーションの矛先が、アジア系アメリカ人を含むアジア人全般に向けられることもあるようです。
でもアジア人差別が深刻な問題となりうるのは 海外から留学などで一時的にやってくるアジア人よりも、むしろ親が移民で自分はアメリカ生まれというアジア系アメリカ人です。 アジア系アメリカ人というと、俗にABCと言われるAmerican Born Chinese/中国系アメリカ人がマジョリティで、 日系のアメリカ人はそれに比べると遥かに少ないのが実情です。 それだけにアジア人としてアメリカ社会で人種差別に対して声を大にして抗議活動をしているのはもっぱら中国系アメリカ人です。 日本人の場合は、都市部に住んでいれば差別の対象になることはまずないというのが私の知る限りの意見です。

大学の人種差別はアメリカ社会とは異なる状況です


しかしながら大学というのは一般のアメリカ社会とはちょっと異なる世界です。 特に地方の大きな大学になると、町の雇用の70%を大学が生み出しているなど、 完全な学園都市になっているケースが少なくありません。学生たちは キャンパスを中心にした限られた世界の中で 初めて親元を離れて生活するので、その段階でラディカルな思想に洗脳されるケースは非常に多いと言われます。
特にトランプ政権が誕生してからは全米のカレッジで白人至上主義のグループの活動が活発になってきていますが、 それらはトランプ政権の誕生と共に生まれたのではなく、常にアメリカの大学カルチャーに根強く存在してきたものです。 フラタニティ、ソロリティと呼ばれる大学の中の名門の寮やクラブハウスのメンバーになる審査にも人種差別が絡むことは周知の事実で、 その様子についてはマーク・ザッカーバーグとフェイスブックを描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」に描かれていたハーバード大学の様子でも窺い知ることが出来るかと思います。
世の中にはアイヴィーリーグの卒業者は沢山存在しますが、その中でも強いコネクションで結ばれて財界、政界を牛耳っているのは 名門のフラタニティ出身者です。でもこれは差別というよりギルドであって、アジア人が優秀でお金があっても破れない壁と言えるかと思います。
そうかと思えばペン・ステート、サンディエゴ・ステート・ユニヴァーシティ、コーネル大学などの 有名校のフラタニティでは日本語で言う「しごき」が原因とみられる死者が 過去数週間に3人、2019年入ってからは5人出ているので、 フラットハウス(フラタニティ)のメンバーになることが必ずしもキャンパス・ライフのプラスになるとも限りません。

肌の色ではマイノリティでなくても アメリカ社会、および大学キャンパスで頻繁に差別の対象になるのはやはりユダヤ人で、 私のユダヤ教の友人はコーネル大学でMBAを取得していますが 「ユダヤ人は常にWASPに差別されていた」と言います。 アメリカの大学の中にはたとえ名門でもユダヤ人差別が根強いところがありますので、 学生の中には母親がキリスト教である場合、母親のラストネームを名乗って進学しているケースさえあったりします。
つい最近ではNYアップステートのシラキュース大学が度重なる人種差別の落書きや、人種差別Eメールの送付、人種差別発言等が ニュースで報じられるほどの大問題となっていましたが、その差別のターゲットとなっているのはユダヤ教、アジア系、アフリカ系アメリカ人です。 シラキュース大学はアジア系、アフリカ系アメリカ人の学生の割合が多いことで知られているので、 「人数が少ないから人種差別の対象にされる」という訳ではない様子を窺わせています。

私がKさんのお子さんに大学進学に際してアドバイスするのは、どういう言葉やジョーク、カルチャーの捉え方が人種差別に当たるのかをしっかり把握して、 まず自分自身が人種差別と誤解されるような発言や行動をしないこと、 加えて軽率な人種差別発言をしたり、差別的な思想を持つ学生とは付き合うべきではないということです。 差別をされたくなかったら、自分が差別をしないというのは当然のルールですが、 一度アメリカで生活を始めたら「これが差別に当たるとは知らなかった」という言い訳は通りません。 特にKさんのお子さんの世代であるジェネレーションZはそうした社会的なモラルに厳しいので、 人種だけでなくLGBTQコミュニティを含むありとあらゆる差別に 敏感であるべきだと思います。

今やアメリカ人は日本人対してかなり理解を深めきているので、都市部の人々であれば日本人が礼儀正しく、善良で、知的レベルが高いと考える人々は多いですし、 他のアジア人よりも控えめで洗練されているという意識を持つ人も増えています。 そうなったのは日本人という人種で一括りにされるイメージや偏見を、食を含む日本のカルチャーや アメリカ人と個人レベルで関わる日本人が その交友関係を通じて徐々に崩していった結果だと私は考えています。
事実、私の知り合いの息子さんは日本人学生が殆ど居ない大学に通っていますが、大学のプログラムで日本に旅行をしたり、日本食が好きなこともあって 日本人に対してはとても良いイメージを持っています。ですが同じアジアでも中国となると、チャイニーズ・フードも含めて苦手意識をはっきり出してきます。 ですので私は 日本人学生はキャンパスにおける絶対数が少ないことを逆手に取って、 日本人らしく振舞いながら キャンパスでの交友関係を広げていけば、特に差別の対象になることは無いという考えです。

その一方で高校生、大学生は会話のペースが非常に速いので、交友関係を広げてキャンパス・ライフを楽しむためには 会話のリズムを崩さないような ネイティブに近いスピードで話す努力が非常に大切だと考えます。 前述の映画「ソーシャル・ネットワーク」の監督、デヴィッド・フィンチャーも 「ハーバードの学生は頭脳明晰で早口なのだから、もっと早く台詞を言うように」と俳優陣に指示していたほどですが、 若い世代はスローな会話に付き合う忍耐はありませんし、スローな口調はのろまな印象を与えるので確実に損をします。
進学する大学にもよりますが 特にイーストコーストの学力レベルが高い学校では、 周囲のペースに合わせられるコミュニケーション力は 文法的に正確な英語より遥かに大切だと思う次第です。
Kさんのお子さん2人がアメリカの希望校に進学できるようお祈りしています。

Yoko Akiyama


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。 Eコマース、ウェブサイト運営と共に、個人と企業に対する カルチャー&イメージ・コンサルテーション、ビジネス・インキュベーションを行う。




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